妖精王オベロンの異世界生活

悠十

文字の大きさ
上 下
3 / 54
異世界転生編

第二話 降り立った大地

しおりを挟む
 意識を取り戻したオベロンは、荒野に立っていた。
 広々とした、枯れた草木が悲し気な、大地がむき出しの世界は、正に『滅びた世界』の様だった。

「……なるほど」

 かがんで大地を撫でれば、自分が妖精だからなのか、大地に巡る力を感じた。しかし、それは、弱々しく、小さく縮こまって息をひそめている様だった。

「俺は、妖精になったんだなぁ……」

 当たり前の様に世界の状態が感じられ、それを当然の如く受け止める自分が不思議だった。

「これが転生したって事なのかな……」

 首を傾げ、立ち上がる。

「さて、まずは自分の状態を確認するか。<<ステータス、オープン>>」

 アルテシア様に授けられたこの世界の常識から、自分のステータスをゲームの様に確認できると知り、ステータスボードを呼び出した。
 開かれたステータスボードには、こう書かれていた。


 名前:オベロン
 年齢:0
 種族:妖精
 職業:妖精王

 魔法:種族特性魔法
    生活魔法
 スキル:ユニークスキル『アイテムボックス』
     レアスキル『鑑定』

 
 何だか、すごくざっくりしたステータスボードだった。
 HPやMPも無いし、攻撃力や防御力も無い。魔法に至っては使える魔法名だの、呪文だのも載っていない。

「しかも、年齢が0歳……。まあ、転生したし……、こんなものなのかもな……」

 そもそも体力や生命力なんて数値化できるものでは無いし、使える魔法なんて自分の脳みそで覚えているものだ。それに逆に言えば、それらに縛られていないという事である。
 アルテシア様は自分の能力は『妖精王オベロン』の設定通りにしていると言っていたが、もしかすると、規定となる縛りが無いのなら、あのゲームより出来る範囲は広いのかもしれない。
 そう思いながら、次はアイテムボックスを試してみる。
 脳裏でアイテムボックスを使いたいと思ったら、するりと自然にアイテムボックスの中身を知ることが出来た。

「ああ、呪文的な合図はいらないのか。……ふぅん、思い浮かぶ感じになるのか。人目があったりする時はいいけど、整理したい時とかは不便だな……。ステータスボードみたいに目に見えたりは――うわっ!?」

 オベロンの呟きに合わせ、目の前にステータスボードと同じ半透明の画面が現れる。そこには、『アイテムボックス』に収納されている物が書かれていた。

「は~……。便利……」

 そう言いながら、『アイテムボックス』の中身を確かめ、その中からアイテムを選び、取り出した。
 取り出したアイテムは、『緑の王笏』。これは、『妖精王オベロン』の専用アイテムである。
『緑の王笏』は木製の杖で、天辺に淡く光る緑色の原石のままの宝石がはめ込んであり、それには数種類の植物が巻き付き、花を咲かせている。『鑑定』のスキルも持っていたので、その王笏を試しに『鑑定』してみたら、このような内容が出てきた。


 『緑の王笏』
 妖精王オベロンの専用アイテム。妖精王オベロンの能力を引き上げ、植物を操作することが出来る。
 価格:鑑定不能


 これもまた、ざっくりした説明だった。
 価格が書いてあったが、鑑定不能となっているのは、専用アイテムであり、貴重な品だから値がつけられない物だからだろう。
 まあ、そこは重要ではないのだ。重要なのは、『妖精王』の能力の引き上げである。

「さて、やりますか」

 目と閉じ、集中する。イメージは水面の波紋。水滴が落ち、それが水面を揺らし、広がるそれに己の力を乗せて……。
 そして、杖に力を籠め、大地を突いた。
 突いたその瞬間、力が波紋の様に広がり、大地に優しく触れる。

 ――さあ、起きろ。目覚めの時間だ。

 オベロンの力に触れた先から、眠っていた大地の力が動き出す。
 目覚めに必要なのは、『妖精』の力。世界に巡る力の活性化である。
 そして、そこに『妖精王オベロン』と、『緑の王笏』の力を更に乗せる。
 それは、植物の組み換えと操作だ。
 ゲームの『妖精王オベロン』は妖精の王だが、森の王でもあるのだ。既存の植物から、新しい種の植物を作り上げる事すら出来る。ゲームの中では、彼が作ったとされる特別な植物系のアイテムがあり、それは特殊なイベントでしか手に入らないレアアイテムだった。
 そんなオベロンが持つ『緑の王笏』はオベロンの力を引き上げてくれると同時に、植物の生長を操作し、やりようによっては鞭のようなしなやかさで自由に操ることが出来る。
そんな二つの力を乗せた波紋は山の向こう、遠くまで広がる。そして、次第にオベロンを中心に、ぽつりぽつりと緑が芽吹いて行く。草が生え、花が咲き、枯れた木が崩れ、その根元から新しい命が芽吹き、育つ。
 そうして、オベロンが目を開ければ、死の大地は緑豊かな草原や森へ生まれ変わっていた。

「これが『妖精王オベロン』の力か……」

 どれ程この力が広がったかは何となく分かるが、目視する為、空へ飛ぶ。
 『妖精王オベロン』は、流石GMキャラと言うべきか、かなりのチートスペックを持っており、空を自由に飛ぶことが出来るのだ。
 流石に空の上は寒く、寒さを遮断する結界を張る。そして、その上空から見下ろせば、眼下に広がるのは緑の大地だ。どうもオベロンが居たのは大陸ではなく、島らしい。しかし、そこまで小さな島ではなく、恐らく四国くらいの広さはありそうだった。

「向こうの大陸には、少し緑が見えるな……」

 オベロンの居る島の向こう側。そこには大きく、広い大地が広がっていた。こちらの島に近づくにつれ緑は減っていき、海辺には乾いた土地が広がっている。そして、海を越えた先に在るのはこの島だ。島には大陸とは違い、端から端まで生命力にあふれる植物が覆い茂っている。海を隔てて、明らかに生命力の違いが分かるという少しばかり不思議な光景だった。
 オベロンがこの世界で生きている限り、妖精の力があの大陸にもいつかは届くだろうが、それがいつになるかは分からない。

「あそこにはきっと人間が居るんだろうな……」

 自分も転生前は『人間』だったが、今は『妖精』だ。アルテシア様が失望したように、彼等は自分を見て『妖精珠』欲しさに襲ってくるのだろうか?

「暫くは会いたくないかも……」

 異世界の町は気になるが、人間の社会に飛び込むのは時期尚早だと思った。
 
しおりを挟む
感想 48

あなたにおすすめの小説

神に同情された転生者物語

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業に勤めていた安田悠翔(やすだ はると)は、電車を待っていると後から背中を押されて電車に轢かれて死んでしまう。 すると、神様と名乗った青年にこれまでの人生を同情された異世界に転生してのんびりと過ごしてと言われる。 悠翔は、チート能力をもらって異世界を旅する。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

転生したら妖精や精霊を統べる「妖精霊神王」だったが、暇なので幼女になって旅に出ます‼︎

月華
ファンタジー
21歳、普通の会社員として過ごしていた「狐風 空音」(こふう そらね)は、暴走したトラックにひかれそうになっていた子供を庇い死亡した。 次に目を覚ますとものすごい美形の男性がこちらを見、微笑んでいた。「初めまして、空音。 私はギレンフイート。全ての神々の王だ。 君の魂はとても綺麗なんだ。もし…君が良いなら、私の娘として生まれ変わってくれないだろうか?」えっ⁉︎この人の娘⁉︎ なんか楽しそう。優しそうだし…よしっ!「神様が良いなら私を娘として生まれ変わらせてください。」「‼︎! ほんとっ!やった‼︎ ありがとう。これから宜しくね。私の愛娘、ソルフイー。」ソルフィーって何だろう? あれ? なんか眠たくなってきた…? 「安心してお眠り。次に目を覚ますと、もう私の娘だからね。」「は、い…」 数年後…無事に父様(神様)の娘として転生した私。今の名前は「ソルフイー」。家族や他の神々に溺愛されたりして、平和に暮らしてたんだけど…今悩みがあります!それは…暇!暇なの‼︎ 暇すぎて辛い…………………という訳で下界に降りて幼女になって冒険しに行きます‼︎! これはチートな幼女になったソルフイーが下界で色々とやらかしながらも、周りに溺愛されたりして楽しく歩んでいく物語。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー お久しぶりです。月華です。初めての長編となります!誤字があったり色々と間違えたりするかもしれませんがよろしくお願いします。 1週間ずつ更新していけたらなと思っています!

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

処理中です...