妖精王オベロンの異世界生活

異世界転生編

プロローグ

　その日、佐々木良太は死んだ。
　良く晴れた、五月の日の事だった。

　良太はごくごく平凡な人間で、あるゲーム会社で働くサラリーマンだった。
　その生活に少しばかりの変化があったのは、三十一歳の時。それは、彼が勤める会社が世界初の仮想空間による体感型ゲームを世界に発表したからだ。

　VRMMORPG『フェアリーテイル・オンライン』

　それが、そのゲームの名前だった。
　ゲーマーに限らず、二次元を愛する人間なら誰でも一度は憧れただろうそれは、良太にも当てはまった。
　そして、良太は幸運にも昔劇団に所属していた事があったため、それが功を奏し、運営側のGMの一人、つまり『中の人』の一人として選ばれた。
　良太が演じるのは、『妖精王オベロン』。
　『フェアリーテイル・オンライン』における重要人物で、キャラクターデザインも見せてもらったが、世の女性が好みそうな優し気な美しい男だった。
　このキャラクターを演じられるのだと、演劇を愛する者としての血が騒ぎ、また、体感型ゲームに憧れた者としての喜びでいっぱいだった。

　しかし、それは終わった。
　良太は、見てしまったのだ。老婦人に向かってくる車を。
　何かを考える暇もなく良太は走り、老婦人を突き飛ばし、自分はそのまま……。
　薄れる意識の中、老婦人が無事かどうかが気になった。だって、思い切り突き飛ばしてしまったのだ。怪我をしてなければ良いのだが……。
　そして、残念に思った。憧れの体感型ゲーム、そして、『キャラクター』の中の人として大舞台に立つ自分。
　仕方のない事だ。
　けれど、ああ、もし生まれ変われるなら、もう一度、あのチャンスを……。

「そうだったの……。ごめんなさいね」

　優しい女性の声が聞こえる。

「私の所為で、貴方は死んでしまった。そのまま生き返らせることは出来ないけれど、ほんの少しなら、貴方の夢を叶えられるかもしれない」

　薄れていたはずの意識がだんだんとはっきりしていく。

「貴方に体を与えましょう。今日から貴方は、『妖精王オベロン』として生きていくのです」

　そして、良太は――『妖精王オベロン』は、目覚めた。