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独り歩きする噂
怪談(前)
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あの草原大穴事件の後、その大穴をあけた犯人であるネモは、ヘンリーに怒られ、大穴を埋めるよう命じられた。
ネモの、元は逃げて来た男達のせいなのに! という文句は当然却下された。
そうしてネモはちゃんと穴を埋めたわけだが、何故かヘンリーに正座させられていた。
「ちょっと、何でちゃんと穴を埋めたのに、正座させられなきゃならないわけ!?」
「お前な、自分の胸に手を当てて、よ~く考えてみろ」
ネモは胸に手を当てて考えた。
「心臓の動きは正常ね。私、きっと長生きするわ!」
「お前は既に長生きしてるババァだろうが!」
「誰がババァだってぇぇぇ!?」
目を吊り上げて立ち上がったネモに、チアンがカレーを食べながら言う。
「それより、ヘンリーが何に怒っているのか知る方が先ではないのか?」
それを聞き、ヘンリーの胸倉を掴み上げていたネモはピタリと止まる。
「何ぞ、不都合でもあったのか?」
それにヘンリーはネモの手を振りほどき、眉間に深い皺を刻みながら告げた。
「城壁の警備の兵達の間で、怪談が流れている」
「は? 怪談?」
その言葉に、流石のネモも目を丸くした。
「ネモ、お前、どうやったかは知らんが、一日で、しかも夜間の内に穴を埋めただろう」
「ええ、そうよ。夜に咲く花の採取のついでに埋めたの」
「それのせいだ」
ヘンリー曰く、あの規模の大穴は、そう簡単に埋められるものではない。きっと人外の仕業だと噂が立ち、尾ひれがついて元気に泳ぎ回った結果、おどろおどろしい怪談となって噂されているそうだ。
「あの大穴は、男が凶悪な魔物から町を守るために自爆して作られ、嘆いた男の妻がその身で大穴を埋めて、夜になると夫婦の霊が出るとか、神の怒りで大穴があき、乙女の生贄でその怒りが鎮められて穴が埋められただとか」
「うわぁ……」
「言い出した者の中には、ロマンチストが居たようだな」
ネモとチアンの反応に、ヘンリーは口をへの字にする。
「その噂の一番の問題が、大穴を埋めろと命じたのが王家だと流れていることだ」
「事実じゃない」
「ヘンリーが命じたからな」
「そうだよ! だから困ってるんだよ!」
ヘンリーのシャウトに、ネモとチアンは顔を見合わせる。
「大穴あけたのは錬金術師だ。だからその錬金術師に責任もって埋めさせた、と言ったら、王家の命令で身をもって穴を埋めた錬金術師が夜に化けて出る、なんて怪談が出来上がってたんだぞ! どうして、王家の評判を落とす話になるんだ!?」
「あちゃー……」
「まあ、権力者は時に疎まれるものよな」
微妙な顔をするネモに、チアンがしたり顔でカレーのお代わりを要求するも、空になった鍋を見せられた。
しょんぼり肩を落とすチアンを尻目に、ヘンリーは言う。
「だからな、そもそも昼の間、人目のある間に埋めてくれればよかったんだ。本当に、何で夜間にやったんだ」
「いや、それを今さら言われても困るんだけど。不可抗力じゃない」
「まあ、そもそもネモが魔道具の調整に失敗したのが原因だがな」
チアンの指摘に、ネモは視線を逸らした。
ヘンリーは恨みがましい視線をネモに送りつつも、不可抗力であることも承知しているため、それ以上追及することはしなかった。
しかし、盛大に溜息をつくヘンリーに――というか、王家に悪いと思ったのか、ネモは何事か考えるそぶりを見せ、ふと、顔を上げた。
「そうだわ。新しい噂を流しましょう」
「噂?」
訝しげな顔をするヘンリーに、ネモはにっこりと笑う。
「その流れてる怪談を上回る、新しい怪談を流すのよ!」
「は……、はぁぁぁぁ!?」
「おやおや……」
ネモのその宣言に、ヘンリーは驚きに叫び、チアンは目を丸くしたのだった。
***
「しかし、新たな怪談を流すとは、どうするのだ?」
「ホラ、前世に色々とあったじゃない。学校の七不思議系の怪談とか、都市伝説とか」
「いやいやいや」
「ああ、あれを参考にするのか」
「学校の怪談はちょっと限定的だったりするけど、都市伝説はいいと思うのよ。口裂け女とか、人面犬とか」
「待て待て待て」
「いや、意外と難しいと思うぞ。口裂け女は悪魔系統と思われるだろうし、人面犬も悪魔か魔物だろう」
「えっ、マジで?」
「待てと言っとるだろうがぁぁぁぁぁ!」
ヘンリーの渾身のシャウトに、ネモとチアンは黙った。
「何でそこで怪談を増やそうとするんだ!?」
「噂には噂で上書きするのがいいかと思って」
「何やら面白そうだと思って」
その回答に、ヘンリーは天を仰いだのだった。
ネモの、元は逃げて来た男達のせいなのに! という文句は当然却下された。
そうしてネモはちゃんと穴を埋めたわけだが、何故かヘンリーに正座させられていた。
「ちょっと、何でちゃんと穴を埋めたのに、正座させられなきゃならないわけ!?」
「お前な、自分の胸に手を当てて、よ~く考えてみろ」
ネモは胸に手を当てて考えた。
「心臓の動きは正常ね。私、きっと長生きするわ!」
「お前は既に長生きしてるババァだろうが!」
「誰がババァだってぇぇぇ!?」
目を吊り上げて立ち上がったネモに、チアンがカレーを食べながら言う。
「それより、ヘンリーが何に怒っているのか知る方が先ではないのか?」
それを聞き、ヘンリーの胸倉を掴み上げていたネモはピタリと止まる。
「何ぞ、不都合でもあったのか?」
それにヘンリーはネモの手を振りほどき、眉間に深い皺を刻みながら告げた。
「城壁の警備の兵達の間で、怪談が流れている」
「は? 怪談?」
その言葉に、流石のネモも目を丸くした。
「ネモ、お前、どうやったかは知らんが、一日で、しかも夜間の内に穴を埋めただろう」
「ええ、そうよ。夜に咲く花の採取のついでに埋めたの」
「それのせいだ」
ヘンリー曰く、あの規模の大穴は、そう簡単に埋められるものではない。きっと人外の仕業だと噂が立ち、尾ひれがついて元気に泳ぎ回った結果、おどろおどろしい怪談となって噂されているそうだ。
「あの大穴は、男が凶悪な魔物から町を守るために自爆して作られ、嘆いた男の妻がその身で大穴を埋めて、夜になると夫婦の霊が出るとか、神の怒りで大穴があき、乙女の生贄でその怒りが鎮められて穴が埋められただとか」
「うわぁ……」
「言い出した者の中には、ロマンチストが居たようだな」
ネモとチアンの反応に、ヘンリーは口をへの字にする。
「その噂の一番の問題が、大穴を埋めろと命じたのが王家だと流れていることだ」
「事実じゃない」
「ヘンリーが命じたからな」
「そうだよ! だから困ってるんだよ!」
ヘンリーのシャウトに、ネモとチアンは顔を見合わせる。
「大穴あけたのは錬金術師だ。だからその錬金術師に責任もって埋めさせた、と言ったら、王家の命令で身をもって穴を埋めた錬金術師が夜に化けて出る、なんて怪談が出来上がってたんだぞ! どうして、王家の評判を落とす話になるんだ!?」
「あちゃー……」
「まあ、権力者は時に疎まれるものよな」
微妙な顔をするネモに、チアンがしたり顔でカレーのお代わりを要求するも、空になった鍋を見せられた。
しょんぼり肩を落とすチアンを尻目に、ヘンリーは言う。
「だからな、そもそも昼の間、人目のある間に埋めてくれればよかったんだ。本当に、何で夜間にやったんだ」
「いや、それを今さら言われても困るんだけど。不可抗力じゃない」
「まあ、そもそもネモが魔道具の調整に失敗したのが原因だがな」
チアンの指摘に、ネモは視線を逸らした。
ヘンリーは恨みがましい視線をネモに送りつつも、不可抗力であることも承知しているため、それ以上追及することはしなかった。
しかし、盛大に溜息をつくヘンリーに――というか、王家に悪いと思ったのか、ネモは何事か考えるそぶりを見せ、ふと、顔を上げた。
「そうだわ。新しい噂を流しましょう」
「噂?」
訝しげな顔をするヘンリーに、ネモはにっこりと笑う。
「その流れてる怪談を上回る、新しい怪談を流すのよ!」
「は……、はぁぁぁぁ!?」
「おやおや……」
ネモのその宣言に、ヘンリーは驚きに叫び、チアンは目を丸くしたのだった。
***
「しかし、新たな怪談を流すとは、どうするのだ?」
「ホラ、前世に色々とあったじゃない。学校の七不思議系の怪談とか、都市伝説とか」
「いやいやいや」
「ああ、あれを参考にするのか」
「学校の怪談はちょっと限定的だったりするけど、都市伝説はいいと思うのよ。口裂け女とか、人面犬とか」
「待て待て待て」
「いや、意外と難しいと思うぞ。口裂け女は悪魔系統と思われるだろうし、人面犬も悪魔か魔物だろう」
「えっ、マジで?」
「待てと言っとるだろうがぁぁぁぁぁ!」
ヘンリーの渾身のシャウトに、ネモとチアンは黙った。
「何でそこで怪談を増やそうとするんだ!?」
「噂には噂で上書きするのがいいかと思って」
「何やら面白そうだと思って」
その回答に、ヘンリーは天を仰いだのだった。
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