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何事もまず、先立つものが必要である
資金稼ぎ(後)
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ぎょっとして目を見開くネモ達を見つけ、森から飛び出して来た男達は助けを求めて走って来る。
「ちょっ……!?」
「たす、たすけてくれ!!」
縋りつくように飛びつかれ、ネモの動きが封じられる。
その間にブラッディ・ベアはこちらに近づいて来て――ネモ達へ飛びかかった。
しかし――
「《壁》」
ネモ達の前に、チアンが素早く間に入り、立ち塞がる。
懐から取り出されたじゃばら式の帳面が音を立てて開かれ、力ある言葉に反応して書かれていた文言が赤く発光した。
――バヂィィィッ
ブラッディ・ベアは帳面から発生した結界に触れ、感電したかのように赤い火花をまき散らしながら、痙攣する。
「ひっ、ヒィィィィ……!?」
男達はネモから手を離し、転がるように逃げていく。
「ちょっと!」
ブラッディ・ベアの巨体が弾かれるように転がり、ムクリ、と身を起こした。
ブラッディ・ベアの意識はこちらを向いており、男達のことなど見向きもしない。
「押し付けられた……!」
ネモは苦々しく呟いた。
チアンは懐から長方形の紙――東方の符を取り出し、構える。
それを見て、ネモはブラッディ・ベアに注意を向けながら尋ねる。
「チアン、アンタ、もしかして呪術師?」
「そうだ。カンラ帝国は呪術、呪法の発祥の地。あそこでは魔法よりも学びやすい物だからな」
呪術、呪法とは、魔法とは体系を別とする奇跡の技である。しかし、魔法よりも取り扱いが難しく、カンラ帝国以外で、それを修める者は少ない。
まあ、何にせよ心強いとネモは自作の魔道具をポーチから取り出す。
「身体強化魔法は使える?」
「魔法は無理だな。呪術でのそれは使える」
身体強化魔法はファンタジー系物語にありがちな魔法だが、実の所、扱える者は限られている。
魔法か体術のセンスがある者か、ネモのように長く生き、諦めず修練し、挑戦し続けたの者が使えるようになるのだ。
「それならまあ、安心ね」
そう呟いて、手の中の魔道具を見る。
チアンは何か不穏な気配でも感じたのか、ネモを訝しげに見た。
「……何をするつもりだ」
「いやね、こんなの押し付けられたからには、いっそ実験対象にしてやろうかと思って」
ネモが手に持つ魔道具は、新作の攻撃用魔道具――ぶっちゃけ、爆弾である。
炎が出るような攻撃アイテムや魔法は、基本的に使用を禁止されている。森の中で使われでもすれば、火事になる可能性があるからだ。
しかし、攻撃アイテムとなると、普通に爆弾を作るのが一番簡単だし、威力も高い。
そんなわけで、それをどうにかしようと人々は考え、様々な道具や魔法が生まれて来た。
ネモもまた考え続けて、作り続けているわけだが、先日その試作品が出来たばかりだったのだ。
「威力高めのを作ったからね。相手にとって不足は無いわ」
「ふむ……」
自信ありげなその態度に、チアンはそっとその場を譲った。
「では、任せよう」
「ありがとう」
不敵な笑みを浮かべて、ネモは前に出る。
手に持つ魔道具は、透き通った水晶球のようなそれ。しかし、その水晶球の中には黒と紫に変化を繰り返す不思議な光が宿っている。
そして、こちらが動きを見せたことで、ブラッディ・ベアもまた姿勢を変えた。
深く沈み込み、四肢に力を入れ、それは再び飛びかかって来た。
単純な攻撃手段だが、先程結界に阻まれた時とは段違いに早いし、力が込められている。
しかし、ネモはすぐに手の中の魔道具を投擲し、魔力を籠めてキーワードを告げた。
「《溶けろ》」
その瞬間、水晶球がドロリと溶けて、中の光がブラッディ・ベアの眼前に現れる。
その光はどこか不穏で、ブラッディ・ベアの本能が危険を訴えかけてくる。
しかし、勢いは殺せない。
眼前の光は黒と紫に揺れ、そして――
――ずるり
まるで、吸い込まれるように空間が歪む。
ブラッディ・ベアの頭が捻れ、そこに巻き込まれるようにして歪み、吸い込まれて行く。
そして、それはブラッディ・ベアだけで終わらず――
「あっ、ヤッバ」
不吉な呟きがネモの口から洩れた。
お前、まさか、と言わんばかりの視線がネモに突き刺さる。
ネモは白々しい笑みを浮かべて、言った。
「退避ぃぃぃぃぃ!」
「身体強化魔法に関して聞いたのは、このためか!?」
ブラックホールの如く空間が捻れ、周りを吸い込み始めたそれを尻目に、二人は逃げ出した。
普段、飄々としてマイペースな態度を崩さないチアンも、流石に目を剥いて叫んだ。
「ネモ! 後で覚えていろよ!」
「ごめ~ん! 後でカレー作るから、許して!」
こうして、後にヘンリーが白目を剥くような巨大なクレーターが、森と草原の境に作られたのだった。
「ちょっ……!?」
「たす、たすけてくれ!!」
縋りつくように飛びつかれ、ネモの動きが封じられる。
その間にブラッディ・ベアはこちらに近づいて来て――ネモ達へ飛びかかった。
しかし――
「《壁》」
ネモ達の前に、チアンが素早く間に入り、立ち塞がる。
懐から取り出されたじゃばら式の帳面が音を立てて開かれ、力ある言葉に反応して書かれていた文言が赤く発光した。
――バヂィィィッ
ブラッディ・ベアは帳面から発生した結界に触れ、感電したかのように赤い火花をまき散らしながら、痙攣する。
「ひっ、ヒィィィィ……!?」
男達はネモから手を離し、転がるように逃げていく。
「ちょっと!」
ブラッディ・ベアの巨体が弾かれるように転がり、ムクリ、と身を起こした。
ブラッディ・ベアの意識はこちらを向いており、男達のことなど見向きもしない。
「押し付けられた……!」
ネモは苦々しく呟いた。
チアンは懐から長方形の紙――東方の符を取り出し、構える。
それを見て、ネモはブラッディ・ベアに注意を向けながら尋ねる。
「チアン、アンタ、もしかして呪術師?」
「そうだ。カンラ帝国は呪術、呪法の発祥の地。あそこでは魔法よりも学びやすい物だからな」
呪術、呪法とは、魔法とは体系を別とする奇跡の技である。しかし、魔法よりも取り扱いが難しく、カンラ帝国以外で、それを修める者は少ない。
まあ、何にせよ心強いとネモは自作の魔道具をポーチから取り出す。
「身体強化魔法は使える?」
「魔法は無理だな。呪術でのそれは使える」
身体強化魔法はファンタジー系物語にありがちな魔法だが、実の所、扱える者は限られている。
魔法か体術のセンスがある者か、ネモのように長く生き、諦めず修練し、挑戦し続けたの者が使えるようになるのだ。
「それならまあ、安心ね」
そう呟いて、手の中の魔道具を見る。
チアンは何か不穏な気配でも感じたのか、ネモを訝しげに見た。
「……何をするつもりだ」
「いやね、こんなの押し付けられたからには、いっそ実験対象にしてやろうかと思って」
ネモが手に持つ魔道具は、新作の攻撃用魔道具――ぶっちゃけ、爆弾である。
炎が出るような攻撃アイテムや魔法は、基本的に使用を禁止されている。森の中で使われでもすれば、火事になる可能性があるからだ。
しかし、攻撃アイテムとなると、普通に爆弾を作るのが一番簡単だし、威力も高い。
そんなわけで、それをどうにかしようと人々は考え、様々な道具や魔法が生まれて来た。
ネモもまた考え続けて、作り続けているわけだが、先日その試作品が出来たばかりだったのだ。
「威力高めのを作ったからね。相手にとって不足は無いわ」
「ふむ……」
自信ありげなその態度に、チアンはそっとその場を譲った。
「では、任せよう」
「ありがとう」
不敵な笑みを浮かべて、ネモは前に出る。
手に持つ魔道具は、透き通った水晶球のようなそれ。しかし、その水晶球の中には黒と紫に変化を繰り返す不思議な光が宿っている。
そして、こちらが動きを見せたことで、ブラッディ・ベアもまた姿勢を変えた。
深く沈み込み、四肢に力を入れ、それは再び飛びかかって来た。
単純な攻撃手段だが、先程結界に阻まれた時とは段違いに早いし、力が込められている。
しかし、ネモはすぐに手の中の魔道具を投擲し、魔力を籠めてキーワードを告げた。
「《溶けろ》」
その瞬間、水晶球がドロリと溶けて、中の光がブラッディ・ベアの眼前に現れる。
その光はどこか不穏で、ブラッディ・ベアの本能が危険を訴えかけてくる。
しかし、勢いは殺せない。
眼前の光は黒と紫に揺れ、そして――
――ずるり
まるで、吸い込まれるように空間が歪む。
ブラッディ・ベアの頭が捻れ、そこに巻き込まれるようにして歪み、吸い込まれて行く。
そして、それはブラッディ・ベアだけで終わらず――
「あっ、ヤッバ」
不吉な呟きがネモの口から洩れた。
お前、まさか、と言わんばかりの視線がネモに突き刺さる。
ネモは白々しい笑みを浮かべて、言った。
「退避ぃぃぃぃぃ!」
「身体強化魔法に関して聞いたのは、このためか!?」
ブラックホールの如く空間が捻れ、周りを吸い込み始めたそれを尻目に、二人は逃げ出した。
普段、飄々としてマイペースな態度を崩さないチアンも、流石に目を剥いて叫んだ。
「ネモ! 後で覚えていろよ!」
「ごめ~ん! 後でカレー作るから、許して!」
こうして、後にヘンリーが白目を剥くような巨大なクレーターが、森と草原の境に作られたのだった。
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