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ヒロインはざまぁされた
エピローグ
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夏の盛りを過ぎ、季節は秋に向かう。
残暑が厳しく、多い茂る木々の葉は青いが、そろそろ自分たちの季節だとシュウメイギクの蕾が開く。
権力の中枢である王都では混乱が続いているらしいが、ド田舎のコニア男爵領にはあまり影響はない。
「スチュアートさん! 旦那さまがいらっしゃいません!」
「おのれ、逃げたか! 今回は裏の畑に居ない可能性が高い。今の時期なら領民のカイトのところだな。カイトの畑に行ってくれ!」
「了解しました!」
――多分、影響はない。
家令見習いとなったバートラムはすっかりコニア家の家風に染まり、クリントの指導の下、デニス捕獲の腕前がメキメキと上がっている。
呆れた顔をするアリスの隣で、アルフォンスがそんな二人の様子を苦笑しつつも、その後ろ姿をどこか楽しげに見送る。
「みんな、元気ねぇ」
そんな二人の傍で、ローズが精霊らしく宙に浮きながら笑う。
ローズとバートラムの初対面時だが、さすがは高位貴族の令息。彼は姫君に対するかのような丁重さで見事に乗り切った。今ではその存在にもなれ、適度な緊張感を持ってローズに接している。
「アルフォンス様、今日は何が食べたいですか?」
アリスのダンジョン通いは、今では週に二日程度になった。ダンジョンで時間停止のマジックバックがドロップし、そこに食料品を貯蔵しておけるようになったからだ。
「うーん・・・・・・、鶏肉かな?」
「じゃあ、コカトリスを狩ってきます!」
コカトリスは上から数えた方が早いランクの凶暴な魔物だ。少なくとも、気軽に狩ってくるとはいえない力を持っている。
アリスは学園に居た頃と比べて、明らかに逞しく成長していた。いつかアルフォンスを、お姫様抱っこする日が来そうな勢いだ。乙女ゲームの可愛らしい『ヒロイン』像は木っ端微塵である。
「ふふ、楽しみにしているよ」
しかし、それでもアリスの素敵な王子様は目の前で優しく微笑んでくれる。
物語はエンディングを迎え、役者達は舞台から降りていった。しかし、人生はこれからが本番なのだ。長い時を、目の前の愛しい人と過ごしていくことになる。
アリスは不意に、何か悪戯を思いついた子供のような顔をして、その顔に手を添える。
不思議そうな顔をするアルフォンスに、アリスは踵を浮かして伸び上がり――その頬にキスを落とした。
「それでは、行ってきます」
悪戯っぽく笑って、軽やかに身を翻す。
アリスとアルフォンスは結婚したけれど、未だに色っぽい関係ではない。彼は素敵な男性だ。結婚したからと油断していたら、誰かに取られてしまうだろう。
アルフォンスは最近、学園では見たことがない、リラックスした顔を見せるようになった。その柔らかい空気は、よく言えば話しかけやすく、悪く言えば目敏い泥棒猫が近寄りやすいものだ。
アリスはその辺の女に負けるつもりはないが、押して、押して、押し倒すくらいの気概を持って彼を捕まえておくべきだろう。愛と情熱の大精霊だって、アリスにその意気や良しと頷いてくれるに違いない。
唇が触れた頬を押さえ、思わず顔を赤くするアルフォンスを尻目に、アリスは晴れやかに笑って走り出す。
アリスは決めているのだ。
アルフォンスの手を離さず、絶対に、自分の手で幸せにするのだと!
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