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ヒロインはざまぁされた
第二十三話 デート先は
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豪雨は通り雨だったらしく、その日の夜にはやんでしまい、翌日には気持ちの良い青空が広がっていた。
そんな青空の下で、アリスとアルフォンス、そしてローズはダンジョンの前に立っていた。
「今日は良いダンジョン探索日和だね」
輝く笑顔でそう言うアルフォンスの後ろで、アリスとローズが顔を寄せ合ってひそひそと話す。
「ゴメンなさいね、アタシが余計なことを言ったばかりに……」
「いえ、そんなことは……。でも、アルフォンス様、特に太ってはないと思うんですけど」
「そうね。でも、適性体重内ではあるけど、ベルトを留める穴の位置が一つ変わったのは確かよ」
健康美の化身は、己の目敏さと軽い口を半ば後悔しながらそんなことを言った。
「言い方を間違えたわ。前は窶れ気味だったし、健康的な意味で太ったと思ったのよ」
「ウエストの増加はデリケートな問題ですからね……」
それが健康的で良いという意味であろうとも、本人が気にしていれば、他人がなんと言おうとマイナス方面で気になるものだ。他人の体型関連には容易に触れない。それが一番である。
「さあ! 行こうか!」
素晴らしい王子様フェイスでお誘いいただく先は、暴力必須の狩場である。
アリスとローズは引き攣った微笑みを浮かべながら、粛々と足を動かしたのだった。
***
薄暗い回廊を照らすのは、等間隔に設置された松明だ。
しかし、その松明はどんな強風を受けても火が消えることはない。また、不思議なことに無造作に設置されているように見えて、それを手に取ろうとしても外れることはなく、動かすことは出来ない。また、そういう物にどんな大魔法をぶっ放しても、ちょっと焦げるか砕けるしかしない。
それが、ダンジョンの不思議である。
そんなダンジョンの中、松明の光に照らされて落ちた影が、忙しなく動く。
「アリス、«速度上昇≫!」
「ありがとうございます!」
軽くなった体は、黒い体毛の中型犬サイズのイタチの間を縫うようにして進み、その首を刎ねる。
イタチは崩れ落ちると同時に魔力の粒となって消滅し、その場にアイテムや魔石が音を立てて落ちた。
しかし、戦いはそれで終わったわけではない。
戦闘後の隙を狙うかのように、羽が刃物となった小さな蝙蝠がアルフォンス目がけて飛んできた。
しかし、彼はそれを剣でもって難なく斬り落とした。
そうして魔物はすべて倒され、ドロップしたアイテムを拾いに身をかがめる。
アリスがドロップアイテムの牙の質を確かめていると、ローズがそっとこちらへ寄って来た。
「ねえ、アリスちゃん。ダーリン君、元王太子なのに強すぎない?」
通常、王太子などの身分ある者が、ダンジョンの下層でも通用するような強さを持つ必要はない。何故なら、彼らの仕事は国や領地を治めることであり、身を守るのは護衛の仕事になるからだ。
「学園でもアルフォンス様の腕前は結構な評判でした」
サポートに優れ、剣の腕前も並みの騎士ほどにはあると教師が褒めていた。
アルフォンスの境遇から察するに、アルフォンスを物理的に守る人材も少なかったのだろう。そして、必要に駆られてサポートが上手くなり、剣の腕前も上がった。
「校外実習でダンジョン攻略があるんですけど、アルフォンス様のグループは下層まで到達してましたから、相当ですよ」
そんな腕前を持たざるを得なかったことを考えると、哀憫の念が胸に落ちる。
「それだけ出来るなら、ここに来るのも無茶じゃないわよね」
確かにアリスやローズを当てにしているが、それだけではない。彼は立派な戦力の一人だ。
嬉しそうにドロップアイテムを眺める姿を見ながら、ローズは「いい気分転換にもなってるみたいだし」と苦笑する。
アリスはアルフォンスが楽しんでいるなら、それでいいと微笑み、回収したドロップアイテムを持って彼の元へ駆けていく。
「大量ですね、アルフォンス様」
「ああ。もしよければこの素材で新しいコートを作ったらどうだろうか」
「わあ! それは素敵ですね。 材料は持ち込みですから、安く済みますもの!」
そうして嬉しそうにドロップアイテムを見せあうアリス達の姿に、ローズの脳裏にある危惧がよぎる。
「……まさか、デート先にダンジョンが加わって、それが常態化する可能性とか……、ないわよね?」
思わずこぼした不安は、妙に現実味を帯びていた。
もしかすると、『愛と情熱の大精霊』のプライドにかけて、軌道修正が必要になる日が来るかもしれない。
ローズはその日を想像し、思わずしょっぱい顔をしたのだった。
そんな青空の下で、アリスとアルフォンス、そしてローズはダンジョンの前に立っていた。
「今日は良いダンジョン探索日和だね」
輝く笑顔でそう言うアルフォンスの後ろで、アリスとローズが顔を寄せ合ってひそひそと話す。
「ゴメンなさいね、アタシが余計なことを言ったばかりに……」
「いえ、そんなことは……。でも、アルフォンス様、特に太ってはないと思うんですけど」
「そうね。でも、適性体重内ではあるけど、ベルトを留める穴の位置が一つ変わったのは確かよ」
健康美の化身は、己の目敏さと軽い口を半ば後悔しながらそんなことを言った。
「言い方を間違えたわ。前は窶れ気味だったし、健康的な意味で太ったと思ったのよ」
「ウエストの増加はデリケートな問題ですからね……」
それが健康的で良いという意味であろうとも、本人が気にしていれば、他人がなんと言おうとマイナス方面で気になるものだ。他人の体型関連には容易に触れない。それが一番である。
「さあ! 行こうか!」
素晴らしい王子様フェイスでお誘いいただく先は、暴力必須の狩場である。
アリスとローズは引き攣った微笑みを浮かべながら、粛々と足を動かしたのだった。
***
薄暗い回廊を照らすのは、等間隔に設置された松明だ。
しかし、その松明はどんな強風を受けても火が消えることはない。また、不思議なことに無造作に設置されているように見えて、それを手に取ろうとしても外れることはなく、動かすことは出来ない。また、そういう物にどんな大魔法をぶっ放しても、ちょっと焦げるか砕けるしかしない。
それが、ダンジョンの不思議である。
そんなダンジョンの中、松明の光に照らされて落ちた影が、忙しなく動く。
「アリス、«速度上昇≫!」
「ありがとうございます!」
軽くなった体は、黒い体毛の中型犬サイズのイタチの間を縫うようにして進み、その首を刎ねる。
イタチは崩れ落ちると同時に魔力の粒となって消滅し、その場にアイテムや魔石が音を立てて落ちた。
しかし、戦いはそれで終わったわけではない。
戦闘後の隙を狙うかのように、羽が刃物となった小さな蝙蝠がアルフォンス目がけて飛んできた。
しかし、彼はそれを剣でもって難なく斬り落とした。
そうして魔物はすべて倒され、ドロップしたアイテムを拾いに身をかがめる。
アリスがドロップアイテムの牙の質を確かめていると、ローズがそっとこちらへ寄って来た。
「ねえ、アリスちゃん。ダーリン君、元王太子なのに強すぎない?」
通常、王太子などの身分ある者が、ダンジョンの下層でも通用するような強さを持つ必要はない。何故なら、彼らの仕事は国や領地を治めることであり、身を守るのは護衛の仕事になるからだ。
「学園でもアルフォンス様の腕前は結構な評判でした」
サポートに優れ、剣の腕前も並みの騎士ほどにはあると教師が褒めていた。
アルフォンスの境遇から察するに、アルフォンスを物理的に守る人材も少なかったのだろう。そして、必要に駆られてサポートが上手くなり、剣の腕前も上がった。
「校外実習でダンジョン攻略があるんですけど、アルフォンス様のグループは下層まで到達してましたから、相当ですよ」
そんな腕前を持たざるを得なかったことを考えると、哀憫の念が胸に落ちる。
「それだけ出来るなら、ここに来るのも無茶じゃないわよね」
確かにアリスやローズを当てにしているが、それだけではない。彼は立派な戦力の一人だ。
嬉しそうにドロップアイテムを眺める姿を見ながら、ローズは「いい気分転換にもなってるみたいだし」と苦笑する。
アリスはアルフォンスが楽しんでいるなら、それでいいと微笑み、回収したドロップアイテムを持って彼の元へ駆けていく。
「大量ですね、アルフォンス様」
「ああ。もしよければこの素材で新しいコートを作ったらどうだろうか」
「わあ! それは素敵ですね。 材料は持ち込みですから、安く済みますもの!」
そうして嬉しそうにドロップアイテムを見せあうアリス達の姿に、ローズの脳裏にある危惧がよぎる。
「……まさか、デート先にダンジョンが加わって、それが常態化する可能性とか……、ないわよね?」
思わずこぼした不安は、妙に現実味を帯びていた。
もしかすると、『愛と情熱の大精霊』のプライドにかけて、軌道修正が必要になる日が来るかもしれない。
ローズはその日を想像し、思わずしょっぱい顔をしたのだった。
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