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ヒロインはざまぁされた
第十四話 反撃
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ギィン、と刃物同士がぶつかる高い音が鳴る。
村人達は息を呑み、デニスは慌てて二人から離れた。
「やめるんだ、ジオルド・デュアー!」
「俺が、ベアトリスを守る!」
ぎりぎりと鍔迫り合いをするも、相手は騎士としての将来を期待される青年だ。最近まで無気力で、筋力が落ちたアルフォンスはジオルドに弾き飛ばされた。
しまった、と思っても、もう遅い。
ジオルドは剣を大きく振り上げ、斬りかかる。
剣の軌道はアルフォンスを捕らえており、そのまま斬られればどうなるか分からない。
(アリス……)
脳裏をよぎるのは、自身を一心に慕う少女の顔。
(死にたくない……!)
アルフォンスの体が、生を求めて動く。
それでも、ジオルドの剣はアルフォンスを捕らえており、その刃から逃げられない――はずだった。
「ふざけんじゃないわよぉぉぉぉぉ!」
高い少女の声と共にくり出された飛び蹴りが、見事にジオルドの脇腹に突き刺さった。
「ぐっふぅぅ……!?」
ジオルドは受けた衝撃に呼気を吐き出し、派手に大地を転がる。手に持っていた剣はその拍子にとり落し、体勢を立て直す暇もなく、その胸ぐらを掴まれた。
「あんた、私の旦那様に何してんのよ!!」
――バッチィィィン!
言葉と共にくり出されたビンタは、ビンタなどという可愛らしいものではなく、張り手の如き威力があった。
襲撃犯の正体は、アリスだ。
「この不審者! 人殺し! サイテー!!」
罵り言葉と共に、威力のある往復ビンタがバチバチバチと音を立て、絶えずジオルドの頬にヒットする。
ジオルドは制止の声を上げようとするが、何か言う前にビンタがヒットして言葉を紡げず、掴まれた胸倉をどうにかしようと藻掻くが、アリスの手は微動だにしない。見た目は可愛らしい普通の少女なだけに、力強さとのギャップが酷い。
そんな容赦のないビンタの連打音を聞きながら、アリスの落とした荷物を拾いつつゆったりと近づいてきたローズがアルフォンスに尋ねる。
「ねえ、アリスちゃんのダーリン君。なんだか物騒なことになっていたみたいだけど、何があったの?」
アルフォンスは突然のことに唖然としていたが、ローズの登場で我に返り、傍迷惑な事情を説明した。
「なんだか、思い込みが激しいコねぇ。けど、誰にも相談しなかったのかしら? ああいうコでも、信頼する誰かに言われれば、考え直すこともするでしょうに」
その指摘に、アルフォンスは違和感を感じた。
そうだ。誰にも止めれられずにジオルドがここに居るのはおかしい。彼とよく一緒に行動している、ベアトリスを慕う青年がもう一人居たではないか。彼は、ジオルドの猪突猛進癖を知っているはずだ。わざわざこんな所に来るほどに思いが煮詰まったジオルドの様子に、察しがよく、頭が良い彼が気づかないわけがない。そして、ジオルドは自分の思慮の浅さを自覚していた。彼に相談しないはずかないのだ。
「まさか、わざと突撃させた?」
疑惑が浮上したその時、悲鳴が上がった。
「アリス!?」
それは、デニスのものだった。
何事かと顔を上げて視界に飛び込んできたものは、パンパンに両頬を腫らしたジオルドと、気を失い、彼にもたれるように倒れたアリスの姿だった。
その光景を見た瞬間、アルフォンスの頭の中が真っ白になる。
アルフォンスは瞬時に走り出し、アリスを抱えてオロオロするジオルドから彼女を奪い取ると、胸倉ではなく、その首を掴んだ。
「貴様! アリスに何をした!」
美人が怒ると怖い。
アルフォンスは怒ったとしても、威厳を前面に出し、相手を諭すように怒る。しかし、今のアルフォンスは腹の底から燃え盛る憤怒の感情を表に出し、それが綺麗な顔を、般若の形相に変えていた。
見たことのない元王太子の形相に、ジオルドは思わず固まる。
学園では、いつも優しげな微笑みを浮かべていたアルフォンス。そんな彼から受ける印象は、『優男』だ。しかし、今目の前に居る男は、その印象からほど遠い所に居る。ただただ純粋に、怖い。
「答えろ! 何をしたんだ!」
「ぐえぇぇぇ……」
掴んだ首に力を入れれば、当然首が締まる。苦しそうにもがくジオルドの様子に、周りは落ちつけと慌てた。
「アルフォンス殿、そこの彼は何もしていないよ! アリスが急に倒れたんだ!」
デニスの言葉に、アルフォンスはジオルドの首から手を離した。
咳き込むジオルドを無視し、アルフォンスは自分の腕の中でくったりと気を失うアリスを見る。
「アリス、アリス!」
軽く頬を叩き、大きな声で呼ぶが、彼女は目を覚まさなかった。
「ダーリン君。ちょっと見せて」
ローズが近くに寄って来て、アリスの顔を覗き込む。そして、ぎょっとして目を見開いた。
「ヤダ、嘘でしょ……」
不吉な予感のする呟きに、アルフォンスの鼓動がうるさくなる。
ローズは青褪めて言った。
「アリスちゃん、呪われてるわ……!」
まさかの言葉に、アルフォンスは呆然とした顔でアリスを見つめたのだった。
村人達は息を呑み、デニスは慌てて二人から離れた。
「やめるんだ、ジオルド・デュアー!」
「俺が、ベアトリスを守る!」
ぎりぎりと鍔迫り合いをするも、相手は騎士としての将来を期待される青年だ。最近まで無気力で、筋力が落ちたアルフォンスはジオルドに弾き飛ばされた。
しまった、と思っても、もう遅い。
ジオルドは剣を大きく振り上げ、斬りかかる。
剣の軌道はアルフォンスを捕らえており、そのまま斬られればどうなるか分からない。
(アリス……)
脳裏をよぎるのは、自身を一心に慕う少女の顔。
(死にたくない……!)
アルフォンスの体が、生を求めて動く。
それでも、ジオルドの剣はアルフォンスを捕らえており、その刃から逃げられない――はずだった。
「ふざけんじゃないわよぉぉぉぉぉ!」
高い少女の声と共にくり出された飛び蹴りが、見事にジオルドの脇腹に突き刺さった。
「ぐっふぅぅ……!?」
ジオルドは受けた衝撃に呼気を吐き出し、派手に大地を転がる。手に持っていた剣はその拍子にとり落し、体勢を立て直す暇もなく、その胸ぐらを掴まれた。
「あんた、私の旦那様に何してんのよ!!」
――バッチィィィン!
言葉と共にくり出されたビンタは、ビンタなどという可愛らしいものではなく、張り手の如き威力があった。
襲撃犯の正体は、アリスだ。
「この不審者! 人殺し! サイテー!!」
罵り言葉と共に、威力のある往復ビンタがバチバチバチと音を立て、絶えずジオルドの頬にヒットする。
ジオルドは制止の声を上げようとするが、何か言う前にビンタがヒットして言葉を紡げず、掴まれた胸倉をどうにかしようと藻掻くが、アリスの手は微動だにしない。見た目は可愛らしい普通の少女なだけに、力強さとのギャップが酷い。
そんな容赦のないビンタの連打音を聞きながら、アリスの落とした荷物を拾いつつゆったりと近づいてきたローズがアルフォンスに尋ねる。
「ねえ、アリスちゃんのダーリン君。なんだか物騒なことになっていたみたいだけど、何があったの?」
アルフォンスは突然のことに唖然としていたが、ローズの登場で我に返り、傍迷惑な事情を説明した。
「なんだか、思い込みが激しいコねぇ。けど、誰にも相談しなかったのかしら? ああいうコでも、信頼する誰かに言われれば、考え直すこともするでしょうに」
その指摘に、アルフォンスは違和感を感じた。
そうだ。誰にも止めれられずにジオルドがここに居るのはおかしい。彼とよく一緒に行動している、ベアトリスを慕う青年がもう一人居たではないか。彼は、ジオルドの猪突猛進癖を知っているはずだ。わざわざこんな所に来るほどに思いが煮詰まったジオルドの様子に、察しがよく、頭が良い彼が気づかないわけがない。そして、ジオルドは自分の思慮の浅さを自覚していた。彼に相談しないはずかないのだ。
「まさか、わざと突撃させた?」
疑惑が浮上したその時、悲鳴が上がった。
「アリス!?」
それは、デニスのものだった。
何事かと顔を上げて視界に飛び込んできたものは、パンパンに両頬を腫らしたジオルドと、気を失い、彼にもたれるように倒れたアリスの姿だった。
その光景を見た瞬間、アルフォンスの頭の中が真っ白になる。
アルフォンスは瞬時に走り出し、アリスを抱えてオロオロするジオルドから彼女を奪い取ると、胸倉ではなく、その首を掴んだ。
「貴様! アリスに何をした!」
美人が怒ると怖い。
アルフォンスは怒ったとしても、威厳を前面に出し、相手を諭すように怒る。しかし、今のアルフォンスは腹の底から燃え盛る憤怒の感情を表に出し、それが綺麗な顔を、般若の形相に変えていた。
見たことのない元王太子の形相に、ジオルドは思わず固まる。
学園では、いつも優しげな微笑みを浮かべていたアルフォンス。そんな彼から受ける印象は、『優男』だ。しかし、今目の前に居る男は、その印象からほど遠い所に居る。ただただ純粋に、怖い。
「答えろ! 何をしたんだ!」
「ぐえぇぇぇ……」
掴んだ首に力を入れれば、当然首が締まる。苦しそうにもがくジオルドの様子に、周りは落ちつけと慌てた。
「アルフォンス殿、そこの彼は何もしていないよ! アリスが急に倒れたんだ!」
デニスの言葉に、アルフォンスはジオルドの首から手を離した。
咳き込むジオルドを無視し、アルフォンスは自分の腕の中でくったりと気を失うアリスを見る。
「アリス、アリス!」
軽く頬を叩き、大きな声で呼ぶが、彼女は目を覚まさなかった。
「ダーリン君。ちょっと見せて」
ローズが近くに寄って来て、アリスの顔を覗き込む。そして、ぎょっとして目を見開いた。
「ヤダ、嘘でしょ……」
不吉な予感のする呟きに、アルフォンスの鼓動がうるさくなる。
ローズは青褪めて言った。
「アリスちゃん、呪われてるわ……!」
まさかの言葉に、アルフォンスは呆然とした顔でアリスを見つめたのだった。
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