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第一話
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ミアは覗き込んだ水晶には、離宮に床に倒れたミリアリアの死体が映っていた。肌には既に血色は無く、やはりミリアリアは死んでしまったらしい。
ミアは、それに苦い顔をする。
あの死体は、ある意味前世の自分である。ミリアリアの記憶は持っているが、既にミアの人格を取り戻しているため、今の自分とイコールでは繋がらない。ある意味、近しい他人状態だ。
そんな前世の自分たるミリアリアだが、床に倒れたままという体制だ。そのことから、相変わらずこの離宮には誰も来ていないのだと知る。
「ちょっと、一国の王女よ? 嫁入りしてすぐに死んじゃったわよ? どうするのよ⁉」
前世の自分だ何だより、そっちの方が気になった。だって、ブレスト皇国が取り返しがつかないことを仕出かしている。ミリアリアは三度目覚め、気を失い死んだのだ。その三度は、朝、夕方、明け方くらいの時間だ。つまり、丸一日誰もミリアリアの様子を見に来なかったのだ。控えめに言っても過失致死である。あくまで、控えめに言って、のことだ。死んだのは王族である。国際問題であり、場合によっては戦争待ったなしだろう。
皇帝は何してるんだ! と激怒しながら遠見の水晶で王宮内を探し、見つける。
ブレスト皇国皇帝、ジェームズ・ブレスドが、金髪碧眼の美少女が仲良く庭園を歩いていた。
皇帝は艶やかな黒髪に、金の瞳を持つ大変な美丈夫だった。背も高くがっしりとした体つきは騎士にも劣らないのではないだろうか。
そんな皇帝の隣を歩く少女は、どこかあどけない可愛らしさを持つ美少女だった。年頃はミリアリアと同じくらいだろうか。二人は仲睦まじい様子で寄り添い、庭園をゆっくりと歩いている。
皇帝との睦まじさから、二人はただならぬ仲なのだと察したが、ミアは彼女が誰かを知らなかった。皇帝には正妃以外に后はおらず、愛妾も居なかったはずだ。
不信に思い、ミアは遠見の水晶の感度を上げ、音を拾う。
「まさか、ジェームズ様の側妃になれるなんて、夢みたい……」
鈴を転がすような可愛らしい声が聞こえた。
「ああ、私もだ。しかし、私はミリアに正妃になってもらいたかったな」
「まあ、そんな、恐れ多い! 私はただの男爵家の娘です。側妃にだってなるのは難しいのに、私如きでは分不相応です!」
「そうか……。ミリアは欲が無いな」
皇帝は愛おしそうにミリアと呼ばれた少女の頬を撫で、微笑む。
「今日もまた、夜に尋ねて行くよ」
「は、はい……。お待ちしています……」
ミリアは真っ赤になりながらも、小さくそう言い、そんな彼女を皇帝は優しく抱きしめた。
――そんな光景を見て、魔女は叫ぶ。
「だから、誰よ、その女!」
ミリアと呼ばれた少女は、側妃になれるなんて、と言っていた。つまり、彼女はブレスト皇国の皇帝の側妃なのだろう。しかし、ミアがミリアリアの記憶を隅々まで攫ってみても、そんな記憶は無かった。
「そうすると、ミリアリアが国を出て嫁ぐまでに後宮に入った、ってことよね……」
しかし、どうにもおかしい。皇帝の様子から少女を溺愛しているのが分かるが、他国の姫が嫁いで来るというのに、後宮入りの日が近すぎる。それは、あまりにも配慮の無い行いだ。普通、家臣も正妃も止めるだろう。
「……もしかして、強行した?」
大きな権力持つ者に、まま見られる行動だ。それに、現在の皇帝は二十八歳であり、皇帝の座に就いたのは二十一歳と若かった。これは、前皇帝が急死したためにそうなったのだが、大国で大きな権力を持つ皇帝位に就けるには不安になる若さだった。
「なんか、勘違いしてそうね……」
ブレスト皇国の皇帝の権力は大きい。否、大きすぎると言っても良い程である。そのせいか、帝位の継承は慎重を極める。皇子を必ず最低でも三人は設けられ、厳しい目で選定されるのだ。そして、帝位はどんなに若くても次代が四十代くらいにならないと継承されてこなかった。
しかし、今代は残念ながら皇子は一人であり、先代は急死。有能であると評判であったが、果たしてその人格はどんなものなのか……
「やだぁ~、嫌な予感しかしな~い……」
ミアはビンビンに感じる魔女の予感に、情けない声を上げた。
ミアは、それに苦い顔をする。
あの死体は、ある意味前世の自分である。ミリアリアの記憶は持っているが、既にミアの人格を取り戻しているため、今の自分とイコールでは繋がらない。ある意味、近しい他人状態だ。
そんな前世の自分たるミリアリアだが、床に倒れたままという体制だ。そのことから、相変わらずこの離宮には誰も来ていないのだと知る。
「ちょっと、一国の王女よ? 嫁入りしてすぐに死んじゃったわよ? どうするのよ⁉」
前世の自分だ何だより、そっちの方が気になった。だって、ブレスト皇国が取り返しがつかないことを仕出かしている。ミリアリアは三度目覚め、気を失い死んだのだ。その三度は、朝、夕方、明け方くらいの時間だ。つまり、丸一日誰もミリアリアの様子を見に来なかったのだ。控えめに言っても過失致死である。あくまで、控えめに言って、のことだ。死んだのは王族である。国際問題であり、場合によっては戦争待ったなしだろう。
皇帝は何してるんだ! と激怒しながら遠見の水晶で王宮内を探し、見つける。
ブレスト皇国皇帝、ジェームズ・ブレスドが、金髪碧眼の美少女が仲良く庭園を歩いていた。
皇帝は艶やかな黒髪に、金の瞳を持つ大変な美丈夫だった。背も高くがっしりとした体つきは騎士にも劣らないのではないだろうか。
そんな皇帝の隣を歩く少女は、どこかあどけない可愛らしさを持つ美少女だった。年頃はミリアリアと同じくらいだろうか。二人は仲睦まじい様子で寄り添い、庭園をゆっくりと歩いている。
皇帝との睦まじさから、二人はただならぬ仲なのだと察したが、ミアは彼女が誰かを知らなかった。皇帝には正妃以外に后はおらず、愛妾も居なかったはずだ。
不信に思い、ミアは遠見の水晶の感度を上げ、音を拾う。
「まさか、ジェームズ様の側妃になれるなんて、夢みたい……」
鈴を転がすような可愛らしい声が聞こえた。
「ああ、私もだ。しかし、私はミリアに正妃になってもらいたかったな」
「まあ、そんな、恐れ多い! 私はただの男爵家の娘です。側妃にだってなるのは難しいのに、私如きでは分不相応です!」
「そうか……。ミリアは欲が無いな」
皇帝は愛おしそうにミリアと呼ばれた少女の頬を撫で、微笑む。
「今日もまた、夜に尋ねて行くよ」
「は、はい……。お待ちしています……」
ミリアは真っ赤になりながらも、小さくそう言い、そんな彼女を皇帝は優しく抱きしめた。
――そんな光景を見て、魔女は叫ぶ。
「だから、誰よ、その女!」
ミリアと呼ばれた少女は、側妃になれるなんて、と言っていた。つまり、彼女はブレスト皇国の皇帝の側妃なのだろう。しかし、ミアがミリアリアの記憶を隅々まで攫ってみても、そんな記憶は無かった。
「そうすると、ミリアリアが国を出て嫁ぐまでに後宮に入った、ってことよね……」
しかし、どうにもおかしい。皇帝の様子から少女を溺愛しているのが分かるが、他国の姫が嫁いで来るというのに、後宮入りの日が近すぎる。それは、あまりにも配慮の無い行いだ。普通、家臣も正妃も止めるだろう。
「……もしかして、強行した?」
大きな権力持つ者に、まま見られる行動だ。それに、現在の皇帝は二十八歳であり、皇帝の座に就いたのは二十一歳と若かった。これは、前皇帝が急死したためにそうなったのだが、大国で大きな権力を持つ皇帝位に就けるには不安になる若さだった。
「なんか、勘違いしてそうね……」
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しかし、今代は残念ながら皇子は一人であり、先代は急死。有能であると評判であったが、果たしてその人格はどんなものなのか……
「やだぁ~、嫌な予感しかしな~い……」
ミアはビンビンに感じる魔女の予感に、情けない声を上げた。
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