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悪夢編
エピローグ
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その後ネモは領主の館へ向かい、そこで医師との相談の元、治療薬を作成した。幸いにも食事に混ぜられていた薬には依存性は無く、中毒症状も摂取していた期間の長さのわりに軽いものだった。二人の体調は魔法薬という反則気味なファンタジー薬で早々に快方に向かい、半月もすれば庭を元気に散策する姿が見られるようになった。
重篤な症状でなくてよかったとネモは医師と話したが、医師からしてみれば、日々症状に合わせて配合を変え、その尋常ならざる調合の腕前があってこその今だと思っていた。
医師は看護師に「二つ名持ちとは、それを与えられるだけの尋常ならざる実力がある証拠なのだとしみじみと感じた」と後に語った。
そして、それからさらに一週間後。経過を見ながら調合していた薬は、わざわざネモが作らなくてはならないレベルの物ではなくなっていた。ネモは調薬を地元の薬師にバトンタッチし、再び旅へ出ることになった。
朝、ネモはあっくんを肩に乗せ、領主の館の玄関に立っていた。ネモの前には、健康的な肌色に、少しばかり肉がついたケイトと、溌溂とした笑みを浮かべるサミュエルだ。
「ネモさん、今回は本当にお世話になりました。全ては貴女のお陰です。心から感謝しています」
「いいえ、サミュエル様。当たり前のことをしたまでです」
犯罪に気付いたら通報する。それは、健全な精神を持つ者なら当たり前にする行動だろう。
しかし、サミュエルは首を横に振った。
「当たり前のことではありませんよ。普通は通報しても、証拠を掴もうとしません。貴女が行動を起こしたのは、ケイトが限界だと思ったからでしょう?」
サミュエルの指摘に、ネモは微笑みながらも、沈黙を選んだ。ネモも、今回のような犯罪に気付いたときは、普段は通報して終わりにしている。しかし、今回ばかりはサミュエルの言うように、長びかせればケイトがどうなるか分からなかった。だから、ネモは動いたのだ。
サミュエルは沈黙を選び、言及を避けたネモに益々笑みを深くし、背後に控えるケイトへ視線をやる。サミュエルは「ケイト、お礼を」と促し、ケイトはそれに一礼して前に出た。
「ネモフィラ・ペンタス様。この度は大変お世話になりました。このご恩は一生忘れません」
そう言って、彼女は深々と頭を下げた。
ネモはそれに微笑み、告げる。
「全ては貴女が諦めなかったからこその結果です。その意志の強さを、心から尊敬します。どうか、お元気で」
ケイトはその言葉に、心から嬉しそうに微笑んだ。
サミュエルはその光景を見て、にこにこと笑う。
「ネモさん、いつかマクシード領にいらっしゃることがあったら、きっと我が家にいらして下さいね。美味しいワインをご馳走しますから」
「ふふ、ありがとうございます。必ず寄らせてもらいますね」
そうして二人に見送られ、ネモは領主の館を後にした。
足取り軽く歩き、緑豊かな草原の道を行く。
晴れ渡る青空の下、ネモは丘の上で遠目に町を見下ろし、気持ちのいい風に吹かれる。
「さて、と……。それじゃあ、あっくん。次は王都のお祭りよ!」
「きゅっきゃい!」
そう言って、ネモは再び歩き出す。
背にした町は燦燦と太陽の光が降り注ぎ、嵐の後の清涼な風が吹き抜けた。
重篤な症状でなくてよかったとネモは医師と話したが、医師からしてみれば、日々症状に合わせて配合を変え、その尋常ならざる調合の腕前があってこその今だと思っていた。
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そして、それからさらに一週間後。経過を見ながら調合していた薬は、わざわざネモが作らなくてはならないレベルの物ではなくなっていた。ネモは調薬を地元の薬師にバトンタッチし、再び旅へ出ることになった。
朝、ネモはあっくんを肩に乗せ、領主の館の玄関に立っていた。ネモの前には、健康的な肌色に、少しばかり肉がついたケイトと、溌溂とした笑みを浮かべるサミュエルだ。
「ネモさん、今回は本当にお世話になりました。全ては貴女のお陰です。心から感謝しています」
「いいえ、サミュエル様。当たり前のことをしたまでです」
犯罪に気付いたら通報する。それは、健全な精神を持つ者なら当たり前にする行動だろう。
しかし、サミュエルは首を横に振った。
「当たり前のことではありませんよ。普通は通報しても、証拠を掴もうとしません。貴女が行動を起こしたのは、ケイトが限界だと思ったからでしょう?」
サミュエルの指摘に、ネモは微笑みながらも、沈黙を選んだ。ネモも、今回のような犯罪に気付いたときは、普段は通報して終わりにしている。しかし、今回ばかりはサミュエルの言うように、長びかせればケイトがどうなるか分からなかった。だから、ネモは動いたのだ。
サミュエルは沈黙を選び、言及を避けたネモに益々笑みを深くし、背後に控えるケイトへ視線をやる。サミュエルは「ケイト、お礼を」と促し、ケイトはそれに一礼して前に出た。
「ネモフィラ・ペンタス様。この度は大変お世話になりました。このご恩は一生忘れません」
そう言って、彼女は深々と頭を下げた。
ネモはそれに微笑み、告げる。
「全ては貴女が諦めなかったからこその結果です。その意志の強さを、心から尊敬します。どうか、お元気で」
ケイトはその言葉に、心から嬉しそうに微笑んだ。
サミュエルはその光景を見て、にこにこと笑う。
「ネモさん、いつかマクシード領にいらっしゃることがあったら、きっと我が家にいらして下さいね。美味しいワインをご馳走しますから」
「ふふ、ありがとうございます。必ず寄らせてもらいますね」
そうして二人に見送られ、ネモは領主の館を後にした。
足取り軽く歩き、緑豊かな草原の道を行く。
晴れ渡る青空の下、ネモは丘の上で遠目に町を見下ろし、気持ちのいい風に吹かれる。
「さて、と……。それじゃあ、あっくん。次は王都のお祭りよ!」
「きゅっきゃい!」
そう言って、ネモは再び歩き出す。
背にした町は燦燦と太陽の光が降り注ぎ、嵐の後の清涼な風が吹き抜けた。
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