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悪夢編
第十話 町2
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洗濯物を洗い終え、宿に戻って屋上にそれを干す。
やれやれ一仕事終えたぜ、と伸びをして、一息つけば次の仕事だ。
「よし、道すがら採取した薬草でも売りに行くか」
そう呟き、部屋に戻り、あっくんに声を掛ける。
「あっくん、薬屋へ行くけど、一緒に行く? 行くなら屋台でお昼にしようと思うだけど」
「きゅいっ!」
行く! と元気良く鳴いて、あっくんはネモの肩へと駆け上がる。
そして荷物を持ち、ネモは部屋の鍵を閉めてそれをカウンターに預けた。
「すみません、薬屋って何処にありますか」
「ああ、それなら――」
カウンターで鍵を預けがてら若女将から薬屋の場所を聞き、ネモは表通りから細い路地に入り、教えられた薬屋へ入る。
「こんにちはー」
「いらっしゃい……」
初老の店主が、丸眼鏡向こうの目を細めてネモを迎えた。
薬屋には乾燥させた薬草類が吊るされ、棚にはポーションや飲み薬、塗り薬が並べられている。
「今日は採取した薬草を売りたいんだけど」
「……出しな」
寡黙な店主は、短くそう言う。
ネモは慣れた様子でマジックバックから薬草の束を三つほど取り出し、それをカウンターに並べた。
店主はそれをじろじろと眺め、言う。
「あんた、錬金術師だろ」
「えっ」
「やっぱりか。フン、何年この仕事をやっとると思ってんだ。薬屋にはよく野良錬金術師が来るからな。どいつもこいつも好奇心の塊のような悪童じみた顔をしてやがる」
「悪童……」
悪戯坊主扱いされたネモは、微妙な顔をした。
「錬金術師が持ち込む薬草はどれもこれも状態が良い。優秀で結構なことだ」
ニヤリと笑って銀板を一枚置く。
「えっ、こんなに良いの?」
「摘みたての月夜草の花ならこんなもんだ。今度は鮮度にも気をつける事だな」
言われ、ネモは、あ、やっちまったな、と視線を泳がせる。どうやら時間停止のマジックバックを持っていることに気付かれたようだ。まあ、そりゃあ気づくというものだ。なにせ、ここ二日間は嵐のせいで外出が難しかったのだ。それなのに、夜に開花する月夜草の花を鮮度抜群の状態で持ってくれば、それはもう確実に長期間鮮度を保つアイテムを持っているという証拠である。
店主に他に何かないのか、と問われ、まあ、バレたなら良いか、といずれ売るつもりだった鮮度が命の薬草類を出していく。
そしてそれらの査定待ちをしていると、ふいに店のドアが開いた。
「おい、爺さん。裏の勝手口開かねーんだけど?」
「ああ? ……あー、そういや、鍵閉めたままだったな」
そう言って店に入って来たのは、木箱を持った青年だった。
「悪いな、そっちの隅に置いといてくれ」
「おう。お客さんも悪かったな。すぐ行くから」
青年はニッ、と人好きのする笑顔を浮かべ、木箱をカウンターの隅に置いて出て行った。木箱の中身はこの辺りで簡単に採れるメジャーな薬草のようだ。
「パーレ草とミゼン草ね」
「ああ。腰痛や肩こりの為の塗り薬に使うんだ」
あっくんが木箱の中を覗き込み、ふんふんと匂いを嗅ぎ、嫌そうに遠ざけた。それを見て店主が笑う。
「ははっ、嫌そうな顔してら。まあ、動物はパーレ草を嫌うよな。独特な匂いがあるから」
「あー、そうなのよね。それと、経口摂取した場合、軽い幻覚作用があるのよね。大昔では神官が儀式のために使ったりして――」
ここまで言って、ネモは引っかかるものを感じた。
唐突に言葉を切ったネモに、店主が怪訝な顔をする。その店主を無視し、ネモはおもむろに木箱に顔を寄せ、パーレ草の匂いを嗅いだ。
「これ……」
ネモは一瞬目を剥き、その表情はだんだんと苦いものへと変化する。そんなネモの様子を見て、店主はどうしたんだと尋ねたが、ネモはそれには答えず、店主を見る。
「このパーレ草って、この辺じゃメジャーな薬草よね?」
「そうだな。この辺と言わず、この大陸じゃ高地以外にはよく生えてる薬草だ。この辺じゃ、子供が小遣い稼ぎに冒険者ギルドに持って行ってるぞ」
つまり、この薬草は子供でも採取できる安全な場所に生えているということだ。
「あー……、嘘でしょ。なんて厄介なの……」
店主の視線を感じつつ、ネモは額に手を当てて呻く。
パーレ草の匂いは、あの不味いスープに感じた風味と同じものだった。
やれやれ一仕事終えたぜ、と伸びをして、一息つけば次の仕事だ。
「よし、道すがら採取した薬草でも売りに行くか」
そう呟き、部屋に戻り、あっくんに声を掛ける。
「あっくん、薬屋へ行くけど、一緒に行く? 行くなら屋台でお昼にしようと思うだけど」
「きゅいっ!」
行く! と元気良く鳴いて、あっくんはネモの肩へと駆け上がる。
そして荷物を持ち、ネモは部屋の鍵を閉めてそれをカウンターに預けた。
「すみません、薬屋って何処にありますか」
「ああ、それなら――」
カウンターで鍵を預けがてら若女将から薬屋の場所を聞き、ネモは表通りから細い路地に入り、教えられた薬屋へ入る。
「こんにちはー」
「いらっしゃい……」
初老の店主が、丸眼鏡向こうの目を細めてネモを迎えた。
薬屋には乾燥させた薬草類が吊るされ、棚にはポーションや飲み薬、塗り薬が並べられている。
「今日は採取した薬草を売りたいんだけど」
「……出しな」
寡黙な店主は、短くそう言う。
ネモは慣れた様子でマジックバックから薬草の束を三つほど取り出し、それをカウンターに並べた。
店主はそれをじろじろと眺め、言う。
「あんた、錬金術師だろ」
「えっ」
「やっぱりか。フン、何年この仕事をやっとると思ってんだ。薬屋にはよく野良錬金術師が来るからな。どいつもこいつも好奇心の塊のような悪童じみた顔をしてやがる」
「悪童……」
悪戯坊主扱いされたネモは、微妙な顔をした。
「錬金術師が持ち込む薬草はどれもこれも状態が良い。優秀で結構なことだ」
ニヤリと笑って銀板を一枚置く。
「えっ、こんなに良いの?」
「摘みたての月夜草の花ならこんなもんだ。今度は鮮度にも気をつける事だな」
言われ、ネモは、あ、やっちまったな、と視線を泳がせる。どうやら時間停止のマジックバックを持っていることに気付かれたようだ。まあ、そりゃあ気づくというものだ。なにせ、ここ二日間は嵐のせいで外出が難しかったのだ。それなのに、夜に開花する月夜草の花を鮮度抜群の状態で持ってくれば、それはもう確実に長期間鮮度を保つアイテムを持っているという証拠である。
店主に他に何かないのか、と問われ、まあ、バレたなら良いか、といずれ売るつもりだった鮮度が命の薬草類を出していく。
そしてそれらの査定待ちをしていると、ふいに店のドアが開いた。
「おい、爺さん。裏の勝手口開かねーんだけど?」
「ああ? ……あー、そういや、鍵閉めたままだったな」
そう言って店に入って来たのは、木箱を持った青年だった。
「悪いな、そっちの隅に置いといてくれ」
「おう。お客さんも悪かったな。すぐ行くから」
青年はニッ、と人好きのする笑顔を浮かべ、木箱をカウンターの隅に置いて出て行った。木箱の中身はこの辺りで簡単に採れるメジャーな薬草のようだ。
「パーレ草とミゼン草ね」
「ああ。腰痛や肩こりの為の塗り薬に使うんだ」
あっくんが木箱の中を覗き込み、ふんふんと匂いを嗅ぎ、嫌そうに遠ざけた。それを見て店主が笑う。
「ははっ、嫌そうな顔してら。まあ、動物はパーレ草を嫌うよな。独特な匂いがあるから」
「あー、そうなのよね。それと、経口摂取した場合、軽い幻覚作用があるのよね。大昔では神官が儀式のために使ったりして――」
ここまで言って、ネモは引っかかるものを感じた。
唐突に言葉を切ったネモに、店主が怪訝な顔をする。その店主を無視し、ネモはおもむろに木箱に顔を寄せ、パーレ草の匂いを嗅いだ。
「これ……」
ネモは一瞬目を剥き、その表情はだんだんと苦いものへと変化する。そんなネモの様子を見て、店主はどうしたんだと尋ねたが、ネモはそれには答えず、店主を見る。
「このパーレ草って、この辺じゃメジャーな薬草よね?」
「そうだな。この辺と言わず、この大陸じゃ高地以外にはよく生えてる薬草だ。この辺じゃ、子供が小遣い稼ぎに冒険者ギルドに持って行ってるぞ」
つまり、この薬草は子供でも採取できる安全な場所に生えているということだ。
「あー……、嘘でしょ。なんて厄介なの……」
店主の視線を感じつつ、ネモは額に手を当てて呻く。
パーレ草の匂いは、あの不味いスープに感じた風味と同じものだった。
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