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番外編・すいーと・ぱにっく
第五話
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じゃあ千年竜とカーバンクルならカーバンクルの方が強いのか、というと、そうでもない。単純に、千年竜の方が知能が高いからだ。
そこから長年の知恵と経験でカーバンクルを上回る行動を取れるので、単純にどちらが強いとは言い切れないのだ。
しかし、両者は滅多にぶつかったりしない。
千年竜はカーバンクルの厄介さを知っているし、カーバンクルは雑食だが、基本的に草食動物的な小動物の獣性が強く、手を出されない限り他を攻撃するようなことは無い。
カーバンクルという種族は、食う、寝る、遊ぶというのが主の割と無邪気な種族だ。尋常ならざる力を持ちながら、攻撃性が低い。それこそ、あっくんのような『食』に非常に関心があるような個体でなければ『狩り』に相当する敵対行動は取らないのだ。
さて、その『狩り』をする珍しいカーバンクルたるあっくんは、種族特有の魔力回復能力で好きなだけ魔法を使っている。まず身体強化魔法にて体力を補い、細かく素早い魔力弾の斉射にてレッドビーを仕留める。
あっくん一匹で何万匹ものレッドビーを仕留めているのだから、怖ろしい。レッドビーを追い払うには隊長蜂の撤退の指示か、隊長蜂の殲滅が必要なわけだが、何万匹という規模の群れともなれば隊長蜂の数もそれ相応に増える。よって、あっくんが蜂蜜を手に入れる為には、レッドビーを三割以下まで削らなければならない。
普通であればうんざりするし、諦めてとっとと逃げるが、あっくんはそれをしない。むしろ、する必要が無い。出来ると確信しているからレッドビーを襲ったのだ。――その際、ネモの身の安全が頭からすっぽ抜けたのは、小動物の脳みその小ささゆえか、それともあっくんの食い意地のせいか……。何にせよ、あっくんが説教を受けるのは確定である。
そんなあっくんがレッドビーを削って、削って、殲滅して、その数を五万匹ていどまで落とした時、ネモがレッドビーの大軍を引き連れて帰って来た。池を一周して来たのだ。
「なにこれ、地獄絵図⁉」
ネモが帰還して目にした光景は、魔力弾や魔力砲にて折れ、薙ぎ倒された木々。草花はボコボコに穴が開いた大地と共に無惨に倒れ、それに降り積もる大量のレッドビーの死骸。無事なのはレッドビーの巣に侵された大樹だけ。
一種の地獄の如き様相であった。
そして……
「きゅきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!」
「あっくんが一番怖い‼」
明らかにイっちゃってる嗤い声を発するあっくんが一番恐ろしかった。
「あっくん、ホント、何してるのぉぉぉ!?」
「きゅきゃきゃきゃきゃ!」
「聞いてないし!」
レッドビーを殲滅するのに夢中で、ネモの存在は気付いていないというか、意識の外に追いやられているようである。
そのせいか、レッドビーに向けて放たれた魔力弾が、ネモの近くに着弾する。小規模ではある者の、その爆風に煽られて少しよろけたネモは青褪める。
「ちょっと、あっくぅぅぅん!?」
「きゅきゃーっきゃっきゃっきゃっ!」
ヤバイ高笑いをし出したあっくんにネモの声は届かない。
これはいよいよ危ないと察したネモは、逃げ場を探す。前門のあっくんに後門のレッドビー。絶体絶命である。
「なんで味方の筈のあっくんに命を脅かされなきゃならないわけ⁉」
やけくそ気味にネモは喚く。まったくその通りで泣けてくるが、飛んでくる魔力弾もレッドビーも待ってはくれない。
必死に逃げ道を探す中、目に飛び込んできたのは池だった。
「こうなりゃヤケよ! 南無三!」
ネモは思い切って池に飛び込んだ。池には幸いにも魔物は居ないようだが、水の外は危険なので事が収まるまで出られない。
ネモはマジックバックから長い竹筒を取り出し、それを咥えてシュノーケル代わりにする。
リアル忍者、などと昔冗談で作ったものだったが、取っておいて良かったと心から思った。
さて、そうやってネモが水中へ避難した後も、あっくんはハイテンションでレッドビーを撃ち落としていた。
しかし、いくら魔力量に余裕があり、長時間でも戦えるとはいえ、それだけの時間を集中して戦えば脳が疲れてくる。そうなれば、やはりミスが出てくるものだ。
近付いてきていたレッドビーを全て撃ち落とし、次は遠くに居るレッドビーの群れを薙ぎ払おうと、魔力砲を撃ったその時であった。
――ちゅどーん!
「きゅきゃっ!?」
しまった、と顔色を変えた時はもう遅かった。
あっくんはうっかり巣がこびりついている大樹に魔力砲を当ててしまったのだ。
魔力砲は巣の四分の一を吹き飛ばし、幹の三分の一を削った。更に不運なことに、この大樹は老木であったため、中身に空洞が多く、脆くなっていた。そして――
――ミシッ……
木が軋む音がした。
――パリ……、ビシッ、ミシミシミシ……
木から異音が続く。
大樹の上には重たい巣が乗っているのだ。それを支える土台が傷ついたとなれば、果たして巣の重量に耐えられるかどうか……
――バキィッ!
当然、耐えられるわけが無かった。
決定的な音と共に、大樹が傾く。
――メリメリメリ……ドォォォォン!
「きゅきゃぁぁぁぁ⁉」
辺りにあっくんの悲鳴が響き渡る。
傾くと同時に枝葉が擦れ、派手な音が鳴り、そして遂に大樹が倒れた。
それと同時に巣が破壊され、砕かれたそれからひと際大きなレッドビーが飛び出して来た。それは、女王蜂のクイーン・レッドビーだった。
そのクイーン・レッドビーを守るように働き蜂が取り囲み、隊長蜂が周囲に集まっていく。
そして、彼等はあっくんに背を向けて森の奥へと飛び去って行った。
レッドビーが去った後に残ったのは、折られ、薙ぎ倒された木々や草花、穴が開いた大地に、尋常ならざる数のレッドビーの残骸。そして、無残な姿になったレッドビーの巣だけだった。
レッドビーの巣の前で膝をつき、なんということでしょう、と嘆くあっくんに、一つの人影が近づく。
「あっく~~~ん?」
ずぶぬれでなうえ、ボロボロな姿のネモだった。
頭から垂れ下がる藻を地面に叩きつけ、やっべぇ、という顔をしたあっくんを睨み付ける。
「明日から一週間、蜂蜜抜き!」
「きゅあっ⁉」
こうして、誰にとっても散々な蜂蜜採取は幕を下ろしたのだった。
そこから長年の知恵と経験でカーバンクルを上回る行動を取れるので、単純にどちらが強いとは言い切れないのだ。
しかし、両者は滅多にぶつかったりしない。
千年竜はカーバンクルの厄介さを知っているし、カーバンクルは雑食だが、基本的に草食動物的な小動物の獣性が強く、手を出されない限り他を攻撃するようなことは無い。
カーバンクルという種族は、食う、寝る、遊ぶというのが主の割と無邪気な種族だ。尋常ならざる力を持ちながら、攻撃性が低い。それこそ、あっくんのような『食』に非常に関心があるような個体でなければ『狩り』に相当する敵対行動は取らないのだ。
さて、その『狩り』をする珍しいカーバンクルたるあっくんは、種族特有の魔力回復能力で好きなだけ魔法を使っている。まず身体強化魔法にて体力を補い、細かく素早い魔力弾の斉射にてレッドビーを仕留める。
あっくん一匹で何万匹ものレッドビーを仕留めているのだから、怖ろしい。レッドビーを追い払うには隊長蜂の撤退の指示か、隊長蜂の殲滅が必要なわけだが、何万匹という規模の群れともなれば隊長蜂の数もそれ相応に増える。よって、あっくんが蜂蜜を手に入れる為には、レッドビーを三割以下まで削らなければならない。
普通であればうんざりするし、諦めてとっとと逃げるが、あっくんはそれをしない。むしろ、する必要が無い。出来ると確信しているからレッドビーを襲ったのだ。――その際、ネモの身の安全が頭からすっぽ抜けたのは、小動物の脳みその小ささゆえか、それともあっくんの食い意地のせいか……。何にせよ、あっくんが説教を受けるのは確定である。
そんなあっくんがレッドビーを削って、削って、殲滅して、その数を五万匹ていどまで落とした時、ネモがレッドビーの大軍を引き連れて帰って来た。池を一周して来たのだ。
「なにこれ、地獄絵図⁉」
ネモが帰還して目にした光景は、魔力弾や魔力砲にて折れ、薙ぎ倒された木々。草花はボコボコに穴が開いた大地と共に無惨に倒れ、それに降り積もる大量のレッドビーの死骸。無事なのはレッドビーの巣に侵された大樹だけ。
一種の地獄の如き様相であった。
そして……
「きゅきゃきゃきゃきゃきゃきゃ!」
「あっくんが一番怖い‼」
明らかにイっちゃってる嗤い声を発するあっくんが一番恐ろしかった。
「あっくん、ホント、何してるのぉぉぉ!?」
「きゅきゃきゃきゃきゃ!」
「聞いてないし!」
レッドビーを殲滅するのに夢中で、ネモの存在は気付いていないというか、意識の外に追いやられているようである。
そのせいか、レッドビーに向けて放たれた魔力弾が、ネモの近くに着弾する。小規模ではある者の、その爆風に煽られて少しよろけたネモは青褪める。
「ちょっと、あっくぅぅぅん!?」
「きゅきゃーっきゃっきゃっきゃっ!」
ヤバイ高笑いをし出したあっくんにネモの声は届かない。
これはいよいよ危ないと察したネモは、逃げ場を探す。前門のあっくんに後門のレッドビー。絶体絶命である。
「なんで味方の筈のあっくんに命を脅かされなきゃならないわけ⁉」
やけくそ気味にネモは喚く。まったくその通りで泣けてくるが、飛んでくる魔力弾もレッドビーも待ってはくれない。
必死に逃げ道を探す中、目に飛び込んできたのは池だった。
「こうなりゃヤケよ! 南無三!」
ネモは思い切って池に飛び込んだ。池には幸いにも魔物は居ないようだが、水の外は危険なので事が収まるまで出られない。
ネモはマジックバックから長い竹筒を取り出し、それを咥えてシュノーケル代わりにする。
リアル忍者、などと昔冗談で作ったものだったが、取っておいて良かったと心から思った。
さて、そうやってネモが水中へ避難した後も、あっくんはハイテンションでレッドビーを撃ち落としていた。
しかし、いくら魔力量に余裕があり、長時間でも戦えるとはいえ、それだけの時間を集中して戦えば脳が疲れてくる。そうなれば、やはりミスが出てくるものだ。
近付いてきていたレッドビーを全て撃ち落とし、次は遠くに居るレッドビーの群れを薙ぎ払おうと、魔力砲を撃ったその時であった。
――ちゅどーん!
「きゅきゃっ!?」
しまった、と顔色を変えた時はもう遅かった。
あっくんはうっかり巣がこびりついている大樹に魔力砲を当ててしまったのだ。
魔力砲は巣の四分の一を吹き飛ばし、幹の三分の一を削った。更に不運なことに、この大樹は老木であったため、中身に空洞が多く、脆くなっていた。そして――
――ミシッ……
木が軋む音がした。
――パリ……、ビシッ、ミシミシミシ……
木から異音が続く。
大樹の上には重たい巣が乗っているのだ。それを支える土台が傷ついたとなれば、果たして巣の重量に耐えられるかどうか……
――バキィッ!
当然、耐えられるわけが無かった。
決定的な音と共に、大樹が傾く。
――メリメリメリ……ドォォォォン!
「きゅきゃぁぁぁぁ⁉」
辺りにあっくんの悲鳴が響き渡る。
傾くと同時に枝葉が擦れ、派手な音が鳴り、そして遂に大樹が倒れた。
それと同時に巣が破壊され、砕かれたそれからひと際大きなレッドビーが飛び出して来た。それは、女王蜂のクイーン・レッドビーだった。
そのクイーン・レッドビーを守るように働き蜂が取り囲み、隊長蜂が周囲に集まっていく。
そして、彼等はあっくんに背を向けて森の奥へと飛び去って行った。
レッドビーが去った後に残ったのは、折られ、薙ぎ倒された木々や草花、穴が開いた大地に、尋常ならざる数のレッドビーの残骸。そして、無残な姿になったレッドビーの巣だけだった。
レッドビーの巣の前で膝をつき、なんということでしょう、と嘆くあっくんに、一つの人影が近づく。
「あっく~~~ん?」
ずぶぬれでなうえ、ボロボロな姿のネモだった。
頭から垂れ下がる藻を地面に叩きつけ、やっべぇ、という顔をしたあっくんを睨み付ける。
「明日から一週間、蜂蜜抜き!」
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