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番外編・すいーと・ぱにっく
第三話
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「きゅあ~」
ネモがレッドビーの巣をマジックバックに仕舞っていると、あっくんがネモのコートの裾を引いた。あっくんは、どうにかならないか、と言わんばかりの情けない顔をしており、ネモは苦笑いしつつ頭をひねる。
「そうねぇ……。もうちょっと森を散策してみる? 他にもレッドビーの巣があるかもしれないし」
「きゅいっ!」
嬉しそうに賛成するあっくんに、ネモも笑む。
「それじゃあ、さっき見つけた花がたくさん咲いてた木のところまで戻りましょうか。そこで待っていたらレッドビーが来るかもしれないし」
「きゅいっ!」
そう言って花が咲いている樹木の所へ戻れば、丁度レッドビーが蜜を集めているところに出くわした。
「あっくん!」
「きゅあっ!」
慌てて身を隠し、レッドビーを観察する。
幸いなことにレッドビーはすぐに蜜を集め終え、樹木から離れた。
ネモとあっくんは気配を殺しながらそれを追う。
レッドビーは寄り道をすることなく、森の奥へと飛んでいく。
「なんか、さっきより森の奥へ入っちゃてるけど……。どうしよう、不安だわ……」
「きゅーい」
果たしてこのまま森の奥へ入って大丈夫かと悩むネモに、あっくんが軽い調子で、大丈夫だよ、と鳴く。
「きゅきゃっ」
僕がいるから大丈夫、とばかりに胸を叩くあっくんに、ネモは困ったように笑んでコメントを避けた。
そして、ネモとあっくんは森の奥へ、奥へと入っていく。
しばらく歩いていると、木々の向こうがキラキラ光っているのに気づいた。
「なにかしら……?」
そこへ向かって歩を進め、木々の間から出てみれば、そこに在ったのは大きな池だった。
池の水面がキラキラと太陽の光を反射し、ネモは眩しさに目を細める。
その時、不意にネモの背後からブーンという羽音がした。
驚いて振り向けば、目の前を赤い体が通過する。
それを目で追い、その正体がレッドビーだと知る。
よく見てみれば、池の上をレッドビーが数匹飛んでおり、それらはまっすぐ向こう岸の方へと飛び去って行く。
「どうやら向こう岸に巣があるみたいね。レッドビーの数が多いわ」
「きゅいっ」
あっくんは目を輝かせた。
向こう岸に行けば蜂蜜がいっぱい!
キラキラとしたエフェクトが見えそうな喜びようだ。
ネモは苦笑しつつ、池の周りを歩く。池は大きいため、向こう岸までそれなりに距離がある。
稀にこういう池には厄介な魔物が潜んでいる場合があるため、試しに大き目の石を投げ入れてみるが、特に反応は返ってこない。もしこれで大物の魔物が潜んでいれば、何事かと様子を見るためにアクションがあるのだが、なにも無いということは少なくとも大物の魔物は居ないということである。
「あっくん、時間が余ったら魚でも釣って帰る?」
「きゅーい!」
ご機嫌のあっくんに、ネモも笑顔になる。小動物は可愛い。
こうしてのんびりと向こう岸へと歩を進めたのだが、残念ながらネモ達は釣りをして帰ることはなった。
何故なら、向こう岸にはとんでもない光景が待ち構えていたのだから……
***
ぱっかりと阿呆みたいに口を開け、唖然とする。
「なにあれ……」
「きゅ~あ……」
目的地に辿り着いたネモとあっくんの視線の先には、とんでもない光景が広がっていた。
池から少しだけ離れたところに聳え立つ大樹。それは、きっと古木と呼べるほどに樹齢を重ねただろう木だった。幹は太く、枝は大きく、広く横に伸びている。
その大樹を見て、ネモ達は唖然としていた。
別に、大樹が珍しいわけでは無い。旅をしていればそうした立派な木などはたまに見かけることがある。では、何がネモ達をこんなに驚かせたのか――
「蜂の巣に浸食されてる……」
「きゅ~……」
大樹は、レッドビーの巣に余すところなく浸食されていたのだ。
広く広げた枝にはみっしりとレッドビーの巣がこびりつき、垂れ下がり、もはや壁と言っていい有り様だった。
「これ、世界最大級じゃない? 直系十メートルはあるわよ……?」
えげつない規模の巣だ。最早レッドビーの木と言っていいほどに大樹は巣に飲み込まれている。
「大きすぎてキモイ……」
巣の周りにはブンブンとレッドビーが飛び回り、本能的な鳥肌が立つ。
これはもう『焼く』一択の規模だ。
ネモは顔を歪め、あっくんを呼ぶ。
「あっくん、これは無理よ。撤退するわ」
そう言って一歩巣から遠ざかるが、その間にあっくんから返事が無かった。
「あっくん?」
肩に乗っているあっくんを見る。
「きゅっきゅっきゅ~い」
そこには、目を輝かせている捕食者が居た。
バリバリに嫌な予感がした。物凄く良くない事が起きる予感だ。
「あ、あっくん……?」
恐る恐る声を掛けるも、あっくんはご機嫌に体を揺らすだけだ。
「あっくん、あの――」
言い終わる前に、あっくんがネモの肩から降りた。そして――
「きゅっきゃ~い!」
高らかに声を上げ、レッドビー達の前へ躍り出たのだった。
ネモがレッドビーの巣をマジックバックに仕舞っていると、あっくんがネモのコートの裾を引いた。あっくんは、どうにかならないか、と言わんばかりの情けない顔をしており、ネモは苦笑いしつつ頭をひねる。
「そうねぇ……。もうちょっと森を散策してみる? 他にもレッドビーの巣があるかもしれないし」
「きゅいっ!」
嬉しそうに賛成するあっくんに、ネモも笑む。
「それじゃあ、さっき見つけた花がたくさん咲いてた木のところまで戻りましょうか。そこで待っていたらレッドビーが来るかもしれないし」
「きゅいっ!」
そう言って花が咲いている樹木の所へ戻れば、丁度レッドビーが蜜を集めているところに出くわした。
「あっくん!」
「きゅあっ!」
慌てて身を隠し、レッドビーを観察する。
幸いなことにレッドビーはすぐに蜜を集め終え、樹木から離れた。
ネモとあっくんは気配を殺しながらそれを追う。
レッドビーは寄り道をすることなく、森の奥へと飛んでいく。
「なんか、さっきより森の奥へ入っちゃてるけど……。どうしよう、不安だわ……」
「きゅーい」
果たしてこのまま森の奥へ入って大丈夫かと悩むネモに、あっくんが軽い調子で、大丈夫だよ、と鳴く。
「きゅきゃっ」
僕がいるから大丈夫、とばかりに胸を叩くあっくんに、ネモは困ったように笑んでコメントを避けた。
そして、ネモとあっくんは森の奥へ、奥へと入っていく。
しばらく歩いていると、木々の向こうがキラキラ光っているのに気づいた。
「なにかしら……?」
そこへ向かって歩を進め、木々の間から出てみれば、そこに在ったのは大きな池だった。
池の水面がキラキラと太陽の光を反射し、ネモは眩しさに目を細める。
その時、不意にネモの背後からブーンという羽音がした。
驚いて振り向けば、目の前を赤い体が通過する。
それを目で追い、その正体がレッドビーだと知る。
よく見てみれば、池の上をレッドビーが数匹飛んでおり、それらはまっすぐ向こう岸の方へと飛び去って行く。
「どうやら向こう岸に巣があるみたいね。レッドビーの数が多いわ」
「きゅいっ」
あっくんは目を輝かせた。
向こう岸に行けば蜂蜜がいっぱい!
キラキラとしたエフェクトが見えそうな喜びようだ。
ネモは苦笑しつつ、池の周りを歩く。池は大きいため、向こう岸までそれなりに距離がある。
稀にこういう池には厄介な魔物が潜んでいる場合があるため、試しに大き目の石を投げ入れてみるが、特に反応は返ってこない。もしこれで大物の魔物が潜んでいれば、何事かと様子を見るためにアクションがあるのだが、なにも無いということは少なくとも大物の魔物は居ないということである。
「あっくん、時間が余ったら魚でも釣って帰る?」
「きゅーい!」
ご機嫌のあっくんに、ネモも笑顔になる。小動物は可愛い。
こうしてのんびりと向こう岸へと歩を進めたのだが、残念ながらネモ達は釣りをして帰ることはなった。
何故なら、向こう岸にはとんでもない光景が待ち構えていたのだから……
***
ぱっかりと阿呆みたいに口を開け、唖然とする。
「なにあれ……」
「きゅ~あ……」
目的地に辿り着いたネモとあっくんの視線の先には、とんでもない光景が広がっていた。
池から少しだけ離れたところに聳え立つ大樹。それは、きっと古木と呼べるほどに樹齢を重ねただろう木だった。幹は太く、枝は大きく、広く横に伸びている。
その大樹を見て、ネモ達は唖然としていた。
別に、大樹が珍しいわけでは無い。旅をしていればそうした立派な木などはたまに見かけることがある。では、何がネモ達をこんなに驚かせたのか――
「蜂の巣に浸食されてる……」
「きゅ~……」
大樹は、レッドビーの巣に余すところなく浸食されていたのだ。
広く広げた枝にはみっしりとレッドビーの巣がこびりつき、垂れ下がり、もはや壁と言っていい有り様だった。
「これ、世界最大級じゃない? 直系十メートルはあるわよ……?」
えげつない規模の巣だ。最早レッドビーの木と言っていいほどに大樹は巣に飲み込まれている。
「大きすぎてキモイ……」
巣の周りにはブンブンとレッドビーが飛び回り、本能的な鳥肌が立つ。
これはもう『焼く』一択の規模だ。
ネモは顔を歪め、あっくんを呼ぶ。
「あっくん、これは無理よ。撤退するわ」
そう言って一歩巣から遠ざかるが、その間にあっくんから返事が無かった。
「あっくん?」
肩に乗っているあっくんを見る。
「きゅっきゅっきゅ~い」
そこには、目を輝かせている捕食者が居た。
バリバリに嫌な予感がした。物凄く良くない事が起きる予感だ。
「あ、あっくん……?」
恐る恐る声を掛けるも、あっくんはご機嫌に体を揺らすだけだ。
「あっくん、あの――」
言い終わる前に、あっくんがネモの肩から降りた。そして――
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