32 / 57
番外編・すいーと・ぱにっく
第二話
しおりを挟む
「いいこと、あっくん。万が一大きい巣を見つけたら、撤退するからね。大きい巣は山火事にならないように計画してから撤去しなきゃいけないから」
「きゅ~……」
え~、と不満そうな声を上げるあっくんに、ネモは厳しい声で言う。
「あっくん。私達の旅は美味しいものを食べる旅でもあるけど、命あっての物種なの。健康だからこそ、ご飯が美味しいのよ」
「きゅきゃ~……」
世の真理である。
あっくんが、確かに、と頷くのを確認し、ネモは言葉を重ねる。
「だから、危険からはなるべく遠ざかる、関わらない。安全策を第一に動くのよ」
「きゅ~い……」
仕方ないなぁ、と了承の意を返したあっくんに、ネモもよろしい、と頷いた。
しかし、ネモは気付かなかった。
あっくんが、だけど僕が居れば大丈夫だよね、と思っていたことに……
***
レッドビーは樹上に巣をつくる。
蜜蜂みたいな生態のくせに、何故かその巣はスズメバチの巣にそっくりだ。稀にレッドビーの巣と勘違いし、蜂蜜を採ろうとして煙で燻してみれば、実はスズメバチの巣だったという事故が起きている。
巣を見分けられない場合は、巣に出入りしている蜂が何色をしているか確認する必要がある。
ネモ達は森の中を歩き、花が咲いている樹木を見つけ、そこで赤い蜂の魔物を見つけた。
「あっくん、追いかけるわよ」
「きゅいっ」
声を潜めてそう言えば、あっくんも小さな声で了解の意を返した。
両者はそっとレッドビーの後を追う。
しかし、レッドビーは流石は魔物と言うべきか、兎に角飛行距離が長く、蜜を一度に溜める量が多い。なかなか巣に帰らず、ネモ達はレッドビーの後を半刻程息をひそめて追う羽目になった。
「面倒ね、あっくん……」
「きゅい……」
うんざりしながらどうにか辿り着いた場所には、五十センチほどの大きな蜂の巣があった。
「周りをレッドビーが飛んでるし、レッドビーの巣で間違いなさそうね」
「きゅっ」
よし、と頷き合い、ネモはバックから発煙筒のマジックアイテムを取り出す。
風向きを確認し、茂みの影からアイテムを起動して巣の近くへ投げた。
筒形のマジックアイテムから濛々と煙が噴き出て、四メートルほどの高さにある巣に煙があたる。
「これで駄目なら発煙筒増やすけど……、それで駄目なら撤退ね」
「きゅきゃっ!?」
ネモの呟きに、なんで⁉ と驚くあっくんに、改めて言う。
「あっくん。『命あっての物種』なのよ」
「きゅあ~……」
そんな~、と嘆くあっくんは、改めてレッドビーの巣に視線を戻し、赤い蜂出て行け~、と念を送る。
さて、そんなあっくんの念が届いたのか、レッドビーは巣から次々に出てきて、最後に女王蜂のクイーン・レッドビーを守るように中心に据え、森の奥へと飛び去って行った。
ネモとあっくんはその様子を茂みに隠れて見送った。そしてそのまま巣から蜂が出てこないことを確認し、隠れていた茂みから出る。
「もう居ないみたいね」
「きゅっ!」
煙に燻されたままの蜂の巣を見上げ、ネモは安どの息をつき、あっくんはご機嫌な様子でリズミカルに体を揺らした。
「それじゃあ、あっくん。木に登って巣を落としてもらっていい?」
「きゅいっ!」
あっくんはネモの指示に従い、「きゅっきゅ~」と鼻歌交じりに木に登る。
レッドビーの巣は、枝葉が多い木に出来やすく、今回もそれに違わず枝葉が多くて巣が見えにくい場所に出来ていた。
あっくんが巣に辿り着いてもレッドビーは出てこず、一匹も巣に残っていないのが分かる。これが蜜蜂やスズメバチと違うところだろう。追い払うという点ではこちらの方が簡単だ。
「あっく~ん、巣を下に落として欲しいから、巣を支えている枝を切ってもらえる~?」
「きゅあっ?」
ネモが下からそうあっくんにお願いするが、下に落としたら巣が壊れちゃわないかな? とあっくんは首を傾げた。
「レッドビーの巣は丈夫だから、そう簡単には壊れないわよ~。安心して落としちゃって~」
「きゅ~い!」
了解とばかりに元気いっぱいな返事をして、あっくんは巣を支える枝の一つに噛みついた。そして、そのままガリガリと削っていく。げっ歯類の本領発揮である。
一つの枝では巣は落ちず、あたりをつけてもう一枝削っていく。
そして、削っている半ばで、ミシッ、と音がした。
あっくんは急いで安全な枝に飛び移り、巣の様子を窺う。
巣がくっついている枝は、ミシミシと音を立てて重力に逆らわず下へとずり落ちて行き、バキッ、という枝が折れる音と共に落下した。
途中、木の枝葉に触れて落下速度が軽減されたが、それでも殺しきれなかった勢いが巣をバウンドさせ、転がった。
安全のため少し離れたところで見守っていたネモは、落ちて来た巣の元へ小走りに近寄り、巣の状態を確認する。
「特に壊れたところは無さそうね……。あっく~ん、お疲れさま! バッチリだったわ!」
「きゅっきゅ~い!」
あっくんは喜び勇んで木から降り、巣の元へ一目散に走り寄る。
「きゅあ?」
蜂蜜の量はどれくらいかな? と首を傾げるあっくんに、ネモは苦笑する。
「そうね……。依頼分がけっこう多めだったがら、手元に残せるのは小さめの壺一つぶん……、朝食のパンに塗るとしたら十日分くらいかしら」
「きゅきゃっ!?」
それだけなの⁉ と驚くあっくんに、ネモは肩を竦める。
「仕方ないわよ。依頼者はきっとこの蜂蜜で試作を重ねるつもりなんでしょ。だからいっぱい欲しい、って依頼なんだから」
「きゅあ~……」
依頼を受けなければよかった、と嘆くあっくんに、ネモは困った顔をする。
「あっくんの蜂蜜ブームはまだ去らないか~……」
十日分もあればそのうちに飽きるかと思ったのだが、どうやらまだまだ蜂蜜ブーム続くようである。
「きゅ~……」
え~、と不満そうな声を上げるあっくんに、ネモは厳しい声で言う。
「あっくん。私達の旅は美味しいものを食べる旅でもあるけど、命あっての物種なの。健康だからこそ、ご飯が美味しいのよ」
「きゅきゃ~……」
世の真理である。
あっくんが、確かに、と頷くのを確認し、ネモは言葉を重ねる。
「だから、危険からはなるべく遠ざかる、関わらない。安全策を第一に動くのよ」
「きゅ~い……」
仕方ないなぁ、と了承の意を返したあっくんに、ネモもよろしい、と頷いた。
しかし、ネモは気付かなかった。
あっくんが、だけど僕が居れば大丈夫だよね、と思っていたことに……
***
レッドビーは樹上に巣をつくる。
蜜蜂みたいな生態のくせに、何故かその巣はスズメバチの巣にそっくりだ。稀にレッドビーの巣と勘違いし、蜂蜜を採ろうとして煙で燻してみれば、実はスズメバチの巣だったという事故が起きている。
巣を見分けられない場合は、巣に出入りしている蜂が何色をしているか確認する必要がある。
ネモ達は森の中を歩き、花が咲いている樹木を見つけ、そこで赤い蜂の魔物を見つけた。
「あっくん、追いかけるわよ」
「きゅいっ」
声を潜めてそう言えば、あっくんも小さな声で了解の意を返した。
両者はそっとレッドビーの後を追う。
しかし、レッドビーは流石は魔物と言うべきか、兎に角飛行距離が長く、蜜を一度に溜める量が多い。なかなか巣に帰らず、ネモ達はレッドビーの後を半刻程息をひそめて追う羽目になった。
「面倒ね、あっくん……」
「きゅい……」
うんざりしながらどうにか辿り着いた場所には、五十センチほどの大きな蜂の巣があった。
「周りをレッドビーが飛んでるし、レッドビーの巣で間違いなさそうね」
「きゅっ」
よし、と頷き合い、ネモはバックから発煙筒のマジックアイテムを取り出す。
風向きを確認し、茂みの影からアイテムを起動して巣の近くへ投げた。
筒形のマジックアイテムから濛々と煙が噴き出て、四メートルほどの高さにある巣に煙があたる。
「これで駄目なら発煙筒増やすけど……、それで駄目なら撤退ね」
「きゅきゃっ!?」
ネモの呟きに、なんで⁉ と驚くあっくんに、改めて言う。
「あっくん。『命あっての物種』なのよ」
「きゅあ~……」
そんな~、と嘆くあっくんは、改めてレッドビーの巣に視線を戻し、赤い蜂出て行け~、と念を送る。
さて、そんなあっくんの念が届いたのか、レッドビーは巣から次々に出てきて、最後に女王蜂のクイーン・レッドビーを守るように中心に据え、森の奥へと飛び去って行った。
ネモとあっくんはその様子を茂みに隠れて見送った。そしてそのまま巣から蜂が出てこないことを確認し、隠れていた茂みから出る。
「もう居ないみたいね」
「きゅっ!」
煙に燻されたままの蜂の巣を見上げ、ネモは安どの息をつき、あっくんはご機嫌な様子でリズミカルに体を揺らした。
「それじゃあ、あっくん。木に登って巣を落としてもらっていい?」
「きゅいっ!」
あっくんはネモの指示に従い、「きゅっきゅ~」と鼻歌交じりに木に登る。
レッドビーの巣は、枝葉が多い木に出来やすく、今回もそれに違わず枝葉が多くて巣が見えにくい場所に出来ていた。
あっくんが巣に辿り着いてもレッドビーは出てこず、一匹も巣に残っていないのが分かる。これが蜜蜂やスズメバチと違うところだろう。追い払うという点ではこちらの方が簡単だ。
「あっく~ん、巣を下に落として欲しいから、巣を支えている枝を切ってもらえる~?」
「きゅあっ?」
ネモが下からそうあっくんにお願いするが、下に落としたら巣が壊れちゃわないかな? とあっくんは首を傾げた。
「レッドビーの巣は丈夫だから、そう簡単には壊れないわよ~。安心して落としちゃって~」
「きゅ~い!」
了解とばかりに元気いっぱいな返事をして、あっくんは巣を支える枝の一つに噛みついた。そして、そのままガリガリと削っていく。げっ歯類の本領発揮である。
一つの枝では巣は落ちず、あたりをつけてもう一枝削っていく。
そして、削っている半ばで、ミシッ、と音がした。
あっくんは急いで安全な枝に飛び移り、巣の様子を窺う。
巣がくっついている枝は、ミシミシと音を立てて重力に逆らわず下へとずり落ちて行き、バキッ、という枝が折れる音と共に落下した。
途中、木の枝葉に触れて落下速度が軽減されたが、それでも殺しきれなかった勢いが巣をバウンドさせ、転がった。
安全のため少し離れたところで見守っていたネモは、落ちて来た巣の元へ小走りに近寄り、巣の状態を確認する。
「特に壊れたところは無さそうね……。あっく~ん、お疲れさま! バッチリだったわ!」
「きゅっきゅ~い!」
あっくんは喜び勇んで木から降り、巣の元へ一目散に走り寄る。
「きゅあ?」
蜂蜜の量はどれくらいかな? と首を傾げるあっくんに、ネモは苦笑する。
「そうね……。依頼分がけっこう多めだったがら、手元に残せるのは小さめの壺一つぶん……、朝食のパンに塗るとしたら十日分くらいかしら」
「きゅきゃっ!?」
それだけなの⁉ と驚くあっくんに、ネモは肩を竦める。
「仕方ないわよ。依頼者はきっとこの蜂蜜で試作を重ねるつもりなんでしょ。だからいっぱい欲しい、って依頼なんだから」
「きゅあ~……」
依頼を受けなければよかった、と嘆くあっくんに、ネモは困った顔をする。
「あっくんの蜂蜜ブームはまだ去らないか~……」
十日分もあればそのうちに飽きるかと思ったのだが、どうやらまだまだ蜂蜜ブーム続くようである。
11
お気に入りに追加
1,084
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。
みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。
転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す
RINFAM
ファンタジー
なんの罰ゲームだ、これ!!!!
あああああ!!!
本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!
そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!
一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!
かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。
年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。
4コマ漫画版もあります。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
前世の幸福ポイントを使用してチート冒険者やってます。
サツキ コウ
ファンタジー
俗に言う異世界転生物。
人生の幸福ポイントを人一倍残した状態で不慮の死を遂げた主人公が、
前世のポイントを使ってチート化!
新たな人生では柵に囚われない為に一流の冒険者を目指す。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる