31 / 57
番外編・すいーと・ぱにっく
第一話
しおりを挟む
「えっ、売り切れ?」
「はい、申し訳ありません……」
ネモとあっくんは、あれから二日後に小さめの町へ辿り着いた。
その日は宿をとって早々に就寝し、翌日に蜂蜜を買うため町へくり出した。
蜂蜜は、大体は大きめの食品を扱う商店で売られており、ネモ達はそこへ向かった。しかし、目的の物は商品棚には並んでおらず、店員を呼んで聞いてみれば売り切れという非情な答えを貰った。
「珍しいわね。蜂蜜ってちょっと高いじゃない? 普通はいくらか残っているものだけど……」
「はい。普段はそうなんですが、近々スイーツのコンテストがあるので、甘味類が売り切れることがありまして……」
他にもフルーツのシロップ漬けや、少し珍しい種類の砂糖が売れたりしているらしい。
「コンテストがあるからって売り切れるものかしら?」
「一般参加も認められている大規模なものなので」
あー、それは無くなるわね、とネモが納得して頷くなか、その肩の上であっくんが大ショックを受けていた。
「あっくん、これは仕方ないわよ。次の町まで我慢しよう? ね?」
「きゅぅ~」
「申し訳ありません」
あっくんは力なくネモの肩で、でれん、と垂れた。
それにネモは苦笑し、店員も申し訳なさそうに頭を下げた。
しかしその後、あっくんはしゃっきりと復活することになる。
それは冒険者ギルドである依頼を見つけたことから端を発した。
***
冒険者ギルドには多種多様な人々が集まる。
まずは、冒険者。彼等は依頼が貼り出してある掲示板をチェックし、受ける依頼をそこから剥がして受付で手続きをする。
そして、依頼人。
彼等は一般市民から、果ては王族まで様々だ。
その依頼内容は子供のお使い程度のものから、幻ともいえるような品の採取依頼まで、難易度も依頼料も多岐にわたる。
そうした人々が混雑して集まる冒険者ギルドに、ネモとあっくんは居た。
「お金は稼げるうちに稼いでおかないとね~」
「きゅ~」
あっくんは蜂蜜が買えなかったせいで、やる気が削がれているようだ。
「ほら、あっくん。お金が無いと蜂蜜は買えないのよ? ここで稼いでおいて、次の町でいつもより多めに買いましょう?」
「きゅい……」
ネモのもっともな言葉に、あっくんは一応の納得を見せて頷いた。
そして掲示板で良い依頼を探していると、ネモがある依頼を見つけた。
「んん? レッドビーの蜂蜜採取依頼?」
「きゅっ⁉」
蜂蜜の単語に、萎れていたあっくんの耳がピンと立つ。
「ふ~ん、この近くの森ってレッドビーが生息してるのね。コンテストのスイーツづくりに使うのかしらね?」
「きゅっ! きゅきゃっ!」
ネモの髪を軽く引っ張って、これを受けようよ! とあっくんは騒いだ。
「受けても良いけど、依頼分以上の蜂蜜がないと自分達用には出来ないわよ? 良いのね?」
「きゅいっ!」
レッドビーは蜂の黄色い部分が赤い色をしている虫型の魔物だ。大きさが五センチくらいあり、蜂と同じように巣をつくり、群れる。
お尻の針には毒があるが、即死性の毒ではない。また、アナフィラキシーショックの心配もなく、張れや痛み、痺れがあるくらいで、それは調薬にて麻酔薬の原料として使われることもある。
ただ、数が多く、大きさもそれなりのものなので、退治するには面倒であり、蜂蜜採取もある手法を使わなければならない。
「これ、面倒な依頼だから、あっくんにはバンバン手伝ってもらうからね」
「きゅっきゅ~いっ!」
ネモの言葉に、あっくんは弾んだ声で頷いた。
***
ネモとあっくんはレッドビー対策と、蜂蜜採取の準備をして森へ入る。
レッドビーは主に春から秋にかけて活動し、冬は身を寄せ合って越冬する魔物だ。習性は蜜蜂に近いが、やはり魔物であるため、人を襲い、食べることもある。また、春から夏にかけて数が多くなりやすく、稀にとんでもない規模の巣がみつかるため注意が必要だ。例えば、何かしらのイベントのために、数日森に入る人間が減っただけで、六メートル級の巣が見つかった例もあるのだから……。
「では、あっくん。レッドビーを見つける前に、もう一度確認します」
「きゅいっ!」
のんびり森を歩きながら、ネモは生徒に対する教師の如き口調で、あっ君に話しかける。
「レッドビーは群れで行動する蜂型の魔物です。虫の蜂と違うのは、女王蜂と働き蜂の他に、隊長蜂という指揮系統を担う蜂が居ることです」
「きゅっ!」
「万が一戦うようなことになった場合、隊長蜂を優先的に倒しましょう。指揮系統が混乱するため、働き蜂は撤退を選択するからです」
「きゅあ~」
そうなのかぁ、とあっくんが頷く。
「それから、今回のレッドビーの蜂蜜を取るには、レッドビーを巣から追い出さなくてはなりません」
「きゅっきゅ!」
「では、どうやって巣から追い出せばいいか? それは、レッドビーの習性を利用します」
「きゅーい!」
レッドビーを巣から追い出すには、養蜂で蜜蜂を巣から追い払う時と同じように、煙で燻すのだ。
レッドビーは火を恐れるため、煙を感知すれば火事と勘違いし、早々に巣を放棄して逃げてしまうのだ。その潔さは、蜜蜂より上だ。
「ただし、それが出来ない場合もあります。それは、巣が大きすぎる場合です」
「きゅい?」
あっくんが不思議そうな声を上げた。ネモはそれに対して軽く肩を竦める。
「巣が大きすぎると煙が行きわたらないの。昔発見された六メートル級くらいになると、とてもじゃないけど蜂蜜採取とか言ってられなかったみたい。魔法で焼き払われたんですって」
「きゅあ~」
あっくんは、もったいな~い、とでも言うような顔をしていたが、人間からすれば一大事だ。アナフィラキシーショックは無いとはいえ、刺されれば痛いし、痺れるのだ。集団で襲われ、何か所も刺されて痺れて動けなくなったところを別の魔物に襲われでもしたら一巻の終わりだ。――いや、そもそもこのレッドビーも滅多にないとはいえ、人間を食べることもある魔物なのだ。油断は禁物だろう。
「はい、申し訳ありません……」
ネモとあっくんは、あれから二日後に小さめの町へ辿り着いた。
その日は宿をとって早々に就寝し、翌日に蜂蜜を買うため町へくり出した。
蜂蜜は、大体は大きめの食品を扱う商店で売られており、ネモ達はそこへ向かった。しかし、目的の物は商品棚には並んでおらず、店員を呼んで聞いてみれば売り切れという非情な答えを貰った。
「珍しいわね。蜂蜜ってちょっと高いじゃない? 普通はいくらか残っているものだけど……」
「はい。普段はそうなんですが、近々スイーツのコンテストがあるので、甘味類が売り切れることがありまして……」
他にもフルーツのシロップ漬けや、少し珍しい種類の砂糖が売れたりしているらしい。
「コンテストがあるからって売り切れるものかしら?」
「一般参加も認められている大規模なものなので」
あー、それは無くなるわね、とネモが納得して頷くなか、その肩の上であっくんが大ショックを受けていた。
「あっくん、これは仕方ないわよ。次の町まで我慢しよう? ね?」
「きゅぅ~」
「申し訳ありません」
あっくんは力なくネモの肩で、でれん、と垂れた。
それにネモは苦笑し、店員も申し訳なさそうに頭を下げた。
しかしその後、あっくんはしゃっきりと復活することになる。
それは冒険者ギルドである依頼を見つけたことから端を発した。
***
冒険者ギルドには多種多様な人々が集まる。
まずは、冒険者。彼等は依頼が貼り出してある掲示板をチェックし、受ける依頼をそこから剥がして受付で手続きをする。
そして、依頼人。
彼等は一般市民から、果ては王族まで様々だ。
その依頼内容は子供のお使い程度のものから、幻ともいえるような品の採取依頼まで、難易度も依頼料も多岐にわたる。
そうした人々が混雑して集まる冒険者ギルドに、ネモとあっくんは居た。
「お金は稼げるうちに稼いでおかないとね~」
「きゅ~」
あっくんは蜂蜜が買えなかったせいで、やる気が削がれているようだ。
「ほら、あっくん。お金が無いと蜂蜜は買えないのよ? ここで稼いでおいて、次の町でいつもより多めに買いましょう?」
「きゅい……」
ネモのもっともな言葉に、あっくんは一応の納得を見せて頷いた。
そして掲示板で良い依頼を探していると、ネモがある依頼を見つけた。
「んん? レッドビーの蜂蜜採取依頼?」
「きゅっ⁉」
蜂蜜の単語に、萎れていたあっくんの耳がピンと立つ。
「ふ~ん、この近くの森ってレッドビーが生息してるのね。コンテストのスイーツづくりに使うのかしらね?」
「きゅっ! きゅきゃっ!」
ネモの髪を軽く引っ張って、これを受けようよ! とあっくんは騒いだ。
「受けても良いけど、依頼分以上の蜂蜜がないと自分達用には出来ないわよ? 良いのね?」
「きゅいっ!」
レッドビーは蜂の黄色い部分が赤い色をしている虫型の魔物だ。大きさが五センチくらいあり、蜂と同じように巣をつくり、群れる。
お尻の針には毒があるが、即死性の毒ではない。また、アナフィラキシーショックの心配もなく、張れや痛み、痺れがあるくらいで、それは調薬にて麻酔薬の原料として使われることもある。
ただ、数が多く、大きさもそれなりのものなので、退治するには面倒であり、蜂蜜採取もある手法を使わなければならない。
「これ、面倒な依頼だから、あっくんにはバンバン手伝ってもらうからね」
「きゅっきゅ~いっ!」
ネモの言葉に、あっくんは弾んだ声で頷いた。
***
ネモとあっくんはレッドビー対策と、蜂蜜採取の準備をして森へ入る。
レッドビーは主に春から秋にかけて活動し、冬は身を寄せ合って越冬する魔物だ。習性は蜜蜂に近いが、やはり魔物であるため、人を襲い、食べることもある。また、春から夏にかけて数が多くなりやすく、稀にとんでもない規模の巣がみつかるため注意が必要だ。例えば、何かしらのイベントのために、数日森に入る人間が減っただけで、六メートル級の巣が見つかった例もあるのだから……。
「では、あっくん。レッドビーを見つける前に、もう一度確認します」
「きゅいっ!」
のんびり森を歩きながら、ネモは生徒に対する教師の如き口調で、あっ君に話しかける。
「レッドビーは群れで行動する蜂型の魔物です。虫の蜂と違うのは、女王蜂と働き蜂の他に、隊長蜂という指揮系統を担う蜂が居ることです」
「きゅっ!」
「万が一戦うようなことになった場合、隊長蜂を優先的に倒しましょう。指揮系統が混乱するため、働き蜂は撤退を選択するからです」
「きゅあ~」
そうなのかぁ、とあっくんが頷く。
「それから、今回のレッドビーの蜂蜜を取るには、レッドビーを巣から追い出さなくてはなりません」
「きゅっきゅ!」
「では、どうやって巣から追い出せばいいか? それは、レッドビーの習性を利用します」
「きゅーい!」
レッドビーを巣から追い出すには、養蜂で蜜蜂を巣から追い払う時と同じように、煙で燻すのだ。
レッドビーは火を恐れるため、煙を感知すれば火事と勘違いし、早々に巣を放棄して逃げてしまうのだ。その潔さは、蜜蜂より上だ。
「ただし、それが出来ない場合もあります。それは、巣が大きすぎる場合です」
「きゅい?」
あっくんが不思議そうな声を上げた。ネモはそれに対して軽く肩を竦める。
「巣が大きすぎると煙が行きわたらないの。昔発見された六メートル級くらいになると、とてもじゃないけど蜂蜜採取とか言ってられなかったみたい。魔法で焼き払われたんですって」
「きゅあ~」
あっくんは、もったいな~い、とでも言うような顔をしていたが、人間からすれば一大事だ。アナフィラキシーショックは無いとはいえ、刺されれば痛いし、痺れるのだ。集団で襲われ、何か所も刺されて痺れて動けなくなったところを別の魔物に襲われでもしたら一巻の終わりだ。――いや、そもそもこのレッドビーも滅多にないとはいえ、人間を食べることもある魔物なのだ。油断は禁物だろう。
12
お気に入りに追加
1,085
あなたにおすすめの小説

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

魔王の花嫁(生け贄)にされるはずが、隣国の王子にさらわれました
オレンジ方解石
恋愛
シュネーゼ公国一の美姫、アレクシアは公子の婚約者だったが、公子は初恋の聖女と婚約。アレクシア自身は魔王に目をつけられ、花嫁となることが決定する。
しかし魔王との約束の場所に『問題児』と評判の隣国の第四王子ジークフリートが乱入、魔王に戦いを申し込み…………。

聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。
みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。
加護を疑われ婚約破棄された後、帝国皇子の契約妃になって隣国を豊かに立て直しました
黎
ファンタジー
幼い頃、神獣ヴァレンの加護を期待され、ロザリアは王家に買い取られて王子の婚約者となった。しかし、侍女を取り上げられ、将来の王妃だからと都合よく仕事を押し付けられ、一方で、公爵令嬢があたかも王子の婚約者であるかのように振る舞う。そんな風に冷遇されながらも、ロザリアはヴァレンと共にたくましく生き続けてきた。
そんな中、王子がロザリアに「君との婚約では神獣の加護を感じたことがない。公爵令嬢が加護を持つと判明したし、彼女と結婚する」と婚約破棄をつきつける。
家も職も金も失ったロザリアは、偶然出会った帝国皇子ラウレンツに雇われることになる。元皇妃の暴政で荒廃した帝国を立て直そうとする彼の契約妃となったロザリアは、ヴァレンの力と自身の知恵と経験を駆使し、帝国を豊かに復興させていき、帝国とラウレンツの心に希望を灯す存在となっていく。
*短編に続きをとのお声をたくさんいただき、始めることになりました。引き続きよろしくお願いします。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
お手に取って頂けたら嬉しいです。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる