16 / 57
野良錬金術師
第十五話 洞窟1
しおりを挟む
その後、ネモ達は無事にレッサードラゴンを倒した。
辺りを見渡し、レッサードラゴンの数を数えてみれば、なんと二十一体も居た。
「騒ぎに気付いて、途中で増えたからな」
「あー、たまにあるわよね。戦闘中の魔物の乱入」
小物なら逃げだすのだが、上位の魔物は漁夫の利を狙ってか、騒ぎに近付いて来ることがあるのだ。
「さて、これはどうする?」
「んー、ちょっと今は時間が無いし、時間停止のマジックバックに入れちゃいましょう。取り分の分配は――」
「ああ、いや、俺はいらない。君が持って行ってくれ」
レッサードラゴンの素材は高価だ。なので、それはどうかと思ったが、「そのぶん護衛料金をまけてくれ」と言われ、それならいいか、とありがたく貰っておくことにした。
レッサードラゴンをさっさとマジックバックにしまい、再び歩き出す。
「ねえ、嫌な予感がするんだけど……。もしかして、アースドラゴンの巣に向かってない?」
「そうだなぁ……。う~ん……」
ネモの質問に、アルスは曖昧な微笑みを浮かべ――そっと目を逸らした。
「やっぱり! これ、絶対アースドラゴンが待ち構えてるやつ! この事件の犯人、アースドラゴンを使役してるの!? とんでもないじゃないの‼」
ヤダー‼ と悲鳴を上げるネモに、ハハハ、とアルスが空々しい笑い声を上げる。
「無理! 絶対無理‼ これ、たった二人の人間の手に負える案件じゃないわよ! 撤退しましょうよ!」
「いやー、うーん……。しかしなぁ、せめてリリィさんとやらがこの事件に関わってしまったか否かだけでも知りたいしなぁ……」
そう言われ、ネモはぐっと言葉に詰まる。
「せめて、塒を覗くくらいはしたい。何かしらの痕跡が発見できるかもしれないからな」
そう言われ、ネモはあの日たった一晩の楽しい女同士のおしゃべりを思い出す。
たったそれだけの縁だ。……けれど、確かにあった縁だった。
ぐぬぬ、と悩み、渋い顔をして決断する。
「……ちょっと、……本当にちょっとだけ覗いてみて、撤退しましょう」
「ああ! そうしよう!」
輝く笑みを浮かべるアルスに対し、ネモは盛大な溜息をついた。
ネモ達は岩山を上り、程なくしてアースドラゴンが巣を作っているという洞窟の入り口へ辿り着いた。
「なんか、ピリピリするというか、ゾワゾワするというか……」
何とも言えぬ感覚がネモの本能を刺激する。その本能は、間違いなく生存本能だろう。
そんなネモの呟きを聞き、アルスもまた同意するように頷く。
「そうだな。これは、相当にまずいぞ。罪の気配もそうだが、魔素の濃さも異常だ。アースドラゴンが居るというだけの理由じゃないぞ」
アルスの言う通り、洞窟からは濃い魔素の気配を感じた。ネモの経験から言えば、それは召喚魔法を使う時に人為的に周囲から集めた魔力の濃さに似ている。
「これ、たぶん誰かが魔力を集めてるんだわ。魔力を集めるのはまだしも、一か所に留めておくなんて相当難しいわよ。しかも、この洞窟に近づくまで気付かなかった。つまり、外への影響がないという事だわ。そうじゃなきゃ、とっくにこの辺の魔物に影響が出て、魔物の氾濫スタンピードが起きてる筈だもの」
魔素とは、空気中に漂っている魔力のことだ。この世界では酸素や二酸化炭素などの原子と同じくくりに入り、それはこの世界の動植物は自らの体内で作り出しているものでもある。
その魔力でもって魔法などを使うわけだが、その魔力を作り出し、留めていられる量は個々によって差があり、魔導士を名乗る者と一般人との差は大きい。
そんな魔力であり、魔素であるものは実は一所に留めにくい性質を持っている。
体内で作られた魔力は一定量以上となると呼吸と共に抜けていくし、魔道具に使用されている魔石や魔核は質によっては時間経過と共に魔力が抜けていく。
その魔道具に使用されている魔石と魔核だが、魔石は魔力を蓄えた宝石で、魔核は魔物の心臓部だ。
魔石は長い年月をかけて魔素を自然と蓄えた宝石がそう呼ばれており、それは魔核よりも貴重だ。宝石としての価値もあるため、主に貴族などの富裕層が防御魔法を付与した装飾品として使われる。そして、魔物の魔核はそれ以外の魔道具の電池がわりに使われている。
そんな魔石や魔核のように、魔力を溜めておけるものを人為的に作り出そうとした試みは数えきれないほどあった。しかし、それが完全に成功した例は無い。
それは少量であったり、一時的に多量の魔力を溜めておけたが、時間が経てばやはり自然と抜けて行ってしまったりして実用化には至らなかった。
さて、そんなふうに人為的に魔力を溜めているのが難しいそれが、こんなにも濃い気配をさせているのだから、洞窟の奥にあると思われる装置を作った者の技術力の高さにうんざりする。アルスが言う『罪の気配』により、絶対にろくでもない物だからだ。
「ああー……、ホントに嫌だわ。ろくでもないモノがあるわよ、これ……」
「どうしたものか……」
アルスとしてはそれの正体を知りたかった。場合によっては撤退せず、突撃した方が良いかもしれないからだ。ネモには申し訳ないが、急を要するようならば、彼女を巻き込んで自爆覚悟でそれを破壊する必要がある。多くの国民の命と、自分たちの命ならば、アルスはどうしたって前者を取らねばならないのだ。
王族であるアルスはそれらを表に出さず、ただ促す。
「ここで悩んでいても仕方がない。それじゃあ、行こうか」
「ええぇ……」
アルスの思惑など知らず、ネモは嫌そうに呻きながら、洞窟へ足を踏み入れた。
辺りを見渡し、レッサードラゴンの数を数えてみれば、なんと二十一体も居た。
「騒ぎに気付いて、途中で増えたからな」
「あー、たまにあるわよね。戦闘中の魔物の乱入」
小物なら逃げだすのだが、上位の魔物は漁夫の利を狙ってか、騒ぎに近付いて来ることがあるのだ。
「さて、これはどうする?」
「んー、ちょっと今は時間が無いし、時間停止のマジックバックに入れちゃいましょう。取り分の分配は――」
「ああ、いや、俺はいらない。君が持って行ってくれ」
レッサードラゴンの素材は高価だ。なので、それはどうかと思ったが、「そのぶん護衛料金をまけてくれ」と言われ、それならいいか、とありがたく貰っておくことにした。
レッサードラゴンをさっさとマジックバックにしまい、再び歩き出す。
「ねえ、嫌な予感がするんだけど……。もしかして、アースドラゴンの巣に向かってない?」
「そうだなぁ……。う~ん……」
ネモの質問に、アルスは曖昧な微笑みを浮かべ――そっと目を逸らした。
「やっぱり! これ、絶対アースドラゴンが待ち構えてるやつ! この事件の犯人、アースドラゴンを使役してるの!? とんでもないじゃないの‼」
ヤダー‼ と悲鳴を上げるネモに、ハハハ、とアルスが空々しい笑い声を上げる。
「無理! 絶対無理‼ これ、たった二人の人間の手に負える案件じゃないわよ! 撤退しましょうよ!」
「いやー、うーん……。しかしなぁ、せめてリリィさんとやらがこの事件に関わってしまったか否かだけでも知りたいしなぁ……」
そう言われ、ネモはぐっと言葉に詰まる。
「せめて、塒を覗くくらいはしたい。何かしらの痕跡が発見できるかもしれないからな」
そう言われ、ネモはあの日たった一晩の楽しい女同士のおしゃべりを思い出す。
たったそれだけの縁だ。……けれど、確かにあった縁だった。
ぐぬぬ、と悩み、渋い顔をして決断する。
「……ちょっと、……本当にちょっとだけ覗いてみて、撤退しましょう」
「ああ! そうしよう!」
輝く笑みを浮かべるアルスに対し、ネモは盛大な溜息をついた。
ネモ達は岩山を上り、程なくしてアースドラゴンが巣を作っているという洞窟の入り口へ辿り着いた。
「なんか、ピリピリするというか、ゾワゾワするというか……」
何とも言えぬ感覚がネモの本能を刺激する。その本能は、間違いなく生存本能だろう。
そんなネモの呟きを聞き、アルスもまた同意するように頷く。
「そうだな。これは、相当にまずいぞ。罪の気配もそうだが、魔素の濃さも異常だ。アースドラゴンが居るというだけの理由じゃないぞ」
アルスの言う通り、洞窟からは濃い魔素の気配を感じた。ネモの経験から言えば、それは召喚魔法を使う時に人為的に周囲から集めた魔力の濃さに似ている。
「これ、たぶん誰かが魔力を集めてるんだわ。魔力を集めるのはまだしも、一か所に留めておくなんて相当難しいわよ。しかも、この洞窟に近づくまで気付かなかった。つまり、外への影響がないという事だわ。そうじゃなきゃ、とっくにこの辺の魔物に影響が出て、魔物の氾濫スタンピードが起きてる筈だもの」
魔素とは、空気中に漂っている魔力のことだ。この世界では酸素や二酸化炭素などの原子と同じくくりに入り、それはこの世界の動植物は自らの体内で作り出しているものでもある。
その魔力でもって魔法などを使うわけだが、その魔力を作り出し、留めていられる量は個々によって差があり、魔導士を名乗る者と一般人との差は大きい。
そんな魔力であり、魔素であるものは実は一所に留めにくい性質を持っている。
体内で作られた魔力は一定量以上となると呼吸と共に抜けていくし、魔道具に使用されている魔石や魔核は質によっては時間経過と共に魔力が抜けていく。
その魔道具に使用されている魔石と魔核だが、魔石は魔力を蓄えた宝石で、魔核は魔物の心臓部だ。
魔石は長い年月をかけて魔素を自然と蓄えた宝石がそう呼ばれており、それは魔核よりも貴重だ。宝石としての価値もあるため、主に貴族などの富裕層が防御魔法を付与した装飾品として使われる。そして、魔物の魔核はそれ以外の魔道具の電池がわりに使われている。
そんな魔石や魔核のように、魔力を溜めておけるものを人為的に作り出そうとした試みは数えきれないほどあった。しかし、それが完全に成功した例は無い。
それは少量であったり、一時的に多量の魔力を溜めておけたが、時間が経てばやはり自然と抜けて行ってしまったりして実用化には至らなかった。
さて、そんなふうに人為的に魔力を溜めているのが難しいそれが、こんなにも濃い気配をさせているのだから、洞窟の奥にあると思われる装置を作った者の技術力の高さにうんざりする。アルスが言う『罪の気配』により、絶対にろくでもない物だからだ。
「ああー……、ホントに嫌だわ。ろくでもないモノがあるわよ、これ……」
「どうしたものか……」
アルスとしてはそれの正体を知りたかった。場合によっては撤退せず、突撃した方が良いかもしれないからだ。ネモには申し訳ないが、急を要するようならば、彼女を巻き込んで自爆覚悟でそれを破壊する必要がある。多くの国民の命と、自分たちの命ならば、アルスはどうしたって前者を取らねばならないのだ。
王族であるアルスはそれらを表に出さず、ただ促す。
「ここで悩んでいても仕方がない。それじゃあ、行こうか」
「ええぇ……」
アルスの思惑など知らず、ネモは嫌そうに呻きながら、洞窟へ足を踏み入れた。
12
お気に入りに追加
1,084
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
聖女の娘に転生したのに、色々とハードな人生です。
みちこ
ファンタジー
乙女ゲームのヒロインの娘に転生した主人公、ヒロインの娘なら幸せな暮らしが待ってると思ったけど、実際は親から放置されて孤独な生活が待っていた。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
1人生活なので自由な生き方を謳歌する
さっちさん
ファンタジー
大商会の娘。
出来損ないと家族から追い出された。
唯一の救いは祖父母が家族に内緒で譲ってくれた小さな町のお店だけ。
これからはひとりで生きていかなくては。
そんな少女も実は、、、
1人の方が気楽に出来るしラッキー
これ幸いと実家と絶縁。1人生活を満喫する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
前世の幸福ポイントを使用してチート冒険者やってます。
サツキ コウ
ファンタジー
俗に言う異世界転生物。
人生の幸福ポイントを人一倍残した状態で不慮の死を遂げた主人公が、
前世のポイントを使ってチート化!
新たな人生では柵に囚われない為に一流の冒険者を目指す。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる