上 下
5 / 41

クラネデアの宝剣

しおりを挟む

 一冊の本を手に取ると和也の脳に衝撃が走った。

「うっ、くあぁぁぁぁぁ!!!!」

「ちょっとカズヤ!? どうしたの!? 大丈夫!?」

 ――やばい! なんだこれ? 脳に何かが流れ込んでくる! これは――情報か? 分かる。この本の内容、材質、歴史――いろんな情報が脳に入ってくる! 

 頭を抱えて苦しそうにしている和也を見て、リリはかなり取り乱している。
 すると、和也はふと我に返った。息が荒れており、額から汗が流れている。

「はぁはぁ」

「だ、大丈夫?」

「ん? あ、ああ、だ、大丈夫だ。問題ない」

 額の汗をぬぐい、呼吸を整える。顔色は悪いがとりあえず落ち着いた様子の和也を見て、リリは安堵する。

 ――今のは一体……

「その本は貰い物なの。図書館に置きたいんだけど読めなくて。なんか凄いことが書かれてるって言ってたけど」

「そんなふわっとした説明で貰ったの?呪い本とかだったらどうするんだよ。まぁでも、確かに凄いことが書かれているな」

「あんたこの本読めるの? で、なんて書いてるの?」

「なんかクラネデアの宝剣について書かれてた。内容からして凄い武器らしいんだが――」

「クラネデアの宝剣!?」

 リリが驚きの声を上げると、急に人目を気にしだし、和也に顔を近づけて手を添えて小声で話し出す。

「絶対にその本のことは誰にも話しちゃだめよ。わかった?」

「それはいいけど……なんで?」

「あんたクラネデアの宝剣を知らないの?」

「知ってはいるけど、あれだろ? 遥か昔クラネデアって騎士が使ってた剣だろ。刀身は意思が宿っており寝ていても達人のように扱うことができ、鞘は軽さに似合わず岩すら破壊する硬さって有名なやつ」

 ――でもあれって確か伝説上の代物だったような……存在するのか?

「南の採掘場に洞窟があって、その奥にクラネデアの宝剣があるらしいの。ただ……」

「ただ?」

 途端に口ごもるリリに和也は話の続きを求める。
 するとリリの表情が曇り

「ただ、その洞窟の中に入った人はまだ戻ってきてないの。足の速かった人、頭のいい人、腕っぷしに自信のあった人、そして――私のお父さんも……」

「そうか……なら、俺たちも行ってみないか?」

 リリの暗くなった表情は一変した。

「行くってあんた話聞いてた!? 入ったら戻ってこれないのよ?」

「じゃあ、いいのか? このままだとお前の親父さん生死の判断もできず、お前自身受け入れることもできないぞ。そりゃー親が死んでいるかもしれない場所に行くのは嫌だろうけど、このままだと、お前の時間は止まったままだぞ」

「あんたって……結構不謹慎よね。まぁいいわ。そこまで言うなら最後まで付き合ってもらうからね」

 リリはクスッと笑いながら和也の提案に乗る。普通なら最低!! っとビンタでもかます場面なのだろうが、リリ自身、自分の親の生死に向き合いたいのか、あまり重い空気にはならなかった。

「んじゃ、明日の朝図書館前に集合ってことで。っで、話変わるんだけどさ……」

「な、何?」

 途端に真剣なまなざしを向ける和也に、リリは思わず後ずさりしてしまう。
 そして、普段に似合わずまっすぐなまなざしを向け――

「お金を貸してください!!」

「へ?」



 ――そして、翌日……



「へ~意外と似合うのね」
 
「いや~金貸してくれてサンキューな。さすがにいつまでもあんなぼろい格好でいるわけはいかねぇしな」

 リリにお金を借りた和也は服を調達した。そこまで高い服ではなく冒険者用の黒ベースの安っぽい服を買った。右腰には探検を装備している。
 対するリリは、動きやすい格好で魔石や携帯食料などが入ったバッグを身に着けている。

「んじゃ、そろそろ行きますか」
 


 ――洞窟前……



「ここが洞窟か――結構奥まで続いてそうだな」

「まぁ、中の様子は誰も知らないしね」

「準備はいいか?」

「ここまで来て引き下がれないわよ!」
 
「わーカッコイイ」
 
 中に入る決意を固めたところで、二人はゆっくりと中に進んでいった。



 ********************



「光の魔石って思ったより明るいな」

「光の魔石は灯りにもってこいだから。長くても十二時間しか持たないから定期的に光に当てて充電しないといけないけど」

 光の魔石であたりを照らしながら二人は進んでいた。
 ある程度進んだところで分かれ道に出くわした。
 
「どうする? 二手に分かれる?」

「お前、ただでさえ入ったら戻れないって言うのに別行動は危険だろ。分かれて中にモンスターでもいたら誰が俺を守るんだよ」

「自分で守るって選択肢はないの? こういう場面だと男が守るのが普通じゃない?」

「俺に助けを乞うのは無駄だぜ。自慢じゃないが俺は喧嘩で勝った試しがない!」

「ほんとに自慢じゃないね」

 軽口を叩いている間に和也はそれぞれの道を魔石で照らす。
 右の道にはかすかに血が続いており、左の道には剣が散乱していた。

「右だな」

「根拠は?」

「左の道に落ちてある剣は折れたものや血がついてるものがある。ここに来るまで特に危ない場所はなかった。つまりこの散乱した剣は左の道に進んだ結果、何かと戦った跡ってわけ。それに右の道の血はよく見たら左の道から続いてる。おそらく左の道で何かに襲われた後、手傷を負い右の道に逃げたってことになる」

「なるほどね。じゃ、進もっか」

 二人は右の道に進んだが、今のところ危ないことは起きなかった。
 だが、和也は内心不安に満ちていた。

 ――はたして俺の選択は合っていたのだろうか。もし俺の言った通りならなぜ先に入ったやつは入り口ではなく右の道に逃げたんだ?怪我をしたならいったん引いて出直すべきだろう。それとも戻れない理由があったのか

「ねぇ、ちょ、ちょっとカズヤ、何あれ?」

 考え事をしていた和也にリリがおびえながら声を掛ける。
 その先には和也が元の世界では絶対に見ることがない生物がいた――

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

ざまあ~が終ったその後で BY王子 (俺たちの戦いはこれからだ)

mizumori
ファンタジー
転移したのはざまあ~された後にあぽ~んした王子のなか、神様ひどくない「君が気の毒だから」って転移させてくれたんだよね、今の俺も気の毒だと思う。どうせなら村人Aがよかったよ。 王子はこの世界でどのようにして幸せを掴むのか? 元28歳、財閥の御曹司の古代と中世の入り混じった異世界での物語り。 これはピカレスク小説、主人公が悪漢です。苦手な方はご注意ください。

【完結】復讐は計画的に~不貞の子を身籠った彼女と殿下の子を身籠った私

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
公爵令嬢であるミリアは、スイッチ国王太子であるウィリアムズ殿下と婚約していた。 10年に及ぶ王太子妃教育も終え、学園卒業と同時に結婚予定であったが、卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されてしまう。 婚約者の彼の隣にいたのは、同じ公爵令嬢であるマーガレット様。 その場で、マーガレット様との婚約と、マーガレット様が懐妊したことが公表される。 それだけでも驚くミリアだったが、追い討ちをかけるように不貞の疑いまでかけられてしまいーーーー? 【作者よりみなさまへ】 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

転生メイドは絆されない ~あの子は私が育てます!~

志波 連
ファンタジー
息子と一緒に事故に遭い、母子で異世界に転生してしまったさおり。 自分には前世の記憶があるのに、息子は全く覚えていなかった。 しかも、愛息子はヘブンズ王国の第二王子に転生しているのに、自分はその王子付きのメイドという格差。 身分差故に、自分の息子に敬語で話し、無理な要求にも笑顔で応える日々。 しかし、そのあまりの傍若無人さにお母ちゃんはブチ切れた! 第二王子に厳しい躾を始めた一介のメイドの噂は王家の人々の耳にも入る。 側近たちは不敬だと騒ぐが、国王と王妃、そして第一王子はその奮闘を見守る。 厳しくも愛情あふれるメイドの姿に、第一王子は恋をする。 後継者争いや、反王家貴族の暗躍などを乗り越え、元親子は国の在り方さえ変えていくのだった。

処理中です...