入れたいのに入れたいのに入れたいのに「ピュルッ」と出てしまう「元ショタ勇者」の物語

人外倫理

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第二部

ポチタロウと、企画屋の末路:2

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 右手の人差し指の先で、小さな火の玉を作って・・・。ガイドタブレットに狙いを定めようと、集中して・・・。



 僕が糸目から、ほんの少し目を離した・・・その時。



ー ゴトンッ!・・・・・・バシャー! ー



 糸目のいる方向から、そんな音が聞こえてきた。



 音のした先を見てみると、床にワンカッ○が転がっていた。(階級はあいかわらず「大関」だった)



 白いプラスチックの丸い外蓋が外れて、中から日本酒がこぼれ出していた。また絨毯に、黒いシミが広がっていた。(「絨毯のニオイ取りが大変そうだ><」・・・なんてことを一瞬、冷静に考えてしまった)



 どうやら糸目はまた、新しいワンカ○プを取り出した上、すぐに落っことして、それを台無しにしてしまったようだった・・・。(瓶は割れてなかったけど、蓋が開いて中身が漏れていたので、中栓は開封した後だったのだろう)



 ワンカップの瓶は、糸目が座った椅子の(向かって右側の)「肘掛けの外側」に落ちていた。



 転がった瓶と同じ側の肘掛けに、糸目は左腕を乗せていた。椅子の上でふんぞり返って、不機嫌そうに(若干、涙目で)右手で、ガイドタブレットをいじくっていた。



 それを見た僕は、瞬間的にこんな推理をした。



・糸目は、ワン○ップを肘掛けに置いた・・・のか!? ・・・それが落っこちた?
・落としちゃったものだから、またガイドタブレットで、新しいのを取り出そうとしてる?



 そこまで考えて僕は、指先にまとった炎を、一旦解除した。



 (シルの邪魔にならないようにと)椅子ごと体を寄せて、スーに直接、小声で確認を取ってみた。



「(ねぇ、スー? 糸目は、肘掛けに瓶を置いちゃったの!?)」



「うん、ポチにぃ・・・」



 スーは椅子の上で、そっと、うなずいた。(ちょっとプルプルしていたので、笑いを堪えているのだと、この時は思った)



 「推理」して「確認」まで、してみたものの・・・。「糸目が肘掛けに瓶を置いたこと」は・・・ちょっと僕にとって、信じがたい出来事だった。



 肘掛けは、少し「丸み」を帯びていた。



 腰掛け部分と同じく革張りで、見た目の質感的に、ツルリとしてて、柔らかそうだった。



 そんなところに縦長の瓶を置いちゃったら、ちょっとバランスが崩れただけで、落ちてしまう。そんなことは、少し考えればわかりそうなものだった。



 その愚かな行為を・・・この糸目は「した」のだ。それすらもわからないくらいに、酔っ払っているのだろう・・・。



 期せずして僕は「糸目の判断力が、思った以上に鈍っていること」を認識できた。



 そこで僕は、方針を変えることにした。



(ねぇ、サラ?)
(おぅ?)
(おじいちゃんも言ってたし、サラも漫画とか買っただろうから、知ってると思うんだけど・・・)
(ん?)
(・・・僕の元いた世界の品物って「買える」けど、たぶん・・・高い・・・んだよね?)
(値段はいい! 何がいる? 何でも言え!)



 サラからそんな、ハキハキした(3コンボの)返事があった。それに感謝をしながら、勇気づけられながら、僕は言葉を続けた。



(サイドテーブルをもう一個と、あと・・・僕の世界の、お酒を2~3本。・・・アルコール度数が高くて、ちょっと良さそうなやつ・・・。でも、無茶苦茶高いものじゃなくていいから・・・)
(わかった! サイドテーブルはすぐに出せる! 酒はちょっとだけ待て! すぐ探す!)
(ありがとね、サラ!!)
(おぅ!)



 サラはすぐさまサイドテーブルを準備して、僕に連絡をくれた。(先に出した方のサイドテーブルにタブレットを置いた)僕は、(頭の中の空間で)サラから新しいサイドテーブルを受け取った。



 サラの空間から、戻ってきた僕は、椅子から立ち上がって、それを糸目の方へ急いで持って行った。



 案の定・・・。糸目はまた新しいワンカ○プを手に持っていた。(6本目を台無しにした今、これで7本目だった)



 糸目は、ちょうどワン○ップの中栓を引っこ抜こうとしているところだった。(酔っ払っているものだから、それにすら苦戦していた)



 ちなみに、両手を使う為に、糸目はワ○カップの丸い外蓋とガイドタブレットを(瓶を置いたのと)逆側の肘掛けの上に置いていた。糸目はしょうこりもなく「安定性のない肘掛けの上」をテーブル代わりに使っていた。



 糸目がまた、肘掛けにワンカ○プを置いて、こぼしちゃう前に・・・と。僕はサイドテーブルを、スッと糸目に差しだした。



「・・・こちらを、お使いください」
「・・・おや、気が利くじゃ?」



 糸目は(僕に瓶を投げつけたことなんて、忘れたかのように)よれよれの語尾で、少し嬉しそうに、そう言った。



「まあ、君にしては・・・けど・・・」



 それでも僕へのちょっとした、皮肉は忘れなかった。



 なんとか中栓を開け、サイドテーブルの上にワンカ○プを置いた糸目を見て、僕は(努めて)ニッコリと微笑みかけた。



「・・・死ねばいいのに」



・・・
・・・
・・・。



 小さな音量で、糸目のその言葉はまだ流れていた。サラにお願いして、それをミュート状態にしてもらった。(映像の方は、そのまま残してもらった。もう糸目には「見えてない」ようだったので、そのままそれを維持した)



 なんだか、それをずっと聞いていると、僕までその「悪意ある言葉」を、使ってしまいそうだったから・・・・。



■■■■■■
□□□□□□


ポチタロウと、企画屋の末路:2


■■■■■■
□□□□□□



 作戦を変えることにした僕は(スーの隣の)自分の椅子に戻ってきて、そこに座り直した。両手を膝の上で組んで、冷静に糸目を観察し始めた。そうしながら、サラがお酒を用意してくれるのを待つことにした。



 糸目は、再びワ○カップを握りしめると、一口飲んだ。蓋をしようとして「蓋がない」ことに気づいて、あたりをキョロキョロと不安そうに眺め回した。



 周囲を確認して、肘掛けの上にあった丸い外蓋を見つけると、糸目は安心したような顔つきになって、それを手に取り、蓋を閉め、またサイドテーブルの上に、ワンカ○プを置いた。


 今度は右手で、肘掛けの上をまさぐり出した。なんとか(取り落としそうになりながらも)ガイドタブレットを手に持った。



 ガイドタブレットを右手で持ちながら、糸目はそれをいじり始めた。「検索されること」に、ちょっとだけヒヤヒヤしながらも、僕はそれを眺めていた。



 しばらくすると再度、糸目はワン○ップに左手を伸ばし、手に取った。それに蓋がしてあることに気づいた。でも、蓋を開けようにも、ガイドタブレットとワ○カップで、両手が塞がっていた。



 糸目はガイドタブレットを持った方の手の親指で、蓋を開けようとした。・・・うまく開けられなくて(いまいましそうにしながら)またガイドタブレットを肘掛けの上に置いた。



 蓋を開けた糸目は、一口飲んだ。また蓋をしめて、サイドテーブルの上にワ○カップを置いた。



 そうしてまた、右手にガイドタブレットを持った。



 (今度はあんまりヒヤヒヤせずに)それをしばらく見ていると、糸目はまたまたワンカッ○に手を伸ばして、左手に持った。「蓋が閉まったままのそれを持った状態」で・・・。糸目の両手が、また塞がった。



(・・・僕は一体、何を見ているのだろう・・・?)



 シュールな「一人喜劇」でも見せられているみたいな気分になってしまった。



 糸目は「おんなじような間抜けな行動」を繰り返した。



 僕のことを「バナナをとる猿」みたいな感じで観察しようとしていた、この糸目自身が、なんだか「猿並みの知能」になってしまったように見えた。



(これは、追加はいらなかったかな・・・)



 そんなことを思って、ちょっとサラに申し訳なくなった。



 それでも・・・。



 その後、サラがお酒を用意してくれたので、僕は糸目の方へと足を向けた。



ー 僕には詰めの甘いところがある ー



 サラに言われた言葉で、僕はそれを知っていたのだ。



 さらに追い打ちをかけることにした。



ーーーーーー



「よかったら、こちらもどうぞ・・・」



 ウイスキーに、ウォッカに、テキーラ。そして、透明なグラスを一個。(コップのことを失念していた僕に代わって、サラがちゃんと、それを用意してくれていた)



 サラが用意してくれたそれらを、僕は糸目に差しだした。糸目側のサイドテーブルの上に恭しく置いた。



 僕が置いたお酒を見て、企画屋は(喜びの驚きで)また少し、糸目ではなくなった。目を見開いて、わかりやすくテンションをあげた。
  


「イェーイ! いいじゃない!!!」



 糸目の口から久々に「なんとなく業界人風」の言葉を聞いた。(でも「イェーイ! いいじゃない!!!」は、どうかと思った)



「気が利くじゃー? ・・・君にしては、けど」



 さっきと同じセリフを、糸目がまた口走った。もう語彙力さえ、なくなってしまっているようだった・・・。



 糸目は危うい手つきで、ガイドタブレットを操ると、氷を取り出して、グラスの中に放り込んだ。(いくつかの氷はグラスに入らずに、サイドテーブルの上に転がった)



 (同じく危うい手つきで)ウイスキーの蓋をひねって開けた糸目は、グラスにそれを両手で並々と注いだ。



 ウイスキーの銘柄は、僕の元いた世界の「名字で二文字」だった。(それが高いことくらいは、僕も知っていた)



 サラにまた、申し訳なく感じながらも、僕は「その分、サラの為に何かをしよう」・・・なんてことを考えていた。


 
ーーーーーー



・・・
・・・
・・・。



「こっちの世界の酒はまいし、あっちの世界のお酒は、高くってさぁ・・・。でも、創造者クリエイターになるためには、ポイントを節約しなきゃなんない・・・まったく・・・嫌になるよねぇぇぇえええ・・・?」
「そうですねぇ・・・」



「ザギンでシースー食ってた僕が、まさか、こんな安酒をむことになるなんて・・・・思ってもみなかったよ・・・」
「そうですねぇ・・・」



 さっきまで、大事そうに飲んでいたワンカ○プを、いまいましそうに指さしながらそう言った糸目に、僕は(呆れながらも)相づちを打っていた。



 糸目の横に立ったまま、コップの中身が減り出すと、そこにウイスキーを継ぎ足した。



 もちろん・・・。僕が突然「サービス精神に目覚めた」って訳ではない。



ー 糸目を「酔わせて眠らせる」 ー



 その方向に進路を切り替えただけだ。糸目がお酒をこぼさないようにしたのも、糸目のケアをしたわけではなくて、もっと飲ませる為に過ぎなかった。



・・・
・・・
・・・。



「もうすぐ世界が我が手に・・・くっくっく・・・」



 「気配さえ消してしまえる有能な執事」をイメージしながら、僕がしばらく相づちを打っていると、糸目は満足したように、そのようなことを言った。(でも、聞き取れないくらいに、ろれつが回っていなかった)



 椅子の上で「手に持ったグラスの氷をカラリと鳴らす」そんな、仕草をした。(でも、もうほとんど氷が入ってなかったので、音は鳴らなかった)



 「白くてふわふわした毛並みのペルシャ猫」を、膝にのせたりもしていなかったけれども、たぶん、糸目は「闇の支配者」的な気分に浸っているんだろうな・・・とは想像できた。



(なんか、アニメで見たことあるやつだけど・・・なんか、もっとこう・・・だらしねぇ!!!)



 サラからそんなツッコミが入るくらいに、今の糸目の姿は、確かにだらしがなかった。



 そのまま糸目は、椅子の上でウトウトと、船を漕ぎだした。手に持ったグラスから力が抜けた。僕は空中でそれをキャッチした。



 「音で糸目が起きる」のを危惧したんだけど、落として「音した」ところで、糸目は起きなかったような気もした。



 糸目はのけぞった状態で、ほとんど椅子からずり落ちた形で、いびきをかきだした。



「ZZZ・・・ZZZZ・・・・・・」



・・・
・・・
・・・。



 しばらく待った後で・・・。



 僕は、糸目が肘掛けの上に置いていたガイドタブレットを、そっと手に取った。



 試しに起動しようとしたら、やっぱり○枠の中に「\」の入った画面が出た。これも認証が必要なようだった。



 僕はそれを、無造作にポケットにつっこんだ。



(ふぅ・・・)



 ひとつ、ため息を吐いた。



 その後で「油断しちゃいけない」って思い直して、サラのところへガイドタブレットを置いてきた。こうしておけば、糸目はもう、タブレットを取り出すことができないだろう。



 さらに、ダメ押しで、ロープで糸目を椅子にくくりつけようとした。



 でも、ほとんど椅子からずり落ちている状態の糸目に、それをするのは困難だった。なので(またサラに出してもらって)強力ボンドを絞り出して、糸目と椅子をくっつけた。






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