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第二部

ポチタロウと、糸目の男:7

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「とりあえず、君、ショタに戻って、大魔王になってよ?」



 糸目の男は、そんな突拍子もないことを、僕に言ってのけた。



 細い目を少し見開いて、冷徹な瞳で僕を見つめていた。企画屋は、その言葉を言い終えた後で、右に少し、小首をかしげた。



 大の大人な糸目に、そんな仕草をされても、もちろん、可愛くもなんともない。



 でも、僕はそこから、とある魔法少女物のマスコットキャラクターを連想していた。「可愛らしさって部分」ではなくて・・・その「無慈悲な部分」を思い出していた。



 マスコット的な、その謎の生物は「僕と契約して、魔法少女になってよ?」などと、小首をかしげて、可愛らしく言いながら、少女達を残酷な世界へといざなう存在だった。


 (若干、目を見開いた)糸目の、今の「仕草と言葉」は、それと重なった。



 有名なそのアニメを、ましてや「業界人」のこの糸目が、知らないハズはないだろう。糸目はたぶん、それをパロったのだ。そう気づいてから、言い方も「似せていたこと」に、僕は思い当たった。



 ・・・ってか、そっちに気を取られちゃって「肝心の話の内容」を理解するのが、ちょっと遅れてしまった><。糸目は僕に「魔法少女」じゃなくて「大魔王」になれ、なんてことを、言い放ったのだ。



 僕にとって、大変な事態な気がした・・・。



 少し思考停止してしまった僕に、糸目が言葉を続けた。



「君に会うまではねぇ・・・。実は『大魔王がいました』って展開も悪くはないかな? ・・・って思ってたんだよ。バトル展開は『てこ入れ』の基本だしね? ちょっとありきたりだけど、今の惨状よりは、よっぽど数字、戻せるだろうしね?」



 糸目はワ○カップ大関の蓋を開けて、少し飲み、また蓋を閉じた。「アル中かな?」って僕は思った。ちょっと糸目の様子が、さっきまでと、変わっているような気がした。



「でも、普通の大魔王じゃ、君はなんだかんだで、倒しちゃっただろうし、それじゃあ、面白くないよね? 番組が、ってよりは、僕自身がさ? ・・・だから『幼女が大魔王』って展開も、考えてたんだよ? ・・・これなら君、勝てないだろうって、思ってたしね?」



(幼女が大魔王・・・)



・・・
・・・
・・・。



(・・・幼女が大魔王!?)



 その言葉を、僕は反芻してしまった。



 それは僕にとって、最悪の展開だった。確かに僕には「幼女を倒す」ことなんて、できないだろう・・・。(悔しくもあったけど)この男を有能だと思ってしまった。



 ・・・でも、それと同時に気づいてしまった。この男は、もう僕に「勝たせる気はない」のだと・・・。



 幼女を大魔王にすることをやめた理由はわからなかった。(やめてくれたのは、正直、ありがたかった)僕に「大魔王になれ」などと言ってきた意味もわからなかった。



 でも、どっちにしろ、その先に待っている(この糸目の)シナリオは「僕の敗北」な気がした。なんと言っても、この男は、僕が嫌いなのだ。



 「幼女が大魔王」も「僕が大魔王」も、僕にとっては「メリットのない話」だった。でも糸目は、平然とそれを言ってのけた。



 ・・・ものすごく嫌な感じがした。



 それを「僕が受け入れざるをえない何か」を、この男は握っているのかもしれない・・・。そんなことを思った。



 糸目が言った言葉の中で「ショタに戻れ」って部分だけは、かろうじてなんとなく想像がついた。糸目の言う、広告三大要素「動物、子供、セックス」に基づいてるのだろう。



 (たぶんだけど)僕が「ショタ大魔王」になる方が数字がとれると、糸目は踏んだのだと思う。ただ、どうやって糸目が僕を子供に戻すのか? それはわからなかった。高次の存在らしき、この糸目には、それは簡単なことだったりするんだろうか?



 とにかくまた、わからないことだらけだった。糸目に質問して(これまた)ひとつずつ聞いていく必要がありそうだった。



 でも、その前に・・・。



(サラ・・・?)
(おぅ?)
(「僕がみんなを守る」から・・・スーに「このままちゃんと、僕を支えててね?」って伝えておいてくれる?)
(おぅ、わかった!)



(これから糸目にいろいろまた、聞いてみるから・・・サラも何かわかったら、教えてね・・・?)
(まかせろ! ・・・シルにも伝えとけばいいな?)
(うん。それも頼むつもりだった。サラもシルも、頼りにさせてもらうね?)
(おぅ!)



 糸目に質問をする前に、僕はサラに、こんなお願いをしておいた。再び、みんなに「頼る」ことを思い出していた。



ー 僕とサラが会話できるようになったこと ー



 これを糸目の男は「知らない」ようだったし、それがこの糸目の「攻略の糸口」になるはずだった。それだけが「僕の唯一の武器」だと、さっきまでは思っていた。



 でも、そうじゃなかった。サラに「大好き」だって伝えてもらって、もう一つ重要なことがあったのを、僕は思い出していた。



ー 僕と、スーが一緒にイケたこと ー



 これも僕にとって、実は、重要なファクターだった。



 この出来事は「サラと話せるようになった後」のことだったので、これも糸目が「まだ知らない」情報のハズだった。これも僕の・・・ってよりは「僕ら」の「強み」だった。それを思い出せた。



ーーーーーー



ー 僕と、スーが一緒にイケた ー



 書いてしまうと、わずか「一行」になってしまうんだけれども、それができるようになるまで、本当に大変だった。みんなに大変、迷惑をかけた><。



 最終的に、サラとスーだけじゃなくて、シルにまで、それを手伝ってもらうことになった。最初は「シルに嫌われてるのかな?」なんて、僕は思っていたんだけれども、シル自身が言ってくれたとおり、別にシルは、僕のことが嫌いなわけではなかった。



 あんまりにも、ぴゅっぴゅく、ぴゅっぴゅく、無様な姿をさらす僕に、シルは、むしろ途中から「協力」までしてくれるようになった。そうしてスー、サラ、シルに助けられて、僕は、なんとかスーと一緒にイクことができた。



 そんでもってそれは、僕にとって、とっても大事なことだったのだ。



 その時、僕は改めてこんなことを思っていた。僕にできることなんて限られている。結局みんなに支えられて、なんとか生きてる状態でしかない・・・。みんなを頼りにしていこう・・・いっぱい感謝しよう!・・・なんてことを。



ー 僕は一人じゃない。みんながいてくれる。 ー



 その時、僕は、それをしみじみと、また、噛みしめていた。



 僕の足りない部分は、みんなが補ってくれた。サラ、シル、スーの連携は(まるで魔王討伐をしていた頃の僕らみたいに)すごいことになっていた。これは明確な「強み」のハズだった。(僕の手柄とかでは、全然ないんだけれども><。)



 僕がヤケになった状態で、糸目に話しかける直前に、スーがサラに連絡してくれて、サラが間に合ってくれたのにも、ここらへんに理由があった。スー、サラ、シル。三人の連携が、ここでも役立ってくれていたのだ。



 (ある意味、魔王討伐と同じくらいに)「僕とスーが一緒にイク」ってことは大変な作業だった。それを「みんなのおかげ」で、僕は達成できた。



 みんなでそれを達成した後で、僕らは(シルの用意してくれたジュースで)乾杯までした。(正確に書くと、スーと僕が「この世界で」乾杯をして、サラとシルが僕らの頭の中で、同じようにジュースを持って、それを祝ってくれた)



 その時、顔を見たことも、声を聴いたこともない「シル」まで、笑ってくれている気がした。とても、大切な時間で、とても、大切な体験だったのだ・・・。



 僕は僕に、できることをする。みんなにはそれを支えてもらう。ちゃんとそんなことを改めて確認できたハズ・・・だった・・・。



 ・・・なのに、糸目が現れて、すっかりペースを乱されて、僕はそこらへんのことを、すっかり忘れてしまっていた。メモを何度も見て覚えないと、本当に僕は、いろんな大事なことをすぐに忘れてしまうのだ><。



 それに気づいた僕は、すぐさまメモ帳とペンを取り出した。



 この男の前で、カッコつけてたってしょうがない。なりふりかまわず、メモをして、これからの自体に備えるべきだって思った。ひとまずこんなメモを残しておいた。



ー 僕は支えられて、ギリギリなんとか生きている! 感謝して、頼れ! 自分にできることをしろ! ー



 もちろん、メモ帳とペンを取り出したところで、僕は、念能力を使えるようになったりはしない。けど、これも僕の「武器の一つ」だった。おろかな僕に、必要なアイテムだった。



■■■■■■
□□□□□□


ポチタロウと、糸目の男:7


■■■■■■
□□□□□□



 メモを取り出した僕は、さっそく次にする質問について考えて、まとめてみた。



 ① 僕を無理矢理にでも、大魔王にさせるような弱みを、糸目が握っているのか?
 ② 幼女を大魔王にするのを、糸目は、何故やめたのか?
 ③ どうやって、糸目は、僕を子供(ショタ)に戻すのか?



 聞いておきたいのはここらへんで、その順番が大事な気がした。



 ①と②は、僕の「敗北のシナリオ」を聞かされることになりそうだった。それらを先に聞いてしまうと、動揺して、また糸目に、主導権を握られそうな気がした。



 スーは本当に上手に、僕の尻尾を支えてくれていた。たぶん「僕が平静な時のしっぽ」の位置で、固定してくれてたんだと思う。おかげで僕は、なんとか糸目の話を聞けていたんだけど、それにも限度があった。



 (サラにトドメを刺される感じになっちゃったけど)本当に衝撃的なことを聞かされてしまったら、尻尾がショボショボしちゃって、僕が耐えられなくなってしまうことは(情け無いけど)さっき実証されてしまっていた。



 だから、とりあえず僕は「③ どうやって、糸目は、僕を子供(ショタ)に戻すのか?」から聞いていくことに決めた。また新しく・・・。一つずつ疑問を、ヒモ解いていこうと思った。



 糸目にいっぱいしゃべられて、骨が折れそうな、その作業を僕はまた、始めることにした。


 幸いなことに、やっとこさ本題に入ってくれたようなので、新しい情報が引き出せそうな気はしていた。とりあえずは、ショックが少なそうな質問から始めて(あわよくば全部の)情報を聞いておく方がいいだろう。



 メモを取り出した僕を見ても、糸目は何にも言ってこなかった。ワンカッ○の蓋を開けて、飲んで、また蓋を閉めていた。本当に、さっきまでと様子が変わっていた。



 思い返してみると「煽ってくる感じ」がなくなって、話し方が少し淡々と、理路整然とした形になっていた。糸目はもう、僕を怒らせるのを止めてしまったようだった。



 ・・・というよりは、僕に「無関心」になった感じだった。



 糸目に関心を失われても、僕個人としては、むしろありがたいことに思えた。でもそれは逆に、かなり危険なことのようにも思えた。



ー 「愛情」の反対語は「憎悪」じゃなくて「無関心」 ー



 僕は、こんな言葉があったのも、同時に思い出していた。



ー 僕を排除することを、この糸目が決定した。 ー



 ・・・なんだか、そんな気がした。実際、糸目はその方向で、手の内を明かしてきた。僕に「大魔王になれ」なんて、言ってきたのだ。ここが頑張りどころな気がした。



 とりあえずは、進んでみなきゃ、何もわからない。僕は決めたとおりに、一番ダメージの低そうな質問から、また・・・始めることにした。



ーーーーーー



「僕には、さっぱりわからないので、何故、僕が子供に戻る必要があるのか? と、その方法を、教えていただけないでしょうか? 正直、ちょっと、理解が及ばないです・・・」



 少し癪ではあったけど、丁寧に糸目にそう聞いた。わからないのは、僕の思慮の浅さのせいだ。素直にそう思っておくことにした。一応、念のために「こどもに戻る理由」も尋ねた。最後に糸目が「話し始めたくなるように」言葉を添えた。



 この糸目は鋭いところもあったけど「褒め言葉」なんかには饒舌になる、そんな部分もあった。褒める形であれ、煽る形であれ、情報を聞き出すまでは、糸目に話を続けさせたかった。(ここらへんも僕は、サラやスーに事前に告げておいた)



 (たぶん、僕の言葉に)ちょっとだけ嬉しそうな顔をした後で、糸目は憎々しげな顔になって(またワンカ○プを一口、飲んで)こんなことを話し始めた。



「君が大きくなっちゃう・・・なんてことは、僕の予定には、なかったんだよねぇ・・・あのクソ七光りが、プロンプト入力を『ケチった結果』でしかなかったんだよ・・・僕は悪くない。・・・なのに七光りに『数字を上げろ』なんて、言われてさ・・・ほんと、うんざりだよ・・・」



 (糸目の愚痴を無視しながら)僕は疑問に思ったことを尋ねてみた。



「プロンプトをケチった?」
「ああ、そうだよ! あのクソ七光りが! ・・・死ねばいいのに。・・・とにかくまあ、無知な君じゃあ、AIのプロンプトの仕組みについても、知らないだろうねぇ・・・?」



 素直に知らないことを告げて、先を促した。褒め言葉を付け足しながら・・・。



・・・
・・・
・・・。



 そこからまた、糸目による、この世界の創造者クリエイターへの不満をメインとした、プロンプトへの説明が始まった。少し様子が変わった風に見えた糸目だったけど「ディスリと、しゃべりが長い」部分は、変わっていなかった。



 ワ○カップの蓋を開けて、閉めてを繰り返しながら、糸目が長いこと話し続けたので、ここもまた要約して、お伝えしたいと思う。(糸目が、2本目のワンカ○プを取り出して、半分、飲み干すくらいに、話は長かった)



ーーーーーー



 「プロンプト」っていうのは、AIに何かを伝えるための「指示文」や「質問文」のことだ。(それくらいは僕も知っていた)「詳しい情報」を、AIに、プロンプトとして与えてあげる方が、イメージどおりの結果が出やすい。でもその分「創作クリエイトポイント」の消費が激しいらしい。



 僕は(犬系獣人になっちゃったけど)猫が好きなので、猫を例にして、ちょっとだけ説明したいと思う。



ー 猫が主人公の物語を書いて ー



 こんな風にプロンプトを送れば、AIは物語を返してくれる。でもそれが「僕の望んだ物語」になるとは限らない。僕が望まない、悲劇の物語が返ってくることだってある。



ー 「不吉の象徴」って言われちゃう黒猫が「幸運の猫」って呼ばれるまでの、心が温まるストーリーを考えて ー



 でも、こんな風にプロンプトを書けば、結果はより「僕の望んだもの」に近くなる。でもその代償として、ポイント消費が激しくなる。



 ・・・こんな感じらしかった。



 この世界の創造者クリエイターネオリスは、糸目の男の企画を見て、必要最低限のプロンプトしか打ち込まなかったし、必要ないと思ったら、それを省くことまでしたそうだ。糸目はそれに対しても、はらわたが煮えくりかえっているようだった。



 糸目が考えた「設定」に基づいて、僕らの「魔王討伐」は運営されていた。でもネオリスが創作クリエイトポイントを倹約して、プロンプトを「短く」入力したせいで、必ずしも、この糸目が「望んだとおり」には、なっていなかったのだ。



「君は、あくまで『魔王を倒す為』に呼び出された存在でしか、なかったからね・・・まさか、あんな早漏だとは、思ってもなかったよ・・・」



 糸目は(僕を煽ったりはせずに)淡々と「それが事実でしかなかった」のだと僕に告げてきた。(淡々と告げられたことで、逆に僕はヘコみそうになった><)



 そうして糸目は「予期しなかった出来事を、編集でカットしたり、つじつまを合わせたりしながら、ここまでなんとか、やってきたのだ」・・・なんてことを長々と、語った。(お酒が入ったせいか? ちょっと愚痴も増えていた)



「大精霊見習いがイっちゃったら、君の体が大きくなる・・・なんてことも、僕は知らなかったし、ここの編集も苦労したよ・・・。頑張ってはみたけどさ? 君が大きくなっちゃってから、あからさまに、数字、減ったんだよねぇ・・・」



 糸目は本当に残念そうに、そう言った。(もし、この男に尻尾が付いていたら、やっぱりショボショボしていたことだろう)



 何故、「ショタに戻れ」って言われたのか? は概ね、僕が想像したとおりだったようだ・・・。僕が子供じゃなくなってしまったせいで、数字が減っちゃった・・・って部分もあったらしい。(メインの理由は僕が挿入する前に、何度も出しちゃったことらしい><)



 それだけ「こども」って部分が、やっぱり重要だったんだろうか? もしくは今の(大きくなった)僕が、人気がなさすぎたり? ・・・そのまま流れで、それも聞いてみた。



「今の君でも応援する・・・なんてコアなファンもいたけどさ? 見てくれてた層が、元々、ロリコン、ショタコン層だったからね? ・・・まあ、数字は落ちたね・・・。そんな訳で、とにかく君さ? なにはともあれ、ショタに戻ってよ? ちゃんと許可も貰って、これ、分けてもらってきたし?」



 糸目はそう言って、ワ○カップを一旦、ホテルのカウンターテーブルに置いて「ガイドタブレット」をいじりだした。次の瞬間、男はまた、手にワンカッ○を持っていた(僕はツッコミを入れたくなった)・・・でも、よく見ると、その中身は「赤色」だった。



「・・・それは?」
「『ワカガエール』だよ? 名前のまんま、これを飲めば、君、ショタに戻るからさ? とりあえず、まあ、持っておいて、先に一枚、映像を撮らせてよ?」



 僕の質問に対して、糸目はそんなことを言ってきた。訳のわからなかった僕は(糸目から一旦、なんとなく、それを受け取りつつ)また、尋ねるしかなかった。



「映像?」
「うーん、そうだねぇ・・・。君たちがキノコ狩りに行った。そこでキノコを見つけた君は、おいしそうだって、焼いて、それを食べちゃった。・・・そんな映像でいいかな?」
「・・・それで、何を?」
「それで君の体がまた、小さくなっちゃった・・・ってことにしとくからさ? いやいや。君らの演技力なんかに期待してないよ? 音声は切って、テロップ入れて、編集でなんとかするし? それで、大丈夫さ!」



 糸目は自信満々に、そう言い切った。



 僕がキノコを食べちゃった映像を撮って、その後で僕に薬を飲ませて、体を小さくする・・・。この部分についての糸目のシナリオはこんな感じのようだった。



 ー 体が小さくなっちゃうこと ー



 これについては、特に異論はなかった。別にどっちでもよかった。・・・ってか、僕のお嫁さん達、みんなその・・・おまたの穴が小さいので、むしろそっちの方がいい気までしてしまった。



 でも、その先に待っているのは、僕が大魔王になる展開だった。意味がわからなかったし、それを受け入れる理由もなかった。むしろ「僕を排除しようとしている」それは、避けるべきことだと思った。



「小さくなる・・・って部分については構いません。でも、大魔王になる・・・って部分については、望みません・・・」



 ひとつずつ聞いていくハズだったのに、結局僕は、そんな風に「僕が大魔王になること」について触れて、それを拒否してしまった。



 ・・・糸目がニヤリと笑った。(僕はまた、とても嫌な感じがした)



「君はどっちがいい? 君自身が、大魔王になることと、君の仲間の誰か一人が、身請けされることとさ?」
「・・・身請け?」



 また訳のわからない話で、また僕は、尋ねるしかなかった。



「今の番組で、君があんまりにもショボいせいで『あんな男にあの子達の、処女を奪われるくらいなら、わしがもらってやる!』なんて、DMも来ててさ? 君のお嫁さん達の処女を買いたいって、話も結構、来てるんだよね?」



・・・
・・・
・・・。



 一瞬、糸目が何を言ってるのか? わからなくなった。



「『初めての魔王討伐』は大人気だったし『オリジナル』の女の子なら、かなり高値で売れるはずだからさ? 一人でいいからさ?」



ー ヒトリデ、イイ? ー



 この糸目は本当に、何を言ってるのだろう?



「・・・今の番組を打ち切って、女の子を売っちゃっても、別に僕は構わないのさ? それで僕のポイントは、創造者クリエイターになれるくらいに貯まるだろうしね? ・・・君がそれが嫌ならばさ? ・・・大魔王になってくれれば、それでいいさ?」



 糸目がまだ何か言っていたけど、ほとんど僕の耳には、入ってきていなかった。



 僕の頭の中では、こんな言葉だけが、何度も繰り返されていた。



ー ボクノ、オヨメサンノ、ショジョヲ、カイタイ? ー



ーーーーーー



 確かに僕は恋愛関係、エッチ関係、ヘタレで、ろくな結果を残せてはいない。それについては否定しない。(糸目は知らないようだったけど、それでもなんとか、ギリギリ、僕は童貞を半分卒業したのだ)



 でもそれはあくまで「僕らの間の出来事」であって、他人にどうこう言われることではないハズだ。・・・ってか、僕の大切な仲間(かつ、お嫁さん)なみんなを、お金(っていうか、ポイント)で買おうとしている人物がいて、それを糸目は平気で僕に、告げてきた。



 それだけでも、怒り心頭な出来事だったのに、さらに(久々に)糸目は僕を、煽ってきた。


「まあ、聞くだけ聞いては、みたけどさ? ・・・最終的な判断をくだすのは、君じゃなくて・・・結局、僕なんだけどねぇぇぇぇええ?」



 僕を怒らせるのをやめちゃった・・・ように見えた糸目だったけど「ここが攻めどころ」とでも思ったのか、いきなり煽ってきた。やっぱり油断がならない相手だった。



 僕はブチ切れた。



 怒りのあまり「スーパーポチタロウ」になって、糸目の男を一瞬で吹き飛ばした。



 ・・・なんてことに、なったらよかったんだけど、さすがにそんな展開にはならなかった。


 ブチ切れそうになった僕の目に、メモ帳に書いてあった「平常心」って、言葉が飛び込んできた。メモ帳を取り出したのが、ここでちゃんと生きた。



 サラが消えちゃって、パニックに陥ったときに、サラのタンスの横に書いてあった、その
言葉を、僕はメモしておいたのだ。おかげで感情のままに、ブチ切れたりはしなかった。



 僕は本当に、みんながいてくれたおかげで体験できた、いろんなことに、かろうじて救われている状態だった・・・。



 ここで感情のままに、怒りをぶつけていたら、僕は糸目に、大魔王に仕立て上げられていたかもしれない。



・・・
・・・
・・・。



ー 平常心 ー



・・・
・・・
・・・。




 その言葉を見ながらも僕は「怒りを抑えるので精一杯」だった。その言葉を見ているハズなのに、その言葉の意味が、ちゃんと理解できては、いなかった。



 そんな僕の頭の中に、声が響いた。



(たぶん、キュウロクに聞けば、みんなわかるよ?)



 僕の知らない声だった。



 サラの甘い幼女ボイスとはまた違った、でも、幼い子供の声だった。 



(・・・シル?)



 その幼子の声は(今まで、声を聞いたことはなかったけど)シルが僕に話しかけてくれたのだと、なんとなく、そんな気がした。


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