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第二部
ポチタロウと、糸目の男:4
しおりを挟む糸目の男は(人格はともあれ)やり手のようだった。そんでもって「僕ら」にとっては、最悪の相手だった。
・この男は(迷惑な)サプライズが好きだった。
・やっぱり最近の僕らの様子を、まだ「編集」して「配信」していたし、その理由もひどいものだった。
ここからは、そこらへんの(比較的最初の方に聞いた)糸目の男、自身の話になる。
あまり気持ちのいいお話ではないことは、やっぱり先にお伝えしておきたいと思う。・・・それでも僕らの身に「実際に降りかかったこと」で、物語の一部なのだ。どうか嫌にならずに、最後まで僕たちの物語を見守ってくれると嬉しい。
僕は、この男に、負けたりなんかしないのだ。
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ポチタロウと、糸目の男:4
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とりあえず糸目の男自身の経緯を、もう少しだけお伝えさせてほしい。「何故最悪だったか?」を説明するのに、必要な情報が含まれていると思うから・・・。
・・・
・・・
・・・。
前回の老人4人による魔王討伐。それが大コケだった。そうして糸目の広告屋「左党周二郎」が「魔王討伐の企画屋」として呼び出された。
糸目の男は、広告屋として、元の世界では、CMを作ったり、キャッチコピーを考えるような仕事をしていたらしい。いわゆる業界人ってやつだ。今の格好も、なんかそんな感じを醸し出していたし、僕が最初に抱いた「業界人かな?」って印象は、間違ってなかったようだ。
「ぼかぁね・・・元の世界でも、なかなかの売れっ子だったんだよねぇぇえ♪ ・・・ザギンでシースー・・・食べたことある、ポッちゃん?」
・・・なんてことまで言われてしまった。(もちろん僕は食べたことがない)
糸目の男は「勇者」として、ではなくて「企画屋」としてこの世界に召喚された。そうしてこの世界の仕組みや、前回の魔王討伐の内容を創造者に聞かされた。
その上で「ガイドタブレット(糸目の男が手に持っていた、スマホサイズのアレだ)」を渡されて、こんな風なことを言われたそうだ。
「(この世界単位での)10年以内に『コストを抑えた』企画をたてろ。面白ければ採用する」
召喚された時期は、ちょうど、前回のおじいちゃん達の魔王討伐が終わって、すぐの頃だったらしい。(前回の魔王討伐には、ほぼほぼ10年かかったそうだ。おじいちゃん達は、とっても頑張ったようだ)
召喚された広告屋は、すぐさま「こども4人による魔王討伐」を思いついたという。
「その部分に関しては、10年どころか、1分もいらなかったね? なんで4人にしたかって? ベースがドラ○エ的なRPGの世界だって聞いたし、クライアントが好みそうな4人にしたまでさ♪」
僕が質問するまでもなく、糸目の男は自分で自分に質問をして、そんなことまで教えてくれた。まるで「クライアントのことまで考慮する、僕ってすごいでしょ?」って言われてる気がした。
「クライアントのことまで考えて企画をたてる・・・僕ってすごいよねぇぇぇええ?」
・・・言っちゃったよ、この人。それをほとんどそのまんま。
開いた口が塞がらなかった。
糸目の男が「こどもによる魔王討伐」を選んだのは、広告業界の一つの手法に基づいていた。知ってる人に言わせると「そんなのは常識中の常識だ」って笑われてしまうかもしれないけれども、知らなかった僕にとっては、素直に感心してしまう事柄だった。
「広告業界の3Bって知ってるかい? ポッちゃん?」
糸目の男は、そう聞いてきた。僕が「知りません」って答える前には、男は答えを言っていた。
「Beautiful(美人)、Baby(赤ちゃん)、Beast(動物)さ♪ これらをうまく使うと、広告なんかの注目度は一気に上がるんだよねぇぇえ? まあ、僕が最初に教えられた頃には、もっとあからさまに、動物、子供、セックス・・・なんて言われてたけどね♪」
口を挟むまでもなく、糸目の話は続いた。
「このうちの『子供』と『動物』を組み合わせて、魔王討伐を企画したんだよ♪ 3Bなんかについても『七光り』にプレゼンしてやった。こんな基礎すら知らなくてさぁぁあ? あいつの驚いた顔ったら、ありゃあぁぁあ、しなかったよ♪ そうして僕の企画はもちろん採用されたし、大成功を収めたのさ♪」
男の話によると「子供」や「動物」は、視聴率を稼ぐのに、ものすごく「効率がいい」のだという。実際に僕ら「こども」による「初めての魔王討伐」は、今までの「魔王討伐シリーズ」で一番の人気作になったらしい。(僕らの魔王討伐は、この男にとって「作品」でしかなかった)
そうしてこの世界の創造者、ネオリスの創作ポイントが(中抜きによって)増えまくった。その創造主様は今、豪遊中だそうだ。(この世界の創造者にも一言、もの申したかった)・・・ちなみに「動物要素」を加える為に、僕は獣人として転生させられたそうな・・・。
「ただの人間のままで、異世界転生したんじゃ、ありきたりすぎるしね♪」
そんな補足情報もあった。
・・・それについては僕は怒る気にもなれなかった。獣人なのは今さらだった。それでこの男は「成功」したのだ。勉強になった部分まであった。でも「成功したから」といって「何をしても許される」って訳ではないだろうし、この男の人格については賞賛できる気はしなかった。
それでも・・・。それでも悔しいことに、やっぱり感心させられてしまうことも、いろいろとあった。
ーーーーーー
ー 子供が魔王を倒す。 ー
そんなのはファンタジーの世界のお話だ。(まあ、そのファンタジーの世界に、僕は今、こうして巻き込まれている訳だけど・・・)この男が考えた「子供による魔王討伐」を実現する為のアイデアも「理に叶っている」と思わされてしまった><。
「子供でも魔王を倒せるように」と、糸目の男は、「大精霊」を僕らに宿すことを考えついた。でも、そこにも少しひねりがあった。
糸目によると、渡された「ガイドタブレット」で、いろんな情報が見れたようだ。企画の概要や、何をした際にどれだけポイントを消費するか? なんてのが、閲覧できたらしい。それ以外にも、魔法の概念や、大精霊の存在なんかも、検索して調べることができたという。
男はまず「大精霊そのもの」を僕らの体に宿すことを思いついた。
「魔王が現れて、ただ勇者や聖女として選ばれた。だから『剣や魔法の猛特訓をした』・・・それじゃあ『弱い』よね? 『世界の危機を察して大精霊が力を貸してくれた』そうして『それを使いこなせるように特訓した』って方が、ストーリーが熱くなるからねぇ?」
そんな説明までされて「当事者」である僕も、なんか、納得させられてしまった。
でも大精霊を宿すのには、コストが大量にかかった。「大精霊を宿した存在」と「対等に戦えるような魔王」を創るのも創作ポイントの消費が激しかった。
「それはそれで、惑星そのものを巻き込むような、ド派手なバトルにはなっただろうけどね? クライアントの要求に応えるのも、一流の広告マンのお仕事なのさ♪」
そう。糸目の男は「コストを抑えること」も創造者に言われていたのだ。
「ここは、ちょっとだけ、苦労したよ・・・。まあ、ちゃんと解決策を思いついたけど♪」
糸目の男は、この世界についてや、創造者の「できること」について、さらにいろいろと調査したそうだ。そうして男は「大精霊見習い」の存在に行き当たった。
「そこまで思いついたら、あとは楽勝だったね? 見習いといえども、大精霊。いい絵を撮る自信・・・なかった、ってよりは、ありマクリスティーだったよぉぉぉおおお?」
なんか、腹が立つ言い方だったし、何より「マクリスティー」とかに、ツッコミを入れたかった・・・。(でもやめておいた)
「普通のこども」に倒せるような「しょぼい魔王」を呼び出したのでは(コストは低くなるけど)いい絵は撮れない。大精霊を宿すと、コストがかかりすぎる。糸目の男は「間」をとった。
大精霊見習いを宿すことでも「編集すれば」いい絵になると踏んだそうだ。むしろ見習いの中からも、容姿が整っていて、なるべく若い個体を選出してもらうように創造者に頼み「こども部分」をさらに強調した。
糸目は「自信があった」と、盛大に言い切ったし、実際にこの男は、この企画を大成功で収めたのだ。
・・・
・・・
・・・。
ー 僕はこの男に、勝てるんだろうか? ー
「同じ土俵には上がらない」って思いながらも、僕は、これを聞いた時に、そんなことを思ってしまった。
やっぱり「敵」な気がした。
ーーーーーー
ここまでがとりあえず糸目の男に関して、先にお伝えしておきたかった事柄だ。
主に、自分の話は「自慢話」と共に、創造者の話は「批判」と共に聞かされた。いかにこの世界の創造者がアホで、自分が有能なのか? を言いたくてたまらないようだった。
とにかくまあ、男が自分に「自信」があって、創造者に「不満」があることは良くわかった。
「自信」については、糸目の男の「言動」からわかってもらえるんじゃないかと思う。
「不満」についてだけ、もう少しだけ補足させてほしい。
自分の方が「有能」だと思っているこの男にとって、ただ産まれた瞬間から「創造者になれる立場」だったネオリスのことが、とにかく気に入らないようだった。そんな相手に創作の「上前をはねられる」ことが許せないようだった。
これを言い忘れてたんだけど、企画屋達は、成果を出した報酬として、僕らと同じようにいろいろと、望んだものがもらえるらしい。
もし企画屋が「望めば」、なんと、創作ポイントをもらうことまで可能なんだそうだ。一定の創作ポイントを貯めれば創造者になることも可能だった。
ここらへんのシステムも、サラのいた世界と仕組みが似ていた。(サラも「精霊ポイント」を100万ポイント貯めることで、大精霊になれる)そしてこの男は(サラと違って)創造者になることを、「明確な目的」にしていた。
あろうことか、この糸目の男は「神様みたいな存在」になろうとしていたのだ。
今の糸目の男は、所詮、雇われの身であって、自分では(世界を作り替える)プロンプトを打ち込めなかった。それも、この男の不満の一つだったのだ。
糸目の男は「100倍の時間の流れ」と「100分の1の時間の流れ」の場所に行けると僕に言った。でもその空間も限られたものでしかなかった。(サラが今いる空間と同じように)8畳ほどの、機材の積まれた場所でしかないらしい。
「企画は結局、現場で考えるもの・・・なんだよねぇぇぇ・・・」
そんな理由で、こっち側の世界に来て、糸目はこの世界を歩きまわって、企画を考えていたのだと言う。その「不自由」さも、不満なようだった。
最後に・・・。
この男は、僕の今あるこの「立場」にも不服があるようだった。
企画を考えたのは、この糸目の男自身だったが、AIにプロンプトを打ち込んで「魔王を倒せそうなこども」や「異世界からの転生者」を選んだのは、この世界の創造者だった。
「僕のおかげ」などと言った糸目の男だったが、別にこの男が僕を「選んだ」訳ではなかったのだ。
糸目の男がこの世界の創造者のことを「七光り」と呼んで、蔑んだように、僕もただ「選ばれて」ここにいる。それも、この糸目の不満の一つだった。
とにかく・・・。
・・・こんな感じで「成功した」とは言いつつも、糸目の男はまだまだ「不満だらけ」だったのだ。
ーーーーーー
ここからは、何故、最悪の相手だったか? の説明になる。言動からすでに「最悪な感じ」はわかってもらえたかもしれないけど、ここも補足しておきたい。
僕自身にとっては、恥ずかしい話だったり、言いたくないことも含まれている。
それでも「何故それが起きたのか?」を説明するために、必要なことだと思うので、なるべくそのまま、ありのままに・・・あったことを書いてみようと思う。
ーーーーーー
ー 糸目の男は(迷惑な)サプライズが好きだった。 ー
サプライズにも「やられて嬉しいサプライズ」と「やられても嬉しくないサプライズ」があると思う。ハイヒールを履いて遊びに来た女の子に「山登り」のサプライズをプレゼントしても(たぶん)喜ばれないだろう。そんな感じで「この男のサプライズ」は、(特に僕への)迷惑な嫌がらせでしかなかった。
一つ目のサプライズは、これだった。
「罠じゃないよ? 下へGO!」
この看板を設置したのも、この糸目の男の仕業だった。それをこの男から直接聞かされることになった。
僕は二日前に(まだ二日前だったことに少し驚いた)、おじいちゃんのクジラの中で、訳のわからないことが続いたところに、この看板がたてかけてあって、言いようのない怒りを覚えた。あの(憎らしくも)絶妙な位置に、看板を立てたのが、この男のサプライズだった。
僕らがおじいちゃんのところへ行くのを「見て知った」この男は、わざわざ先に「現地入り」して(こっちの世界へ来て)現場を見てきたそうだ。(おじいちゃんも、たしかそんなことを言っていた)
あそこにあの看板を置いておけば、僕が何かしらの反応を起こす・・・そんなことまで見越されていたらしい。
「ここは、もぅぅぅ、ちょっと。いぃ~い、リアクションを期待したんだけどねぇ・・・」
男は少しだけ残念そうにそう言った。
僕はあの時のことを思い出して、目の前にいる糸目の男に怒りをぶつけそうになってしまった。そんなことの為だけにされたサプライズに腹をたてた。でも今回も、スーがそばにいてくれた。頭の中にはサラがいてくれた。だから、ぐっと、堪えられた。
二つ目、三つ目のサプライズは、今いるこの「ラブホテル」に仕掛けられていた。
「ぬるぬるスライムの間」と「じっくりしっとりの間」・・・。これがサプライズの二つ目だった。
あのヘンテコな名前の部屋が「残り二部屋」で残されていたのも、この男の仕業だったのだ。
僕が「どっちの部屋を選ぶか?」を自分が見て楽しむ、及び、クイズ形式で配信するための仕掛けだったらしい・・・。
ひどい理由だと思った。正解なんてそこにはなかった・・・。どっちを選んだって「ただの僕の性癖公開」の場でしかなかったのだ。(でも、ここで僕は、今の状況が「まだ配信されている」というのが「事実だったこと」を確認することができた)
三つ目のサプライズ。
これは、ラブホの部屋の中に「僕の元いた世界」のいわゆる「大人のおもちゃ」が置いてあったことだ。
僕が「大人のおもちゃ」や「コスプレ衣装」を見つけた時に「どんな行動をとるのか?」を「観察」したかったらしい・・・。
・・・なんていうんだろう? まるで「猿の知能テスト」みたいだと思った。
猿を檻に閉じ込めて、部屋からロープでバナナを吊す。猿の周りに「棒きれ」や「ハシゴ」なんかの「道具を配置」しておく。「猿がいかにしてそのバナナをとるか?」・・・その観察とそんなに変わらない感じがした。実際、それに近い形で、僕の行動を観察して楽しむための仕掛けだったらしい。
これにも、かなりの怒りを覚えた。
僕がもし犬系獣人じゃなくて、猿系獣人だったら「ウッキー!」って言いながら、男に飛びかかっていたかもしれない・・・。(でも僕は、犬系獣人だった)
ーーーーーー
僕らがこのホテルに「入るところ」を監視していた糸目の男は、仕事部屋(時間の流れがこっちの百分の一の方)へすぐさま入った。「思いついた面白そうな展開」について「展開提案書」を作って創造者に提出した。そんなことも聞かされた。
この「展開提案書」っていうのは、次の展開について書いてまとめて、書類として創造者出す必要があるものらしかった。
創造者にこの書類を承認してもらえて初めて、プロンプトの入力をしてもらえるのだという。(この「いちいち展開提案書を書かなければならなかったこと」も糸目の男の不満の一つだった)
余談だけど、僕らに襲いかかってきた魔物なんかの「強さ」や「出現場所」も、この男が「展開提案書」を書いて、都度決めていたらしい。「数字が撮れそうなタイミング」だと思った時には、この男は躊躇なく、僕らに魔物をけしかけていたのだ。
最終的に、想定以上に強くなりすぎた僕らに対して「ギリギリ倒せなさそうな相手」を僕らにぶつけてくるようになったという・・・。なんとか僕らがそれを乗り越えたものだから、後半は、インフレに次ぐインフレで、想定していた魔王の10倍以上の強さの魔王が用意されたらしい・・・。(下手すれば僕らは死んでいたかもしれない・・・)
糸目の男は、僕らのことは基本「駒」としてしか見ていなかった。
ちょっと脱線しちゃったので、話を戻そう。
元々、このホテルは普通のホテルだった。「ぬるぬるスライムの間」とか「じっくりしっとりの間」なんてのも存在しなかった。僕らの世界のいわゆる「大人のおもちゃ」も置いていなかった。
この糸目の男が「展開提案書」を提出して「承認された」ことで、創造者がこのラブホテルを作り替えてしまった。そういうことらしかった・・・。
「とんでもない世界だな・・・」
この時、僕は、そう思いながらも、それでも「勝ち目」がないか? 道筋を探していた。でも「もっととんでもない話」が、まだ残っていた。
ーーーーーー
ー この男は、やっぱり最近の僕らの様子を、まだ「編集」して「配信」していた。 ー
次はこれについてだ。
ちょっと先に書いてしまうことになっちゃったけど「僕がどっちの部屋を選ぶか?」なんてことが、配信されていることを糸目の男に知らされて、僕は「まだ配信が続いていたこと」を確信に変えた。
でも「クイズの配信」は、あくまで配信を「つなぐため」の氷山の一角に過ぎない出来事だった。
今の僕らを配信しているのには、もっとひどい理由があった。
よりにもよってこの男は「僕らがエッチをしているところ」を「アダルト向け裏配信」的に、高次元の皆様に、公開していたのだ。
悪魔の所業だと思った。
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