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第二部

ポチタロウと、糸目の男:2

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「はろはろ~、明日太ちゃん、スーちゃん。僕様くんが預言者ちゃんだよ~♪」



 糸目の男は、ふざけた感じで、片手をヒラヒラと振りながら、そう言った。



 ー 「預言者さん」って「こんな」だったの!? ー



 僕はそんなことを思って絶句した。今までどんな姿をしているか全く知らずに、ただ「預言者さん」と呼んでいた人物と、まさかの「ラブホ」で遭遇するなんて・・・。そんでもって、こんな軽薄そうな若い男だとは、夢にも思っていなかった。ホテルのフロントにいた意味もわからなかった。



 そういえばトリックアートなおじいちゃんが「預言者殿が近々会いに行くと言っていた」的なことを教えてくれてたんだけど、全く予期しないタイミングだった。



 スーが後ろから、僕の背中の裾をギュッと掴んだ。スーも何か不穏なものを感じとったのかもしれない。僕は右手を広げ、スーを守る形をとった。



「あれあれぇぇぇ? そんなに、警戒しなくていいのになぁ? 二人とも、どうしちゃったの? もしかして照れ屋さんなの? シャイボーイ&シャイガール? ・・・それとも預言者って、もっと、こんなのを想像してたのかなぁぁあ?」



 そう話しながら男は、ポケットから取り出した何かを(こちら側からは見えないように)操作していた。おそらくスマホ的な何かだ。「僕に」ってよりは「スーに」見られないように警戒しているのだと思った(スーの方を糸目でチラチラ見ながら、手のひらで死角を作っていた)。話をしながら、片手で持ったそれを、親指で、なにやらスライドしたり、タップしたり繰り返していた。



 男は、しゃべり終えると同時に、親指で再度、画面を押す動作をした。



ー 次の瞬間。 ー



 目の前に、糸目の男の代わりに、一人の老人の姿があった。ボサボサの長い白髪、同じくボサボサの長い白ヒゲ。シワシワの顔の中で光る、鋭い眼光。年期の入った緑の三角帽子に、緑のローブ。



 左手に持っていたスマホみたいな何かは、革表紙で金の装飾のついた本に代わった。右手には傘の柄みたいに先が丸く湾曲した、古ぼけた原木で作られた大きな杖を携えていた。トリックアートなおじいちゃんとは、また違った感じの「魔法使い、もしくは預言者っぽい」お年寄りがそこにいた。



 まばたきもしていない、一瞬の間に、糸目の男は、老人へと姿を変えたようだ。



「!?」
「・・・」



 僕とスーはまだ言葉を失ったままだった。



「・・・ふむ。今回の魔王を倒せるのは、預言に当てはまる、この者達だけだな」



 老人は威厳を含んだ感じで、杖をもった方の人差し指で僕らを指さし、その1センテンスを力強く言い切った。王様だとかに、こういう話を「実際にこの姿でしたんだろうな」と思った。深いその声には、妙な説得力があった。



 シワシワの手が本の上に当てられて、また目の前に糸目の男が姿を現した。服装も元の「だらしないホテルのフロントマン風」に戻った。口調も軽い調子に戻して、男はこう付け足した。



「どうどう? ちょっとはそれらしく見えた? ・・・ってより、すんごい預言者に見えたでしょ? ゴイスー?」



 何と言葉を返していいのやら、さっぱりわからなかった。ツッコミどころとか、うさんくささが多すぎた。



「おいおい、おいおい、おいーーって? 何か反応は? また二人ともだんまりかい? ・・・その態度は、どうかと、僕は思うなぁ?」



 自分の態度を棚にあげながら、糸目はそう言った。「僕は」の部分は「ぼかぁ」と聞こえた。この男は、ところどころ間延びした、少し不快になる話し方をする。時折、業界用語みたいな言葉を付け足す。僕らを怒らせようと、わざとやっているんだろうか?



 何か言葉を返そうとしたところで、男がまた勝手に話を始めた。



「まぁぁあ、いいや・・・。君たちのおかげで、かなり数字、稼がせてもらったからね? ぼかぁ、寛大だから、許してあげるさ?」



 そう言いながら、今度は右手の人差し指と親指で丸いワッカを作った。僕の元いた世界で「お金」を表すジェスチャーだった。さらなる不快感を覚えた。



「ポチにぃ・・・」



 スーが背中で怯えた声を漏らした。終始、わけのわからないことが続いている・・・。スーも不安なのだろう・・・。少し振り向いて「大丈夫だよ」って、小声で告げて、手を握った。タンク(壁役)も僕のパーティでの役割だった。僕が守ってあげなきゃだ。



 そんな僕らを見て、糸目の男はヤレヤレって感じで肩をすくめた。欧米人がやるような、おおげさな感情表現だった。



「・・・数字? 一体、何の話です? 何のためにここへ?」
 そうして僕は、その男に初めて言葉を投げかけたのだった。



■■■■■■
□□□□□□


ポチタロウと、糸目の男:2


■■■■■■
□□□□□□



「つれない態度だねぇ? ちゃんアスー? 『僕様々』で、君も随分、いい思いをしてきただろうに?」
「・・・何のことです?」



「女の子たちだよぉ? 君だけ一人、男だったし。君、ロリコンだろ? ハーレム気分を味わえたんじゃないのぉぉお?」
「それは・・・」



 なんて言葉を返していいのか? やっぱりわからなかった。一瞬、言葉に詰まってしまった。役得部分があったのは、否めなかった。情け無い話、こんな状況じゃなかったら、僕が女の子と仲良くなれてたなんて、とても思えなかった。



「・・・別に僕が選んだことではありません。でも、みんなと知り合えたって部分は、感謝しか、ありません・・・」



 少し考えてから、素直にそう返した。



  この時の僕は「スーと一緒にイけた」ことで、調子に乗っていたと思う。フロントまで降りてきた時には、鼻歌でも歌いたい気分になっていた。



 散々「謙虚に」なんて言い聞かせたのに、この人を、ひと目見た時から、強気な態度をとってしまった。「敵だ」なんて、思ってしまった。今のところ、まだ、わけのわかんない人物だけど、一瞬で姿を変えられるところを見ると、サラと同じように高次元の存在なのかもしれない。



 なんといってもまあ、預言者らしいし・・・。この男の言うことが本当であれば、預言のとおりに僕らが集められて、預言のとおりに僕らは魔王を倒したのだ・・・。



 そういう人に対して、僕が失礼な態度をとってしまった部分は、あったと思う。



ー 他責になるな、自責でいろ。 ー



 誰かのせいにしてばっかりじゃ、あまり何も変わらない。自分にも悪いところがあったんだって、反省する方が、成長できるだけ、まだマシだ。・・・これも前に教えてもらったことだった。



 相手を多少不快に感じたとしても、僕のせいでそうなってるのかもしれない。なるべくそんな風に自分に言い聞かせて、今までやってきた。おかげで「ごめんね」が口癖になっちゃってて、みんなに指摘されてそれに気づいて・・・これも「やりすぎはダメなんだろうな」と、最近は思ったりもしてるのだけれど・・・。



 それでも今回は、そのまま、その教えを採用することにした。



ー 相手の土俵で相撲をとる。 ー



 これも、おろかなことだろう。相手の不快な態度や調子に乗せられてはいけない。そんな風に思った。



「ふーん。そんな感じ・・・なんだ? 君のその態度・・・悪くは、ないと思うよ? 僕は嫌いだけどね?」



 一見ニコニコとしたままで、男はハッキリとそう言った。依然として糸目の奥で、僕を観察しているようだった。



 ・・・うん。なるべく悪感情を抑えたいとは思うけど、どっちにしろ、友達にはなりたくないタイプだ。用件を聞いて、なるべく早めに対談を終わらせよう・・・。



「一体、何のご用でしょうか?」
「またぁ・・・すぐにそうやって、用件に入る。・・・だから君、早漏なんじゃないの? ソウ(だから)ユーアー、ソウロー」



 さすがにちょっとイラッとした。男はあいかわらずに、ニコニコしてそうに見えた。かなり腹が黒そうだ・・・。糸目の悪役キャラのテンプレみたいだ。



 ・・・あと。早漏は早漏だけど、僕は1度だけとは言え(結局こだわっちゃってるけど)スーと一緒にイけたのだ。(・・・相手の土俵に乗るな)自身に言い聞かせた。



「用件・・・ねぇ・・・。超・・・ちょぉぉぉ偉大なる預言者・・・を演じつつも。その実体は、敏腕才腕、凄腕の企画屋だった! ・・・そんな僕が、わざわざ、ワザワザ、お礼を言いにきてあげたんだよ? ざわざわ、ザワザワ、感謝してよね? ふふ。・・・もう一つの用件は、ちょっとした、まあ・・・『てこ入れ』ってやつかな?」



 預言者じゃなくて、企画屋? ・・・そんでもって、てこ入れ?



 ・・・やっぱりさっぱり訳がわからなかった。あと、とってつけたような「今思いつきました」って感じのギャグ的なことを言って、自分で笑っちゃってるところとかに、盛大にツッコミを入れたかった。でもなんか、そういう雰囲気でも、そんなツッコミを入れる関係でもない。



 ひとまずそれは、置いておいて、一つずつちゃんと紐解いていこう・・・。



「預言者さ・・・えっと・・・あなたは預言者じゃなくて、企画屋・・・なんですか?」



 相手の名前を知らないことに今、気づいた。僕らはただ「預言者」とだけ知らされてきた。


「シュウジロウ・・・。それが僕の名前さ? 名前でわかるとおり、君のいた世界と同じようなところの出身だろうねぇ・・・? 気軽にシュウちゃん・・・って呼ばせるつもりはないから、この場合は、シュウジロウ様・・・って呼ぶのが、適切なんじゃないかな?」



 物言い的に、全然、適切な気はしなかった。


 
「すみませんが・・・。あなたが本当にすごい人だって思ったら、そう呼ばせてもらいます。とりあえずは、シュウさんとでも呼ばせてもらいます」
 


 僕はやんわりめにそう言いつつ「様づけ」は拒否した。なんか嫌だった。「シュウ酸ってよりも、ホウ酸ダンゴにでもなって、ゴキ○リにでも食われちまえ」なんてことをちょっとだけ思ってしまった。前に書いたように「魔王を倒した勇者」だからって僕は完璧な「人格者」って訳ではないのだ。



「まあ、ポッちゃんにも、すぐにわかるさ? 僕がどれだけすごい奴かは、すぐにね?」



 しまいに糸目の男は、僕のことを「ポッちゃん」と、おちょくったような呼び方で呼ぶと、話を始めた。



ーーーーーー



・・・
・・・
・・・。




「・・・ってわけでぇ? 僕のすごさが、君にも少しは伝わったかな?」



 「企画屋だと名乗った預言者」は、長い時間をかけて、一旦、話を終えた。男は終始、饒舌だった。この話を誰かに聞いてほしかったのか? 僕に言いたくて堪らなかったんだと思う。「お礼を言いに来た」なんてことを言いながら、そのほとんどが「自慢話」だった。



 それでも「知らないことだらけ」だったので、情報を集める為にも、僕はなるべく口をはさまずに話を聞いた。スーもずっと黙っていた。



 一部すごいと思う話もあったけど、いちいち腹が立つ言い方をされたりもした。ここまでのやり取りで、もうすでに「胸くそ悪い」って感じてる人もいるかもしれない。そこは申し訳なく思う。僕は別に誰かを不快にしようとして、これを書いているわけではない。



 ただ、糸目の男との「やり取りのニュアンス」は知っておいてほしかった。これを書いているのが僕自身だから、あくまで僕の「主観」になっちゃうけど、あまり、いい感情をいだける人物ではなかった。言われたことをそのまま書いておけば、少しは理解してもらえるんじゃないかな? と思って、書き残しておくことにした。



 残りはなるべく、かいつまみつつ、聞かされたことをお伝えしたいと思う。



ーーーーーー



 おじいちゃんから聞いて、少しは知ってはいたけれど、僕らの魔王討伐は、やっぱり編集されて、上位存在の皆様に配信されていたらしい。タイトルは「初めての魔王討伐」。・・・どっかで聞いたようなネーミングだった。



「着想自体は、前世の某番組と、前回の『老人4人による魔王討伐』から得てはいるけどね? それらを組み合わせて、人気番組を作っちゃった僕ってゴイスー、だよね? ここまできたら、オリジナルだよね? オ・リ・ジ・ナ・ルゥ♪」



 「着想を得て、作った」この言葉に違和感を覚えた。でもこの時点ではまだ何もわからなかった。



 あと、あろうことか、糸目の男は「オリジナルだよね? オ・リ・ジ・ナ・ルゥ♪」の部分を、リリの「ハチミツ二個で、ハッチミツー♪」の歌の音階で歌った。僕の大切なリリの「僕をなごませてくれる素敵な歌」を、勝手に使われたことで、それを汚された感じがした。「オリジナル」って言いながら、結局リリの歌をパクってることにツッコミを入れたかった。


 ただ「リリの歌をパクられたこと」で、僕らの冒険を「編集して、配信した人物なのだ」と改めて自覚できた。この男は「ハチミツの歌」まで知っている。僕らの冒険はずっと見られていた・・・。僕らのことは何でも知られてしまっている感じがした。



 そう認識できたので、感情のままに怒ったりはしなかった。そんな人物に反発したって、知られてしまっていることから、どんな弱みにつけこまれるか? わかったものではない><。「どこからどこまでがオリジナル?」なんてことも僕にはよくわからない。とりあえずそこは黙ってスルーした。



 (僕のスルー能力、頑張れ!)なんて思いながら「預言者じゃなくて企画屋」って部分について聞いてみた。



「この世界じゃ、100年毎に魔王が出現して、毎回勇者に倒されてる。それは君も先代じじいに聞いて知ってるよね?」
「(先代じじいって・・・)はい・・・」



「この『魔王討伐』は僕みたいな企画屋が、それぞれ企画を作って競い合って、運営されてきたのさ? この世界の創造者クリエイターが『面白い』って思った案が採用されるんだよね?」
「そうなん、ですね・・・」



ー 魔王討伐が「企画されて、運営されてきた」 ー



 その事実に衝撃を受けながらも、僕は続きを聞く為に、あいづちを打っていた。



「今回は、なんと! 企画屋になって初めて作った、僕の案が採用された! まあ、老人4人じゃなくて、子供4人の魔王討伐の方が人気出るだろうって、すぐに思いついたね♪ それが今回の企画『初めての魔王討伐』で、君のした冒険の正体さ。初企画で、大成功♪ 天才の所業でしか・・・ないよね?」



 この糸目が、今回の魔王討伐を企画した。それが通った。・・・そうして僕らが冒険することになった・・・ということらしい。



 考え方の次元がやっぱり違うんだろうか? この世界の人たちのことをまるで考えてないような物言いだった。それに、最初の預言っていうのは一体なんだったんだろう? 僕らは預言の元に集められたハズだ・・・。



 疑問に思った僕は、結局、何のひねりもなく、それも聞いてみた。



「預言なんてのは、嘘っぱちさ、嘘っぱち! 嘘八百どころか、八百万のやおよろず・・・。ただただ、企画に合うように、つじつまを合わされた『設定』に過ぎないんだよ?」
「設定・・・」



 その一言をつぶやくので精一杯だった。



「別に魔王は、誰でも倒せたんだよ。・・・まあ、強ければ、だけど? ただ、企画的に、子供に魔王を倒してもらう必要があったから、創造者クリエイターに適任者を選んでもらった。でっちあげの預言と世界改変で、適任者として選ばれた君たちがお城に集められた。預言で縛って他の全てを排除した。『この子達にしか、魔王は倒せない』ってね? この世界の住民はアホみたいに預言を信じるから、演じてて笑っちゃいそうになったよ、ふふふっ」
「・・・・・」



 今度もまた絶句するしかなかった。ひどい話だと思った。



「まあ。そんなわけさ? ずっとそれが繰り返されてきたんだよ。・・・この世界・・・ではね?」


 
ー 他にもいくつも世界がある。 ー



 男が最後に付け足した言葉は、そんな風に感じさせる、意味深な言い方だった。
 


「とにかく、さ! 『預言ありき』じゃなくて、まずは『企画ありき』なのさ? 企画に沿えるように、それ以外を排除する為に、預言が作られた。アンダスタン? 理解できた?」



 男の「人を小バカにしたような態度」は変わらないままだった。



 でも、そうして僕は、僕らの冒険が「仕組まれたものだった」ことを知ることができた。



 饒舌な感じで・・・糸目の男の話は、まだまだ続いた。



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