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第一部
スー=スレイプニル(11:スーとサファ)
しおりを挟む「さあ、今回も油断はせずに、蹴散らそうか?」
魔物の群れの前、一番先頭に立ったポチタロウが、努めて明るく、そう言った。その尻尾は下がって丸まっている。
(ポチにぃは、今日も、すごいな・・・)
スーは、ポチタロウの尻尾を見ながら、そう思った。
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スー=スレイプニル(11:スーとサファ)
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スーがポチタロウ達と魔王討伐に出発して、1週間が過ぎていた。出発直前に加入したリリの道案内の元、進み、魔物を狩り、野営をして、食事を摂る。そんな毎日にも少し余裕ができてきた。
最初の3日間はひどかった。案内役のリリが、ガンガン進み、魔物にむんずと掴まれ、ポチタロウが慌てて助けに行く。スーはそんな場面を何度も見るハメになった。その妖精はそれでも懲りずに、暗くなるまでハイペースで突き進んだ。一日が終わる頃には(リリを除いた)全員、疲れ果てることになった。
「賢い」と思ったポチタロウとは真逆に、スーは、リリのことを「こんなアホな生物は見たことがない」と思った。この小さい生き物は、およそ「物を覚える」ということをしなかった。ポチタロウに「ゆっくりめでお願いします」と言われても、3分しないうちにどこかへ飛んでいった。
なのに地理にだけはやたら詳しく、道を間違えることだけは一度もなかった。「解せぬ・・・」スーは混乱し、その生物について、深く追求するのをやめた。
4日目の朝に、ポチタロウが遠慮がちに「毎日、進む距離や課題を決めていこうか?」と提案した。スーもサファもワフルもすぐに賛成した。何度も何度も何度も魔物に掴まれたリリも、ほんの少しは反省したのか、賛成はせずとも、反対はしなかった。
「じゃあ、今日はここまで進もうか」
「おぅ!」「うん」「わかったよ、勇者くん」「勝手にすれば?」
それから毎朝、ポチタロウが指針を示すようになり、旅は随分と改善した。リリが掴まれる回数も減った。(なるべくポチタロウが話しかけて足止めした)夕食の後、簡易に建てた小屋の中で、寝る前に雑談するくらいの余力ができた。
ーーーーーー
スー達は、その頃、2つ小屋を建てていた。大精霊が性的なことに過敏に反応するので、幼いながらも念のため、男女別れて寝るように教官から指示が出ていた。
ポチタロウは、小屋で一人、次の日の課題や目的地を決める為、地図とにらめっこしながら、メモをして、粛々と計画を立てていった。
女子組は、枕代わりに巻いた布を小屋の中心に寄せて、ひそひそ声でガールズトークを始めていた。
「今日も、勇者くん、カッコ可愛かったね」
サファは興奮気味に、でも声のトーンは抑えて言った。
「カッコ可愛い」という言葉もこの世界にはなかったが、サファがしきりに「カッコいいし、可愛い」と言うので、スーが「カッコ可愛い」とつなげた。いろいろ惜しかったタクローと違い、スーはポチタロウの世界の言葉を、見事に自らで創り出していた。
「うん。さすが、ポチにぃ」
そのスーも、うんうんと、うなずく。大泣きした後、スーは、ポチタロウに全幅の信頼を置き、さらには尊敬するに至っていた。スーのカバンには、門番達4人を描いた似顔絵が1枚入っていた。うまくはなかったが、スー自身によって、暖かい色合いで描かれていた。スーはフリイ達を連れていく、と答えを出したのだった。
「ポチタロ、優しいしナ」
ワフルはポチタロウのいいところを、もう一つ付け足した。一番最初に、ポチタロウと友達になったのもあって、ワフルは、一番ポチタロウのことを、よくわかっていた。
「あんなのの、どこがいいのよ!? あんた達、見る目がないわ!」
1週間前に加入したばかりのリリは、一人、空中でふんぞり返っていた。戦闘中は「ぴゅーーん」と空へ逃げるので、ポチタロウの戦う姿もあまり見ていなかった。
「そうカ? ポチタロはすごいゾ?」
「リリの、見る目が、ない」
「私もそう思う!」
「な、なによ!!」
すかさず3人から反論を受け、リリはぴゅーんと逃げ出した。小屋の外まで飛び出すと「こんな風に多人数から攻められたこと、前にもあったような・・・」と、首をかしげたのだった。
・・・
・・・
・・・。
小屋の中では話が続いていた。
「ところでさ、スーちゃんに聞きたいことがあるんだけど・・・」
「なに?」
サファがスーに話題をふった。
「勇者くんってさ。戦う前、ちょくちょく尻尾が下がって、下に丸まるよね? あれってどういう感情?」
この頃にはスーはある意味、「尻尾マイスター」になっていた。凝り性なのもあり、ずっと見て、研究してきたのだ、ポチタロウの尻尾を。サファにも、ある程度は把握できたが「わからない尻尾の動き」も多く、そういう時はスーに聞くようになっていた。
「あれは、ポチにぃが、怖がってる時の、尻尾」
スーが答えた。
「え?・・・!!!」
ー ジョバババババーーーッ! ー
予想もしなかったスーの答えを聞いて、あまりにも驚きすぎて、サファはおしっこを漏らしてしまった。「驚きすぎ」でおしっこを漏らしたのは初めての経験だった。
「ち、ちょっと何それ? 勇者くんって、本当は怖いのに『きっと楽勝だよ♪』とか、軽口叩いて、タンクして、みんなの指揮までしてるわけ?」
サファはとりあえず、おもらしのことは保留して、スーにそう聞かずにはいられなかった。
「うん」
スーは、シンプルな一言を返した。(やっぱりポチにぃは、すごい)と思いながら。
「そんなのカッコよすぎるって!!! キャーーー!!!」
サファは枕(代わりの布)を抱えて、敷き布の上でジタバタと悶絶した。
「さすがはポチタロ、だナ♪」
ワフルも瞳をキラキラさせた。
「サファ、それ、そのままでいいの?」
敷き布にできた、大きなシミをスーに指摘されて、サファはハッとなった。
「そうだった! 洗って乾かさなきゃだ!! ・・・スーちゃん、お願い」
両手を合わせてお願いされたスーは、着替えたサファと一緒に、外に出た。
サファが、水を出し、衣類と敷き布をドブンドブンと水球の中で混ぜこぜした。サファは水気をある程度まで、魔法で取り除き、スーにそれらを渡してくる。水分を取り除きすぎると布が、干からびたし、ひどく疲れたのだ。今度はスーが、衣類と敷き布を風に乗せてビュービューと乾燥させた。
「スーちゃん、ありがと」
「うん。いい」
スーは「女子ばかりの時に、興奮したサファは、そんなにおしとやかではない」ことを旅に出てから、初めて知ったのだった。
次の日から、サファはポチタロウを「勇者くん」から「勇者様」と呼ぶようになり、口調も敬語になった。スーにはまだ良くわからなかったが、サファはどんどんと「女の子」になっていった。
ーーーーーー
「この先のこれさ、山なの? それとも丘?」
地図を指し示したポチタロウがリリに聞く。
「んー? 中間くらい?」
リリがあいまいな答えを返す。
「えーっと、じゃあ。木とか、いっぱいある?」
「ない!」
「そっか、わかった。ありがとね、リリ」
「う、うん・・・」
ポチタロウがそーーっと、リリの頭を撫でる。リリは顔を赤くしながらも、そこから逃げたりはしなかった。それを見たスーは「やっとこの生き物にも、ポチにぃの、良さがわかったか」と、ニンマリした。
旅に出て一ヶ月が経っていた。散々助けられて、お姫様扱いされ、優しくされたリリも、ポチタロウに、好意を抱くようになっていた。それなりの距離でポチタロウのそばにいるようになり「むんず」とされる回数はさらに減っていた。
ただ、それでも珍しい花があった時は、飛び出して「むんず」とされた。
そういう場所に限って、オーク系の魔物がいたりしたので、ポチタロウは妖精陵辱イベントを回避するために、全速力で駆けることとなった。
ーーーーーー
進める距離が伸びていった。また少し、時が過ぎた。
戦う時の隊列が固定された。先頭でポチタロウが短剣タンク、やや前寄りの右側に、ワフルがハンマーで物理火力、やや後ろ寄りの左側にスーが短いロッドで魔法火力、真ん中でサファが長杖で魔法火力、補助、回復を担当した。
スーの宿された風の精霊魔法にも回復魔法は存在したが、時間をかけて治す系のものばかりだったので、ただ一人、即効性の回復を持つ、サファを守りながら戦う陣形が自然と出来上がった。
後ろからの襲撃の際にはサファを中心として、他のメンバーが時計回りにグルリと周り、ポチタロウが一番前の敵と対峙できるようにした。
ポチタロウは武器に短剣を選んだのに、タンク(壁役)を志願した。短剣だと素早く動けるし、炎をまとわせて刀身を伸ばせたので、彼にとって親和性が高かった。あと「魔法剣」ぽいところが、ポチタロウに、少し残った中二心をくすぐった。
タンクを担当したのは、単純に「女の子達を守るのは自分の役目だ」とポチタロウが思ったからだ。こうして世にも珍しい短剣タンクが誕生した。
ポチタロウは短剣に炎をまとわせたり、敵に牽制の火球を打ち込んだり、火の壁を作ったりして、極力、魔物を近づけないように立ち回った。火の効かない魔物がいると、大きく懐に飛び込んで、短剣の刀身で攻撃を受け、敵を足止めした。
「ワフル!」と彼が呼ぶとワフルがかけつけて相手を吹っ飛ばした。物理攻撃が効かない場合は、スーがすかさず魔法を放った。連携も少しずつ決まるようになっていた。
サファはやれることが多かったので、逆に、ド真ん中で「バフ」をかけようか「デバフ」をかけようか? と長い髪を振り乱し、アタフタすることがあった。そんな時にはポチタロウから指示が飛んできた。「サファ、右の赤いのに攻撃魔法を!」とか「ワフルに防御強化を」と。サファは、背中に目でもついているかのようなポチタロウの指揮能力にただ、驚くばかりだった。
ポチタロウは「前世での知識」や「気配察知」によって、自分が思っている以上に活躍していた。「誰かに近づかれても平静でいられるように」と、覚えた気配察知が、背中にいるメンバーへの指示出しに大いに役立っていた。スーはポチタロウに「尊敬」を超えた何かを感じ始めていた。
どんなに大きい魔物が来ても、どんな苦境に立たされても、尻尾が下に丸まっていても、ポチタロウは、一番前に居続けた。自分が傷だらけになっていても、誰かのかすり傷に、ごめんねと謝った。サファは、そんなポチタロウを回復しながら、自分が濡れているのに気づいた。
ーーーーーー
「いいこと教えてあげる。大精霊は、初潮前のオナニーはノーカンで許してくれるんだって! あんた、ちっちゃい頃から、あそこいじってたんでしょ? 夜にひっそりなら、いじって大丈夫よ!」
久々に自分の膣が濡れているのに気づいた、次の日の朝、サファはリリに呼び出されてそんなことを言われた。
「何故、この妖精は、私が自慰をしてたことを知ってるのだろう?」
そう思いながらも、サファは一応、確認した。
「・・・ほんとに? リリ?」
「あたしに誓って!」
リリに誓われてどれくらい信憑性があるのか? サファにはわからなかったが、この日からサファのオナニーが毎夜行われることになった。
ーーーーーー
2ヶ月が過ぎた。野営の時に2個建てられていた小屋は1個になっていた。
最初はワフルが、ポチタロウの小屋にもぐりこむようになり、スーがそれに便乗した。素直に物事を言い出せないタイプだったサファとリリも「小屋は一個だけにしちゃった方が楽だよね?」と、別の言い訳を用意しながら、みんな一緒の小屋で寝るようになった。
小屋は少し大きめに作られ、サファは水のカーテンで遮音して、夜遅くにポチタロウのことを想い、オナニーをするようになった。前よりも近い位置でのその背徳的な行為に、サファの膣内はびしょ濡れになった。サファはもう、ポチタロウに話しかけられないくらいに、ポチタロウのことが好きになっていた。
ーーーーーー
3ヶ月が過ぎた頃・・・。ポチタロウが小屋の外で、次の日の指針を決めている間に、小屋の中の女子達の間では、こんな会話が繰り広げられていた。
「ふぅっ・・・私、もう、勇者様が、カッコ良すぎて、ずっと話しかけられてない・・・」
「く、悔しいけど、なんかわかるわ、サファ」
「ボ、ボクも・・・なんか、ポチにぃを見ると、胸が、せつなく、なる・・・」
「・・・? ポチタロは、ポチタロだゾ?」
サファを筆頭に、その後、スーとリリも、ポチタロウを好きになりすぎて、話しかけられなくなる事案が勃発した。平常運転はワフルだけになった。ただ、ワフルは平常運転で、すでにポチタロウが大好きだった。
・・・
・・・
・・・。
ある日、スーは野営の準備中に、ワフルがポチタロウにピトッとくっついて、腰を押しつけているのを発見した。ポチタロウは困惑して、尻尾をピンと張っていたが、拒むことはせず、ワフルはとても気持ち良さそうだった。
スーは「ポチにぃは、優しいな」と思いつつも、自分の下腹部がうずくのに気づいた。何か、モヤモヤする。スーは、夕食後にワフルを呼び出して「ワフル、さっき、何、してたの?」と、尋ねた。
「ワフル、ナ。なんかポチタロに抱きついた時、おまたも押しつけたくなって・・・やってみたら、気持ちよかったゾ! スー! ポチタロにおまた押しつけると、きもちーゾ♪」
屈託なくワフルに言われたスーは、素直に「そうなのか」と思ってしまった。ふとミドにぃが「おまた触ってもいい?」と聞いてきたのと関係あるのかも、とも思った。
次の日、スーは、ろくに話しかけることも、できなくなっていたのに、無言でポチタロウにピトッと抱きついてみた。
「・・・スー?」
当惑しつつもポチタロウは拒絶はしない。スーはそのまま自分の股をポチタロウの太ももあたりに擦りつけていった。気持ちいいし、安心する・・・。スーは長い時間をかけて、ポチタロウに股を押しつけて、ビクビク、ビクンと初めて果てたのだった。
ちなみに、この一連の騒動について、サファは何も知らなかった。その時間帯は、だいたい小屋の裏手で、水を生成したり、料理を作っていたのだ。
性の気配を感じ取ったリリから、すかさず二人にも、性的指導が入った。
「ちょっと、あんたたち!」
「なに?」
「どした、リリ? お腹へったカ?」
「さっき食べたし、減ってない! あんたたち、気持ちがいいだろうし、ポチにおまた押しつけたい、気持ちはわかるわ! (勇気があったら、あたしもやってるし!)でもポチが寝た後にしなさい。寝た後に! ポチが寝た後なら、じゃんじゃんお股を押しつけて、気持ちよくなって大丈夫よ!」
その日からポチタロウは、ワフルとスーに両側から抱きつかれて寝ることになった。
ポチタロウは、まだ起きている間にワフルとスーに両側からおまたを押しつけられることが何度もあり、我慢できず、暴走しかけたが、リリによってそれは未然に防がれた。
そのうちにポチタロウは抜いた後のような、すっきりした気分で朝を迎えられるようになった。これもリリのおかげだったが、もしそれがなければ、ちょっとしたきっかけで、ポチタロウは誰かに手を出していただろう。
ポチタロウ自身も旅を通して、みんなのことが、どんどん好きになっていた。
ーーーーーー
旅に慣れてきて、油断が出たのか? お互い好き同士すぎて、少しギクシャクしていたからか? とにかくそんな時期に事件は起こった。
いつものごとく魔物に遭遇した。日常ではうまく話せなくなっていたが、戦闘中はしっかりと、お互いに声をかけあって、(リリを除いた)全員で、魔物を殲滅していった。魔物も少しずつ強くなってきていたが、問題なく倒せる範囲のハズだった。
巨大な火トカゲをポチタロウが足止めし、ワフルがハンマーで仕留めた。残りあと一体。ワフルとスーは残った一体への攻撃を浴びせるため構えて「お見合い」してしまった。相手が倒してくれるとお互いが信じて、お互いが攻撃するのを躊躇してしまったのだ。
その隙に、残った魔物が長い爪で、サファに襲いかかり、ポチタロウがそれをかばい、切り裂かれた。
「うぐっ!」
ー ブシャーーーーッ!!!ー
ポチタロウの背中から鮮血がほとばしった。
「ワフル、おねがい!」
「わかっタ!」
スーがそう叫ぶと、ワフルは最後の魔物にトドメを刺した。
サファとスーがポチタロウに駆け寄った。すぐさまサファが回復魔法を発動する。スーも「少しでも役に立てば」と、癒やしの風を使った。時間をかけて癒やす魔法でしかなかったが、やらずにはいられなかった。
ワフルはアタフタと、旅立つ前に習った薬草や毒消し草をわかる範囲で採ってきた。
リリは秘蔵のはちみつを、ポチタロウに持ってきた。
「そんなものっ!」
苛立って怒鳴ってしまったサファにスーが言った。
「サファ! ツメに毒、あったのかも、解毒も!」
その言葉でハッとなったサファは、魔法を解毒に切り替えた。ポチタロウの顔色はみるみる良くなっていった。
「・・・ごめん・・・」
ポチタロウの容態が落ち着くと、サファは平謝りになった。慌てすぎて回復に夢中になり、毒の可能性を忘れていたのだ。スーも最初はそうだったが、ワフルの持ってきた毒消し草で、毒に思い当たったのだった。
ーーーーーー
その日の夜、何事もなかったかのように、次の日の予定を立てにポチタロウが外へ出るとサファが女の子組に言った。
「みんな、ほんっとーーっに、ごめん! ・・・私、勇者様が好き過ぎて、周りが見えてなかった。これから、なるべくちゃんとする!」
サファは両手を合わせてから、深々と頭を下げた。
「失敗は、誰にでも、ある」
スーが言う。
「そだナ」
ワフルが言う。
「まあ、これから、しっかりしなさいよね!」
むんず、と、つかまれる自分のことは棚に上げて、リリが言った。
「あ、ありがと。・・・ところで提案なんだけど。勇者様のことについて、不可侵条約を結ばない?」
「不可侵条約?」
サファの提案にスーが尋ねた。
「うん・・・みんな、勇者様・・・ポチくんのこと好きだよね? でも魔王を倒すまでは、その感情を一旦忘れて、集中して進む方がいいのかな? って思って・・・」
「それで、不可侵?」
「・・・うん・・・」
スーが尋ねて、サファが頷いた。
「うーーん、うーーん」
リリが考え込む。何かがモヤッとしたが、答えは出ない。
「・・・・・・ワフル。・・・ワフル、ポチタロが好きなことを、少しでも忘れるの・・・嫌だナ」
長考した後、ワフルはそう告げた。
「でも、ワフルちゃん! このままじゃ、女の子みんなで勇者様を取り合って、争うことになるよ? またギクシャクしちゃうよ? せめて、魔王を倒すまで我慢できない?」
サファがそう主張した。
「ん? ポチタロは『みんなのもの』でよくないカ?」
ワフルがサラリとそう言うのを聞いて、スーも思い出した。
「そうだ! ミドにぃは、お嫁さん的なのが、4人いた。別にボクらが、争う、理由なんて、ない」
「それもそうね!」
スーの言葉に、リリが賛成した。リリのモヤモヤは解消した。
「・・・!」
サファは困惑した。サファの住んでいたところでは一部の貴族を除いて、一夫一妻が当たり前だった。種族がこれだけ入り乱れると、こんなにも常識が変わるのだ。
「逆に全可侵で、いい、と思う」
スーが言った。
「全可侵?」
サファが尋ねる。
「うん。みんな、ポチにぃが、好き。・・・なら、みんな、ポチにぃを、好きでいい。好きになってもらえるように、みんな、頑張れば、いい。みんな成長、する」
「でも、そんなの、帰ったら国が許してくれないよね?」
「それで、大丈夫な、国もある。それでも、心配なら、自分たちで国を創ったって、いい。魔王を倒せば、きっと、それくらい、できる!」
「っっ・・・!」
珍しく強めに語ったスーに、サファは何も言えなかった。
サファはスーやみんなの言葉に「自分の頭が固かった」ことを思い知らされた。彼女は人間の国で、ポチタロウと二人で、幸せに暮らしている自分を想像していた。そんな自分がとても、やましく思えた。他の3人は「みんな」で暮らしていく選択肢を示したというのに・・・。
それまでサファは、みんなの純粋さや、素直さを見て見ぬフリをして、上辺だけで仲良くしたり、打算や損得勘定で動いてきた部分があった。それはサファが育ってきた劣悪な環境に一因があったが、その詳しくはまた別の話として語ろう。
サファはこのままでは、自分だけ置いて行かれると感じた。今まで半信半疑でいたが、ここにいる他の3人は、今まで出会った大人たちと違って、裏表がなく、本当にまっすぐだった。
そんな3人のことを、サファも本当は嫌いではなかった。ただ、ずっとその事実を、認められないでいた。「自分だけが醜い」なんて、認めたくなかった。でもサファは今、心から思った。「醜い自分を変えたい」と。
ビタン! と自分の頬を両手で叩きつけてサファは言った。
「ちゃんと、みんなで好きに、なってもらおうね!」
こうして女の子組の足並みが、少しずつ揃っていくことになる。ちょうどその頃、ポチタロウも国創りを構想し始めたところだった。
ーーーーーー
「ワフルはとにかく、敵をふっとばしてくれたらいいよ♪」
「わかったゾ!」
「スーは余力残しながら戦ってくれてるよね? いざと言う時に、ちゃんとそれを使えるように意識しといてね」
「うん。わかった、ポチにぃ」
次の朝にはさっそく、話し合いがもたれ、ポチタロウから改善策が提案された。スーが手を挙げて発言した。
「ポチにぃが、手が離せない時は、ボクが、ポチにぃの代わりをする。ポチにぃ、ボクを使って」
「・・・わかった。ありがとね。・・・ちなみにスーは、何パーセントくらいでやってるの?」
「60%・・・くらい?」
「そっか。じゃあ、サファへの指示出し頼める? サファ、やれること多いし大変だから」
「わかった」
「ありがとね、スー。頼りにしてる。しばらくは、引き続き僕がやるから、見といてね」
「うん、わかった」
スーは、ポチタロウに前に言われたことを、まじめに受け止めて、60%くらいの力で戦うようにしていた。力を抜いた分、口数が前より減ったり、よく寝るようになったりと、弊害も出ていた。血は繋がっていないのに、変なところでフリイの不器用さをスーは引き継いでいた。
弊害があってもポチタロウの為に、余力を残しておくことは、スーにとって「当たり前のこと」だったので、スーはそのままそれを続けていった。この後、スーは成長して、第二の司令塔になっていくことになる。
サファは、スーがずっと余力を残していたこと、ポチタロウがそれを知っていたことなんて、全然気づいていなかった。
(・・・こんなの勝てないじゃん・・・)
サファは「変わりたい」と思ったところで、さっそく出鼻をくじかれた。ポチタロウとスーが信頼で結ばれている感じがした。しかもスーは自分のサポートをするように頼まれていた・・・情けなかった。
(ライバル宣言まで、しちゃってさ・・・)
リリもポチタロウが好きなことを見抜いたサファは、ついこの間、リリとライバルになることを誓い合っていたところだった。
「負けないからね、リリ!」
「望むところよ!」
そんなやり取りをしていた自分が・・・何かさらに情けなく思えた。
向こうに見えるポチタロウは、ワフルに抱きつかれている。尻尾がゆらゆらと嬉しそうに揺れている。今のままではワフルにすら勝てなさそうだ・・・。
しゃがみ込んだサファに、スーが声をかけてきた。
「サファ、どうした?」
「・・・私だけ、なんか・・・勇者様にふさわしくないのかな? ・・・でも・・・それでも! ポチくんが、好きなの・・・私はポチくんが好き! ・・・なのに・・・」
泣きたいのか、笑いたいのか、せつないのか、よくわからない顔で、サファはそこまで言って後は言葉が続かなかった。スーも返す言葉を探して、しばらく固まった。その後、一つとっておきを見つけた。
「サファにも、いいところ、ある」
「こんな私にいいところなんて!」
「ある。綺麗好きなところ。片付けが、できるところ。料理が、うまくなったところ。何気なく、気配りができるところ。・・・あと。・・・ポチにぃが、好きなところ」
回りの目を気にして、泣き声までは、あげなかったが、それでもサファの瞳からは涙が一筋流れ落ちた。当のスーは「このセリフが言いたかった」のもあって、みんなのいいところを探すようにしていて、それが役立ったことに少し喜んでいた。いいところを探すと自然といいところは見えてきた。
「ありがと、スーちゃん・・・やっぱり敵わないな・・・」
「いい。今のはポチにぃの、真似しただけ」
「そうなんだ」
「うん。ボクも、まだまだ、知らないことだらけ。勉強中。サファもいろいろ、できるようになる。サファ、料理、とても、うまく、なった。誰かと、比べなくて、いい。サファは、サファにできることを、やればいい」
スーはまたポチタロウに言われた言葉を引用した。スーは、ポチタロウと「同じ」が好きだった。
「・・・ありがと」
「い、今のも、ほとんど、ポチにぃの、真似、しただけ・・・」
サファにお礼を言われ、ふいに両手を持たれたスーは照れた。こういう女の子らしさも、サファのいいところだ、と、スーは後付けで思った。サファは決心したように、スーに言った。
「スーちゃん、お願いがあるんだ」
ーーーーーー
小屋を砕いて出発する時間が近くなった頃、サファはポチタロウに「勇者様、少しお待ちください」と声をかけた。そのままスーと、取り壊されるのを待つ、小屋の中へ入っていく。
「ほんとに、いいの? サファ?」
「うん、ひと思いにやっちゃって!」
・・・
・・・
・・・。
サファが外へ出てくると、ポチタロウは固まった。
「・・・!」
「あ、あんた! それ!」
「サファ、身軽になったナ♪」
小屋から出てきたサファの髪は、肩にかからない程度にバッサリ切りそろえられていた。長かった金髪を、スーに切ってもらったのだ。
(全可侵って決まったけど、今の私に、そこに参加する資格なんて「まだ」ない! 勇者様の・・・ううん。みんなの役に立てるように、まずはなろう!)
サファはそう決意した。
ーーーーーー
(ちょっとビックリしたけど、サファは、ショートカットも似合うなぁ)
ポチタロウは、そんなしょうもないことを考えていた。指揮ができ、指針を決められても、複雑な乙女心については何もわかっていない、ポチタロウだった。
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