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第一部
スー=スレイプニル(幼女エルフ:10)
しおりを挟む特訓の日々が始まった。教官達が、1年かけて、精霊の力の使い方や、戦闘方法、旅の技術等を教えると言う。
・・・だがその前に、スーはまず「セントルムでの常識」から覚える必要があった。スレイプニルにはなかった概念が、ここにはいくつも存在した。例えば「曜日」「時間」「月」等だ。長寿のエルフ達は時間に関する観念が薄かったのだ。
こちらでは、ルネ(月曜日)からドミナ(日曜日)までの7日間を1セットとして、ある程度、やることが決められた。ルネからウェヌまでは、だいたい、実技→座学→実技→座学→実技、と授業が進められた。1コマはちょうど1時間で、20分の休憩を挟んで、次の授業が始まる。2コマ目と3コマ目の間だけ、1時間の昼休みがあった。
バタムには、特別課題があった。野営や模擬戦、近隣の魔物討伐等だ。
ドミナは基本、休みだった。前の日が、野営だった時だけ、その片付けを行い、そこから自由時間になった。
ポチタロウのしっぽの件があってから、スーは物事へ興味を持つことを少しずつ思い出していた。・・・というより新しくやることが一気に増えたので、それらに対応するのに、興味を持つ必要があったとも言える。スーは無理矢理にでも興味を持たないと、覚えが極端に悪くなるのだ。
最初、あまり乗り気ではなかったスーだったが、他の3人にひっぱられる形で、次第にまた「学ぶ」ということを始めていくのだった。
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スー=スレイプニル(幼女エルフ:10)
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さすがに、勇者/聖女として、選ばれただけあって、他の3人は優秀だった。スーは座学の折に挟まれる小テストで、ポチタロウにちょくちょく負けた。スーが最初に抱いた印象よりも、彼は、はるかに頭が良かった。スーが同年代を「頭がいい」と思ったのは初めてのことだった。
実技ではワフルの無双状態だった。身体能力が高く、力も強い彼女は、大抵の課題で規格外の記録を残した。例えば鉄の重い玉を投げるテストでは、みんなの5倍以上の距離を放り投げた。スーは自分と同じくらいの背丈の、その少女のどこに、そんな力が潜んでいるのか不思議だった。ワフルは感覚派で、体を動かすことは、なんでもすぐに覚えた。
サファは、座学も実技もバランス良く、そつなくこなした。その上、気配りや女の子らしさも持っていたし、慎ましかった。保健体育なる授業に、興味を持てなかったスーは、そのテストで一度も、サファに勝てなかった。
同年代に負けたことがなかったスーは、ドミナ返上で、勉強と鍛錬にいそしむことになった。
そのうちすぐに、ポチタロウとワフルが仲良くなり、そこにサファも加わった。休み時間に聞こえてくる笑い声を聞きながら「また、ボク、一人か・・・」とスーが落ち込み始めた頃、昼休みにポチタロウが話しかけてきた。
「スーはすごいねぇ・・・いろいろ知ってるのに、とっても頑張ってるね」
「・・・ボク、そんな、すごくない。みんなを見てて『さらに』思った」
スーはめまぐるしい日々の中で、あまりフリイ達のことを思い出さなくなっていたが、フリイ達に逃がされた後に、自分が感じた「無力感」はずっと抱えていた。「さらに」と発言したのは、その時のことを引きずっていたからだ。
「僕はスーが、十分すごいと思ってるよ。うーーんと。でも、十分すごいから、そんなに頑張りすぎなくて、いいんじゃないかな?」
「・・・?」
頑張らなくていい。と聞いたスーは当惑した。そんなことは初めて言われた。
「えーっと、変なこと言ってたらごめんね。いつもずっと100%だと、張り詰めちゃって、何かあった時に対応できなくなったりするから、普段は60~80%で余裕を持ってやるといいよ・・・って教えてもらったことがあってさ。余力があれば、いざというときにも動けるから」
「なるほど・・・」
スーの体にその言葉はストンと落ちてきた。没頭すると、一つに集中してしまいがちなスーは、1時間毎に授業が切り替わるのが少し苦手だったし、全てに全力で取り組んだので、一日の終わり頃にはヘトヘトだった。
「それにほら。僕らって『仲間』だろ? 全部、自分一人で出来なくても、誰かができればいいって言うか・・・スーは全部自分で、抱え込もうとしてる気がして、心配してたんだ・・・」
「仲間・・・」
スーは自分がそんな風に思われてるなんて夢にも思ってなかった。そして「仲間」という単語からすぐフリイ、ミドウ、オネイロ、タクローを連想した。あの4人は確かに「仲間」だった。そして今、自分の目の前に「仲間」と言ってくれる人が、いてくれる。
「ボク達、仲間、なのかな?」
「・・・今はまだ、そうじゃないかもしれないけど。僕はそう、ありたいと思ってるよ」
そう言ったポチタロウの尻尾は嘘をついていないようだった。ゆらゆらと穏やかに揺れている。顔はいたってまじめで友好的だ。
「ボク、頑張らなくて、いいのかな・・・」
「・・・んー。まあ、さすがに、頑張らなさすぎもダメな気がするけど。あんまり力を入れすぎずに、スーはスーの得意なことで、みんなをサポートしてくれれば、いいと思う」
確かにそうだった。雑なフリイを几帳面なおねぇがフォローしたり、タクローの非常識なところをミドにぃが、たしなめたり・・・そうやってみんなお互いを補いながら過ごしていた。
「でも、ボクの、得意なことって、なんだろ?」
「授業の範囲外でも気になったことを最後まで調べるところ。ちゃんと人の話を理解しようとするところ。あと、とってもまじめで一生懸命なところ、かな。・・・今はまだ、自分の得意が、自分でわからなくても、きっとこれから、見つかると思うよ」
ポチタロウはスーの質問にスラスラと答えた。「ボクのこと、そんなに見てくれてたんだ」とスーはまた驚いた。少し嬉しくもなった。
「ポチタロウは?」
「ん?」
「ポチタロウの得意と苦手。教えて。ボク、サポート、できるように、なる」
「・・・! ・・・ありがとスー。・・・僕は、えーーーっと・・・」
スーのことには即答だったポチタロウは、あまり自分のことはうまく喋れないようだった。スーにはそれがなんだか少し、面白いことに感じられた。不器用さが、誰かさんに似ている。
「僕の得意は、アイデアを出すこと・・・かなぁ? あと苦手は・・・というか、僕も頑張りすぎるところがあるから、今回スーを心配したというか・・・僕もスーと同じとこあるから、頑張りすぎてたら、教えてね」
「わかった。そうする」
「ありがと。じゃ、またね」
最後にぎこちなくそう言ったポチタロウは、それでも笑顔で去って行った。去り際の背中に見える尻尾はガクブルしていて、彼も緊張したんだろうな、とスーは察した。また少し笑ってしまった。緊張も、スーと「同じ」だったようだ。
ーーーーーー
それからスーは少しずつポチタロウに話しかけるようになった。話題が思いつかなかったので、主にそれは「質問」の形になった。ポチタロウはスーの質問攻めに嫌な顔一つしなかった。フリイですら「今日はこれ以上はめんどくせぇ」と投げ出すことがあったのに。
4人の宿舎には「図書館」なるものがあり、そこには本がいっぱい置いてあった。これにはスーも、少しテンションが上がった。スーはハシゴを使って、窓際、左上端の本から順に読んでいくことにした。
ポチタロウは、スーの読んでいる本の内容を聞いてきたり、それを読んだりするようになったので、二人の間で、本の情報交換が行われ始めた。時折、ポチタロウは、すごく大人びた発言をしたので、スーは、彼がずっと年上に思うことがあった。
スーはワフルやサファとも、ポチタロウを介して、しゃべれるようになっていった。それまで二人からしゃべりかけられても、ちゃんとした返事ができないでいたのだ。唯一まともな会話ができたのは、ポチタロウが大精霊を宿されている間にしゃべった時の、たった1言だけだった。スーの同世代コンプレックスは、重症だった。
ポチタロウにフォロー(通訳)されながら、二人と話してみると、スーは、ワフルとすぐに打ち解けられた。ワフルは裏表がなかったし、最初のワフルのニカッとした笑顔を見た時から、スーはワフルのことが嫌いではなかったのだ。
サファとは「打ち解けた」感じはなかったが、その適度な距離感は、別に悪い気がしなかった。つたないスーの言葉を、ちゃんとわかってくれた。
それからのスーは、ドミナには力を抜いて過ごすようになった。主には寝て過ごした。
ーーーーーー
時間はあっという間に過ぎていった。1ヶ月が経つ頃には、スーもセントルムでの常識を覚え、心にも余裕ができてきた。ポチタロウに言われ、力を抜いたのに成績は上がり、座学のテストでは満点がデフォルトになった。・・・保健体育以外は。
実技でも精霊魔法の精密性は群を抜いていた。的当てでは、狙った的の、ど真ん中を、いち早く風で切り裂けるようになった。他のみんなから褒められ、驚かれ、感動され、ちょっとドヤ顔になったが、本人は気づいていなかった。スーは、得意なことを一つ、見つけた気がした。
「ポチタロウの、言ったとおりだ・・・得意、見つけた。魔法の制御を教えてくれた、おねぇの、おかげだ」
・・・久々にオネイロの愛称を口にしたスーは、ハッとした。「あんまりみんなのことを思い出さなくなっている自分がいる」ことに気づいてしまった。スーはそれを少し哀しく思った。
スーの荷物や服は、スーが意識を失っている間に全て処分されていた。すでにどれもこれもボロボロだったのだ。気づいた時にはスーは新品のローブや靴を身につけていた。
「せめて、フリイが最後に巻いてくれた、マントがあれば、いいのに・・・」スーは思った。あのボロボロマントは、フリイの雑さと暖かさ、両方を兼ね備えた一品だった。
「みんなとの思い出が何もなくなった」と感じたスーは、せめてもの慰みにと、氷の魔法で、みんなの人形を作ろうとした。
だが、氷の魔法まで使えなくなっていた。教官に聞くと、精霊を体に宿すと、干渉をおこすので、他の属性の魔法が使えなくなるのだ、と言われた。あと、すでにスーが魔法が使えたことに、とんでもなく驚かれた。
(先に言ってほしかった・・・いろんなもの、失ってく・・・)
スーは勝手に連れてこられて、いろんなものを奪われ、望みもしない魔王討伐まで押しつけられたことに、段々、腹がたってきた。
(張り手でも、できたら、いいのに・・・)
スーは、ハリティ張り手の計画を練りながら、酒を飲んで、馬鹿げたアイデアを出し合う4人を思い浮かべた。フリイ達のいた、ハチャメチャでも楽しかった日々へ、思いを馳せ、泣きそうになった。
ーーーーーー
「どうしたの、スー?」
「どっか痛いカ? お腹、減ったカ?」
「スーちゃん、回復魔法、いる?」
スーが一人、中庭で塞ぎ込んでいると、3人がやって来た。みんなの心配そうな顔と、心配そうなポチタロウの尻尾を見て、スーは「仲間」だと言ってもらえたことを思い出した。スーはもう、いろいろと一杯だった。
「ボクは・・・」
・・・
・・・
・・・。
スーは、堰を切ったように、いろんなことを、初めてみんなに打ち明けた。村が襲われたことや、逃がされたこと。持っていたものが何もなくなってしまったこと。(ハリティ張り手を止めたのは自分だったのに)首謀者にせめて張り手がしたいこと。スーは思いつく限りのことを語った。(よくわからなかった部分は、ポチタロウやサファが、スーに聞いて補った)
「「「・・・・・」」」
3人はしばし絶句した。その人生の壮絶さに驚いたり、自分自身と重ね合わせてみたり・・・。それぞれにいろいろと思うことがあったのだ。スーは同年代との距離感も良くわからなかったので「しゃべり、すぎた、かな?」と後悔した。
「・・・じゃ、魔王を倒そっか」
しばらくすると、ポチタロウが、明るく、そう言った。
「え?」
呆然とするスーにポチタロウは言った。
「魔王を倒したら、大精霊を宿しておく必要がなくなるから、それを取っ払ってもらったら、また氷の魔法を使えるんじゃないかな?」
「!」
「オオ」
「あと、王様、言ってたよね? 『魔王を倒したあかつきには、何でも望みどおりの褒美を授けよう』みたいなことを」
「うん。勇者くん。王様、それ言ってた」
「魔王を倒してきて『僕らを魔王討伐に巻き込んだ当本人に、張り手がしたい!』って言えば、張り手できるんじゃないかな? たぶん、当本人って、王様とか預言者さんだろうから、ちょっと後が怖いけど・・・」
「・・・」
「なるほど♪ ポチタロ賢いな。・・・ワフルも叩くカ?」
「ワフルちゃんが叩いたら、死んじゃいそうだから、やめておいてね・・・」
「わかったゾ」
「スーの話を聞いて、僕も腹がたったことあったの、思い出したし、何か一矢報いたいなって思ったよ。この国の大人達のやり方に。・・・とりあえず魔王を倒して帰ってくるまでに、張り手以外のいい方法もないか? 何か考えてみる・・・ってことでどうかな? 思いつかなかったら王様であれ、張り手する方向で♪」
「ワフルは、いいと思うゾ」
「勇者くん、私もそれでいいよ」
突拍子もないかと思われた、ポチタロウの意見に反対は出なかった。
「スーは?」
「・・・いいの? 下手したら、殺されちゃうよ?」
「うーーん。・・・殺されるのは、あんまり良くないかな? ・・・だからスーも一緒に別の案も考えてよ。殺されなさそうな奴。そういうのスー、得意そうだし」
「わ、わかった」
ポチタロウにニコッと言われ、スーは頭が混乱した。(この3人は、まじめにボクの話を聞いて、くれた。張り手にすら、真っ向からは、反対しなかった・・・。おまけに、ポチタロウは、ボクの頭脳まで、有効利用しようとしてくる・・・)スーはゾクゾクした。
この3人となら、魔王討伐に行くのも楽しいかもしれない。王様をビンタして、逃げてもいいかもしれない。・・・仲間、なのかもしれない。スーは思った。
ーーーーーー
その夜、スーは珍しく寝付けなかった。自分にも仲間ができたのかもしれない、という興奮が半分、フリイ達のことを思い出さなくなっていく悲しさが半分。それぞれがスーの中をゆらゆら漂っていた。
(どっちへ進めばいいんだろう?)
スーは迷っていた。フリイなら迷わず前へ進んだだろうし、スーがそうすることも応援してくれる気はした。それでもフリイ達のことを全部忘れて、前へ進んでいくのは、何か違う気もしていた。
モヤモヤしたスーは、ベッドを抜けだし、また中庭に向かった。
「いい言葉、いい言葉、いい言葉・・・」
0時も近いのに、そこには、行ったり来たりしながら、何かを呟いているポチタロウがいた。
「なに、してるの・・・?」
スーが尋ねると、ポチタロウはビクッとなり、尻尾の毛が逆立った。
「ス、ス、ス、スー。ご、ごきげんよう・・・どうしたの、こんな時間に?」
ポチタロウは挙動不審になり、口調もおかしくなった。スーが今までに見たこともない狼狽した顔と、尻尾の動きだ。何かが怪しかった。
「寝れなくて・・・ポチタロウは?」
自分の知らないポチタロウの一面を見て、少し訝しげにスーはそう聞いた。
「僕はえーーーっと・・・」
そこまで言うと、ポチタロウは肩を落として観念した。ポチタロウはスーに(というよりみんなに)感情を見透かされているのを、少し感じとっていた。(実際に《主に尻尾が原因で》だいたい見透かされていた)偽ったって、この子にはどうせバレる。
「・・・考えてたんだ」
「・・・何を?」
「今のスーにあげられる、一番いい言葉を」
「・・・!」
(なんで、この犬っころは、そんなに知りもしない、ボクのために、こんなに一生懸命なんだろう・・・)
スーは、心の中で悪態をついた。今度は「悲しくて」じゃなく「感動で」泣きそうになってしまったのだ。いつからかスーは、涙を堪えるために、怒るクセがついていた。
「言葉をいくつか考えたんだけどさ。まだしっくり来てなくて・・・なんか、ただの誰かの言葉の引用ばっかりな、気がして・・・ってこんな話、本人の前ですることじゃないよね。・・・ゴメンね」
的外れにポチタロウが謝ってきた。ポチタロウとフリイは全然違う。フリイはこんなに謝ったりしない。ほんと全然違う。それでもスーは認めざるを得なかった。その不器用な優しさは、フリイのと同じで、スーの心に響いたし、とっても暖かい気持ちになってしまうことを。
「今、あるの、聞いていい?」
「へ?」
「今まで、考えたの全部」
「うぅぅーーん・・・」
ポチタロウは、珍しく嫌そうな声を出した。人の言葉を並べ変えて、パッチワークを当てたような言葉が、スーに伝わるとは、到底、思えなかったのだ。
「・・・お願い」
「・・・いいよ」
スーのウルッとした瞳での懇願にポチタロウは即答した。この頃からすでにポチタロウは、スーの(というよりみんなの)お願いを断れなかった。ポチタロウはズボンの後ろポケットから、メモ帳を取り出すと、中庭のベンチに腰掛けた。
ーーーーーー
「長くなると思うから・・・よかったらスーも」
ポチタロウは、そこまで言うと、ベンチの自分の隣をポンポンと、やさしく叩いた。スーは大人しく、そこに腰掛けた。
ポチタロウはコホンと軽く咳をして、メモを読み上げ始めた。
「えーーっと・・・。こ、氷の像は作れなくなっちゃったけど、例えば、みんなのことを絵で描くことならできるから。やり方を工夫したら、きっとみんなのことを、ずっと忘れないでいられるよ・・・とか・・・」
「うん」
「スーが実際に見たわけじゃないなら、まだ死んでないかもしれないから。自分の目で見るまで信じないで。魔王を倒したら、実際に僕らの目で、見に行こう・・・とか・・・」
「・・・うん」
「人は死んだら『思い出になる』って聞いたから、たとえ死んでたとしても、スーの中にはちゃんと生きてるよ・・・とか・・・」
「うん・・・」
「スーが今、『失ってばっかりだ』って感じてるなら、失った分よりたくさん、僕らで、いろいろ手に入れよう・・・とか・・・」
「うん・・・」
「氷の魔法は風の魔法になっちゃったけど『魔法のコントロール』はちゃんとオネイロさんから教えてもらったことだから、それはちゃんとスーの持ち物だよ・・・とか・・・」
「うん・・・」
「スーの大好きな4人の門番さん達が心配せずに、済むように、僕たちも負けないくらいにいい仲間になろうね・・・とか・・・かな。・・・以上・・・だよ」
読み終える頃にはポチタロウは、恥ずかしさに顔は真っ赤で、冷や汗ダラダラだった。「こんなので伝わるのか?」と、まるきり自信がなかった。チラリと、ポチタロウが横を見ると、スーは涙をダラダラ流していた。
「どれも・・・ど・・・どれも。・・・ボクには、ちょっとずつしか、響かなかった・・・」
「そっか・・・ごめんね・・・」
「・・・でも、どれも。・・・ちゃんと、ちょっとずつ、ちょっとずつ。響いた」
「・・・なら、ほんのちょっとだけ、良かった・・・」
「でも・・・でも・・・。いっぱい、いっぱい、考えてくれたことが、一番嬉しかった!・・・なんでそんな、してくれるの! ありがと・・・バカ!・・・ありがと・・・」
「スー・・・」
「うああ! ・・・うわああああああああぁぁぁん!!!」
スーはポチタロウにしがみついて、泣いた。今まで生きてきた中で、一番泣いた。感情の起伏が乏しく「泣くのは堪えるもの」だと我慢してきたスーは、泣き方も良く知らなかった。それは、どこか叫びにも似ていた。
あまりのスーの泣き声に、サファ、ワフル、教官達、給仕、兵士達が、おそるおそる集まりだしていたが、ポチタロウは指で「しっ」と合図して、ウインクと手振りで、みんなを返した。
みんながいなくなるまで、ポチタロウは、スーの頭を抱きしめて、スーがみんなに気づかないようにやり過ごした。おおごとになると、またスーが気に病むような気がしたのだ。
ポチタロウは泣き出したスーを無意識に抱きしめていたが、二人きりになった後、その柔らかさや、体温の温かさ、良いニオイに、ドキッとしてしまった。
ーーーーーー
泣き疲れたスーは、眠ってしまいそうになっていた。でもあと少し、やっておきたいことがあった。「やりたいな」とちょっと前から思ってたことがあって、今、それを「やる」と決めたのだ。
「ス、スー!?」
ポチタロウの腕の中で、モゾモゾ動いたスーは、逆に彼の側頭部を両手で掴んだ。そのままポチタロウの目をのぞき込んだ。ポチタロウは、アタフタした。
(うん。やっぱり、ミドにぃとも違う。・・・もっと幼い。・・・でも)
「ポチにぃ、って、呼んでも、いい?」
「んえ!?」
「ポチにぃ、って、呼びたい。・・・ダメ?」
そこまで言われて、ポチタロウも理解した。やっと、スーも少しは懐いてくれたのだと。
密着状態で、ドキッとしているのがバレて、側頭部、両手持ちからの、頭突きでもされるのかと、彼は身構えていた。単純に女の子と目を合わせられなくて、挙動不審になっていたのもある。
スーの意図がわかった今、ポチタロウはいつもの一つ返事を返した。
「いいよ」
「・・・ありがと」
スーは、そう言うと、ポチタロウのほっぺたに、軽く唇をあてた。ミドウが女の子達と、それをしているのを、スーは何度も見てきた。物語の中でも、いっぱい見た。これは親愛の表現だったハズだ・・・。
そこでスーの電池は切れた。
・・・
・・・
・・・。
突然のことに、ポチタロウは呆然となった。何をどう思えばいいのか? も、わからなかった。それでもしばらく放心した後、眠ってしまったスーを抱きかかえた。
スーは華奢で軽かった。この子がいろんな想いを抱えて、生きてきたのが、信じられないくらいに軽かった。
ポチタロウは、スーの部屋のベッドに、スーを寝かせ、自分の部屋へと戻っていった。
ーーーーーー
「ふわぁーーーっ・・・」
翌朝、ポチタロウが、少し遅めに目を覚まし、食堂へ行くと、スーがトテトテとやってきた。
「・・・おはよ、ポチにぃ」
「うん。おはよー、スー」
スーは、ピトッとポチタロウにくっついてきた。
(な、何? か、可愛いすぎない? この子・・・)
一晩でスーは甘えん坊になっていた。今まで頑張りすぎていた分、メーターが逆に振り切れてしまったようだった。まだ感情の起伏は乏しい感じがしたが、スーは年相応な感じの幼さを取り戻していた。
ーーーーーー
ー 余談 ー
これをきっかけにポチタロウは「このままでは、魔王を討伐する前に、可愛いみんなにノックアウトされてしまう」と、感じ、王子様の仮面をかぶって、お姫様ロールプレイを発動するようになっていった。
また「スーに急に近づかれて、アタフタしてしまった」ので、いつでも冷静に対処できるよう、密かに「気配察知」の修行をつけてもらうことにした。
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