入れたいのに入れたいのに入れたいのに「ピュルッ」と出てしまう「元ショタ勇者」の物語

人外倫理

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第一部

スー=スレイプニル(幼女エルフ:1)

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【 スーサイド(三人称視点) 】



 広く深い森の真ん中に、世界樹と呼ばれる巨木があった。その木は周辺の、どの木、どの山よりも高くそびえ立ち、超巨大な入道雲みたいにこんもりとした、広葉を蓄えていた。エルフ達は、その大樹の下に集落を作り、狩猟と採集を主な生業として質素に暮らしていた。


 世界樹の下には日の光があまり差し込まなかったが、聖なる力で満ちていたので、健康を害することは少なかった。肌が白く、日焼けを嫌うエルフ達にとって、おあつらえ向きの場所だった。



 スーは、そのエルフの集落「スレイプニル」で生まれた。繁殖することの少ないエルフにとって、子供は共通の宝だった。この村で生まれた子は皆、1カ所に集められて、育児専門のエルフ、通称「ハリティ」達に育てられるのが、昔からの習わしだった。


 
 子を成したエルフは、初めて成人と認められ、森から出ることを許された。スーの両親は、スーを生んだ後「都会を見てみたい」と、言い残し森を出立し、そのまま帰らなかった。街に溶け込んだのか、どこかで野垂れ死んだのか? は、定かではない。この村では良くあることだった。



 スーは、生後5ヶ月で、はいはいを覚え、言語を理解した。世話役のハリティ達を捕まえては、本の朗読をねだり、1歳1ヶ月で、文字の読み書きも習得した。まだ歩くことはできなかったが、スーにとっては、這い回れるだけで十分だった。



 育児部屋で他の3人の赤子が、まだ「あーあー、うーうー」言っているのを尻目に、スーは窓際の本棚へ行き、片っ端から本を読んでいった。子供向けのそれらを読み終えると、今度はハリティ達に、もっと難しい本をせがんだ。



 要求が受け入れられないと「もっと本を!」と書いた紙を、プラカードのようにかかげ、はいはいしながら、一人ストライキを起こした。



 この頃には、事態の異常さが、村の要人達の耳に届くようになっていた。排他的なエルフ達の閉鎖的なこの村で、異端児は忌み嫌われた。子は宝だが「何もない日常を守っていく」ことの方が、より優先された。



「このままスーをここに置いておくわけには、いかぬな」
 エルフにしてはフケ顔の、長老が言った。



「では、どうなされるおつもりです?」
 エルフにしては角刈りの、村の衛兵頭が聞く。



「そこは、こう・・・うまいことやってだな」
 長老は言葉を濁した。



「誰か、いい意見はないかね?」
 責任から逃れる為、長老は、意見を募った。



「うーむ・・・」
「それは・・・」
「・・・」



 会計長も、狩猟頭も、採集頭も皆一様に黙り込んだ。下手に発言すれば「じゃあ、お前がそれをやれ」とお鉢が回ってくるに違いないからだ。



 「スー問題」はそのまま二年の間、進展を見せなかった。エルフの時間感覚は長かったし、この村の日和見主義的な慣習は、闇深かった。



■■■■■■
□□□□□□


スー=スレイプニル(幼女エルフ:1)


■■■■■■
□□□□□□



「『サクノソト』の誰かに面倒を見させる・・・というのは、ど、どうでしょう・・・?」



 二年ごしに、採取頭がやっと、そう提案した。長老の長きに渡る誘導で、言わざるを得なかった、というほうが正しい。



ー 自分の発言ではない。すなわち、自分の責任ではない ー



 長老は言い訳を見つけると内心ほくそえんだ。



「いいんじゃないかと思うが? ・・・皆も異論はないよな?」
「はい」
「ありません!」
「な、ないです!」



 こうなれば彼の独壇場だった。スーは、3歳半にして「サクノソト」へ送られることが決定した。



 「サクノソト」は、言葉のとおり、村の「柵の外」だ。「柵の外」と言う言葉が使われ続けたことで、地名のような単語になった。



 サクノソトではスーと同じように異端だと見なされた何十人かのエルフ達が、各々の暮らしを送っていた。村との交流は入り口での「物々交換」だけ。いわゆる「村八分」状態だった。


 そんな状況でも、大抵のはぐれエルフ達はそこに残らざるを得なかった。早期に異端だと決めつけられて、柵の外へ放り出された者は、森から出られなかった。子を成す前のエルフには、森の出口は示されない。この大きな森から自力で出るのは「鹿の二本のツノに同時に矢を当てるくらい難しい」と言われていた。



ーーーーーー



 採取頭は、今、スーを抱きかかえた一人のハリティと、何人かの部下を引き連れ「サクノソト」へやって来ていた。エルフにしては小太りな彼は、憤っていた。



「何故、我が輩がこんなことまで、しなけりゃいけないのだ!? ブフー!」
 鼻息も荒い。



 長老の二年に及ぶ、粘着に彼は辟易していた。わざわざ豚の丸焼きを取り寄せ、皮だけを少しだけ送りつけてきたり、ダイエットの秘訣なる本を、朗読させられたり。うまく朗読できなかった罰則だとかで、スーサクノソト、スーサクノソトと、千回書かされたり・・・。



「もういい!!! サクノソトの事は、柵の外! 奴らに押しつけてやる!」



 怒り心頭の採取頭はサクノソトで一番の問題児達のところに、スーを置いてくることにした。長老への意趣返しの意味もこめて。



 サクノソトは基本「村八分」だったが、一部、例外もあった。門番達だ。世界樹を中心に、円状に柵で囲われたスレイプニルには、東西南北にそれぞれ一つずつ門がある。その門の「柵の外」に住んでいる門番達だけは治安の都合もあり、内側へも入れた。門番達は「強すぎて異端」で、そういう者は大概サクノソトで門番をやらされた。



 東西南北4人の門番達は、それぞれにクセが強すぎて、度々問題を起こした。だが必ず不問にされた。もし刑罰に処して、彼らの怒りを勝ってしまったら「柵の中」のエルフ達では対処のしようがなかったからだ。



 門番達はどんな魔物が来てもそれを退けたし、わずかな金と交換に、魔物素材を村に卸した。彼らが起こす多少の厄介ごとより、村にとっては「利」の方が勝っていた。



「あいつらに押しつければ、また問題ごとが起こるだろう・・・だが、ちょうどいい! 我が輩、採取頭を辞めて、長老が困る姿を見て楽しむ! フヒヒ!」



ー 粘着には粘着を ー



 長老に困らされてきた彼は、堪忍袋の緒が切れて、キレていた。彼は長老を困らせることにこれからの人生を費やすことにした。もうすでに、食べていけるくらいの蓄えはある。この村には、悪循環という名の渦がグルグルと回転していた。



ーーーーーー



 南の門。柵の外。門から50m程離れた森のそばに、屋根だけは高い、小さな小屋が一つ建っていた。小屋にはベッドと幾ばくかの生活用品が置いてあり、残りのスペースには酒瓶とゴミが乱雑に転がっていた。足の置き場もないようなそこで、南の門番「フリイ」は、大剣をふるっていた。



「ふんっ、はあっ!」



 小柄だが、エルフにしては筋肉質の彼女は、汗だくになりながらも、一糸乱れぬ挙動で巨大な剣を操っていた。青いボサボサの長髪がその度に揺れた。



「邪魔をする。フリイ殿は、ご在宅かね?」
「あーん? なんの用だ?」
 開け放してあった小屋の扉から入ってきた採取頭をフリイはうろんそうに睨んだ。彼女は口とガラが悪かった。



「この子を門番達の間で、預かって欲しいのだが?」
「んー?」



 採取頭の指示で、付き従っていたハリティがスーを降ろした。スーは、ヨチヨチとフリイの方へ歩き「・・・こんちは」と言った。この頃にはスーも歩けるようになっていた。



 小さい目が、フリイをのぞき込んでくる。小首を傾げたその小動物はとても可愛らしかった。



「よ、幼女じゃねぇか・・・」
 フリイはたじろいだ。スーと同じく早期に、異端だと見なされた彼女にとって、幼女は見過ごせない存在だった。守るべき対象だった。同じように放逐されたとあっては尚更だった。


「こ、この子を預かれと?」
「左様。いや、何、フリイ殿だけを煩わせるつもりはない。他の門番達と話し合ってうまいこと、やってくれればいい。・・・すでに他の門番達にも、説明の者が向かっている」



ー 他の奴と一緒に!? そっちの方がまずいって! ー



 フリイは思った。



 この世界には「ロリコン」という単語こそなかったが「幼女好き」は確実に存在していたし、程度の違いはあれ、門番全員幼女好きだったのだ。しかも残りの三人、全員男(一人はオカマだったが)ときている。



 他の3人の門番も、自分と境遇が似た、気が置けない奴らではあったが、フリイは、こんな美幼女を、彼らにまかせてはいけない気がした。



「んー。どうすっかなー?」



 心で考えるつもりが、フリイは声に出していた。彼女は面倒くさいことは嫌いだった。それでも、自分が面倒を見てやる方がいいだろうとは、なんとなく察した。フリイはがさつだが、反面、自分の感覚を信じていた。そうして今まで生き延びてきたのだ。



「・・・よっし! この子はあたいが全面的に面倒を見る! ちっちゃいの、名前は?」
「・・・スー」
「よろしくな、スー!」
「うん」



「よろしいので? フリイ殿?」
「ああ。よろしい、よろしい! さっさと行っとくれ」
「・・・では失礼をば・・・」



 こうしてスーは、南の門番「鉄壁のフリイ」の家で暮らすことになりかけたが・・・。



「おーい!フリイ」
「フリイ殿~」
「フリイちゃ~ん♪」



 他の3人の門番達が、仕事をすっぽかしてやって来た。幼女が来たと聞いて、いてもたってもいられなかったのである。


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