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第一部
ポチタロウと、トリックアートなおじいさん:8
しおりを挟む吹き抜けの階下から2階へ登りきった僕は、すぐ目の前の部屋へと通された。部屋へ入るように促された時も、木製の椅子に座るように指示された時も、老人は終始無言でジェスチャーだけで済ませた。さっきまでと打って変わった静けさだ・・・。
中は狭く、机一つと、それを挟んで対になった椅子が二脚しかない殺風景な空間だった。さながら取調室にでも入ったかのようだ。おじいさんも机を挟んだ向かい側に座り、肘をつき、両手を組み合わせて、碇ゲン○ウをイメージさせるような格好で黙り込んでいる・・・。
なんか圧がすごい・・・。「刑事さん、カツ丼ひとつ」とか、言える雰囲気ではない。
「・・・」
「・・・」
静寂が怖い。
「・・・・」
「・・・・」
なんか、言わなきゃ・・・
「・・・・・」
「・・・あ、あの・・・」
何を言うべきなんだろう?
「・・・・・・」
「・・・・・・」
・・・
・・・
・・・。
「・・・わしも幼女と旅をしたかった」
開口一番、おじいさんはそう言った。
「へ? なんて?」
「わしも幼女と旅をしたかったぁぁあああああ!」
老人は「オジイサン」から「スーパーオジイサン」になりそうな勢いでそう叫んだ。
■■■■■■
□□□□□□
ポチタロウと、トリックアートなおじいさん:8
■■■■■■
□□□□□□
「わしの時は、じじい2人に、ばばあ2人の旅じゃったんじゃぞ? 落差がありすぎじゃろ?」
「はあ」
「はあ、ではないぞ、明日太くん? お主が如何に恵まれておるのか? 本当にわかっておるのか?」
「すいません・・・」
叫んだ後、老人は、一気にまくしたてた。
・この世界では100年に一度、魔王が現れること。
・自分は異世界転移者で、先代の勇者であること。
・自分の時は、老人4人での魔王討伐だったこと。
・・・などなど。「などなど」の部分は、主に説教だった。
「だいたい、なんでサウナで服を脱がん? マナー違反じゃろが!」
「すいません・・・だって、まさかクジラの中が、サウナになってるとは知らなくて・・・」
僕はあやまりっぱなしだった。幼女と魔王討伐へ行ったこととかは、別に僕が決めたことではないんだけど・・・。
「このクジラ、良いじゃろう? 特注で作ってもらったものじゃ」
「はい・・・すごいですね」
今度は話がクジラの話題に飛んだ。このじいさんは、言いたいことを言いたいように言ってくる。もっと理知的な人だと思ってた。人と話すのが久しぶりだったりするのかな?
「蒸気を利用して飛んでおるから、下部をサウナにしてもらったんじゃよ。木と火と水の精霊の力で、蒸気を生成しながら、タービンを回して発電もしておる。おかげでこの家は快適じゃ」
「へ、へぇ。すごいですね」
老人は、誇らしげだ。「この人、効率厨だな」と僕は思った。まあでも、僕らの自治区にもなんか循環して効率のいいシステムを作るのは面白いかもしれない。スーとか好きそうだし。
「でもなんで、おじいちゃんは、そんなに科学技術とかに詳しいんです? ドラ○ンボールとかも知っておられたようですし。100年前にはなかったですよね?」
「なんかこの世界の100年が向こうの1年に相当するらしいのぉ。わしもようわからんのじゃが。『すまほ』とかも、わしは使いこなしておったよ?」
おじいさんはスマホを触るジェスチャーをした。人差し指でスライドしようとするその仕草は、ご高齢の方に多い操作方法だった。
「・・・何歳の時に、こっちへ召喚されたんですか?」
「じじいになって死んだ瞬間じゃよ。じじいで転移させられて、寿命を200年延ばされたんじゃ」
「ふむ・・・」
おじいさんの場合は異世界「転移」で、僕の場合は異世界「転生」だったと。前回は老人4人の魔王討伐で、今回は子供による魔王討伐。ここらへんになんか法則とかあるんだろうか? 神様的なのの、気まぐれなんだろうか?
「おじいさんは、神様?に会ったことはあるんですか?」
「いんや。声を聞いたことはあるが、会ったことはない。・・・預言者殿は、直接の関わりがあるようじゃが・・・。ただ、これだけは言える・・・」
「え?」
「『おてんとうさまは見ておった』よ。」
ー おてんとうさまは見ていた ー
一体どういうことだろう?
「というか、わしも見ておったしな」
「へ?」
ますます訳がわからない。てか情報量多過ぎない!?
「お主らの魔王討伐は、預言者殿によって、全部記録されておったのじゃよ。編集されたものが『こんてんつ』として、各神のところへ配信されておったのじゃと。わしもご相伴にあずかり、毎週見ておった・・・そうして目覚めたのじゃ・・・」
老人はそこで溜めに溜めた。
・・・
・・・
・・・。
「・・・幼女の素晴らしさにな・・・」
眉毛越しに見える瞳がキラーンと光った気がした。
てか、そんだけ溜めて、幼女かよ! まあ4人ともすごく可愛いからわからないでもないけど。・・・ってか結婚までしちゃったけど・・・。
「・・・じゃからわしは羨ましかったんじゃよ、君が」
「・・・はあ」
そりゃあまあ、僕もご老人と旅するよりは今の方がいいけど。
「わしもスーちゃんやワフルちゃんとキャッキャウフフしたかった・・・。」
「キ、キャッキャウフフ・・・」
スクリーン越しには、僕らの旅はそんな感じに見えたんだろうか? なんか恥ずかしい・・・。・・・結構頑張ったんだけどな。
・・・てか明らかな無許可撮影で、前の世界なら捕まる案件なのに、相手が神様とかになると、手の出しようがない。それはそれでなんか歯がゆい感じだ。
とりあえず、このおじいさんも幼女スキーなら、ロリとの多重婚とかについて責められることはなさそうだ。ものすごい羨ましがられたけど、そこはまあしょうがない。
問題は、このおじいさんが、どの程度の幼女好きなのか? だ。孫みたいに愛でるくらいか、性的に見ているかで、ちょっと話が変わってくる。トリックアートを作るか否か? の分かれ道になるかもしれない。
僕のお嫁さん達に危害が及ぶようなら、180度と言わず360度、首を回しすのも辞さない覚悟だ。・・・というか、謝ってばかりで、なんだかだんだん腹もたってきた。
「せっかくサウナ上がりのスーちゃんの生裸を見れると思ったのに、服を脱ぎもせずにやってくるとは・・・気が効かんのぉ・・・」
・・・呟いている老人の言葉的に、これはアウトなやつだと思った。「危険な気がする」と言っていたスーの感は当たっていた。
「こ、このロリコンじじい!」
怒りとともに思わず僕は叫んでいた。
「ロリコンはお前もじゃろ、犬神明日太くん」
ブォンー
ヒュルルルルルルル~
グサッ!
「うぐっ」
盛大なブーメランが僕に突き刺さった。前世のフルネームで言われると、なんか、なおさらつらい。僕はガクッとこんな姿勢→OTZで倒れ込んだ。
一気に疲れがきた。
僕はここで何をしているんだろう?
「なんで体が大きくなってしまったのか?」もまだ聞けてないし、今後の会話に不安しかない・・・。というか話の流れ次第では、僕は本当にトリックアートを作ることになるかもしれない・・・。
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