入れたいのに入れたいのに入れたいのに「ピュルッ」と出てしまう「元ショタ勇者」の物語

人外倫理

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第一部

ポチタロウと、トリックアートなおじいさん:7

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 僕らは、長い眉毛と、長い口ひげを生やした、大精霊を宿してくれた、おじいさんと再開した。くじらを見た時に「何かに似てるなぁ?」って思ったんだけど、このおじいさんのヒゲとマユゲがモチーフだ、きっと。



 老人は律儀に家のドアを閉めると、笑顔でゆっくり、こっちへ近づいてきた。



 その垂れ下がった白い眉毛と、ピンと上に張った白い口ひげは、だいたい同じ長さで整えられている。頭の上にちょこっとだけ残ったモヒカン気味の白い髪の毛と、口ひげに比べてささやかなボリュームの白いアゴヒゲの長さもほぼ同じだ。目は長い眉に隠れててほとんど見えない。



 このおじいさんを写真に撮って、逆さまにして見たら、やっぱり顔に見えるんじゃないかな? 僕は初めて会った頃から、そう思ってた。いわゆるトリックアートと呼ばれるやつだ。たぶん、このおじいさんの場合、逆さま向けてもほとんど同じ顔になる。



「こんちは、おじいちゃん」
「よー来たのぉ、スーちゃん」
「お、お久しぶりです」
「ここは熱かろぉて。とにかく中にお入り」



 タオルを1枚ずつ手渡された。僕らは汗をふきつつ、歩いていくおじいさんの後についていった。老人は右手でアゴヒゲを握りしめ、伸ばしながら、小さな家を目指す。入り口のとこに表札があって「ジーゲンバルト=シュノルバルト」と書いてあった。



 そうそう。おじいさんの名前は、こんな名前だった。「気軽におじいちゃんと呼んでおくれ」って言われて以来、名前を呼んだことがなかったから、すっかり忘れてたよ。



 ・・・てか、表札もちゃんとあるのね・・・。



ーーーーーー



ー ガチャリ ー



 「さあ、入った入った」
 「これは!?」



 今度は今までとは真逆に、ドアの内側から冷気が押し寄せてきた。促されるままに入った部屋はキンキンに冷えていた。・・・人をダメにしそうな空間だ。



「すずしぃぃぃ・・・」
「そこに腰掛けて待っておれ、スーちゃん。今、素敵ドリンク、オロポを作ってやるからの・・・」
「ありがと、おじーちゃん」



 言われるがままに、近くに置いてあったソファに、スーは頭からポスッとダイブした。そのまま、うつぶせに寝そべった体勢になり「ふへへへ」と、幸せそうだ。なんというか、もうすでにダメになりかけている。・・・てか、おじいさん、さっき、素で「オロポ」って言ったよね?



 僕の認識が間違ってなければ、それはオロ○ミンCとポカ○スエットを割ったドリンクだったハズだ。サウナ民御用達の。



ー 「元いた世界」のことを、あのおじいさんは確実に知っている ー



 僕の疑惑がオロポで、確信に変わった。



・・・
・・・
・・・。



「待たせたのぉ・・・ほら」 
「ありがとー」
「・・・ありがとうございます」



 しばらくして、おじいさんが戻ってきた。スーは半分寝てたけど、ギリギリ目を覚まし、体を起こし、目をこすりながらも、ソファに腰掛けた。僕もその隣へ座る。



 ソファは、机を挟んで対になっていて、僕らの対面側に、トリックアートなおじいさんが腰掛けた。オロポを2つ、机に置きながら。



「幼いスーちゃんには、思った以上に、サウナは厳しかったようじゃのぉ・・・とにかくそれを飲んで、栄養と水分を補給するといい。・・・おいしいぞぃ?」
「わかった。ありがと、おじいちゃん」
「い、いただきます(今も、普通に『サウナ』って言ったよね?)」



 ゴクゴク飲んで「ぷはー」と一気に平らげたスーに対して、僕はちょっとだけおびえていた。これが僕が知っている「オロポ」なら、確実におじいさんは「前の世界」の関係者だ。
「この世界で生きていく」って決めた僕は、前の世界のしがらみとかには正直、なるべくなら関わりたくなかった。



 だって前世の常識とかまるで無視して、幼女と多重婚しちゃってるし。こんなの元の世界の人に聞かれたら、ドン引き案件だよね!? この世界の人たちは、比較的幼女愛とかにも寛容な感じだったけど、前世の人たちはそうはいかないよね?・・・



「飲まないの? ポチ兄ぃ?」
 スーが物欲しそうな目でこちらを見ている。



「ちょっとだけ、味見はしたいかな? あとはスーにあげるね」
 スーほどは、消耗してなかった僕は、それでも真実を確かめるために、オロポに口をつけた。



ー ゴクッ ー



・・・
・・・
・・・。



 うん。オロポだ。



 実際に商品としてのオロポを飲んだことはないんだけど、オ○ナミンCとポ○リスエットが混ぜ合わさったものだとはわかる。これはオロポだ。
 


ー うわー。どうしよう・・・ ー



 おじいさんに「聞きたいこと」が一杯あったんだけど、逆に「聞かれること」に僕は内心身構えた。



 前世と合わせて、通算28歳で、8~9歳の女児と結婚したことについて、追求されたら、僕はどう答えればいいんだろう?



 いっそのこと、じいさんの首を180度ひんまげて、口をきけなくしてしまうか? ・・・そのまんま、ほぼ同じ顔に見えるだろうし・・・。



「はい。スー」
「ありがと、ポチ兄ぃ」



 不穏なことを考えながらも、僕は、スーにオロポを手渡した。スーは両手でコップを握りしめ、再びゴクゴクとそれを飲み干した。ああ。なんか癒やされる。



「ほっほっほ。良い飲みっぷりじゃの」
「そう?」
「どうかね? もう一杯?」
「さすがに、もういい」
「そうか・・・」
「うん」
 心なしかおじいさんは残念そうだ。



「さて・・・思ったより大きくなったみたいじゃのぉ・・・ポチタロウくん」
「!!!」



 ふいに、おじいさんに声をかけられて、僕は少したじろいだ。



「聞きたいことがあるのじゃろ? いろいろと?」
「・・・」



 身構えすぎていた僕には、何も言葉が出てこなかった。



(・・・聞かれたくないこともあるじゃろうし、上で話そうか? 犬神明日太くん?)
「!!!」



(何故その名前まで!?)



 耳元で小声で呼びかけられたその名前は、僕の前世での名前だった。僕個人の情報まで知られているとあれば、より深いところまで、えぐられかねない。



「・・・わかりました」
 僕は、短くそう答えた。頭の中で、首を180度、クルリとねじ曲げるイメトレをしながら。



 グルリ・・・グルリ・・・グルリ・・・



 もし、なんかあったら、ほんとにトリックアートを作ってやる!



ーーーーーー



「スーちゃん、少し、ここで待ってておくれ。わしはアス・・・ポチタロウくんと話があるからの」
「わかった」



「そこに、飲み物が入っておるし、そっちにはお菓子もある。壁際の本はどれを読んでもいいぞぃ」
「わかった。ありがと、おじいちゃん」



「眠くなったら、毛布がそこにあるからの」
「うん」



「・・・じゃあ、スー。ちょっと行ってくるから。ちゃんと待っててね、お姫様」
「うん。ポチ兄ぃ。待ってる」



 そのままキスでもしちゃいたいくらい、少し濡れた髪のスーが可愛く思えたけど、僕は自重した。何せ前世関係者のいる場所だ。何を言われるかわかったもんじゃない。



 とにもかくにも、僕とトリックアートなおじいさんは、スーへのケアを済ませて、小さな家の二階へと上がっていった。



「ああ、トイレはあっちで、お風呂はあっちじゃよ、スーちゃん」
 階段を上りながら老人は階下のスーへ呼びかけた。



 てか、おじいさん、スーに甘すぎない!?


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