28 / 91
第一部
ポチタロウと、トリックアートなおじいさん:7
しおりを挟む僕らは、長い眉毛と、長い口ひげを生やした、大精霊を宿してくれた、おじいさんと再開した。くじらを見た時に「何かに似てるなぁ?」って思ったんだけど、このおじいさんのヒゲとマユゲがモチーフだ、きっと。
老人は律儀に家のドアを閉めると、笑顔でゆっくり、こっちへ近づいてきた。
その垂れ下がった白い眉毛と、ピンと上に張った白い口ひげは、だいたい同じ長さで整えられている。頭の上にちょこっとだけ残ったモヒカン気味の白い髪の毛と、口ひげに比べてささやかなボリュームの白いアゴヒゲの長さもほぼ同じだ。目は長い眉に隠れててほとんど見えない。
このおじいさんを写真に撮って、逆さまにして見たら、やっぱり顔に見えるんじゃないかな? 僕は初めて会った頃から、そう思ってた。いわゆるトリックアートと呼ばれるやつだ。たぶん、このおじいさんの場合、逆さま向けてもほとんど同じ顔になる。
「こんちは、おじいちゃん」
「よー来たのぉ、スーちゃん」
「お、お久しぶりです」
「ここは熱かろぉて。とにかく中にお入り」
タオルを1枚ずつ手渡された。僕らは汗をふきつつ、歩いていくおじいさんの後についていった。老人は右手でアゴヒゲを握りしめ、伸ばしながら、小さな家を目指す。入り口のとこに表札があって「ジーゲンバルト=シュノルバルト」と書いてあった。
そうそう。おじいさんの名前は、こんな名前だった。「気軽におじいちゃんと呼んでおくれ」って言われて以来、名前を呼んだことがなかったから、すっかり忘れてたよ。
・・・てか、表札もちゃんとあるのね・・・。
ーーーーーー
ー ガチャリ ー
「さあ、入った入った」
「これは!?」
今度は今までとは真逆に、ドアの内側から冷気が押し寄せてきた。促されるままに入った部屋はキンキンに冷えていた。・・・人をダメにしそうな空間だ。
「すずしぃぃぃ・・・」
「そこに腰掛けて待っておれ、スーちゃん。今、素敵ドリンク、オロポを作ってやるからの・・・」
「ありがと、おじーちゃん」
言われるがままに、近くに置いてあったソファに、スーは頭からポスッとダイブした。そのまま、うつぶせに寝そべった体勢になり「ふへへへ」と、幸せそうだ。なんというか、もうすでにダメになりかけている。・・・てか、おじいさん、さっき、素で「オロポ」って言ったよね?
僕の認識が間違ってなければ、それはオロ○ミンCとポカ○スエットを割ったドリンクだったハズだ。サウナ民御用達の。
ー 「元いた世界」のことを、あのおじいさんは確実に知っている ー
僕の疑惑がオロポで、確信に変わった。
・・・
・・・
・・・。
「待たせたのぉ・・・ほら」
「ありがとー」
「・・・ありがとうございます」
しばらくして、おじいさんが戻ってきた。スーは半分寝てたけど、ギリギリ目を覚まし、体を起こし、目をこすりながらも、ソファに腰掛けた。僕もその隣へ座る。
ソファは、机を挟んで対になっていて、僕らの対面側に、トリックアートなおじいさんが腰掛けた。オロポを2つ、机に置きながら。
「幼いスーちゃんには、思った以上に、サウナは厳しかったようじゃのぉ・・・とにかくそれを飲んで、栄養と水分を補給するといい。・・・おいしいぞぃ?」
「わかった。ありがと、おじいちゃん」
「い、いただきます(今も、普通に『サウナ』って言ったよね?)」
ゴクゴク飲んで「ぷはー」と一気に平らげたスーに対して、僕はちょっとだけおびえていた。これが僕が知っている「オロポ」なら、確実におじいさんは「前の世界」の関係者だ。
「この世界で生きていく」って決めた僕は、前の世界のしがらみとかには正直、なるべくなら関わりたくなかった。
だって前世の常識とかまるで無視して、幼女と多重婚しちゃってるし。こんなの元の世界の人に聞かれたら、ドン引き案件だよね!? この世界の人たちは、比較的幼女愛とかにも寛容な感じだったけど、前世の人たちはそうはいかないよね?・・・
「飲まないの? ポチ兄ぃ?」
スーが物欲しそうな目でこちらを見ている。
「ちょっとだけ、味見はしたいかな? あとはスーにあげるね」
スーほどは、消耗してなかった僕は、それでも真実を確かめるために、オロポに口をつけた。
ー ゴクッ ー
・・・
・・・
・・・。
うん。オロポだ。
実際に商品としてのオロポを飲んだことはないんだけど、オ○ナミンCとポ○リスエットが混ぜ合わさったものだとはわかる。これはオロポだ。
ー うわー。どうしよう・・・ ー
おじいさんに「聞きたいこと」が一杯あったんだけど、逆に「聞かれること」に僕は内心身構えた。
前世と合わせて、通算28歳で、8~9歳の女児と結婚したことについて、追求されたら、僕はどう答えればいいんだろう?
いっそのこと、じいさんの首を180度ひんまげて、口をきけなくしてしまうか? ・・・そのまんま、ほぼ同じ顔に見えるだろうし・・・。
「はい。スー」
「ありがと、ポチ兄ぃ」
不穏なことを考えながらも、僕は、スーにオロポを手渡した。スーは両手でコップを握りしめ、再びゴクゴクとそれを飲み干した。ああ。なんか癒やされる。
「ほっほっほ。良い飲みっぷりじゃの」
「そう?」
「どうかね? もう一杯?」
「さすがに、もういい」
「そうか・・・」
「うん」
心なしかおじいさんは残念そうだ。
「さて・・・思ったより大きくなったみたいじゃのぉ・・・ポチタロウくん」
「!!!」
ふいに、おじいさんに声をかけられて、僕は少したじろいだ。
「聞きたいことがあるのじゃろ? いろいろと?」
「・・・」
身構えすぎていた僕には、何も言葉が出てこなかった。
(・・・聞かれたくないこともあるじゃろうし、上で話そうか? 犬神明日太くん?)
「!!!」
(何故その名前まで!?)
耳元で小声で呼びかけられたその名前は、僕の前世での名前だった。僕個人の情報まで知られているとあれば、より深いところまで、えぐられかねない。
「・・・わかりました」
僕は、短くそう答えた。頭の中で、首を180度、クルリとねじ曲げるイメトレをしながら。
グルリ・・・グルリ・・・グルリ・・・
もし、なんかあったら、ほんとにトリックアートを作ってやる!
ーーーーーー
「スーちゃん、少し、ここで待ってておくれ。わしはアス・・・ポチタロウくんと話があるからの」
「わかった」
「そこに、飲み物が入っておるし、そっちにはお菓子もある。壁際の本はどれを読んでもいいぞぃ」
「わかった。ありがと、おじいちゃん」
「眠くなったら、毛布がそこにあるからの」
「うん」
「・・・じゃあ、スー。ちょっと行ってくるから。ちゃんと待っててね、お姫様」
「うん。ポチ兄ぃ。待ってる」
そのままキスでもしちゃいたいくらい、少し濡れた髪のスーが可愛く思えたけど、僕は自重した。何せ前世関係者のいる場所だ。何を言われるかわかったもんじゃない。
とにもかくにも、僕とトリックアートなおじいさんは、スーへのケアを済ませて、小さな家の二階へと上がっていった。
「ああ、トイレはあっちで、お風呂はあっちじゃよ、スーちゃん」
階段を上りながら老人は階下のスーへ呼びかけた。
てか、おじいさん、スーに甘すぎない!?
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。




転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる