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第一部

ポチタロウと、トリックアートなおじいさん:4

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ー ビュオオオォォオオォォーーーー・・・ ー



ー バサバサバサバサバサ・・・ ー



 風が吹く中、さらに風を生成しながら、スーが飛ぶ。僕の目の前に広がるのは・・・スーのアンダーテールの銀髪だ。たなびくそれが、僕の視界を埋めていた。



 ひっぱりロープを極限まで短くしたので、スーの後ろ髪は、僕に届く距離にある。ちょくちょく当たって、痛かったり、こそばゆかったりする。


 
 気が散って、眼前や眼下にある広大な景色に、全然集中できやしない。



ー ヒュオォォビュオオォォーーーー・・・ ー



ー バサバサ、バサバサバサ・・・ ー



「ぶえっくしょん!」



 漫画みたいにベタな感じで、毛先が鼻をかすめ、昔のコント風のくしゃみが出た。およそ王子様や勇者様のする、くしゃみではない。このままじゃ、僕の尊厳に関わる。僕は、一旦、スーを止めるべく大声を上げようとした。



(スーえも~~~ん!)



 いやいや。その呼び方はダメだ。可愛い仲間を、便利道具扱いすべしではない。



(スーえも~~~ん!)



 いやいや。言ってみたい気もするけど、自重しよう・・・。スーのウ○キペディア的頭脳とか、飛行ユニット作っちゃった所とかを見て、ついついネコ型ロボットと重ねてしまった。


「スー! 問題発生、至急下降、お願い」
「おっけ」



 手短に伝えると、手短にレスポンスがあった。降下は安全かつ迅速に行われた。なんか、魔王討伐の旅を思い出す。そういや戦闘時や緊急時は、こんな感じだった。必要最小限を伝えて、それぞれが最適行動を行う。そんな感じ。



 僕らには、それが身に染みついていたようで、懐かしいサクサク感を味わった。別にお菓子とかの話ではない。



「スーごめん。スーの後ろ髪で前が見えないや。これで体に髪をくくっといてくれる?」
 地表に降りた僕は、素早く短剣を引き抜くと、予備のロープを適度な長さに切り取った。ほつれたりしないように、サラマンダーの火で、両端を焼き固めておくことも忘れない。



「りょーかい」
 スーも手慣れた感じで、長いアンダーテールを腰に結わえた。



 スーに用件を手短に伝えたのがスイッチになって、僕らは、冒険者モードに切り替わったようだ。「スーの髪が邪魔」・・・だなんて、普段の僕じゃ、なかなか言えやしない。「ぐうたらLOVE」なスーも、日常じゃこんなに素早く動かない。



ー なんか僕ら、プロっぽいな ー



 ・・・思った瞬間、苦笑してしまった。魔王まで倒してきたんだから、そりゃあプロなんだろう・・・。むしろプロの入り口よりは、最高峰に近いところにいるんだろう。たぶん。



 ・・・そういうのを、みんながみんな、全く意識せずに過ごしていたのに気づいて、僕らって抜けてんだろなーって思った。



 でもそんな「抜けてる」みんなを再認識して、僕はなんか、もっと愛おしく思った。僕自身のことも「抜けててよかった」って少し愛せた。みんなとセットで「抜けてられたこと」が、なんかすごく嬉しいことに思えた。



 サワサワサワ・・・
 サワサワ・・・
 サワサワサワ・・・。



 川のほとりの昼下がり。
 地上の風は優しく僕らを吹き抜けた。
 少し休憩した僕らは、改めて出発することにした。



「髪も大丈夫そうだし、行こうか。スーえもん?」
「ポチ兄ぃ。・・・えもんって何?」



 結局スーえもんって言っちゃった・・・。
 抜けてる僕を、速攻で嘆いた・・・。



ー ド○えも~~~ん!! ー



 僕は心の中で叫んだ。



■■■■■■
□□□□□□



ポチタロウと、トリックアートなおじいさん:4



■■■■■■
□□□□□□



 スーをなんとかなだめて・・・というよりスーが早めに追求をやめてくれて、僕らは再び飛び立った。僕の背負った帆布が再び力を得る。



ー バサッ ー



ー ヒュルルルルルルーーーーーッッッ・・・ ー



 あっという間に、また空の上だ。



 スーの髪の毛がまとめられたので、今、僕の視界は開けまくってる。怖いくらいの高さまで、一気に上昇するのを、まばたきもせずに見ることになった。足が宙ぶらりんで落ち着かない。



 みんなで乗った時は、そんなに怖くなかったのに・・・。



 そう思った僕は、両脇にイマジナリーワフルと、イマジナリーサファ、あと、近くを飛んでるリリをイメージした。うん。大丈夫。怖くない。そう言い聞かせた。



・・・
・・・
・・・。



「おぉ、すごいなぁ」
「ポチ兄ぃ、こっちでいい?」
「しばらくこのままで大丈夫!」
「らじゃ!」



 そのうち、本当に怖くなくなってきた。新たな景色が目の前に広がってて、怖がってばかりじゃ、冒険者なんてやってられない。僕は、怖いのも含めて、今の状況を楽しむことにした。



 石灰岩の群れを抜け、ポツポツと散らばる屋根に出会い、紅葉の進む大きな森の上を越えた。飛び込んでくる景色を前に、僕は討伐時代に抱えていた悩みや想い、その後の試行錯誤のことを思い出していた。



ーーーーーー



 旅なんて、うまくいかないことも多い。ゆったりめの計画で、次の目的地をめざしていても、魔物が沸きまくって、辿りつけないこともある。



 彼方に見える綺麗な山に期待を馳せ、進んでみると、どんどん腐臭が濃くなり、死体の山に出くわすことだってある。



 妖精さんが、先行しすぎて魔物に「むんず」とつかまれることだって多々ある。



 「旅は計画をたてている時の方が楽しい」なんてのも、少しはわかる気がする。



 それでも。



 つらいことも、悲しいことも、失敗したことも、後で思い出になる。むしろ、そういうのの方が、後で思い返したときに笑い話になったり、役にたったりする。



ー 行き先がわからなくなることもある ー

ー 計画通りにいかないこともある ー

ー 荷物をなくすことだってある ー



 でも、その度に調整すればいい。最初に決めた予定だけが、正しいわけではない。新しい行き先を、目標を、やり方を。都度、決めていけば良い。



 なんとなく、自分の言葉に、自分で感銘を受けた僕は、心のメモにこれらを書き留めた。



 空の旅は続いた。



ーーーーーー



 景色を見ながら、いろんなことを考えてたら、目の前に街が見えてきた。大小様々、色とりどりの屋根、屋根、屋根。上から見る感じ、結構、大きな街だ。



 街の向こう側は、一面、二色の青で塗り分けられている。すなわち空の青と、海の青だ。少しずつ見えてくる景色には桟橋が加わり、そこに船が何隻も出入りするのが見えた。風に潮の香りも混じりだした。どうやら港町らしい。



 前世なら「港町」って、聞いただけでテンションが上がったものだった。



ー この場所から、みんなどこへ行くんだろう? ー



 なんて、行き先を想像したりして、防波堤に長いこと腰掛けていたこともある。



 今は正直、ちょっと怖い。
 港が、というより、海が。



 火の大精霊を宿している僕は、大量の水の前に無力になる。雨の日の僕は、最弱だ。およそ戦力にならない。サファがいてくれたら、水のドームで雨を防いでくれるので少しは戦えるけど「水に覆われた状態」になるので、本来の力は出せない。

 

 水の量に比例した感じで、恐怖も増す。お風呂の水くらいなら平気だけど、湖に浸かるのはちょっと躊躇してしまう。なのに海だ。「みんなで海まで行こう」なんて言ってたこともあったけど、実際に目の前にしてみると、恐怖でしかない。



 それにもかかわらず、レーダーが映し出す点は、海の方角だ。てっぺんのボタンをポチポチ、ポチポチ押しても、拡大率が変わるだけで、海の方にポイントがあるのは変わらない。



(うーん・・・。「怖いのも楽しむ」って言っても限度がある・・・。・・・超怖い)



「スー、ちょっと港町で休もう!」
「らじゃった!」



 思わずスーに呼びかけて、問題を先送りにしてしまった。無能な政治家にでもなった気がする・・・。でもまあ、呼びかけちゃったものは、しょうがない・・・。・・・うん。降りて冷静に考えよう・・・。



ーーーーーー



 ゆるやかに降下しながら街をめざす僕らの眼前に、何かの群れが見えた。遠目に見て「なんかでかくね?」って思ったんだけど、近づいてみるとやっぱりサイズ感が尋常じゃない。



「クワァァァァーーーッ!!」
「グオォォォーーーー!!」
「ギャイイイイイイィィィーーー!」



 ワイバーンとドラゴンの群れだった。下はコンテナハウス、上は2階だての一軒家。そんくらいのサイズの魔物達が羽をばたつかせながら、ギャイギャイわめいている。どうやら魔物の残党に出くわしたようだ。



 途中から「魔物なんじゃないかなー?」とは薄々、気づいていた。だからと言って引き返したり、隠れたりする選択肢は僕らにはなかった。曲がりなりにも僕ら、元勇者と元聖女様だしね。



 一応、自治区で生活してる分には、僕らが残党狩りに駆り出されることはない。サファがそういうケースを見越して自治区の法律にこれを追加してくれたのだ。



ー いかなる国もこの自治区へ、戦力の派遣を依頼することはあたわず ー



 おかげで僕らは、平和に暮らせている。



 逆に自治区から出た時は「魔物の残党を見たら、それを狩るくらいのことはしよう」・・・なんて僕らは決めていた。こっちは法律とかでなく、僕らの暗黙のルールなだけなんだけど。まあ外に出たら、社会貢献もしとかなきゃね?



「スー、二人でいけそうかい?」



 ひとまずスーに確認する。でっかいのや超でっかいの、合わせて15匹くらいいる。ちょっと大変かもしれない。



「たぶん、楽勝」
「・・・よし。じゃあ、いこっか」



 スーのその言葉を聞いて、僕はリュックをはずすと、飛行ユニットなブランコから飛び降りた。


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