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第一部
【閑話】ワフルの奉仕と、ポチタロウの決意:6
しおりを挟むふっとんでいく、落ちていく、ワフルめがけて、僕はほぼ一直線で飛んだ。
両手両足から射出した炎を推進力にして、体を前へ前へと運んでいく。
ワフル・・・ワフル・・・。
「ワフルーーーーーーーー!」
「ポチタロぉぉぉぉーーー!」
さらわれたお姫様を助けに行くかのごとく、この時ばかりは僕も、大賢者から勇者に戻った。
今は「ふぉっふぉっふぉ」とか言って、縁側でくつろいでいる場合ではない。
なりふり構わず、ワフルの元をめざすだけだ。
「届けぇーーーーーーーーっっっ!」
ー ゴオォォォォォーーーーッ!! ー
火炎放射器のような音を立てながら、手足が焼き切れる覚悟で、僕はただ進む。
出力はとうに全開だ。
みるみる距離は縮んでいくものの、ワフルと地面との距離も近くなってきている。
あと、少し・・・。
あと、少し・・・。
あと、少しっ!
ジリジリしたあせりを感じつつ、ワフルに合わせて降下していく。
左右の手から出していた炎を消すと、そのまま両手をワフルの方へと突き出した。
「ワフルーーーーーーーー!」(ガツッ!!!)
飛行速度が速すぎて、ワフルの体にぶつかった。
慌てながらも、そのままワフルを、腕の中に引き寄せ、包み込んでいく。
(ガシッ! ギュッ)
つかんだ!
両手でしっかりと!
地面すれすれ、およそ50センチ。
僕はワフルを抱きかかえるのに成功した。
すぐさま体を反転させて、ワフルをかばう体勢になる。
「くぅっ!!」
そのまま、上昇を試みるも、いかんせん、地面と近すぎる。
僕自身も下降している最中だった為、上昇のカーブを描く前に地面に追突しそうだ・・・。
「ポチタロがっ! ノムッ!」
僕に抱きかかえられたまま、ワフルが地面に手をのばした。
その地面が僕の背中にせまる!
衝撃にそなえて、ぐっと歯を食いしばり、目を閉じた。
ー ドボッ! ズブブブブブブブブブブブブブブブブブッ・・・ ー
・・・
・・・
・・・。
接地の感触は、なんか思っていたのと違っていた。
飛び込みに失敗して、腹打ちしたみたいな痛みを、背中に少しだけ感じた。
そのままブクブクと沈み込んでいく感覚が来る。
ブクブクブク・・・。
・・・
・・・
・・・
真っ暗だ。息もできない。
口の中に異物が入ってくる。
・・・これは泥の中?
ワフルが僕の腕の中で、モゾモゾと動いた。
途端に全身から、重みが消え、周りの泥が四散した。大気が僕らを包んでくれた。
「ケホッ、ケホッ、ケホ・・・わふ・・・」
「ぶはっ!ゴホッ、ゴホッ、グヘェ・・・」
息ができるようになった僕らは、抱き合ったまま、咳き込んだ。
口の中は泥と砂利で、まんま、ドロドロのジャリジャリだ。
僕は指で唇を拭いながら、現状を確認した。
僕らが地面に激突する寸前に、ワフルが何かやっていた。
おそらく、大精霊の力で、接地面の土を柔らかい泥沼に変えてくれたのだろう・・・。
泥がクッションになってくれた代わりに、僕らはそのまま、その中へ埋まってしまったのだ。
沈むのが止まったところで、ワフルが泥沼を解除してくれたので、晴れて僕らは、ここにこうしているって訳だ。・・・たぶん。
身体チェックをしてみる。
手、足。
ニギニギ、クネクネ。
・・・普通に動く。
背中がちょっとヒリヒリする・・・・。
他は特に問題なさそうだ。
「ワフル、大丈夫?」
「おぅ。ワフルは大丈夫だゾ。ポチタロは?」
「僕も大丈夫だよ」
「ならよかったゾ」
ワフルがニコッとした。
二人ともたいしたケガをするでもなく、無事に助かったようだ。
ふぅーーーっ。
・・・
・・・
・・・
ー 生きている ー
なんか今更そんな実感が沸いてきた。
さわさわさわさわ・・・
・・・
・・・
さわさわさわさわさわ・・・
・・・
・・・
草原全体が風にたなびく音だけが聞こえる。
僕らの周りにだけ、ぽっかり穴が開いている。
さわさわさわ・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
・・・
「ワフッ、ワフフッ。・・・アハハハハハハハハッ!」
静けさを断ち切るように、ワフルが笑い出した。
緊張の糸が切れたのだろう・・・。
目の端に涙を溜めながら、笑っている。
「アハハハハハハハハッ!ワフフフフ~♪」
「あはは、あはっ、はははははははははは!」
つられて僕も笑えてきた。
いろんな感情で、頭の中がごっちゃになり、処理が追いついてなかった。
「笑うしかない」ってのは、こういうのを言うんだろうか・・・。
僕らはお腹がよじれて苦しくなるまで、笑い続けた。
ーーーーーー
「最後のアレ、怖かったけど、おもしろかったゾ、ポチタロ!」
復活したワフルは、そう言って、ニコニコした。
「飛んでいった」ことまで、ブランコのアトラクションの一つだと思ったらしい。
「最後の『飛んでった』のはブランコ本来の機能じゃないから。あれは単なる僕のミスで・・・。ごめんね、ワフル」
「ワフルは、いいゾ。またやろうナ、ポチタロ」
毎回あんな感じでワフルが飛んでったら、僕は気が気ではない。
ただでさえリリが「むんず」と掴まれがちで、気が気でないのに・・・。
このままでは、20歳を迎える前に、ハゲてしまうかもしれない。
今回のことで「ワフルが一人で落っこちても、なんとかするだろうな」・・・ってのはわかった。今となっては「僕、いらなかったんじゃね?」とまで思う。
でも、それでも。
僕はきっと、ワフルが飛んでいったら、また追いかけて助けようとするだろう・・・。それは変わらないと思う。何回でも。何度でも。
「今度は飛んでかないやつね。・・・毎回、飛んでたら、サファが洗濯、大変だし・・・」
基本「いいゾ」って言ってくれるワフルに「ダメだ」なんて、否定的な言葉を使いたくなかった。なので、僕はワフルの良心に訴えかけることにした。実際、僕らは今、泥だらけで、それを洗ってくれるのはサファだ。
別にサファは洗濯物が増えても、怒ったりしないだろうけど、ワフルは大雑把でも優しい子なので、サファの苦労についても配慮してくれると思った。
「そっか。わかったゾ」
あっさりそう答えてくれるワフル。
さすがワフル。愛してる。
「わかってくれてありがとね、ワフル」
「ワフルはいいゾ。・・・でも次は、もう少し大きいの作ろうナ!」
「いいよ。・・・姫のおおせのとおりに」
快く譲歩してくれたワフルに、僕も譲歩した。
ブランコを大きくしたら、多少また危なくなるだろうけど、ワフルのやりたいことをやらせてあげよう。そう思った。
僕は次に作るブランコが飛んでいかないように、強度をあげるべく、頭の中で今回の失敗について考え出した。
「ポチタロ、いこっか」
「うん。ワフル」
ワフルが言う。僕が答える。
目的地は告げるまでもない。
僕らは二人、手をつないで、お風呂をめざして歩いていった。
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