上 下
19 / 84
第一部

【閑話】ワフルの奉仕と、ポチタロウの決意:6

しおりを挟む



 ふっとんでいく、落ちていく、ワフルめがけて、僕はほぼ一直線で飛んだ。
 両手両足から射出した炎を推進力にして、体を前へ前へと運んでいく。
 


 ワフル・・・ワフル・・・。



「ワフルーーーーーーーー!」
「ポチタロぉぉぉぉーーー!」



 さらわれたお姫様を助けに行くかのごとく、この時ばかりは僕も、大賢者から勇者に戻った。
 今は「ふぉっふぉっふぉ」とか言って、縁側でくつろいでいる場合ではない。
 なりふり構わず、ワフルの元をめざすだけだ。



「届けぇーーーーーーーーっっっ!」



ー ゴオォォォォォーーーーッ!! ー



 火炎放射器のような音を立てながら、手足が焼き切れる覚悟で、僕はただ進む。
 出力はとうに全開だ。
 みるみる距離は縮んでいくものの、ワフルと地面との距離も近くなってきている。



 あと、少し・・・。
 あと、少し・・・。



 あと、少しっ!



 ジリジリしたあせりを感じつつ、ワフルに合わせて降下していく。
 左右の手から出していた炎を消すと、そのまま両手をワフルの方へと突き出した。



「ワフルーーーーーーーー!」(ガツッ!!!)


 
 飛行速度が速すぎて、ワフルの体にぶつかった。
 慌てながらも、そのままワフルを、腕の中に引き寄せ、包み込んでいく。



 (ガシッ! ギュッ)



 つかんだ!
 両手でしっかりと!



 地面すれすれ、およそ50センチ。
 僕はワフルを抱きかかえるのに成功した。
 すぐさま体を反転させて、ワフルをかばう体勢になる。



 「くぅっ!!」



 そのまま、上昇を試みるも、いかんせん、地面と近すぎる。
 僕自身も下降している最中だった為、上昇のカーブを描く前に地面に追突しそうだ・・・。


 「ポチタロがっ! ノムッ!」



 僕に抱きかかえられたまま、ワフルが地面に手をのばした。
 その地面が僕の背中にせまる!
 衝撃にそなえて、ぐっと歯を食いしばり、目を閉じた。



ー ドボッ! ズブブブブブブブブブブブブブブブブブッ・・・ ー



 ・・・
 ・・・
 ・・・。



 接地の感触は、なんか思っていたのと違っていた。
 飛び込みに失敗して、腹打ちしたみたいな痛みを、背中に少しだけ感じた。
 そのままブクブクと沈み込んでいく感覚が来る。
 


 ブクブクブク・・・。
 


 ・・・
 ・・・
 ・・・



 真っ暗だ。息もできない。
 口の中に異物が入ってくる。



 ・・・これは泥の中?



 ワフルが僕の腕の中で、モゾモゾと動いた。
 途端に全身から、重みが消え、周りの泥が四散した。大気が僕らを包んでくれた。



 「ケホッ、ケホッ、ケホ・・・わふ・・・」
 「ぶはっ!ゴホッ、ゴホッ、グヘェ・・・」



 息ができるようになった僕らは、抱き合ったまま、咳き込んだ。
 口の中は泥と砂利で、まんま、ドロドロのジャリジャリだ。
 僕は指で唇を拭いながら、現状を確認した。



 僕らが地面に激突する寸前に、ワフルが何かやっていた。
 おそらく、大精霊の力で、接地面の土を柔らかい泥沼に変えてくれたのだろう・・・。
 泥がクッションになってくれた代わりに、僕らはそのまま、その中へ埋まってしまったのだ。



 沈むのが止まったところで、ワフルが泥沼を解除してくれたので、晴れて僕らは、ここにこうしているって訳だ。・・・たぶん。



 身体チェックをしてみる。



 手、足。
 ニギニギ、クネクネ。
 ・・・普通に動く。



 背中がちょっとヒリヒリする・・・・。
 他は特に問題なさそうだ。



 「ワフル、大丈夫?」
 「おぅ。ワフルは大丈夫だゾ。ポチタロは?」
 「僕も大丈夫だよ」
 「ならよかったゾ」



 ワフルがニコッとした。
 二人ともたいしたケガをするでもなく、無事に助かったようだ。
 ふぅーーーっ。



・・・
・・・
・・・



ー 生きている ー



 なんか今更そんな実感が沸いてきた。



さわさわさわさわ・・・
・・・
・・・



さわさわさわさわさわ・・・
・・・
・・・



草原全体が風にたなびく音だけが聞こえる。
僕らの周りにだけ、ぽっかり穴が開いている。



さわさわさわ・・・
・・・
・・・



・・・
・・・
・・・



「ワフッ、ワフフッ。・・・アハハハハハハハハッ!」



 静けさを断ち切るように、ワフルが笑い出した。
 緊張の糸が切れたのだろう・・・。
 目の端に涙を溜めながら、笑っている。



 「アハハハハハハハハッ!ワフフフフ~♪」
 「あはは、あはっ、はははははははははは!」



 つられて僕も笑えてきた。
 いろんな感情で、頭の中がごっちゃになり、処理が追いついてなかった。
 「笑うしかない」ってのは、こういうのを言うんだろうか・・・。



 僕らはお腹がよじれて苦しくなるまで、笑い続けた。



ーーーーーー



 「最後のアレ、怖かったけど、おもしろかったゾ、ポチタロ!」



 復活したワフルは、そう言って、ニコニコした。
 「飛んでいった」ことまで、ブランコのアトラクションの一つだと思ったらしい。

 
 
「最後の『飛んでった』のはブランコ本来の機能じゃないから。あれは単なる僕のミスで・・・。ごめんね、ワフル」
「ワフルは、いいゾ。またやろうナ、ポチタロ」



 毎回あんな感じでワフルが飛んでったら、僕は気が気ではない。
 ただでさえリリが「むんず」と掴まれがちで、気が気でないのに・・・。
 このままでは、20歳を迎える前に、ハゲてしまうかもしれない。

 

 今回のことで「ワフルが一人で落っこちても、なんとかするだろうな」・・・ってのはわかった。今となっては「僕、いらなかったんじゃね?」とまで思う。



 でも、それでも。



 僕はきっと、ワフルが飛んでいったら、また追いかけて助けようとするだろう・・・。それは変わらないと思う。何回でも。何度でも。



「今度は飛んでかないやつね。・・・毎回、飛んでたら、サファが洗濯、大変だし・・・」



 基本「いいゾ」って言ってくれるワフルに「ダメだ」なんて、否定的な言葉を使いたくなかった。なので、僕はワフルの良心に訴えかけることにした。実際、僕らは今、泥だらけで、それを洗ってくれるのはサファだ。



 別にサファは洗濯物が増えても、怒ったりしないだろうけど、ワフルは大雑把でも優しい子なので、サファの苦労についても配慮してくれると思った。



「そっか。わかったゾ」
 


 あっさりそう答えてくれるワフル。
 さすがワフル。愛してる。
 


「わかってくれてありがとね、ワフル」
「ワフルはいいゾ。・・・でも次は、もう少し大きいの作ろうナ!」
「いいよ。・・・姫のおおせのとおりに」



 快く譲歩してくれたワフルに、僕も譲歩した。
 ブランコを大きくしたら、多少また危なくなるだろうけど、ワフルのやりたいことをやらせてあげよう。そう思った。



 僕は次に作るブランコが飛んでいかないように、強度をあげるべく、頭の中で今回の失敗について考え出した。



「ポチタロ、いこっか」
「うん。ワフル」



 ワフルが言う。僕が答える。



 目的地は告げるまでもない。
 僕らは二人、手をつないで、お風呂をめざして歩いていった。
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

処理中です...