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虎の国、小国群編

それでも…

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 虎の国へ進めずに、立ち往生をして早くも10日が過ぎました。

 はぁー。何故か魔道具での通信が出来ずにいるので、白花とも虎の国とも連絡が出来ずにいます。一体、どうしたんでしょう?

 私とショウ様の冷戦状態も維持されたままですけど、ね。

 ショウ様達は、虎の国にだけ連絡が取れない事の原因調査とその関連する情報を集めている最中です。

 だからか、ロートがリヨウさんと一緒にあちこちへ調べに出ているので、私の護衛はロートでなく、ロートの部下のリンデンと言う名の護衛さんがつとめています。

 リンデンさん、もとい、リンちゃんは男性なんですが、騎士服を着ていなければ、貴族のご令嬢に見えるほどの美少女のような女性的な顔をしています。

 本人は、「「俺は男だー!!」と叫んでいるんですが、月に何度か、勘違い野郎に女だと思って、告白されるんです、よ…ふふふ。」と、寂しそうに笑っていました、ね。

 ロートに「わいの直属の部下ですわ。」と紹介されてすぐの時は、その美少女顔した人から男言葉が飛び出してくるのにビックリしたし、女性騎士の方なのかと思っていました。そこで、男性だと紹介されて、最初はリンちゃんに護衛されるのに違和感を感じていましたが、私も今では、それがリンちゃんなんだと思って、すっかり慣れてしまいました。

 リンちゃんも、ロートと同じように私が「さん」付けで名前を呼んだら、「王太子様のご婚約者様なのですから、私を呼ぶ時はロート殿を呼ぶ時と同じように、呼び捨てでお願い致します。」と言われてしまいました。

 でも、どうしても、美少女顔の可愛い子を呼び捨て出来なかったので、ううん、私が呼び捨てしたくなかったので、心の中や影ではメイドさん達や王太后様と一緒に「リンちゃん」呼びしてますけど。それはこの魔馬車に乗っている女性陣達が「リンちゃん」呼びがバレないように気を付けて、内緒にしてます。

 ナーオ・ロウの王城に勤めるメイドさん達で、「リンちゃん親衛隊」、別名で「どの男性とくっつくのか、見守り隊」が非公認で結成されているのだと聞きましたけど、リンちゃんの恋愛対象は女性だって、何度かリンちゃん本人から聞かされていますから、親衛隊の人達の希望は叶わないと思います。

 まぁ、私もあえて、メイドさん達の息抜きと娯楽を止めたり、とがめるつもりもないので、その部分を誰にも伝えずに黙っているんですけど。リンちゃんも渋々、娯楽扱いされている事に片目をつぶって静観しているみたいなので。

 その、リンちゃんから私の護衛中に話しかけられました。

 勤務時間中は私の専属護衛になっているおしゃべりなロートと違って、リンちゃんは無口で、あんまり余分な話をしないんです。

 メイドさん達も今は私の近くに控えていません。

 魔馬車内では守護結界魔法によって、ある程度の安全が保たれているので、メイドさん達も用事で呼ばれるまでは、王族から離れて、他の仕事をしたり、交代で休憩している最中です。

 王城だったら、専属メイドの誰かが私の近くで控えているんですが。王城では人払いをしなければ、要人である王族やそれに連なる者の側に、誰かしらが付いているのが当たり前だって、この世界に来るまで、私は知りませんでしたし。

 ええと、リンちゃんが話しかけてきて、珍しいなぁ。って気持ちが私の顔に表れちゃったみたいで、リンちゃんが苦笑しながら、私に伝えてきました。 

「ユーイ様、王太后様から、内密に話したい事があると呼び出しがありましたが、いかがいたしましょうか?

 俺からは、そう、聞いた方がいい内容の話をされるんだと思います。多分…、あの話をするんだとは思うんですけど…。」と。

 私付きのメイドさんからではなく、私の護衛をしている最中のリンちゃんから伝言されるのは少し変な気がしますが、さり気ない彼からの助言もされたので、その違和感を気にし過ぎの私の気のせいなんだと払拭しました。

 私は少しだけ考えて、「リンデンにその返事をすればいいのね?」と返すと、「はい。事情は後程ご説明致します。」と、言われてしまいました。

「いつ、王太后様の所へお伺いすればいいかを私の昼食時に聞きに行って下さい。その間は、扉の外の護衛騎士だけで私は大丈夫だと思います。」

「はい。承知致しました。」

 リンちゃんがその後、王太后様の所に伝えに行ってくれて、その日の午後、王太后様と虎の国の手前の国の王妃様との浅からぬ先王様のお見合いで起きた出来事を聞かされ、笑い転げそうになる位、笑いに笑ってから、自室へ戻る途中で、目の前がフッと暗くなりました。

 立ちくらみ?と思った直後、リンちゃんの「逃げて!!」という叫び声を最後に、気を失ったようでした。

 あの時の違和感を素直に誰かしらに伝えておけば良かったと後悔した時には、私は見知らぬ場所で目を覚ましました。

 自分がいる場所がどこかも分からなくって、不安で怖いし、リンちゃんがどうなったのかも心配だし、自衛のために、この世界に来てから覚えた防御魔法を自分にかけて、涙目で恐々こわごわと、周りを見回しました。

 質素だけど、貴族の部屋のよう。ベッドの上に寝かされていたみたい。同じ部屋の中には私以外は誰もいないみたい。手足を拘束されてもいない。

 そうして、ここはどこ?誰が私を?と思っても、ここ最近で、自分が攫われるような出来事は起きていなかった筈なのに、と、思っていました。

 うーん、この先はどうしたらいいんだろう?日本にいた時は自分が攫われるなんて思わない程の節約生活だったし、こんな危険にさらされるようになったのは、こっちの世界に来てからだ・よ・ね…。

 ふーっと深呼吸をして、少しでも冷静になれるようにと、しばらくは深呼吸を繰り返した。

 そうしてから、王城で習った事を冷静に思い出すようにして…。

 王族としてどこかへ攫われると、私のブレスレットや指輪に仕込んである機能を動かす。

 私が攫われたと認識して、魔力を流すと発動する追跡機能を動かすんだったよ、ね。

 魔力を流して、っと。これで、ショウ様や魔馬車にいた者達に私が攫われたのが分かっただろうな。ええと、他にはどうすればよかったんだっけ。

 見も知らない誰が攫ったのかも分からない中、恐怖で冷えている身体を誤魔化す様に、両手でぎゅっと自分を抱きしめた。

 怖いし、心細くて、泣いて叫んでしまえば、攫った者が出てきて、危害を加えるかもしれないのだ。だから、声を殺して、私の目が覚めた事に気付かれないようにして、今いる場所の情報を集めなければ。

 王城で習った攫われた時の対処の幾つかを思い出しながら、部屋の中を細かく見てる。何かしらの手がかりを掴まなくっちゃ。泣いてもどうにもならないんだから。しっかりしなくっちゃ。魔馬車に帰れた時に泣くんだから!

 震えている自分を奮い立たせるように、でも、ベッドの上から動いたら、何かしらの魔法や魔道具が発動するかもしれないから、用心をして、ベッドの上で寝がえりをして、部屋の中を見ていった。

 どこにもここがどこなのかを示す物が見当たらない。どうしよう?

 私が攫われてから、どのくらいの時間が過ぎたんだろう?

 窓の外はまだ明るいし、私が攫われる前も昼日中ひるひなかだったけど。逃げ出せるように、体力を減らさないように温存しておかなくては。

 そうしてしばらく過ごしていると、私がいる部屋のドアをノックする音が聞こえた。

 マズい!と思って、寝たふりをしておく。心臓がドクドクと恐怖心を伝えるけど、我慢して、バレないように寝たふりをした。

 私がまだ目覚めていないのだと判断したんでしょう。誰かがこの部屋の中に入ってくる音がしました…怖い。

「まだお目覚めではございませんか。(私の近くまで来て様子を窺ってから)

 仕方ありませんね。ふぅ。薬が効き過ぎたんでしょうか?

 目覚めるまではこのままでと言いつかっていますし、ベッドから下りたり、この部屋から出ようとすれば、拘束魔法が発動すると聞いておりますのに。

 …まだでしたか。」

「侍女長、この女性が目覚めたり、魔法が発動してから、この方のお召替えをすればでいいでしょうか。拘束されれば、暴れられずに済みますので、私達も世話がしやすいのではないでしょうか?。」

 どうやら、私の世話をするつもりで、侍女の女性が何人か様子見に来たんだ。男性でなくて、まだマシだった!

 それに、ベッドから下りなくて、正解だったみたい…。早く出て行って…!寝たふりを誤魔化すのはツラいんです…!

 しばらく何人かの女性の話声がしたけれど、何人かは出て行ったみたい。それでも、誰かしらまだこの部屋の中に人がいる気配があるので、寝たふりを続行中…。

「…薬の量が普通よりも少なくて大丈夫のようですね。…生まれが王族でないのだから、クスリに対する態勢は普通の人並みなのだと言う事ですか。たしか、今回は、番のいる貴族のご令嬢でしたね。

 …この女性も私共の主様の慰み者になるのですね。お可哀そうに。

 今度はどの位の期間、保つでしょうか。」

 そう言って、女性が出て行った音がしました。

 え?今回は?お可哀そう?どの位の期間って?え?まさか…?!

 慎重に寝がえりをしながら、そおっと目を開けて、部屋の中を窺って、誰もいないのを確認してから、溜め息をついた。

 私、どこかの誰かの慰み者になるのに攫われてきたの?!ショウ様以外との交尾を強要されるの?!!

 涙が溢れてきて、でも、泣き声を聞かれて、侍女に気付かれてしまうと、予想した事が近付いてしまうのが怖くて、声を出さないように泣いた。

 身体の芯から震えが止まらない。どうしよう?どうしよう?助けて!!ショウ様!!

 それでも、番の私が死んでしまったら、ショウ様がよく言うように、狂って狂王になってしまうかもしれない…、私は国を守る為にも簡単には死ねない王太子妃なのだから。

 生き延びて、ショウ様に再び会うまで、どんなに辛くても耐えなくちゃならないんだ…。心が壊れてしまっても、私が生きていればショウ様が暴走したり、狂ったりしないんだから…!

 ショウ様、私はどんなになろうとも、あなたを愛しています。

 こんな状況にならなくっちゃ、気付けない馬鹿だけど。冷戦していたのも、もうどうでもよくなっちゃったよ…。
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