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虎の国、小国群編

店での会話1

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「あ、お客様が着いたようですわ。」
「あの魔馬車だから、特別室をご予約した高位貴族の方々がお着きになったようです。」
「お得意様の希望で、ご案内はハイリェンと、イーリェンの2人にお願いするわー。私も後からご挨拶に伺うからと伝えて置いて頂戴ね。」
「リューシン店長の通りに動きますわ。」

 豪華な魔馬車の扉が開く。

「お得意の皆様、いらっしゃいませ。いつも御贔屓にして頂き、ありがとうございます。ハイリェンとイーリェンの2人がご案内致します。」
「ただ今、店長よりご紹介がありました、ハイリェンです。ご予約のルー様ですね。」「わたくしは、イーリェンと申します。ご予約された4名様をこれから、ご予約されていた特別室へご案内致します。」

 次の新たなお客様を乗せているだろう魔馬車が到着する音がした。

 先程の高位貴族のルー様御一行を案内し始めた2人をちらっと確認した所で、今、着いたばかりの違うお客様をお持たせするつもりもないので、自身の後ろに控えている従業員に目配せをした。

 次のお客様が魔馬車から降りたらすぐ後ろにいる案内係を付けて、案内をさせるからと合図を送り、リューシン店長が次のお客様へ最初にご挨拶をするのを従業員一同が待ち構えていた。

 特別室へ案内したハイリェンとイーリェンを含む6名が部屋の中へ入ると認識阻害の魔法と、盗聴防止の魔法がかけられた。

「ルゥ兄とロー兄と母上が一緒なのを見るのは、何年ぶりかしら?」「今日は予約が多くて疲れたー!」
「出て行った兄が帰国した挨拶よりも、自分らのおしゃべりが先なんか。ハイとイーリは、わいには相変わらず厳しいなぁ。」
「えー?そんな事はないよぉ。」「リューシン兄も、後で挨拶に来るってさー。」

「妹達の店で雇われ店長やと言っても、リューシンも大変やわぁ。来店の挨拶も慣れたもんやね。感心したわ。」

「2人とも、ローに言う事があるだろう?」

「はぁーい、ルゥ兄の言う通りですー。ロー兄、おかえりー。」「おかえりなさい、ロー兄。お仕事はいいの?」

「わいの仕事を知っていて言ってはるんやったら、ほんまに怒るで?

 わいが家族の話を聞かにゃ、わいの護衛対象の乗った魔馬車が目的地に行けないやろ?」

「…ロー、魔馬車の中に王太后様が乗っていらっしゃるって、本当?」

「なんや。お母はんは王太后様の知り合いなのかいな?」

「(ブルブルと震えてから、)う、うん。あの国であの方に逆らってはダメなの…。」

「はぁ?話が見えんわ。」

「そうです。私もローも、どうして母上の口数が少なくなったのか、その理由をお聞きしたいんですが。」

 青くなったお母はんが語った。

「昔、かの国へ見合いと言う名の周遊の旅に出たのだ。」と、話し始めたんや。

 そこで、お見合いが形だけの中身のないモノだと聞かされ、うるさい監視の騎士もお母はんから国元にいるよりも離れて控えているし、邪魔で口煩くちうるさい女官も着いて来なかったんで、極上な気分になったんやと。

 その開放感で調子に乗ってしまい、好き勝手に行動したったと。

 調子に乗り過ぎて、とんでもないミスを仕出かしたんで、青くなってこの事を祖国にバレたり、バラされたりしたらマズいと焦っていたら、その現場を王太后様、その頃は王妃様だった方に偶然にも見られてしまったのだそうだ。

 それを秘密にする為に、王太后様とお母はんは幾つかの交換条件を交わしたんやと言いながら、その条件の中の一つに、魔法で『国へ帰りたい。帰国したい。』と言う言葉を言えなくする事だったのだと語った。

 それでも、それ以外の条件の内容をお母はんは語らなかったんや。怖いわ!!、聞いても答えてくれへんかったし…。

 そこまで言うと、お母はんがすごい勢いでボロボロと涙を流しはった。ギョッと驚いたルゥ兄とわいと妹2人は、真剣な表情のまま、お母はんの語る次の言葉を待ったんや。

 泣きながら、お母はんが語った内容はこうやった。

「2、3日遊んだので、帰りたいと思った時には、魔法での条件を飲まなければ良かったと気付いたけど、ね、その、私がバレたら困る内容は今でも誰にも言えないけれど、金額も手間もかかる事だったのよ。

 普通なら、弁償をして、王が謝罪しなければならない程、マズイ事だったの。それをなかった事にするのは、大変な事だったと自分で自覚して気付いた時には、私はもう自国に帰った後だったわ…。

 そうそう、それでね、どうしても帰りたいと思ったんで、その当時の王様に付きまとえば、邪魔者として国へ帰されるんだと思い込んでしまったの。

 その当時は私も若かったから、短絡的に単純に考えて、思った通りに動いたのよね。

 お見合いした国の王様を追い掛け回したのよ。見せかけの見合い相手だと理解していたのに、迷惑にも朝も夜もなく面倒をかけたわ…。

 そうしたら、その当時、王太后様は妊娠初期だったんでしょうね。

 王太后様は吐き気を我慢しながら、吐いてもいいような袋を持って、私を追いかけてきたのよ。それも、吐いたモノを入れた袋をその手に持って…。

 「私の番に何をする!私が動けないと思って、色仕掛けでもするのか!」ってね。凄く怖かったわ…。背後に般若の面が見えたもの…(ブルブル)。

 はっと気付いたら、私、ゲロまみれのまま、木から宙釣りにされて、魔法を封じる魔道具まで着けられていてね、泣いて必死に謝ったわ。そうしたらそこから許してもらう条件を更につけられたの…。

 そこから1月ひとつきの間は、側妃の座を狙う、肉食系のご令嬢達を王太后様のかわりに追い払う事になったわ。

 そのすべを王が執務している日中に軍隊の様な厳しい訓練で私に叩き込んで、ね、くださったの。
 朝晩の王が動ける時間を狙って寄ってくる側妃を狙うご令嬢達をツワリで動けなくなっていた王太后様のかわりに私が毎日毎日、追い払っていたのよ。

 この人には逆らってはイケナイのだと、その時にイヤって言うほど身をもって知ったわ。だから、だから、魔馬車にかの人が乗っているのかを知りたいの!!」

 お母はんは一体何をやらかしたんや?!…わいも怖くて聞きたくないわ!

 そっと兄妹達を見ると、わいに向って、頷いている。答えてやれば?って。ルゥ兄も王太子の情報網で誰が魔馬車に乗っているんかを知ってて、わいに丸投げしたんやな!ちっ!

「乗ってはるよ。王太子妃はんの後見としてや。あの国の王妃は今、空席やから。母親代わりに同行してはるんや。」

 わいの答えを聞いたお母はんは、またブルブルと震えて、「あのお方の訓練を思い出すと、「イエス!マム!」と答えたくなるの!私が王妃になっても動けているのはその時の訓練のおかげなんだけど、怖いのよっ!!どうしよう?!」と震えて黙ったままになった。

 こりゃアカンわ。お母はん抜きで話をせな、な。
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