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虎の国、小国群編

魔馬車内での過ごし方3(ユーイ2)

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 ロートに心の内を愚痴ったので、幾分かはスッキリしました…。

 それでもショウ様に、私が作った食べ物の差し入れするのを躊躇ためらってしまいました…。

 理由は、ですね、私自身が笑われたのと、勝手に解釈して私を馬鹿にされたから、頭にきたんですよっ!

 祖国に戻って来てからも私には余裕がなかったんです!勉強やらマナーやら、王族らしく行動する事とか…!

 日本では一庶民だったんですから…!何度、枕に涙を流したか…。

 ショウ様がいて、ストレス解消だけの涙を流せないで、違う意味で涙を流し、かされていましたけれども。そんな日も多くなって、十分な睡眠時間を確保出来ない日々。

 「愛されておいでですね。羨ましいですわ。」「真っ直ぐ立てないほど、寵愛されていますのね。」等々、色々とナーオ・ロウの貴族令嬢達から、遠回しな嫌味やら牽制をされる日々。

 ナーオ・ロウの王城でさえ、護衛のロートのおかげで今も無事に生きていられます。

 そうです、ヒヤッとした経験が何度もありましたから…。日本人なら寿命をまっとう出来るでしょうが、この世界では日本の庶民ではない危険が色々とあるんです、はい。

 だから、王族には聖獣様の加護と、貴族や王族と言う人達には護衛が付いているのでしょうね。ロートを専属護衛にしてくれたワーオランドーラの王様と友人のジャンヌ王妃様に感謝です…。

 それなのに、外交に出れば、移動中も他国の王城滞在中までも、その他の国からやって来た密偵達に何度か命を狙われたり、貞操が狙われたりする予想外な毎日でしたとも!
 ええ!水際で被害を食い止めてくださっていたナーオ・ロウから付いてきている騎士達には(リヨウさんとかロートにも)、どんなに感謝したでしょう!

 その度に、私の中の何かがゴリゴリと削られていってましたとも!

 そこに、どこにいても、どの夜もナーオ・ロウの王城にいた頃と変わらずに、私を交尾で抱き潰すショウ様。

 充分に休めないんです…。その上で、私のなけなしのプライドにまで、止めを刺しに来たショウ様を許せない私がいました…。

 私だって、普通のただの人です。

 出来ない事の方が多いのは十分、自覚しています。それでも努力してきたのはショウ様の隣で同じように微笑みたかったから。

 誘拐されないで、ナーオ・ロウで貴族のご令嬢として育っていれば、こんな気持ちにもならなかったかもしれないけれど、ずっとショウ様に対して、何かしらの負い目を感じていました…。

 そんな気持ちをショウ様に笑われた事で、私の心がグニャッと折れ曲がってしまったんです。しばらく立ち直れないと思います…。

 気晴らしと誤魔化しを兼ねて、何かしらを作ったり、やっていないと、この場から消えてなくなりたくなりますから、動いているんです…。

 細い糸の上を歩いているような私の心細さを、生まれながら貴族として育ってきた王太后様や、聖獣として育ってきたクーちゃんには理解して貰えるとは思っていないので、今回は話す事さえ、もちろん、相談さえ、出来る気がしません。

 義姉妹になった白花にも話せない事です。

 時間や経験が解決してくれるのでしょうけれど、それまで私の心が保てるのかどうかも自分の事なのに、全然、分からない…。

 どうすればいいのか、どうすれば正解なのか、誰に聞いたらいいのか、まったく分からないから、動いて誤魔化していかなくちゃ…。

 周りに心配をかけたくないから。折角、私を気遣ってくれるようになった人達が出来たんだから。

 半分は、どうにでもなーれー!っていう気持ちもあるんだ…。だって、どうにもならないでしょう?

 どうにか出来るのは、私自身の気持ちと行動だけだから。

 …もちろん、後ろ向きな理由で始めた勉強も欠かさずに続けているし、マナーや王太子妃としての勉強もしているから、誰にも迷惑をかけていないし、かけないようにしています。

 …なーんて事をオーブンで鳥の丸焼きモドキ、分かりやすく言えば、ニワトリみたいな食用の鳥を使って、ローストチキン風な物を作っている間に、考えたり、思っていたりしていましたよ…。

 んーー!いい匂い!今日の晩御飯に間に合いそう。あと何匹分、焼けば足りるかな?ええと、ひーふぅみぃ…、これだけ焼けたけど、こっちの下拵えが済んでいる分も焼いちゃおうっと。

 何匹かを騎士達のおやつに差し入れしよう。騎士達は肉体労働だから、沢山、食べるからなぁ。ついでに、作り置きにしようと作ったサンドウィッチも一緒にして、運ぶのをロートに手伝ってもらおうっと。

「ロート!ロート!いる?」

「お嬢はん、お呼びでっか?」

「差し入れにね、サンドウィッチと丸焼きをおやつに差し入れしたいんだけど、立ち会う人がいないとブレスレットには入れられないでしょ?だから、呼んだの。」

「いい匂いが充満してはるんで、ヨダレが垂れそうですわ!わいとお嬢はんのどっちに入れはりますか?」

「ロートの夜食と食料のストックも兼ねているから、ここのテーブルにある半分だけ、ロートの方に入れちゃって下さいな。」

 私が指し示したテーブルの上には、20斤分の各種サンドウィッチ、鳥の丸焼きモドキ40匹分が並んでいました。

 半分はロートのブレスレットの中へ、残り半分は私のブレスレットの中に入れました。

 この世界は、個人のブレスレットの中に時間を停止させたままで物を入れられるので、日本のラノベでありがちな荷物運びでの問題は余りありません。でもね、個人の魔力量でのブレスレット内の容量が決まっているので、その辺は仕方ないって思っています。

 ロートには、脇に除けておいて置いたサンドウィッチと丸焼き1匹分を出して、試食と言う名のおやつをその片付いたテーブルの上で、食べてもらっています。

 ロートが凄い勢いで食べてます。凄ーいなぁ。ロートって細マッチョなのに、どこにあんな量の料理が入るんだろう?

 見ている間に、ロートが食べ終わりました。

「ご馳走さんでしたわー。美味かったですわー。わいが騎士達に差し入れを持って行っている間は、リヨウはんと交代しますわー。…リヨウはんが来おったわ。」

「おーい、ロート。ユーイ様。良い匂いで我慢出来なくてさ。来ちまったよ。」

 扉の向こう側からリヨウさんの声がしました。

 ここでは、追加でまだ鳥の丸焼きモドキを焼いているから、良い匂いが廊下には漂っているのかな。台所にいるからか、その辺はよく分からないけど。

「リヨウはんは鼻がイイでんな。お嬢はん、入室許可出していいでっか?」

「はい。許可します。」

「リヨウはん、許可が出ましてん。どうぞー。」

「はっ!入室致します。ロートと護衛をしばしの間、交代します。」

 リヨウさんがロートと私の護衛を交代して、リヨウが台所から出ていきました。

 私はリヨウさんの分のサンドウィッチと丸焼きを出して、ロートの分の食べた後の片付けと、次の料理の準備を始めました。

 何となく、リヨウさんが私の背中を見て何かを言いたそうにしていたのには気付いていたけれど、気が付かない振りをして、白米を炊く準備と、炊き込みご飯を炊く準備をしていました。

 次は、ストックする分の各種おにぎりを作らなくっちゃ。おにぎりの具材も用意して。白米と炊き込みご飯も、更に炊かなくっちゃ。更に炊いた分は、炊けたらすぐにストックとして仕舞っておかなくちゃならないし、と。

 ロートに出した分よりも多く、リヨウさんの分を用意していたけれど、私と話そうとしてゆっくり食べていたのかもしれないけれど、私も忙しかったので、リヨウさんには食後のお茶のおかわりを出してからも、洗い物やら下拵えや片付けに没頭していました。

「ユーイ様、ごちそうさまでした。今日も美味しかったです。ロートが休憩して戻ってくるまで、俺が護衛していますので、心おきなく料理して下さい。

 …ショウには良い薬です。自業自得とも言いますけどね。お二人を見ていたので、いつかはこうなるんだって俺もイッチェンも思っていましたから、気が済むまでやっちゃって下さい。でないと、ショウには理解出来ないでしょうから。良い機会だと思いますよ。」

 そう言って、リヨウさんはまたのんびりとお茶を自分で淹れて、飲んでいました。

 …そっか。リヨウさんとイッチェンさんは何となく理解してくれているんだ。…良かった。ショウ様を留めてくれる人達がいて。私の気の済むまでって、プライベートの部分って事だよね。

 ロートに愚痴を聞いてもらえた分と、リヨウさんとイッチェンさんに少しは事情を理解してもらえている分、私の気持ちが軽くなった気がした。

 うん、明日からの差し入れの分は、今までの分よりも更に感謝の気持ちを込めて作ろう。そう思うと、何を作ればいいかと考えるのが楽しくなった。今日まで、半分は感謝だったけど、残り半分は、何かしらの暇つぶし兼ストレス解消だったのだから。

 私が一段落した所に、ロートが帰ってきました。

「ロート、戻りました。護衛の交代を告げます。」

「ロートとのユーイ様の護衛の交代を告げる。これからは私が休憩に入ります。

 っと、皆、美味いって言ってただろう?足りたのか?」

「そりゃもう!美味いって絶賛するのは当たり前でっせ!あんだけの量があれば、足りますよ。

 それに、夜になれば、もう一つの台所でメイド達が作っている晩御飯も食べられるんですから。

 あ、お嬢はんの夜食も期待しているって、夜中の当直の当番の騎士達が楽しみにしていましたー!」

「ロート、リヨウさん、いつもありがとうございます。

 リヨウさんはイッチェンさんにも、この差し入れをこの後にするんですよね。」

「いつも通りにしますよ。ただし、ショウが居ないのを確認してからだけど。
 ショウには差し入れなんて贅沢品だから。差し入れを食べたら、反省しないだろうし、ね。」

「そうでんな。心を入れ替える必要があるんは王太子はんでっせ。ユーイお嬢はんは気にせんでええんですわ。」

「二人のおかげで、気が楽になりました。イッチェンさんも騎士さん達並みに食べるんですよね…。」

「そうなんだよ。身体がなまるって、剣で素振りをしているからさ。食べるんだよ。」

「そうなんですね。量があるので、食べきれないので言い出せないのかと心配していたんです。」

「大丈夫、大丈夫。心配しないでいいから。お残しがあれば、俺が食べちゃうから。

 じゃあ差し入れに行ってきまーす。」

 リヨウさんがイッチェンさんの分のおやつを持って、台所から出ていきました。
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