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ナーオ・ロウ国編Ⅱ

ラーン・ビット国では1

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 ラーン・ビット国は、昔は「ラーン・ビット王国」と言う名であった。

 大国でもないが、程々に大きくて小国では無い国だったので、と安易に名付けただけだったのだ。

 だが、帝国から、お前の国がを気取ってと名付けるのは非常識だと言われ、他の国々からも、王国と関するのは大国に失礼ではないかと散々言われたのもあり、安易に名付けただけだったので、早々に「ラーン・ビット国」と改名した過去があったのであるが。

 その「王国」と言う名にこだわるような者が、今のラーン・ビット国では、ある一人を除いては誰もいないのであった。

 そのただ一人だけこだわる者の名をベルナールといい、ラーン・ビット国の第3王子であった。正式には、ベルナール・B・ランビットと言う名だ。

 ベルナールは、白銀大兎様と言う聖獣のいる国の王族である。白銀の髪に目が赤いのが王族の特徴なので、ベルナールはその中でも、白銀の髪に濃い灰色のメッシュがあり、暗褐色の赤い目の容姿に、スラリとした涼やかな美男子である。

 ベルナールの兄弟には、王太子であり、双子の兄共々大王子とされていて、その双子の兄が2人でラーン・ビット国の次代の王となると、兄達が産まれた時にされた神託で決まっているのだ。だから、気楽な第3王子である。

 兄達ほどではないが、甘い感じで人好きされる王子と言われていて、優しくて可愛いと女性の間では好評であるが、男性の間では、将来、兄達の補佐に着任するであろう、「のんびり王子」と言われているのだった。

 王子達の母は王城で総侍女長をしているが、王城にいる女性の中では一番の権力がある。でも、どうしてなのかは分からないのだが、王子を3人産んでも王妃にはならなかった。でも、不思議と誰もその事について言及する者がいないのだ。

 王城の不思議の一つと言われている。

 総侍女長を納得するまで勤め上げてから、王妃になるつもりなのだと思っているのが、息子の王子達や大臣達の共通の認識であった。

 聖獣も次代の者が取り次ぐだけであり、他国の王族なら今代の聖獣様と会える筈なのに、ラーン・ビット国では、今代の聖獣様のそのお姿を見るのは、王だけであると、父親である王から聞かされているのだ。

 王城の王子達の私室にある応接間では、3人の王子が集まっていた。

 第1王子であるアインハルト・A・ランビットと、アインハルトと双子の王子であり、アインハルトと共に王太子である第2王子のラインハルト・A・ランビットと、その弟である第3王子のベルナール・B・ランビットの3人で、雑誌の鑑賞会を兼ねたお茶会をしているのであった。

 第1王子であるアインハルトは、白銀の髪に、二重で明るい日に透かしたルビーの様な赤い目をしていて、誰もが振り返る程の彫りの深い美男子の上、身体もがっちりとしているマッチョで、頼れそうな感じが好ましいと評判である。

 第2王子のラインハルトは、アインハルトとは双子であるが、白銀の髪にアインハルトよりも濃く深い色の赤い目に一重で、これまたアインハルトとは瓜二つではないが、少し違った雰囲気を感じる同系統の彫りの深い美男子である上、身体は細マッチョであった。こちらは頭が良さそうで計算高くてクールなのではと、冷たい感じが好ましいと評判である。 

 その王子達3人の話題は、『紳士目録~男性専科~』であり、今の所、この大陸で売れに売れている雑誌の一つで、獣人男性のバイブルとも言うべきものであった。

 雑誌の本社があるラーン・ビット国では、他の国よりも1日早くその雑誌が手に入るのであった。

 その上、王族にだけ、その本が献本されるので、ラーン・ビット国の王族は、誰よりも2日は早く、その雑誌が手に入るのであった。

 3人の手元にはそれぞれその1冊ずつの雑誌があって、お茶を飲みながら、思い思いに雑誌を読んでいる。

「うわ!」とか、「すごっ!」とか、「いいなぁ!」とかの声が上がっていたのだが…。

「アル、凄いな、今回のグラビアの娘。我が国の誇るグラビアアイドルの中でも期待の新人が出ているね。」

「私は、このささやかな胸の人気のあるこの娘が好みだな。ライとは好みが違って良かったよ。」

「アル兄上、ライ兄上、この噂と取材、凄いです!獣人男性憧れの、成人後に初めての発情期を迎えた番を持つ虎の国の王太子への取材記事!相手は、ナーオ・ロウ国の王女だとあります!」

 真っ赤な顔でそう告げた弟を微笑ましく見る兄達である。

「どれどれ、ああ、これか。アル、またナーオ・ロウの姫が…、だね。」

「これはまた、マニアックな話題で。ライ、まただな。前回の取材記事に、獣人男性が憧れている、初めての発情期が来た番と、朝までを迎えて、発情期を終えたナーオ・ロウ国王太子が取材を受けていたのが前回のやつだったな。王太子の婚約者の姫が、初めての発情期を迎えて、王太子がなだめたと書いてあった。羨ましいとは思ったけどさ。」

「兄上、ナーオ・ロウの女性は、そんなに良いのですか?」

「そうだな、小悪魔的可愛さと妖艶さがあるな。アルはどう思う?」

「娼館でも、ナーオ・ロウ国出身の娘は、人気があるよ。ライも私もお気に入りの娘がいるよ。」

「ぐ、具体的には?」

 ゴクリと唾を飲みこんで、ベルナールが兄達に聞いたのだ。兄達も、日頃、女性の話題に食いつかない弟がしてきた質問に答えようと、話す。

「恥じらいと、閨での大胆さのギャップがあるって、貴族の中でもナーオ・ロウ国の番を迎えた者の中で、そういう評判があるらしいしね。ベル、女性に興味が出て来た?」

「どっちもナーオ・ロウ国の姫だと言うので、興味を持ちました。ナーオ・ロウ国の女性なら、トラウマ気味のせいで、ある志向の女性を避ける事になっていた私の食指も動くのではないかと、ふと思ったのです。」

 アルとライは顔を見合わせた。弟のトラウマ気味の原因は、自分達にまとわりつく女性達のせいだったからだ。

「ベルは、私達狙いの肉食女子の流れ玉で、ベルにまで迫っていっていたからね、怖くなってしまったのも、当然だ。
 小さいうちに自分よりも大きい女性に何度も暗がりに連れ込まれそうになったのだから、トラウマ気味になっても当たり前だと思うよ。」

「私達はそういうものだと割り切っていける性格だがら、女性をあしらえたが、ベルは小さかったし、まさか、その女性達がそんな事をするとは思っていなかったからね。ベルは繊細だから。」

「どこかの国の皇太子の様に、食い散らかして、隠し子や庶子が出て来る可能性を考えると、慎重でいるのは、良い事だと思うよ。」

「ベルを暗がりに連れて行った女性の家を調べて、一族を皆、処刑した家もあったし、その女性だけを強制労働へ送ったりもしたし、あの時は大変だったなぁ。ベルが暗い所を歩けなくなって、トイレに行くのも付き添ったっけ。アルと私で交代で、ね。」

「懐かしいな。そうだった、そうだった。あの頃のベルにそんな事をした者達の末路を見て、女性達も節度を持って、接してくれるようになって、助かったよ。ライもそう思うだろう?」

「アル兄上!ライ兄上!今はもう、一人でも暗い所は歩けます!それに、私を守る専任の密偵も付いていますし!」

「あはははは!分かったよ。もう言わないよ。」
「私も言わないから、ね。機嫌を直して欲しい。」

「もう!言わないのなら、いいです。」

「ベルナール、それよりも、お前の王国呼びにこだわる所が危ないと、父上である陛下から進言された。私もライも心配しているよ。」

「国内を分裂する可能性を秘めた主張になるかもしれないとな。アルも私もお前と対立して、内戦や国内を分裂する様な事など起こしたくはないのだがね。」

「…分かっているのですが、何故だか「王国」呼びをしたいと思ってしまうのです。…私は何処か変でしょうか?…。」

「呪いや暗示をベルにかけている者がいないか、探ってみよう。それでまずはいいか?、ベル。」

「私の方でも調べてみよう。アルは軍部を、私は執務や書記官や大臣などを調べるからね。」

「私自身、どうしてそんな事にこだわるのかと不思議なのです。半年前には、そんな事を考えていなかったので、どうしてなのか分かりません。よろしくお願いします。アル兄上、ライ兄上。」

「父上にもその辺りを知らせておこう。母上にもそれとなく女官の方から探ってもらうようにするね。アルもそれでいい?」

「ライにその辺は任せるよ。身体を動かしている方が私のしょうに合っているからさ。」

「私も必要でなければ、頭を使う方があっているので、アルに任せられるなら、アルに頼むね。」

「そ、それで、私に何もなければ、何処かへ気晴らしに外遊したいのですが。」

「それはまだすぐには無理だろうね、アルは?」

「ライの言う通りだよ。今すぐは無理だ。でも、ベルの婚約者を探すなら、そろそろ良い頃合いだと思うよ。」

「兄上達のように、気軽に娼館に行ったり出来る性癖ではないし、トラウマ気味の原因になったような女性しかいないと思うと怖くて娼館に行く気もないです。かと言って、見合いで肉食気味の女性を相手にするのも無理だし、婚約者を選ぶのにも時間が掛かると思います。」

「私達は番が双子以上の女性だと神託されているから、見合いをしているけど、ベルには特別な神託が無かったからな、仕方がないよ。ライもそれには同意しているし、陛下も母上もその辺は分かっているからと言っていたよ。」

「すみません。肉食な女性でなくて、積極的に出て来ない、妖艶でなく可愛い感じの女性であれば、私も見合いは大丈夫だと思います。」

「その辺の選考は私がしようと思っているからね。安心して欲しい。」

「私もライに選考を任せるのでいいと思うよ。」

「出来たら、ナーオ・ロウ国の貴族の女性もその選考に入れて欲しいです。」

「分かった、分かった。その辺りも入れておくから、ね。」

 そうして、3人のお茶会は終わったのである。
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