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獅子国編

白炎、苑の姿で出会う

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 昨夜の酒盛りで若干の二日酔いにはなったが、洸が治癒魔法をほどこしてくれたので、昼前には動けるようになった。

 昨夜の酒盛りの後にどうなるか不明だったので、朝食と昼食は要らないと言ってしまっていたのだが、それは早計であったと後悔したのだった。

 正直な身体は、二日酔いが治ったので腹が減って仕方がなかったし、洸も外で食べよう食べようと五月蠅く騒ぐしと、昼からは屋敷の程近くの街並みを従者兼護衛にした草を従えて、昼食を食べる為と暇つぶしに見て回る事にしたのだった。

 やたらと屋台で売っている食べ物を草が食べたがるので、我も空腹には勝てずに、一緒になって食べてしまった。

 財布の中の金は我が負担すると言って、我の稼いだ金から出しているが、その財布を持って歩いているのは草だったので、あちこちで色々な物を沢山買われてしまったのだった。

 中でも、草が気に入って食べたのは串焼きで、「焼き鳥」と言う名が付いていた。我が食べて気に入ったのは、「お好み焼き」と言う名の鉄板焼きの粉から出来た食べ物であった。

 皇帝だから、鉄板焼きで焼いた肉や魚、野菜を食べた事はあったが、粉を入れた物は食べた事が無かったのだ。お好み焼きの中のソースとマヨ何とかとの味わいも良く、食べた事がない物だったせいもあって、大層気に入ったのであった。

 買い物をする気が無いのに、屋台や店を覗く度に草が何かしらを大量に買うので、父上の屋敷に届ける様にと(草が)得意そうに頼んでいたのであった。

 それらが屋敷に届けられ、屋敷の皆もその恩恵にあずかって差し入れを喜んで食べていたと、帰宅後に薄灰から嬉しそうに報告があった。

 そのお陰かもしれないが、「苑様は貴族によくある驕り高ぶった所がなく、屋敷に勤める者達へ差し入れをして下さる優しい女性」だと言う噂をしているのだと草が聞いたと言っていたっけ。

 草の買い物好きがこうじた差し入れで、屋敷で我や草には細やかな気遣いがされるようになったが、嬉しい誤算であった。

 そんな調子で屋敷でも快適に過ごせ、昼から街を歩くのが日課になった頃、街で困っている女性に出会ったのである。

 その女性は、大量に買ったベリィ(日本で言う苺やベリー類を指す名前)や果物を持って歩く事が出来ずに、途方に暮れて、立ち尽くしていたのだ。

 その荷物を持つのを手伝いましょうかと、女性化をしている苑の姿で声をかけると、「助かります。よろしくお願い致します。」と返事が返ってきたのだった。

 大量の荷物を草が持って、(聖獣だから大量の荷物位では何ともないのだろうが)涼しげな顔で我や女性の後ろを付いて歩いて来ている。

 我がその女性と並んで歩いていると、その女性が自分の事を話し始めたのだ。

 その女性は、結婚してすぐ子が出来て、産まれてまだ1年も過ぎない子供達が4人もいるそうだ。

 その子供達がベリィを食べたがって泣き叫ぶので、夫が子供達を見ている間にと、急いで買い物に出て来て、色々な果物を食べさせてやりたいと欲張って買い物をしたのだそうだ。買ったのはいいが、気付いたら持って帰れる量ではなくなっていて、どうしたらいいのかと悩んで、困ってしまって立ち尽くしていた所に、我が声をかけたのだそうで。

「それはお困りでしたでしょう。家まで従者である者と一緒に届けますわ。夫ぎみもご心配なされているでしょうから、その説明も兼ねて、貴女に同行致します。」と我が言うと、

「申し遅れました。私はミーファと申します。没落貴族の娘でしたので、貴女様が位の高い貴族だと理解しております。助かりますが、家の方は大丈夫なのでしょうか?」とミーファさんが聞くので、

「私、相手を亡くしたばかりの未亡人ですの。苑と申します。心配するのは父と執事と、後ろにいる従者だけですわ。」

「!…私ったら、無神経な事を申しまして…。」

「いいえ、そんなに気を遣わないで下さいな。
 政略結婚で結婚した相手でしたので、亡くなった事はそんなにショックではなかったのです。私が薄情でしょ。

 結婚相手には情はありましたが愛情はなかったのです。相手も私を好きではなかったようで、愛人が何人もいたので、お互い様なんですの。」

「……。」

「貴族ならよくある話ですもの。
 ただ、思っていたよりも何だか私自身も気落ちしてしまったのです。それで今は、父の所に静養と気晴らしを兼ねて滞在しているんですのよ。

 私の子供達は成人してしまったし、だから、その可愛い子供達をお礼がわりに見せて頂けると嬉しいわ。」と、ニッコリと微笑んでみせた。

「苑様は、小さい子を見るのが久しぶりなんですね。」

「貴族って、自分の子以外で小さい子を見る機会があまりないから、本当に久しぶりなの。」

「ふふっ。苑様って子供みたい。私の身分も気になさらないし、私の事情を話したら、ご自分の事情まで話すなんて、ふふっ、貴族同士でしたら上げ足を取られますわよ。」

「あら、ミーファ様が私の上げ足を取られるの?」

「親切にしてもらった方に、そんな卑怯な事を私はしませんわ。」

「でしたら、歩いて喉が渇くので、どこかでお茶を飲ませて頂ければ宜しいわ。」

「私の家は酒場と飯処めしどころを兼ねている店、酒場 ハイルング3番店の住居部分ですの。夫がその店の店長をしているので、そこでお茶をお出し致しますわ。子供達も店のアイドルとして、仕事中ですから。」

「楽しそうなお店ね。従者の者も私も、そう言う気を遣わない所が好きなのよ。」

 ミーファ様と話しているうちに、ハイルング3番店の前に着き、私と草は、ミーファさんの案内で店の中に入っていったのだった。
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