上 下
77 / 207
ナーオ・ロウ国編Ⅰ

男達の話し合い3

しおりを挟む
 ユーイから無事に予知の巫女ではないと聞いて安心していたが、王太后様から元王妃のミュン様の婚姻届けをイッチェンが処理をするようにと、その書類が皇太后様から出されたのだ。

 たしか、一昨日に父上がいない間の審議で私が代理を務めた時に、ミュン様の離婚が成立したばかりで、今日の昼の茶会後に王城を出ていくと聞いていたが、その、あの、再婚までが早過ぎないか?と思った。

 王太后様の目の前で、イッチェンが再婚の書類手続きをしていたが。

 その書類を見せてもらった。あー、再婚相手はバルバドス殿か。なるほどね。

 王太后様の根回しがミュン様の離婚前に済んでいたから、王太后様の紹介で、父上が王命でミュン様に無茶ぶりをする前に再婚したのか。

 父上とミュン様は言葉を交わす事もなく、冷え切っていた。父上も嫌味と暴言だけしか言ってなかったし、今更、何で王が近寄って来たのかがミュン様には全く分からなかったし、伝わらなかったんだろうな。そのせいで嫌いな気持ちと義務で結婚した気持ちに無理だという気持ちが膨れ上がって、離婚に拍車がかかったとかあり得そうだな。

「手続きが終わりました。」
「ご苦労様。リンクス王と宰相が何か言ってきたら、私の所へいらっしゃいと伝えてね。しっかりと説教してあげるから。あなた達は年寄りの私の願いを叶えたって、王と宰相を突っぱねてちょうだい。」

「王太后様の仰せの通りに。」
「同じく、王太后様の為に動いたと伝えます。」
「良い子達ね。ありがとう。」

 王太后様は王城の離れで暮らしているが、滅多にこちらまで来ない。でも、ここぞという時は動かれて、それが最適な結果をもたらすので、誰も逆らえないんだが、今回は父が逆らいそうな予感がする。ただし、素面しらふではなく、酔っぱらった上での直談判をしそうだが。

 赤雪皇妃との茶会の何日か後に、「ミュンはリンクスの番である資格がなくなってしまった。その権利をもう今は有していない。それに、ミュンには番となる男が別にいるのだ。」と、女神からのお告げがあったのだ。

 それはもう、大臣の皆にも女神からのお告げがあった様で、父上の再々婚の相手に自分達の娘を勧め始めたのだ。

 それから逃げる為に父上は視察へ出たのだろうが、その隙にと王太后様から提案されたのは、ミュン様の離婚だった。王太后様はそれらを審議させ、大臣達もその意味を理解して、離婚を成立させたのだった。

 ミュン様もその間に、荷物や持ち物を仕分けして、寄付したり、売ったり処分したりして、王妃の部屋にはもうミュン様が使っていた家具ぐらいしかなく、ミュン様を思い出す物は、茶会前に最後の挨拶に伺った時にはもう、何一つ残っていなかった。

 装身具は、王家へ全て返還されていたし、ドレスや靴を売ったり寄付したりした明細金額も、その売買の記録も全て提出されていて、収支は明朗であった。

 まぁ、この年齢だから、母上がいなくなって寂しいとか言って幼子の様に泣く事はないが、先に進んでいく母上に、置いてきぼりにされたような気はしたけれど。

 その夜、父上と宰相殿が視察を切り上げて帰って来た。娘を王妃にしたい誰かが、父や宰相にミュン様が出ていった事を伝えたんだろうな。

 帰城した父上から呼び出されたであろう面々が、王の執務室にいた。ユーイとの時間を潰されるのが嫌で、渋々最後の方になって入った執務室の中を見た私は、誰がいるのかと見回した。

 リンクス王である父上、カッツェ宰相、イッチェン宰相補佐、総騎士団団長デッドリー殿、リヨウ近衛騎士団長がいた。再婚したばかりのバルバドス殿はいない。後は王太子である私と、騎士が何名かと文官がいただけだった。

「宰相の私が王との視察でいないうちに、ミュン様の離婚が成立していた。イッチェン宰相補佐、どういう事だ?」
「王太后様の願いを叶えただけでございます。」

 一瞬、ひるんだ表情をしたが、宰相殿はイッチェンの言葉を聞いて黙った。

「離婚の成立は大臣達に反対されなかったのか。答えよ、ショウ王太子。」

 王として聞いてきたか。仕方ない、王太子として答えるか。

「賛成多数に無効の方が数名いた位です。王太后様の推薦もありまして、すぐに可決されました。」

「と、止める者はいなかったのか?」
「いいえ。王太后様が提案した時点で、誰一人おりませんでした。」

 父上が、執務室を見回している。

「バルバドスがいない。どうしたのか。」
「陛下、私から答えましょう。」
「デッドリーか。」
「バルバドス殿は今日の昼から、7日間の番休暇をとっております。そこにいる副団長に当たるサブリーダーの8人うち、3名の者がバルバドス殿の代わりに代表として参加しております。」
「そうか。」

 うわわ、ミュン様が再婚したのも、その相手が誰なのかも知らないんだ。王太子教育の無表情を装うというのが、今、凄く、役立っている気がする。背中の冷汗は止まらないけどね。

「それは目出度い。ミュンを狙っていた者だからな。気になってな。」

 ドンドンドン!
「ショウ王太子様!ユーイ様が高熱で急に倒れました!王太子様の名を呼んでいるので、急いで下さい!」
「父上!私は護衛のリヨウを連れて、ユーイを見てきます!リヨウ!行くぞ!」
「はい!行きましょう!」

 王の執務室から急いで出て来たが、イッチェンが逃げれる理由はまだない。ユーイも心配だが、あの場から逃げられた安堵の方が大きい。

「ショウ、俺、あの場に居たらどうなっていたか分からない。」
「私もだ。デッドリー殿の報告で、寒気がしたよ。」

「女性をバッサリと気付かずに振っているデッドリー殿の評判は嘘や酔狂ではなく、事実だから。」
「騎士団では有名だったか。」

「俺も何度か告白の場に出くわしたが、デッドリー殿は自然体で、バッサリと振っていた。」

「ユーイが呼んでいるんだ、急ごう。」「ああ。」2人はユーイの部屋を目指して早足で歩いて行った。

 ユーイの部屋へ行くと、「今までの疲れが出たのでしょう。今夜一晩で熱は下がると思います。」と侍医に言われただけで済んだ。私は今夜、ユーイの側についているからと言って、リヨウは、そのまま帰宅してもらった。

*****(残されたイッチェン)*****

 私一人だけ?!逃げ出そうにもユーイ様の処へ行く理由がない…。

「王太后様からの伝言です。リンクス王と宰相殿が何か言いたいのなら、王太后様の所へ行く様にと伝えて欲しいと言われています。」

 もうこれしかないんだよ!

「王太后様の願いを叶えただけだとお伺い致しましたから、それは良い提案だと思われます。」

 王妃付きメイド長リルル殿の夫のボッド殿!助け船をありがとうございます!

「そうだな。陛下、王太后様のお話を聞いてから皆で話してもいいのではないでしょうか。」
「そうしよう。誰か、王太后様へ伝令係をしてくれないか?」
「はい!私が行きます。」

 すみません!父上!不甲斐無い息子は逃げます!

「では、イッチェン殿に頼もう。」
「すぐに伝えます。」と言って、王の執務室から出た。

 王太后様の所へ出来るだけ早く行き、どんな話でどんな流れだったのかを話した。王太后様はしばらく笑ってから、「デッドリーも小さい頃のまま、変わらずにいるのね。」と言ってから、「イッチェンもカーナ様が寂しがって泣いているわ。今すぐ帰りなさい。私の命令で帰ったと、あなたの母上に伝えておいて。」

「はい、すぐに帰って、母にも伝えます。」と家に帰った。そうしたら、屋敷の玄関で母に会ったので、王太后様からの言葉を伝えてから部屋に戻ると、泣き腫らしたカーナがいた。

「書いていたらね、いちに会いたくなって、寂しくて涙が止まらなかったの。帰ってきてくれて、ありがとう。」

 抱きしめたカーナが可愛いし、寄り添ってくれるのが嬉しいし、疲れが吹き飛ぶって、こういう時を言うんだろうな。

 王太后様、逃がしてくれた上に、カーナには感謝されました。幸せです!ありがとうございます。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

竜王の花嫁は番じゃない。

豆狸
恋愛
「……だから申し上げましたのに。私は貴方の番(つがい)などではないと。私はなんの衝動も感じていないと。私には……愛する婚約者がいるのだと……」 シンシアの瞳に涙はない。もう涸れ果ててしまっているのだ。 ──番じゃないと叫んでも聞いてもらえなかった花嫁の話です。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【R18】突然召喚されて、たくさん吸われました。

茉莉
恋愛
【R18】突然召喚されて巫女姫と呼ばれ、たっぷりと体を弄られてしまうお話。

ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
 第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。  言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。  喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。    12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。 ==== ●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。  前作では、二人との出会い~同居を描いています。  順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。  ※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。

処理中です...