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異界渡り(ワーオランドーラ国)編

偽装と書き換えには時間がかかります

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 一郎さんが一緒に異界渡りをする事になりました。

 ワーオランドーラの方で気付いても大丈夫な様にと、
「予定になかった者が一緒に異界渡りをする事になった。その手続きをしてから帰るので、皆の帰国が遅れる。」と、私達が帰る国へ表向きでの連絡を入れたそうだ。

 帰国する国の方でも、城にいる者達へ情報が知らされて、その周りにも伝わる。
 そうすれば、ワーオランドーラの方へも、その情報が流れるのだと、祥さんと一郎さん、陽太郎さんに代わるがわる説明されたのだった。

 裏の方では、正確な情報を国に伝えたそうだ。
 術式で私と加奈さん2人の到着地点が犬っコロ共に何ヵ月も前から細工されていて、それでワーオランドーラの王城の王の寝室が到着地点に設定されていた事、その地点から私達の地点を偽装と書き換えで、ワーオランドーラの国境近くの町外れにずらしてから異界渡りをする事を伝えたそうだ。

 私とマミ姉さん(加奈さん)の異界渡りがすぐにされなかった理由があって、あちらの目を誤魔化せて良かった。まだもう少し一緒に居られる。と祥さんに頭を撫でられながら言われました。

 べ、別に頭を撫でなくても…と思いつつ、祥さんの後ろに幻の子猫が3匹ほど、シュンとした姿が見えているような気がして、頭を撫でるのを拒否出来なかった…。こ、子猫大好きだしっ!!

 そうしている間にも、何をされているか、どんな術式かを調べていた一郎さんが、済まなさそうに私達に話しかけて来た。

「書き換え出来ても、到着地点は町外れになる。
 多分、二重三重に術式が仕掛けてあるだろうから、異界渡りで到着地点がズレたのにもすぐに気付かれて、王城から迎えが来るだろう。
 だが、あの馬鹿王の寝室でないだけマシだ!!」

「それには、私も同意する!!」祥さんも力説した。

「そうね、あっちで犬が迎えに来たら、「お腹に子供がいて、悪阻で具合が悪くて犬臭さに耐えられない、心細いので妹が居ないと不安でツラい。」って言うわ!全部、本当の事だし。
 それで居直ってやるわ。
 それに他国の王城なんて簡単に入り込めないだろうから、必ず呼ぶわ。絶対、迎えに来てね。」

「私も、姉の側じゃないと心細くって怖い!姉を一人にしたくない!って、泣いて騒いで、ずーっと訴えます。マミ姉さん(加奈さん)から離れません。」

 一郎さんも祥さんも私達の気持を聞いて少しは落ち着いたみたいで、偽装と書き換えをする男性陣の集まっている場所へ戻って行った。
 でも、陽太郎さんだけは私達から離れずに残っていた。

「2人共、その意気で頼む。一兄も祥も、俺じゃ抑え切れないから。そーだなー、連絡、連絡が出来ればいいんだよな、どうしよっか、持って帰って来てた筈…。」

 ごそごそと服のポケットに手を突っ込んで、何かを探していた陽太郎さん。ポケットから出した手にはブローチが2つ乗っていた。

「このブローチは、通信用のやつ。
 魔力を流すと起動して、20分間通信出来るんだ。
 流さなければ、ただのブローチにしか見えないし、鑑定しても分からない様になっている。
 日本の技術と私達の魔法を組み合わせて作られている優れモノなんだよ。」

「このブローチで、私達がどんな様子かを知らせればいいんですね。」

 私とマミ姉さん(加奈さん)にブローチを手渡すと、服に付けるように言われて、ブローチを服に付けた。

「マミさん(加奈さん)は使い方を知っているけど、お腹の子を守るために魔力を使うだろうから、さ、ミサさん(結衣子さん)が通信して。
 通信ぐらいなら、城の中でも飛び交っているから目立たないし。
 でもね、2人が入れられる部屋には何か細工がされているだろうから、トイレや風呂の、覗くのも記録するのもタブーになっている所から通信を送って欲しいんだ。」

「トイレと風呂だけですか?」

「他の場所だと、監視が居てバレる可能性が高い。
 監視もそこには踏み込めないし、そもそも、他国の貴族だと知っている筈の、側妃候補の女性に向かって無礼な事は出来ない。
 犬や狼だから序列が大事なんだ。
 自分達よりも上に立つかもしれない女性に向かって、手を出すような事は出来ない。
 馬鹿王には、男の兄弟はいないし、従兄弟でも、王の側妃候補には手が出せないから。
 その辺は心配ないだろうと思う。
 けどね、市井の馬鹿犬共には関係ないから、着いたら、スカーフを外して、誰に話しかけられても知らんぷりしていて欲しい。
 マミさん(加奈さん)とはぐれないように。」

「え、と、着いたらスカーフを外して、城からの迎えを待つ。誰に話しかけられても知らんぷりをする。女性でもですか?」

「どんな状況でもだ。親切に見えても、詐欺や強盗はいるから。祥と俺とで話したよね、着いたばかりの者を狙うって。」

「あ、はい。」

 そうだった、到着場所とか異界渡りだとかで忘れてた…。

「だから、物を譲って欲しいって言われても、「はい?」って聞き直すだけでも了承の意にとられて、物を盗まれてしまうから、一言も話さないで欲しいんだ。」

 うわ!そこまでとは…。一言も話さない。話すのは、マミ姉さん(加奈さん)だけって事か。
 私の余計な一言で危機を呼び込みたくないから、出来るだけ話さないでおこう。

「陽太郎さん、人見知りって向こうでも通用しますか?」

「そうだなー、ありなしで言ったら、ありかな。それなら、あんまり話さなくても違和感ないと思う。」

「その線で行きます。」

「で、祥、あっちの物陰で、話して来いよ。引き続き、マミさん(加奈さん)の護衛をしているからさ。」

 そっか、陽太郎さんは護衛していた私達から離れないでいたんだ。

 そして、いつの間にか私達の側に来ていた祥さんが言った。

「ああ、そうする。ミサ、あっちで少しだけ話そう。」

 祥さんに付いて行って、物陰に来た。陽太郎さんとマミさん(加奈さん)は木で隠れて見えない。

「結衣子、愛してる。必ず、助けるから呼んでくれ。
 あの馬鹿王がどう動くか分からないから、3日目の昼には結衣子に、いつ呼ばれてもいい様に用意しておく。だから、必ず呼んでくれ!!」

「絶対、呼びます。」

「愛してる、3日も離れると分かったから、キスしたい。」

 恥ずかしーーー!!こんな外で?!

「あっちからは見えないだろう。お願い。」

 あああ、恥ずかしいけど、私も祥さんと出会って番になってからは3日も離れた事ないし、不安だし、陽太郎さんやマミ姉さん(加奈さん)から見えないって分かっているから、キス位は良いよね。と自分に言い聞かせて、
「…うん。」と答えた。

 ……その結果、私が立っていられない程のキスをしました…、時間にしては2,30分でしょうか、唇が腫れぼったくなってしまいましたーーーー。もろ、キスしてましたって、バレバレです。ううっ、恥ずかしーーー。

 祥さんの唇も腫れぼったくなっていますが、気にしていないようです。そんな厚顔無恥、私には、無理だーー!

 立てなくなった私をお姫様抱っこした祥さんが、陽太郎さんの居る場所へ戻る途中で、一郎さんとマミ姉さん(加奈さん)とすれ違いました。

「私達の次に一兄があの場所を使うから。私は皆に合流するけど、陽太郎の護衛で、マミさん(加奈さん)を待っていて。」

 次?………、あ!私達みたいな事をする順番が次!!あああ、マミ姉さん(加奈さん)も歩けない程に?!

 陽太郎さんの居る場所まで戻ったら、「祥、充電出来たか?」と祥さんが聞かれていた。

「程々な。あっちに戻るから、ミサを頼む。マミさんもすぐには戻らないだろうから。」

「へいへい、分かってるよ。」と、話したのだった。充電って、携帯や電池じゃないんだから、もう!

 私をイスに座らせてから、祥さんは偽装と書き換えに戻って行った。

「お疲れさん。治癒魔法でもかける?」
「…ううっ、お願いします。」

 このままで、集まっている男性陣の前や、異界渡りをした後に不特定多数の前で恥ずかしい思いをするよりも、事情を知っている陽太郎さん1人だけに恥をかく方がマシだと判断して、治癒魔法をかけてもらったのだった。

 案の定、戻って来たマミ姉さん(加奈さん)も一郎さんにお姫様抱っこでイスに座らされて、陽太郎さんに治癒魔法をかけてもらっていました。

「俺は2人の護衛で、2人の為に魔法が使える様にして待機しているからさ、偽装や書き換えの人数には数えられていないんだ。だから、心配すんなよな。」

 私が陽太郎さんはどうするんだろうって、ハラハラしているのに気付かれていましたか。

「気付いてたんですか。」
「何となく、だけどな。…ん、追加の人員も来たか。」

 私には分からなかったけど、陽太郎さんがそう言った2,3分後に、男性が3人やって来ました。

「な、俺の抜けた分を担当するより多く魔力を提供出来る様にさ、何人か呼んでおいたから、心配ない。」

 ニカッと笑って、陽太郎さんが(多分、ブレスレットから)折り畳みイスを出して座った。
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