上 下
21 / 23
災難も幸せも、すぐそこに転がっている。

見つかった

しおりを挟む
大きな荷物を抱えてマンションを飛び出し、結局向かったのは実家だった。
特急を乗り継ぎ、久しぶりに帰ったふるさと。
本当はもっと明るい気持ちで戻ってきたかったのに・・・
クスン。
駅に降り立った瞬間、なぜか涙がにじんできた。

ここは生まれ育った場所。
そして5年前、私は逃出した。
当時の私はボロボロだった。
心も体も傷だらけで、どうやって生きていたのかの記憶もない。
一刻も早くこの土地から離れたくて、東京の大学を選んだ。
そんな私を心配した母さんは、一年間私に付き添ってくれた。


「お帰り、茉穂」
駅まで迎えに来てくれた母さん。
「ただいま」
大きな荷物を抱えた私を見ても、何も言わない。

「ごめんね。しばらくお世話になります」
「何言ってるの、自分の家じゃない」

ありがとう。
言葉にはできないけれど、感謝している。

***

その日から、実家での引きこもり生活。
5年前と何も変わらない。
進歩のない私。


「仕事は?やめたのか?」
父さんは相変わらず厳しい。
地元の市役所に勤める公務員である父さんは、真面目で堅物。
小さい頃から厳しく育てられた。

「仕事なんて面白くないことばかりなんだ。それを、半年やそこらで逃出してどうする」
確かにそうだね。

昔から、父さんはそうだった。
小学生で不登校になった私に、「学校に行け。それがお前の仕事だ」と怒鳴った。
高校時代、いじめられ、傷つき、手首を切った私に、「何でお前はいつもそうなんだ」と悲しそうな目を向けた。
私はあの時の、父さんの顔を一生忘れない。

「いいじゃないですか、茉穂が決めたことですから」
母さんはいつもかばってくれる。


「父さんの言うことなんて気にすることないのよ。あれでも心配なのよ」
「うん」
大丈夫。父さんが不器用なだけだって、今は理解しているから。

そして、
男の人はみんな不器用だってことも。

***

「もう、いつまでパジャマでいるのよ。着替えて少しは外に出なさい」
言いながら、カーテンを全開にされた。

ウウ、まぶしい。

「起きなさいよ。今日は部屋の掃除をしますからね」
「はーい」

実家に帰って数日。
昔のような引きこもり生活に戻った私に、さすがの母さんもキレてしまったらしい。


「ごめんくださーい」
玄関から声。
「お客さんよ」
「はいはい」
パタパタと階段を降りてく母さん。

誰だろう、平日の昼間に。

しばらくして、
「茉穂-」
私を呼ぶ母さんの声。

「もう、なんなのよ」
ブツブツ言いながら、玄関へ向かった。


そこにいたのは・・・・

「嘘。どうして」

私は、息をするのを忘れてしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【ヤンデレ鬼ごっこ実況中】

階段
恋愛
ヤンデレ彼氏の鬼ごっこしながら、 屋敷(監禁場所)から脱出しようとする話 _________________________________ 【登場人物】 ・アオイ 昨日初彼氏ができた。 初デートの後、そのまま監禁される。 面食い。 ・ヒナタ アオイの彼氏。 お金持ちでイケメン。 アオイを自身の屋敷に監禁する。 ・カイト 泥棒。 ヒナタの屋敷に盗みに入るが脱出できなくなる。 アオイに協力する。 _________________________________ 【あらすじ】 彼氏との初デートを楽しんだアオイ。 彼氏に家まで送ってもらっていると急に眠気に襲われる。 目覚めると知らないベッドに横たわっており、手足を縛られていた。 色々あってヒタナに監禁された事を知り、隙を見て拘束を解いて部屋の外へ出ることに成功する。 だがそこは人里離れた大きな屋敷の最上階だった。 ヒタナから逃げ切るためには、まずこの屋敷から脱出しなければならない。 果たしてアオイはヤンデレから逃げ切ることができるのか!? _________________________________ 7話くらいで終わらせます。 短いです。 途中でR15くらいになるかもしれませんがわからないです。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

両隣から喘ぎ声が聞こえてくるので僕らもヤろうということになった

ヘロディア
恋愛
妻と一緒に寝る主人公だったが、変な声を耳にして、目が覚めてしまう。 その声は、隣の家から薄い壁を伝って聞こえてくる喘ぎ声だった。 欲情が刺激された主人公は…

隠れ御曹司の愛に絡めとられて

海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた―― 彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。 古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。 仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!? チャラい男はお断り! けれども彼の作る料理はどれも絶品で…… 超大手商社 秘書課勤務 野村 亜矢(のむら あや) 29歳 特技:迷子   × 飲食店勤務(ホスト?) 名も知らぬ男 24歳 特技:家事? 「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて もう逃げられない――

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

処理中です...