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温もり

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「真理愛ッ」
叱りつけるような声で呼び、背後から腕をとられる。

「もう、離してっ」
私も敬さんを振り払おうと腕を振った。

「いい加減にしろ、親父さんがどうなってもいいのかっ」
「ええ、いいの。だからかまわないで。そもそも敬さんは無関係じゃない。うちの事情に首を突っ込まないでほしいわ」
怒りに任せてきつい言葉になった。

「じゃあ何で、昨日は自分を売ってまで金を用意しようとしたんだ?」
「それは・・・」

「このままじゃ同じことの繰り返しだろう?昨日はたまたま何もなかったが、この次は本当に自分を傷つけることになるかもしれないんだぞ」

そんなこと私だってわかっている。
次もまた敬さんみたいに良い人に出会うとは思わないし、下手すると犯罪に巻き込まれることになるのかもしれない。
それでも、

「もしそうなったとしても、敬さんには関係ない。自分を売ってパパが助かるならそれでいいじゃない。何ならこの足でお金持ちのおじさんを探しに行ってもいいくらいだわ」

これだけ言えば、敬さんは私を見捨ててくれるだろう。
とんだ不良娘だって呆れられるかもしれないけど、それでいいと思っていた。
しかし、



パンッ。
私の左頬から乾いた音がした。

キーン。
聞こえる耳鳴り。

いつの間に回り込んできたのか、私のことを見下ろす敬さんの鋭い視線。
一瞬何が起きたのかわからなくて、口を開けたまま立ち尽くした。

「もういい、やめろ」
絞り出すように言う敬さんの声は、怒っていると言うより寂しそう。

どうやら私は敬さんに叩かれたらしい。
そう理解するのに数秒かかった。

「真理愛、もういいから。少なくとも俺の前では無理するな。辛いときは辛いと言えばいいし、悲しい時には泣けばいい。頑張らなくてもいいんだよ」
言いながら、ギュッと私のことを包み込んでくれる。

想定外に強めの力で抱きしめられ、息苦しさに少しもがいてみたけれど、

「いいから、じっとしていろ」
敬さんの言葉で力を抜いた。

そう言えば、こんな風に誰かに抱きしめられた覚えがない。
パパやママと手を繋いだことや並んで歩いたことはあっても、誰かに守られたことはなかった。
記憶の中の私はいつもママの手を引いて歩いていたから。

「叩いてごめん」
「ううん」
悪いのは私だから。



どのくらい公園で過ごしたんだろうか。
敬さんの胸に顔を埋めてしばらくじっとしていた私は、伝わってくる温もりに心が落ち着き、敬さんから香るシャンプー匂いに緊張がほどけていった。


「今度こそ、送って行くよ」
「うん」

お互いに多くを語ることはなく、ただ車に乗り込んだ。
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