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朝のひと騒動

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綿のパンツにセーターを着て、ダッフルコートを羽織りスニーカーを履いた姿は医者どころかまだ学生のようにも見える。
私だって今の敬さんに「医者です」と言われたら、警官と同じ反応をしたと思う。

「一応確認してもいいですか?」
「え?」

警官の言葉に、今度は敬さんの方が反応した。
さすがに、警察から本人確認の連絡が病院へ入るのは困るだろう。
そこは止めないとと、私も身を乗り出そうとした。

「大丈夫です。病院のホームページで確認させてもらうだけですから」

ああ、なるほど。
病院のホームページにはドクターの顔写真も載っているはずだから、それを確認するつもりなんだ。

数分後。

「救命科の杉原敬先生。間違いないようですね。じゃあ、身分証をお返しします」
「どうも」
返却された身分証を受け取る敬さんは少し不満そう。

全員の素性が分かると事の経緯を聞かれ、あとは事件性がないとの判断ですぐに解放された。
未成年の私もパパが一緒だったためにママが呼ばれるようなことはなかった。



警察を出て、私とパパと敬さんの三人は一旦パパのアパートまで戻った。

「真理愛、1人で帰れるか?」
「うん、タクシーを拾うから」

送ってもらって万が一ママとパパが顔を合わせるようなことになればめんどくさいし、1人で大丈夫だからと主張した。

「僕が送ります。病院へ戻るところだったので」

車で来ていた敬さんが言うけれど、本当なら敬さんに送ってもらうのも気が引ける。
でもこれ以上はパパも敬さんも納得してくれないだろうと、言わなかった。
病院は自宅までの通り道だし、敬さんも今日は仕事だって言っていたから、病院まで送ってもらおう。私は一人でそう納得した。

「すみませんが、真理愛のことをお願いします」
「はい」

お医者さんだってわかったからかな、パパの敬さんに対する反応が少し違ったような気がする。
まあ、ただ単に素性がはっきりしたからってだけかもしれないけれど。

「真理愛、気を付けて帰るんだぞ」
「うん」
「それから、今日のことは」
「大丈夫言わないよ」
ママに言えば大騒ぎされるだけだもの。

じゃあねと手を振り、私と敬さんはパパのアパートを後にした。
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