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朝のひと騒動

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お医者さんって言うだけで、知的でエリートで人生勝ち組って思うのは偏見かもしれない。
ただ、一般的には裏の社会とは無縁なクリーンなイメージがある。

「名前は?」

敬さんと再会してから30分後。
私と敬さんとパパと、それから借金取りの二人は冷たいパイプ椅子に座らさられていた。

「いい加減にしゃべってくれ」
さっきからなかなか口を開こうとしない私たちに、白髪交じりの警官が呆れている。

ここはパパのアパートからそう遠くはない警察署。
私とパパと借金取りの男たちがもめているのを見た近所の住人が警察に通報したらしく、駆け付けた警官によって連れてこられた。
ちょうど敬さんが男たちを突き飛ばしした後で、その場面を見た人には喧嘩の最中にでも見えたんだろう。
結構強引にパトカーに乗せられ警察署に連行されてしまった。

「少しもめただけで、喧嘩でも何でもないんです。娘とこの人は関係ないんだから帰してください」
「だから、名前と住所、事情を説明しろ。そうすれば帰してやるから」

パパは一生懸命説明しようとするけれど、話は平行線。
結局正直に素性を明かすしか方法はなさそうだ。



「で、お前たちは借金の取り立て屋か?」
「ええ、まあ」

やくざ風の二人の名刺と顔を見比べながら、警官は調書を書いている。

「それから、あんたは?」
警官がパパに聞き、
「一応、フリーのライターです」
「ふーん」
いかにも怪しんでいる感じ。

「で?」
今度は私と敬さんの方を見た。

「この子は俺の娘です」
とパパが答え、
「じゃあ、あんたは?」
警官の視線が敬さんに移った。

ああ、マズイ。
こんなところで警察沙汰を起こしたのを病院には知られたくないはず。

「何か身分確認できるものはないのか?」
警官は敬さんの前に座り直し、完全に一対一の体制。

はあー。
敬さんの小さなため息が聞こえてきた。

「はい」
諦めたように差し出された身分証。

「えっと、杉原敬さん、26歳。住所は・・・」

敬さんの出した身分証と顔を見比べながら確認していく警官。

「職業は?」

あっ。
私の方が声が出そうになった。

「医師です」
「は?」
「私立病院の医者です」
「え?」

警官は少しだけ身を引いて、敬さんの全身を眺めた後、
「見えませんね」
はっきりとそう言った。
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