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朝のひと騒動

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「おい」

ん?
通路の向こうから聞こえてきた声に、私の耳が反応した。
めんどくさそうに近づいてくるのは見覚えのある顔。

「何だお前は」
チンピラ風の男も声を上げる。

「俺はこの子の知り合いだ」
そう言って私と借金取りの間に立ったのは、敬さんだった。

どうして敬さんがここにいるのかはわからない。
こんなところを見られたくない思いもある。
でも、敬さんが来てくれてホッとした。

「この子の知り合いならちょうどいい。お前が金を出してくれ」
さも当然のように、スーツ姿の男性が言い放った。

「それって、この子の借金なのか?」
落ち着いた様子で聞き返す敬さん。
「親父の借りは娘の借金だろ」
「ふざけるな」

昨日初めて会ったばかりだけれど、敬さんは優しくて温厚な常識的なお医者様だった。
間違って乱暴さを感じることはなかったし、明るい表舞台を歩いてきた人にしか見えなかった。
でも、今ここにいる敬さんはどこか印象が違う。



「だから、金を出せよ。そうすればこの娘には何もしない」
敬さんに向かって、絶対に信用できないようなことを言うチンピラ。

今ここでお金を出せば、この後何度も要求してくるに違いない。
そんなことは私にでも想像がつく。

「金は出さない。借金があるなら本人に請求するんだな」
そう言って、敬さんは私の腕を引いた。

「待てよ」
当然のようにチンピラは敬さんの肩をつかんで止めに入った。

困った。
このままじゃもめる。
この事態をどう収拾させようかと考えていた時、

バンッ。
ドンッ。
鋭い音がして、
「ウッ」「ウウッ」
気が付くと、チンピラとスーツの男性が廊下に座っていた。

一体、何が起きたんだろう。
理解できない私はキョロキョロとあたりを見回す。

この状況で立っているのは私と敬さんだけ。
借金取りの二人とパパは廊下に座り込んでいる。

え、えっと・・・

パパはチンピラに突き飛ばされたはずで、この二人は・・・・

「大丈夫?ケガはない?」
心配そうに聞く敬さん。
「う、うん」

どうやら敬さんが二人をやっつけてくれたらしい。でも、どうやって?

「こう見えて十代の頃にはやんちゃしていたんだ。ケンカだって数えきれないくらいした。それなりに場数を踏んでいるんだよ」
「へえ」
それ以上の言葉が私には見つからなかった。
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