上 下
10 / 34
予期せぬ再会

しおりを挟む
「もしもし杉原です」
店を出て近くのガードレールに寄り掛かりながら電話をかけた。
よく見れば、昼間にも何度か電話をもらっていた。仕事中で出られなかった俺は「急ぎの要件なら直接勤務先にでもかけてくるだろう」と折り返しの連絡をしていなかった。

「ああ、お忙しいところすみません」
「いえ僕の方こそ、なかなか行けなくてすみません」
「いいんですよ。お忙しいのは承知していますから」

電話の相手は父を診てもらっている病院の看護師。
俺も何度か顔を合わせたことがあるが、50過ぎの元気で明るい女性だ。

「何かありましたか?」

アルコールがもとで肝臓を悪くした父さんはずいぶん前から施設と病院の行き来を繰り返していて、ここ3年程は俺の勤務先からも車で30分くらいの所にある療養型の病院へ入院させてもらっている。

「寒い季節だからでしょうか、少し風邪気味で食欲も落ちています」
「そうですか」

見舞に行っても多少反応するくらいで、俺のことがわかっているかどうかだかわからない状態の父さん。それでも、俺はただ一人の身内だ。

「近いうちに時間を見つけて会いに行きますので」
「お願いします」

救命医なんてしていれば、時間もないしいつ呼び出されるかもわかったものじゃない。
せめて休みの日にはゆっくり眠りたい。次の休みには必ず面会に行こう。そう思っているうちに父さんの病院から足が遠のいていた。

「本当にすみません」
「大丈夫ですよ。先生もお忙しいでしょうから」
「はあ」

忙しいなんて言い訳にしかならない。
きっと、俺の心のどこかに、父さんを疎ましく思う気持ちかあるんだろう。
本当に、俺は親不孝な息子だ。



「はあー」

電話を切りカードレールに寄り掛かったまま行き交う人何を見ている俺の耳に、聞こえて来たため息。
消沈した雰囲気が気になって視線を右へと移す。

あれ?

そこにいたのはほんの数時間前に救急外来で出会った少女。
たしか・・・真理愛さんだったかな。
俺と同じようにガードレールに座る17歳の女子高生。

「どうしたの?家に帰らないの?」
もうしばらくで日付が変わる深夜に、若い女の子が一人でいることが心配で声をかけた。

「あ、あなたは」
どうやら彼女も俺の顔を覚えていてくれたらしい。

ん?
彼女が振り向いた拍子に手にしていた携帯の画面がたまたま目に入り反応してしまった。

「何か、困っているの?」

彼女が見ていてのは10代の女の子との出会いを求めるサイト。
もちろん中には健全な動機で登録する人もいるだろうけれど、一般的には援助交際を斡旋するサイトとして知られているものだ。

「大丈夫です」
「大丈夫には見えないけれど?」
「・・・」
やはり彼女は黙り込んでしまった。

俺の周りにいる女子たちと違う素直な反応に、クスッと笑いそうにさえなった。
かわいいな。それが素直な感想。
普段強気な女医に囲まれていて妹なんて持ったことのない俺にはすごく新鮮に感じられた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されない女

詩織
恋愛
私から付き合ってと言って付き合いはじめた2人。それをいいことに彼は好き放題。やっぱり愛されてないんだなと…

ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません

下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。 旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。 ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも? 小説家になろう様でも投稿しています。

城内別居中の国王夫妻の話

小野
恋愛
タイトル通りです。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

ダブル シークレットベビー ~御曹司の献身~ その後

菱沼あゆ
恋愛
その後のみんなの日記です。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

処理中です...