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予期せぬ再会
④
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「もしもし杉原です」
店を出て近くのガードレールに寄り掛かりながら電話をかけた。
よく見れば、昼間にも何度か電話をもらっていた。仕事中で出られなかった俺は「急ぎの要件なら直接勤務先にでもかけてくるだろう」と折り返しの連絡をしていなかった。
「ああ、お忙しいところすみません」
「いえ僕の方こそ、なかなか行けなくてすみません」
「いいんですよ。お忙しいのは承知していますから」
電話の相手は父を診てもらっている病院の看護師。
俺も何度か顔を合わせたことがあるが、50過ぎの元気で明るい女性だ。
「何かありましたか?」
アルコールがもとで肝臓を悪くした父さんはずいぶん前から施設と病院の行き来を繰り返していて、ここ3年程は俺の勤務先からも車で30分くらいの所にある療養型の病院へ入院させてもらっている。
「寒い季節だからでしょうか、少し風邪気味で食欲も落ちています」
「そうですか」
見舞に行っても多少反応するくらいで、俺のことがわかっているかどうかだかわからない状態の父さん。それでも、俺はただ一人の身内だ。
「近いうちに時間を見つけて会いに行きますので」
「お願いします」
救命医なんてしていれば、時間もないしいつ呼び出されるかもわかったものじゃない。
せめて休みの日にはゆっくり眠りたい。次の休みには必ず面会に行こう。そう思っているうちに父さんの病院から足が遠のいていた。
「本当にすみません」
「大丈夫ですよ。先生もお忙しいでしょうから」
「はあ」
忙しいなんて言い訳にしかならない。
きっと、俺の心のどこかに、父さんを疎ましく思う気持ちかあるんだろう。
本当に、俺は親不孝な息子だ。
「はあー」
電話を切りカードレールに寄り掛かったまま行き交う人何を見ている俺の耳に、聞こえて来たため息。
消沈した雰囲気が気になって視線を右へと移す。
あれ?
そこにいたのはほんの数時間前に救急外来で出会った少女。
たしか・・・真理愛さんだったかな。
俺と同じようにガードレールに座る17歳の女子高生。
「どうしたの?家に帰らないの?」
もうしばらくで日付が変わる深夜に、若い女の子が一人でいることが心配で声をかけた。
「あ、あなたは」
どうやら彼女も俺の顔を覚えていてくれたらしい。
ん?
彼女が振り向いた拍子に手にしていた携帯の画面がたまたま目に入り反応してしまった。
「何か、困っているの?」
彼女が見ていてのは10代の女の子との出会いを求めるサイト。
もちろん中には健全な動機で登録する人もいるだろうけれど、一般的には援助交際を斡旋するサイトとして知られているものだ。
「大丈夫です」
「大丈夫には見えないけれど?」
「・・・」
やはり彼女は黙り込んでしまった。
俺の周りにいる女子たちと違う素直な反応に、クスッと笑いそうにさえなった。
かわいいな。それが素直な感想。
普段強気な女医に囲まれていて妹なんて持ったことのない俺にはすごく新鮮に感じられた。
店を出て近くのガードレールに寄り掛かりながら電話をかけた。
よく見れば、昼間にも何度か電話をもらっていた。仕事中で出られなかった俺は「急ぎの要件なら直接勤務先にでもかけてくるだろう」と折り返しの連絡をしていなかった。
「ああ、お忙しいところすみません」
「いえ僕の方こそ、なかなか行けなくてすみません」
「いいんですよ。お忙しいのは承知していますから」
電話の相手は父を診てもらっている病院の看護師。
俺も何度か顔を合わせたことがあるが、50過ぎの元気で明るい女性だ。
「何かありましたか?」
アルコールがもとで肝臓を悪くした父さんはずいぶん前から施設と病院の行き来を繰り返していて、ここ3年程は俺の勤務先からも車で30分くらいの所にある療養型の病院へ入院させてもらっている。
「寒い季節だからでしょうか、少し風邪気味で食欲も落ちています」
「そうですか」
見舞に行っても多少反応するくらいで、俺のことがわかっているかどうかだかわからない状態の父さん。それでも、俺はただ一人の身内だ。
「近いうちに時間を見つけて会いに行きますので」
「お願いします」
救命医なんてしていれば、時間もないしいつ呼び出されるかもわかったものじゃない。
せめて休みの日にはゆっくり眠りたい。次の休みには必ず面会に行こう。そう思っているうちに父さんの病院から足が遠のいていた。
「本当にすみません」
「大丈夫ですよ。先生もお忙しいでしょうから」
「はあ」
忙しいなんて言い訳にしかならない。
きっと、俺の心のどこかに、父さんを疎ましく思う気持ちかあるんだろう。
本当に、俺は親不孝な息子だ。
「はあー」
電話を切りカードレールに寄り掛かったまま行き交う人何を見ている俺の耳に、聞こえて来たため息。
消沈した雰囲気が気になって視線を右へと移す。
あれ?
そこにいたのはほんの数時間前に救急外来で出会った少女。
たしか・・・真理愛さんだったかな。
俺と同じようにガードレールに座る17歳の女子高生。
「どうしたの?家に帰らないの?」
もうしばらくで日付が変わる深夜に、若い女の子が一人でいることが心配で声をかけた。
「あ、あなたは」
どうやら彼女も俺の顔を覚えていてくれたらしい。
ん?
彼女が振り向いた拍子に手にしていた携帯の画面がたまたま目に入り反応してしまった。
「何か、困っているの?」
彼女が見ていてのは10代の女の子との出会いを求めるサイト。
もちろん中には健全な動機で登録する人もいるだろうけれど、一般的には援助交際を斡旋するサイトとして知られているものだ。
「大丈夫です」
「大丈夫には見えないけれど?」
「・・・」
やはり彼女は黙り込んでしまった。
俺の周りにいる女子たちと違う素直な反応に、クスッと笑いそうにさえなった。
かわいいな。それが素直な感想。
普段強気な女医に囲まれていて妹なんて持ったことのない俺にはすごく新鮮に感じられた。
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