【完結】転生愚話

4章『転生終焉』

09【了】

09

グラジュスリヒト国が総出でダアンド山を調査したところ、蔓延っていた魔物は全て消えていた事がわかった。
そして、何故か血だらけの遺体が数体見つかったそうだ。どの者もイニシリア国の紋章を掲げていたそうな。

イニシリアへと、早急に知らせを送ったところ思わぬ返答が返ってきた。

『イニシリア国が魔物に襲われている』

グラジュスリヒト国は魔物から逃れた大勢の民を受け入れ、暫く住めるようにと衣食住を与えた。

『魔物は民を襲っているようには見えませんでした』
『まるで意思があるように思えました』
『魔物達は城に向かっていきました』
『イニシリアの国王は酷いお方だから…』

避難してきた民達は口を揃えて呟いた。
税はどんどん高くなっていき、少しでも遅れると折檻を受ける。イニシリア家を悪く言い、殺害された民も居たとの事だ。

噂話の範疇ではあるが、沢山の民が同じ事を訴えるという事は事実なのだろう。

先日、グラジュスリヒト家の皇子とイニシリア家の皇女との婚約が話に上がったが、皇子が断った為、破綻した。そして、皇子は暫くして事故により命を落とした。

もしも皇子が断らずに、婚姻を結んだとしたら――…。考えるだけでぞっとする話だ。
皇子の死は悲しい話だが、民や国を無碍にし自分の利益しか考えていない男だったので、


恐らくイニシリア国は破滅へと向かうだろう。

ならば、グラジュスリヒト国が出来る事はただ一つ。
逃れて来た民へ、グラジュスリヒト国の民である権利を与える事だ。

「望む者はそのまま家を渡そう。そして仕事も与えよう。丁度鉱山が見つかったからな…。これから忙しくなるぞ！」

国王の言葉に沢山の民が喜びの声をあげる。

誰もが、グラジュスリヒト国に来て良かったと言う。その言葉は国王にとって喜ばしい事だった。
民の為に、日々生きる彼にとって代えがたい言葉。

「そろそろ妻を娶らなければな…」

王妃と息子を亡くしてしまった国王。心から王妃を愛していた国王は王妃を亡くした後、頑なに誰も娶る事はしなかった。
けれど、これからはそんな事も言ってられない。グラジュスリヒト国はこれからも大きくなっていくだろう。
国王一人では到底回せそうにない。

「こんな時、『彼』が居ればな……」

ぽつりと呟いた国王の言葉は、誰の心にも残る事は無かった。勿論、国王自身にも。

イニシリア国の民を迎え、多忙を極めた国王は僅かに感じる虚無感にずっと気付かぬふりをしていた。

誰も居ない部屋で膝を折り、そっと目を閉じる。

まるで懺悔のように、贖罪するかのように、何時までも国王は『彼』へと静かに涙を流していた。


＊＊＊＊＊


「なぁ、見たか？魔物が押し寄せて来た時さ…」

イニシリア国から逃れて来た民が酒場でアルコールを口に含みながら、同郷の男に声を掛けた。

「ああ…アレの事、だよな…」

声を掛けられた男は真っ赤な顔をしながら声を潜ませる。

「メロード姫、だったよな…？」
「お前も見たか…。魔物の大群の中にメロード姫が魔物に抱かれてたよな…」

男は当時の事を思い出したのか、声を震わせながら言葉を続ける。

「嬉しそうな顔をしながら魔物に口付けしてた。胸に小さな魔物を抱きながら、さ…」
「……メロード姫が仕組んだ事なのかな…」

間違いなく魔物に抱かれていたのは彼等の主だった男の娘である、メロードだった。何度もパレードで見ていたし、新聞にも顔写真が載っていた事もあったから見間違える訳がない。
それに、あんな美しい女性など、中々会うこともないだろう。

「まぁ…だとしても俺達にとって良い事だったよな。仕事だけじゃなくてさ、住む権利までくれて…」
「確かにな。…こんな話なんかしてたら酒が不味くなっちまうな！ところでさ――…」