47 / 52
4章『転生終焉』
08
しおりを挟む
08
「…ん……?」
暗闇の中、夢から覚めたアリーはゆっくりとベッドから身体を起こし、自身の身体を見やればエプロンドレスを纏ったままだった。
「……?」
何故、自分が着替えもせずベッドに横になっているのか、アリーは思い出せなかった。
朝、仕事をする為に支度をした。そして――様の為に朝食を用意した。
「え……?」
思い出せなかった。
一体誰の為に用意をしようとしたのか。そもそもアリーは一体誰に従えていたのか、全く以て思い出せない。まるでぽっかりと穴が開いてしまったかのように、記憶の一部が欠落していた。
自分の生まれは思い出せる。その後の惨劇も。そして、誰かに手を差し伸べられて――…
誰に?
国王に?
…違う気がした。
けれど、思い出せない。『彼等』にまつわる全てが、思い出せなかった。
その時、ドアがノックされアリーは驚きながらもドアを開ければ、そこには近衛兵の一人であるディオンが部屋の前に居た。
ディオンとアリーは年齢が近く、城に従えた次期も近かった事から何かと話す機会が多かった。
――少し前に、『彼』に揶揄われたような…
「アリー?体調大丈夫?…ん?何でエプロンドレスを着てるの?夜だよ」
「…体調……?」
「うん、昨日倒れて今日は一日休んだって聞いたけど…」
「…そ、そうなの。疲れてて…これは…ちょっと寝ぼけていたみたい…」
「へぇ、完璧侍女の君が珍しいなぁ。良いモノ見ちゃった!」
ニコニコと笑うディオンを部屋に招き入れ、ディオンの言葉を思い出しながらアリーは思考を巡らす。
それでも、何も思い出せなかった。考えれば考える程、頭の中がごちゃごちゃになっていく。
「こんな時間にどうしたの?」
「そうそう!重大なニュースなんだ!あのダアンド山から魔物が消えたらしいんだよ!」
身を乗り出して興奮気味に話すディオンに身体を引きながらも、アリーは彼の言葉に心底驚いた。
ダアンド山と言えば、魔物が蔓延っていて、侵入不可だった山だ。魔物が居なければ、鉱物が採れたのに、と誰かがぼやいていた。
「え…本当なの?」
「あぁ。昨日さ、地震があったよね」
「え、えぇ…」
身に覚えが全く無かったが、アリーはどもりながらも相づちを打った。そんなアリーに気付いた様子も無く、ディオンは話を進める。
「地震なんて滅多に無いからさ、魔物が暴れ出さないか様子を見に行ったんだよ。そしたら全く気配が無いの!」
「奥に逃げた可能性は?」
「だと思って、今日の朝から皆で馬を走らせたけど、居なかった」
ディオンの言葉が本当だとすると、自国のみならず他国をも揺るがす程のビッグニュースだった。
自国では鉱物が採れないグラジュスリヒト国だったが、これから採れるようになると貿易内容が変わっていく。勿論良い方向に、だ。
「国王もさ、張り切っちゃって朝から一緒に仕事しちゃったよ!」
「え?国王だけ?」
「ん?国王だけって他に誰が居るのさ」
自然に出た言葉に、ディオンは不思議そうな表情をしながらアリーに尋ねる。
確かに国王は今、子供が居ない。先日息子であるテオが事故で亡くなったばかりだった。
数年前に病気で亡くした王妃との間には、子供が一人しか恵まれなかった為、後継者問題が発生していた、気がする。
「…アリー?まだ身体の調子が悪い?」
「えぇ…そうみたい…」
酷い頭痛だった。考えれば考える程、痛みが増していく。まるで考える事を拒絶するかのように。
「アリー…?どうしたの?どうして泣いているの?」
気が付けば、アリーは静かに涙を流していた。自身すら気付かない程、静寂の涙。
どうして泣いているのだろうか?嬉しいから?楽しいから?
――違う。哀しいのだ。
アリーは哀しかった。心が張り裂けそうな程に、哀しかった。
「ぅ…っ……!」
「アリー!」
涙が流れる感情の理由を知ってしまったアリーの瞳から、はらはらと涙が零れる。
理由は分からないままだけれど、大切な何かを失ってしまったような感覚、だった。
ディオンが駆け寄り、儚く涙を流すアリーを抱きしめる。温かく広い胸に縋り、嗚咽をかみ殺しながらアリーは泣き続けた。
記憶から消えてしまった『彼等』へ贖罪するように、ずっと、ずっと。
「…ん……?」
暗闇の中、夢から覚めたアリーはゆっくりとベッドから身体を起こし、自身の身体を見やればエプロンドレスを纏ったままだった。
「……?」
何故、自分が着替えもせずベッドに横になっているのか、アリーは思い出せなかった。
朝、仕事をする為に支度をした。そして――様の為に朝食を用意した。
「え……?」
思い出せなかった。
一体誰の為に用意をしようとしたのか。そもそもアリーは一体誰に従えていたのか、全く以て思い出せない。まるでぽっかりと穴が開いてしまったかのように、記憶の一部が欠落していた。
自分の生まれは思い出せる。その後の惨劇も。そして、誰かに手を差し伸べられて――…
誰に?
国王に?
…違う気がした。
けれど、思い出せない。『彼等』にまつわる全てが、思い出せなかった。
その時、ドアがノックされアリーは驚きながらもドアを開ければ、そこには近衛兵の一人であるディオンが部屋の前に居た。
ディオンとアリーは年齢が近く、城に従えた次期も近かった事から何かと話す機会が多かった。
――少し前に、『彼』に揶揄われたような…
「アリー?体調大丈夫?…ん?何でエプロンドレスを着てるの?夜だよ」
「…体調……?」
「うん、昨日倒れて今日は一日休んだって聞いたけど…」
「…そ、そうなの。疲れてて…これは…ちょっと寝ぼけていたみたい…」
「へぇ、完璧侍女の君が珍しいなぁ。良いモノ見ちゃった!」
ニコニコと笑うディオンを部屋に招き入れ、ディオンの言葉を思い出しながらアリーは思考を巡らす。
それでも、何も思い出せなかった。考えれば考える程、頭の中がごちゃごちゃになっていく。
「こんな時間にどうしたの?」
「そうそう!重大なニュースなんだ!あのダアンド山から魔物が消えたらしいんだよ!」
身を乗り出して興奮気味に話すディオンに身体を引きながらも、アリーは彼の言葉に心底驚いた。
ダアンド山と言えば、魔物が蔓延っていて、侵入不可だった山だ。魔物が居なければ、鉱物が採れたのに、と誰かがぼやいていた。
「え…本当なの?」
「あぁ。昨日さ、地震があったよね」
「え、えぇ…」
身に覚えが全く無かったが、アリーはどもりながらも相づちを打った。そんなアリーに気付いた様子も無く、ディオンは話を進める。
「地震なんて滅多に無いからさ、魔物が暴れ出さないか様子を見に行ったんだよ。そしたら全く気配が無いの!」
「奥に逃げた可能性は?」
「だと思って、今日の朝から皆で馬を走らせたけど、居なかった」
ディオンの言葉が本当だとすると、自国のみならず他国をも揺るがす程のビッグニュースだった。
自国では鉱物が採れないグラジュスリヒト国だったが、これから採れるようになると貿易内容が変わっていく。勿論良い方向に、だ。
「国王もさ、張り切っちゃって朝から一緒に仕事しちゃったよ!」
「え?国王だけ?」
「ん?国王だけって他に誰が居るのさ」
自然に出た言葉に、ディオンは不思議そうな表情をしながらアリーに尋ねる。
確かに国王は今、子供が居ない。先日息子であるテオが事故で亡くなったばかりだった。
数年前に病気で亡くした王妃との間には、子供が一人しか恵まれなかった為、後継者問題が発生していた、気がする。
「…アリー?まだ身体の調子が悪い?」
「えぇ…そうみたい…」
酷い頭痛だった。考えれば考える程、痛みが増していく。まるで考える事を拒絶するかのように。
「アリー…?どうしたの?どうして泣いているの?」
気が付けば、アリーは静かに涙を流していた。自身すら気付かない程、静寂の涙。
どうして泣いているのだろうか?嬉しいから?楽しいから?
――違う。哀しいのだ。
アリーは哀しかった。心が張り裂けそうな程に、哀しかった。
「ぅ…っ……!」
「アリー!」
涙が流れる感情の理由を知ってしまったアリーの瞳から、はらはらと涙が零れる。
理由は分からないままだけれど、大切な何かを失ってしまったような感覚、だった。
ディオンが駆け寄り、儚く涙を流すアリーを抱きしめる。温かく広い胸に縋り、嗚咽をかみ殺しながらアリーは泣き続けた。
記憶から消えてしまった『彼等』へ贖罪するように、ずっと、ずっと。
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる