【完結】転生愚話

よるは ねる(準備中2月中に復活予定)

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4章『転生終焉』

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「…ん……?」

暗闇の中、夢から覚めたアリーはゆっくりとベッドから身体を起こし、自身の身体を見やればエプロンドレスを纏ったままだった。

「……?」

何故、自分が着替えもせずベッドに横になっているのか、アリーは思い出せなかった。
朝、仕事をする為に支度をした。そして――様の為に朝食を用意した。

「え……?」

思い出せなかった。
一体誰の為に用意をしようとしたのか。そもそもアリーは一体誰に従えていたのか、全く以て思い出せない。まるでぽっかりと穴が開いてしまったかのように、記憶の一部が欠落していた。

自分の生まれは思い出せる。その後の惨劇も。そして、誰かに手を差し伸べられて――…

誰に?
国王に?

…違う気がした。
けれど、思い出せない。『彼等』にまつわる全てが、思い出せなかった。

その時、ドアがノックされアリーは驚きながらもドアを開ければ、そこには近衛兵の一人であるディオンが部屋の前に居た。

ディオンとアリーは年齢が近く、城に従えた次期も近かった事から何かと話す機会が多かった。

――少し前に、『彼』に揶揄われたような…

「アリー?体調大丈夫?…ん?何でエプロンドレスを着てるの?夜だよ」
「…体調……?」
「うん、昨日倒れて今日は一日休んだって聞いたけど…」
「…そ、そうなの。疲れてて…これは…ちょっと寝ぼけていたみたい…」
「へぇ、完璧侍女の君が珍しいなぁ。良いモノ見ちゃった!」

ニコニコと笑うディオンを部屋に招き入れ、ディオンの言葉を思い出しながらアリーは思考を巡らす。
それでも、何も思い出せなかった。考えれば考える程、頭の中がごちゃごちゃになっていく。

「こんな時間にどうしたの?」
「そうそう!重大なニュースなんだ!あのダアンド山から魔物が消えたらしいんだよ!」

身を乗り出して興奮気味に話すディオンに身体を引きながらも、アリーは彼の言葉に心底驚いた。

ダアンド山と言えば、魔物が蔓延っていて、侵入不可だった山だ。魔物が居なければ、鉱物が採れたのに、と誰かがぼやいていた。

「え…本当なの?」
「あぁ。昨日さ、地震があったよね」
「え、えぇ…」

身に覚えが全く無かったが、アリーはどもりながらも相づちを打った。そんなアリーに気付いた様子も無く、ディオンは話を進める。

「地震なんて滅多に無いからさ、魔物が暴れ出さないか様子を見に行ったんだよ。そしたら全く気配が無いの!」
「奥に逃げた可能性は?」
「だと思って、今日の朝から皆で馬を走らせたけど、居なかった」

ディオンの言葉が本当だとすると、自国のみならず他国をも揺るがす程のビッグニュースだった。

自国では鉱物が採れないグラジュスリヒト国だったが、これから採れるようになると貿易内容が変わっていく。勿論良い方向に、だ。

「国王もさ、張り切っちゃって朝から一緒に仕事しちゃったよ!」
「え?国王だけ?」
「ん?国王だけって他に誰が居るのさ」

自然に出た言葉に、ディオンは不思議そうな表情をしながらアリーに尋ねる。

確かに国王は今、子供が居ない。先日息子であるテオが事故で亡くなったばかりだった。
数年前に病気で亡くした王妃との間には、子供が一人しか恵まれなかった為、後継者問題が発生していた、気がする。

「…アリー?まだ身体の調子が悪い?」
「えぇ…そうみたい…」

酷い頭痛だった。考えれば考える程、痛みが増していく。まるで考える事を拒絶するかのように。

「アリー…?どうしたの?どうして泣いているの?」

気が付けば、アリーは静かに涙を流していた。自身すら気付かない程、静寂の涙。
どうして泣いているのだろうか?嬉しいから?楽しいから?

――違う。哀しいのだ。

アリーは哀しかった。心が張り裂けそうな程に、哀しかった。

「ぅ…っ……!」
「アリー!」

涙が流れる感情の理由を知ってしまったアリーの瞳から、はらはらと涙が零れる。
理由は分からないままだけれど、大切な何かを失ってしまったような感覚、だった。

ディオンが駆け寄り、儚く涙を流すアリーを抱きしめる。温かく広い胸に縋り、嗚咽をかみ殺しながらアリーは泣き続けた。

記憶から消えてしまった『彼等』へ贖罪するように、ずっと、ずっと。



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