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3章『転生紛擾』
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灯り一つ無い、真っ暗な空間にタマキは立っていた。そこはサーベル伯爵が断罪された亜空間――無の間だった。
奥から、厭、直ぐ傍かも知れない。人間の叫声と、獣の荒い息、そして肉を喰らう音がタマキの鼓膜を震わせた。
「…久しぶり、サーベル伯爵」
「あ、あ、あ、あ、あ、あ」
「どう、永久に肉を喰われる感覚は」
「あぁああ」
言葉を成さないサーベル伯爵は濁った眼球をぐるり、と動かし下卑た笑みを浮かべたままケルベロスに喰われている。
「気に入ってくれたんだね、良かった」
太陽のような汚れ一つ無い笑みを浮かべながらタマキはサーベルに近付き、首筋へと歯を埋めた。
ぐじゃり、という音がタマキの中で響き渡ると同時に口の中で広がる血の臭い。
肉を裂き、骨を砕く。鋭い歯は何度もサーベルの肉を抉った。
「ぎゃぁぁああっ!あががが」
「煩いなぁ、耳元で叫ばないでよ」
肉付きの薄い肩は余程痛かったのだろうか。今までにない程の咆哮を上げたサーベルは泡を噴いたまま失神していた。だが、次々に襲いかかる再生と消失の痛みにより、意識を取り戻した。
「何度喰べても不味いなぁ…」
ぐぅ、と込み上げてくる吐き気を無理矢理捻じ伏せ、消化を促せばタマキの中に眠る魔の力がそれ等を呑み込んでいく。
「本当、嫌いだよ。此処も、この力も」
けれどこの力が無ければ、柚を助けられない事も分かっている。
――力を奪われたタマキは何度も願った。願って、怨んだ。殺したい程の憎悪が輪廻を繰り返す度に増していった。
無力な自身を、嘲笑う神を。
何度繰り返しただろうか。何度絶望を味わっただろうか。闇に、呑まれていく。じわり、じわり、と。
そうして何かがタマキの耳元で囁いた。
『神とは何だ』
タマキは言った。
――殺すべき相手だ、と。
『己を犠牲にしてでも殺したいのか』
――ゆずが幸せになるなら構わない。
『何故』
――愛しているから。
『ならば我の力を与えよう。お前の生命と引き換えに』
『肉を喰らえ、血を啜れ。我の力は強大になる』
『お前の精神は崩壊していくが、な』
――それでも、良い。ゆずを幸せに出来るなら。
『お前の願いが叶う頃にお前の生命は、消滅する』
『過去から、未来からお前という存在は消える』
『それでも、良いのか』
――構わない。
『ならば力を授けよう』
『そして膨大な力を得て、我の処へと戻ってくるのだ』
実態の無いモノがタマキの中へと入っていく。そして、融合した。大地、人を、動物を喰らい、何も無くなった空間――無の間にタマキは佇んでいた。
「――…これで、ゆずをたすけられるんだ」
自身の声が二重に聞こえる。自身の声のようで、違う、声だった。
肉を喰らう。
血を啜る。
何度も、何度も。けれども、君を助けられなかった。だから、何度も繰り返した。力を使った。
そして、神が創った世界を塗り替える事が、出来た。これでやっと君を幸せにする事が、出来る。
忌み子、として産み堕とした。神に愛されし力を塗り替える為に。
神は世界を創る事は出来ても干渉は出来ない。
神界から指を咥えて見ていたら良い。
「ゆず…」
愛しい。
愛しい。
唯一の、君。
灯り一つ無い、真っ暗な空間にタマキは立っていた。そこはサーベル伯爵が断罪された亜空間――無の間だった。
奥から、厭、直ぐ傍かも知れない。人間の叫声と、獣の荒い息、そして肉を喰らう音がタマキの鼓膜を震わせた。
「…久しぶり、サーベル伯爵」
「あ、あ、あ、あ、あ、あ」
「どう、永久に肉を喰われる感覚は」
「あぁああ」
言葉を成さないサーベル伯爵は濁った眼球をぐるり、と動かし下卑た笑みを浮かべたままケルベロスに喰われている。
「気に入ってくれたんだね、良かった」
太陽のような汚れ一つ無い笑みを浮かべながらタマキはサーベルに近付き、首筋へと歯を埋めた。
ぐじゃり、という音がタマキの中で響き渡ると同時に口の中で広がる血の臭い。
肉を裂き、骨を砕く。鋭い歯は何度もサーベルの肉を抉った。
「ぎゃぁぁああっ!あががが」
「煩いなぁ、耳元で叫ばないでよ」
肉付きの薄い肩は余程痛かったのだろうか。今までにない程の咆哮を上げたサーベルは泡を噴いたまま失神していた。だが、次々に襲いかかる再生と消失の痛みにより、意識を取り戻した。
「何度喰べても不味いなぁ…」
ぐぅ、と込み上げてくる吐き気を無理矢理捻じ伏せ、消化を促せばタマキの中に眠る魔の力がそれ等を呑み込んでいく。
「本当、嫌いだよ。此処も、この力も」
けれどこの力が無ければ、柚を助けられない事も分かっている。
――力を奪われたタマキは何度も願った。願って、怨んだ。殺したい程の憎悪が輪廻を繰り返す度に増していった。
無力な自身を、嘲笑う神を。
何度繰り返しただろうか。何度絶望を味わっただろうか。闇に、呑まれていく。じわり、じわり、と。
そうして何かがタマキの耳元で囁いた。
『神とは何だ』
タマキは言った。
――殺すべき相手だ、と。
『己を犠牲にしてでも殺したいのか』
――ゆずが幸せになるなら構わない。
『何故』
――愛しているから。
『ならば我の力を与えよう。お前の生命と引き換えに』
『肉を喰らえ、血を啜れ。我の力は強大になる』
『お前の精神は崩壊していくが、な』
――それでも、良い。ゆずを幸せに出来るなら。
『お前の願いが叶う頃にお前の生命は、消滅する』
『過去から、未来からお前という存在は消える』
『それでも、良いのか』
――構わない。
『ならば力を授けよう』
『そして膨大な力を得て、我の処へと戻ってくるのだ』
実態の無いモノがタマキの中へと入っていく。そして、融合した。大地、人を、動物を喰らい、何も無くなった空間――無の間にタマキは佇んでいた。
「――…これで、ゆずをたすけられるんだ」
自身の声が二重に聞こえる。自身の声のようで、違う、声だった。
肉を喰らう。
血を啜る。
何度も、何度も。けれども、君を助けられなかった。だから、何度も繰り返した。力を使った。
そして、神が創った世界を塗り替える事が、出来た。これでやっと君を幸せにする事が、出来る。
忌み子、として産み堕とした。神に愛されし力を塗り替える為に。
神は世界を創る事は出来ても干渉は出来ない。
神界から指を咥えて見ていたら良い。
「ゆず…」
愛しい。
愛しい。
唯一の、君。
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