【完結】転生愚話

よるは ねる(準備中2月中に復活予定)

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3章『転生紛擾』

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02

タマキの様子がおかしい。
夜、タマキが柚の下へ帰って来た時の顔色は優れず、体調が悪いのかと問えばそうではないらしい。

灯りも灯さず、暗闇の中ソファに凭れ、柚の胸に顔を埋めながらキツく抱きしめたまま身動き一つ取らないタマキに柚は困り果てていた。

タマキの行動に不快という事では無く、タマキが困っているのに何の力にもなれない自分に不甲斐なさを感じたのだ。

「…お兄ちゃん」
「……」

名を何度呼んだだろう。だが、タマキから返ってくる言葉は無くて。
先程まで後ろで待機していたアリーが気を利かせたのか、物音一つ立てず部屋から出て行った。余計に息苦しく感じてしまう。

「…私じゃ、お兄ちゃんの力になれないかな」

小さく呟いた言葉はタマキに届いたようで、勢いよく顔を上げながら柚の哀しみを浮かべた表情を見上げる。

「違うんだ。……ごめん」

上げたと思えば再び、吸い込まれるように柚の胸へ顔を埋めるタマキ。その謝罪は何から来たものなのだろうか。

気まずい沈黙が二人の間に落ちる。

「…ゆず」
「なぁに」
「ゆず」
「うん」

柚の存在を確かめるかのように何度も柚の名を呼ぶタマキ。その声が余りにも儚くて、柚の胸がきゅう、と痛む。

「…お兄ちゃんが苦しいと、私も苦しいよ」
「ゆず…」

タマキの頭を抱きかかえるかのように、腕を伸ばし抱きしめる。頭に顔を埋めれば柚と同じ香の匂いがした。

旋毛へ何度も口づける。タマキの苦悩が少しでも消えますように、と想いを乗せて。

暫くして、タマキが意を決したかのように、柚へと視線を向け、重い口を開いた。慎重に言葉を選びながらゆっくりと言葉にしていく。

「俺、ね」
「うん」
「婚約が決まった」
「……うん」

タマキの告白に柚の心臓が何者かによって鷲掴みにされた。先程とは異なる痛み、だった。柚は自身の心音が酷く乱れている事を感じながらもタマキの言葉に相槌を打つ。

「俺は皇子だから。断れない。…凄く嫌だけど」
「うん」
「ゆず以外の女性に、触れたくない……シたくない」
「……」

タマキの細く、長い指が柚の髪を一房絡ませ口付けを落とす。慈しむようにひっそりと、妖艶に。

そんなタマキの行動に柚の肩が小さく跳ねる。まるで髪の毛一本一本に神経が通っているかのようだった。
熱い。じわり、と身体の奥が熱を帯びていく。

「昔から、俺は柚しか愛せない。これからも、ずっと」
「……」

重い、熱情。

「嫌なら、はね除けて」

タマキの瞳に情欲の色が揺らめく。近付く、美貌。触れる、吐息。

「…ねぇ。俺を受け入れて」

――兄では無く、男として。

耳元で囁かれた言葉が全身を駆け巡る。

「ゆず、ゆず」

何度も頬に、額に、目尻に、唇を避け何度も口付けを落としていく。

「お兄…ちゃ……」

名を呼べば、タマキの指が柚の唇に触れる。形を確かめるかのように、その名を呼ぶ事を拒むかのように。

柚にはタマキは兄であった。確かに、兄であった。

ならば、何故婚約の話をされてこんなにも胸が痛んだのか。
何故欲にまみれた指で触れる事を受け入れたのか。

――本当は自身の感情に気付いていた癖に蓋をしたのは誰?
今すぐに口付けを交わしたいのは、誰?

「…っゆず、そんな目で見られると…止まらなく、なる」
「私…っ……」

淫欲を宿した瞳でタマキを見つめる柚は、妹では無く女の表情をしていた。

「…今は何も考えないで。全部俺のせいにしていいから。だから…」

――愛させて。

そう呟いたと同時に、タマキの唇が柚の震える唇に触れる。

触れる。
溢れる。
――零れ、た。

「――っ」

その口付けはまさしくトリガーだった。二人が必死に堪えていたものを解放する為の、トリガーだったのだ。

噛みつくようにタマキが柚の唇を喰らう。歯が当たろうが、唾液が溢れようが構わず、貪るかのように口付けを交わす。

離れたくない、離したくない、と言っているかのように、指を絡ませ、息が切れても繰り返し想いをぶつけ合う。

柚の瞳から涙が溢れた。
心の奥に秘めていた感情が赦しを得たかのように歓喜の声を上げている。

ずっとこうしたかった。結ばれたかった。ずっと昔から、ずっと。

柚の奥に眠る誰かが叫ぶ。それは柚の心の奥に秘める感情を代弁しているかのようで、身が裂けてしまうほどの歓喜が柚を支配する。

「はぁ…」
「は、…ん、」

荒い息が室内に響き渡る。呼吸すらままならない程の口付けに頭がクラクラしていく。

タマキが柚の唇を吸う。その度に身体に身に覚えの無い感覚が柚を蝕んでいく。じくじくと、体内が溶けてしまうような、そんな感覚。

口を吸われ、舌を噛まれ、ねじ込まれ、犯されて。滴る唾液が柚の顎を濡らしていく。互いの唾液が混じり合って、溶け合って。

「ゆず…」

タマキの指が柚のネグリジェを脱がせていく。背中に結われたリボンを丁寧に解き、ゆっくりと、慎重に肩から手を差し込み剥げば、暗闇に浮かぶ、純白の肌。誘われるかのようにタマキの指が柚の肌に触れる。

柚は恥ずかしさのあまり、両腕で身体を隠そうとするも、タマキに両手を捕らえられ隠す事は叶わなかった。
いくら暗闇の中とはいえ、至近距離にいる二人にとって暗闇は何の意味も無い。タマキの視線が柚の身体を嬲るように這う。

「綺麗、だ」
「そんな事…」

傷だらけの身体だった。いくらイミゴの再生能力が万能だとしても深い傷は跡を幾重にも残した。

傷は昔から日常茶飯事で、今まで気にも止めていなかったが、タマキに見られる事にとても抵抗を感じる。

この傷だらけの身体も、痩せ細った身体も、全て恥ずかしかった。

「俺は、好きだよ」

タマキが柚の身体に刻まれた傷に口付けを落としていく。

「だって、ゆずが生きている証拠だから」
「――……っ」



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