上 下
24 / 52
2章『転生黎明』

16

しおりを挟む
16

「タマキ、一体どういう事だ?」
「どういう事とは」
「お前、テオに何をした?」

怖い表情を浮かべたまま国王はタマキに質す。だが、タマキは現状を理解していないという体で表情を曇らせながら国王の言葉をそのまま返す。

「テオの様子がおかしくなった。ずっと何かに怯えて暴れている」
「…それは心配ですね。で、何故私が?」

とぼけたまま、タマキは国王に質問を返す。身に覚えの無い事を聞かれても困る。確かにタマキはテオを追い詰めた。だが、とどめを刺したのはタマキでは無く亡霊だ。

何て、そんな事を伝えるつもりは更々無いが。

国王はタマキの問いに言葉を詰まらす。
確かに国王がタマキを疑いたくなる気持ちは分かる。だが、国王たるもの証拠も無しに人を疑い、問い質すだなんて愚かにも程があるのではないだろうか。

「…疑って悪かった」
「いえ。取り乱してしまう気持ちはわかります。それで兄上は…」
「話も通じない。声を出したと思ったら助けてとごめんなさいの繰り返し。お手上げだ」
「それは…」

己の醜態に素直に謝罪する国王。タマキの言いたい事がわかったのだろう。タマキはそれ以上追求しなかった。

プライドが高いテオに、我に返る事を心配していたが杞憂に終わった。タマキは眉を顰めながら、今後の事を促す。

「これからどうするのです?」
「…もうアレは使い物にならないだろう。今は地下牢に閉じ込めているが…民に知れるのは良くない」
「…消えて欲しい、と」

言い淀む国王にタマキがはっきりと言葉にすれば、国王は何とも言えない表情を浮かべ小さく頷く。愚かな男ではあったが、国王にとっては実の息子なのだ。

けれど、国王は国王だ。国を背負っている立場なのだ。そんな優しさは国王には要らない。

「…私が動こう。私が甘かったせいでテオはおかしくなってしまったのかもしれない」
「父上…。いえ、私が動きますよ。父上は悪くありません。兄上が全て悪いのです」
「だが…」

国王は言ったからにはやるだろう。だが、罪悪感は一生付き纏う。優しい国王は自分を責め続けるに違いない。
国王にはまだ国王で居てもらわなければ困るのだ。

「父上。いえ…国王。貴方が考える事は民の事。そんな事で手を汚す暇があるのなら今すぐに畑でも耕して泥だらけになってきてください」
「おま…」

軽口を叩きながらタマキは国王に否定の言葉を吐かせない。タマキの言った事は心から本心からの言葉だった。

「誰にも知られる事無く対処しますよ」
「…頼む」

国王はタマキに小さく頭を下げ、そのまま奥へと姿を消した。

「…また餌が増えるねぇ」

タマキは独りごちながら部屋を出、その足で地下へと向かう。一つ癌が取れた事でタマキの足取りは軽かった。


*****


タマキが部屋を出た後、柚は静かに身を起こした。

「……」

何時も助けてもらってばかりの柚。謝るのは柚の方なのに、何故タマキは何時も謝るのだろうか。

『次こそは幸せにしてみせるから』

口癖のように呟くタマキの言葉が頭から離れない。どういう気持ちで言っているのだろうか。どうしてこの言葉を聞くと胸がざわつくのか。

最初は嬉しかった。けれど、その言葉が柚へと積もっていく度に違う感情が奥から湧き出てくるのだ。

「イミゴ…」

もう一つの名前を呟く。初めて、呼んだ気がする。
けれど、前みたいな不快感は無かった。恐らく自分の中で昇華したのだろう。

「どんな力があるんだろうね…この力でお兄ちゃんを助けられるかな…?」

柚が無意識に呟いた言葉に、引っかかりを覚える。

何故、助けたい、と願ったのか。

「――……!痛っ!」

思った刹那、酷い頭痛が柚を襲う。頭が割れそうな程の痛みに柚の身体がベッドへと沈む。身体を丸め、自身の頭を、身体を抱える。
それと同時に閉じられた瞳の奥に映る、タマキの姿。

血塗れで、慟哭する、タマキの――……

「おにい、さ――…」

陽炎のように揺らめくタマキに手を伸ばす柚の意識は、そのまま暗闇へと呑まれていった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

(R18)灰かぶり姫の公爵夫人の華麗なる変身

青空一夏
恋愛
Hotランキング16位までいった作品です。 レイラは灰色の髪と目の痩せぎすな背ばかり高い少女だった。 13歳になった日に、レイモンド公爵から突然、プロポーズされた。 その理由は奇妙なものだった。 幼い頃に飼っていたシャム猫に似ているから‥‥ レイラは社交界でもばかにされ、不釣り合いだと噂された。 せめて、旦那様に人間としてみてほしい! レイラは隣国にある寄宿舎付きの貴族学校に留学し、洗練された淑女を目指すのだった。 ☆マーク性描写あり、苦手な方はとばしてくださいませ。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

トリスタン

下菊みこと
恋愛
やべぇお話、ガチの閲覧注意。登場人物やべぇの揃ってます。なんでも許してくださる方だけどうぞ…。 彼は妻に別れを告げる決意をする。愛する人のお腹に、新しい命が宿っているから。一方妻は覚悟を決める。愛する我が子を取り戻す覚悟を。 小説家になろう様でも投稿しています。

転生したらただの女子生徒Aでしたが、何故か攻略対象の王子様から溺愛されています

平山和人
恋愛
平凡なOLの私はある日、事故にあって死んでしまいました。目が覚めるとそこは知らない天井、どうやら私は転生したみたいです。 生前そういう小説を読みまくっていたので、悪役令嬢に転生したと思いましたが、実際はストーリーに関わらないただの女子生徒Aでした。 絶望した私は地味に生きることを決意しましたが、なぜか攻略対象の王子様や悪役令嬢、更にヒロインにまで溺愛される羽目に。 しかも、私が聖女であることも判明し、国を揺るがす一大事に。果たして、私はモブらしく地味に生きていけるのでしょうか!?

女性執事は公爵に一夜の思い出を希う

石里 唯
恋愛
ある日の深夜、フォンド公爵家で女性でありながら執事を務めるアマリーは、涙を堪えながら10年以上暮らした屋敷から出ていこうとしていた。 けれども、たどり着いた出口には立ち塞がるように佇む人影があった。 それは、アマリーが逃げ出したかった相手、フォンド公爵リチャードその人だった。 本編4話、結婚式編10話です。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

処理中です...