22 / 52
2章『転生黎明』
14
しおりを挟む
14
「兄上は知っていますか、魔力の存在を」
「ひ、ひぃ…!」
淡々とテオに質問に投げかけながら、テオを誰も使っていない部屋へと導く。自身の意思とは関係無く動いている身体に恐怖を覚えているようで、テオの表情は今までになく醜く歪んでいた。
ドアの鍵を閉め、一応誰も知られぬよう魔力を使い結界を張っておく。こうする事によって、今から起きるであろう事は誰にも知られない。勿論、テオにすら。
「貴方は無能だとは思っていましたが、ここまで無能だとは」
「な、なんだと!!」
「五月蠅い」
灰色に濁った瞳でテオを見やれば、喉を鳴らし、言葉を噤んだ。
「誰が口を開いて良いと言った?」
魔力を使わずとも口を閉ざしたテオに失笑する。
誰よりも臆病な癖して誰よりもプライドが高い。
自身が正しいと信じ切っていて、周りの事など考えていない。
本当なら消えてもらうのが一番なのだ。誰にとっても。
「魔力の存在を、知っていますか」
先程尋ねた事を、繰り返せば何度も頭を縦に振る。分かっていた反応だが、現実だという事を理解させる為に言葉にした。
タマキは小さく指を鳴らせば、何処からか獣のような声が聞こえてくる。穏やかではないその鳴き声にテオの目は大きく見開かれ、身体がガタガタと震えだす。
何も無い空間が捻れ、一体の大きな獣が血を浴びた姿で現れた。
「ああ、ケルベロス。食事中だったか。悪かったね」
黒色の巨体はタマキに擦り寄り、喉を鳴らす。犬のようで犬では無い何かだった。
「あの男はどう?まだ元気にしているかな」
タマキは愛犬を可愛がるようにケルベロスの頭を撫で、口元の血を拭う。この現状を受け止めきれないテオの表情は白目を剥いていた。
「ん、元気に再生を繰り返しているみたいだね」
タマキが指を鳴らすと同時に、ケルベロスがテオの傍に向かう。白目を剥いているテオは状況に気付いていない。
「オニイサマー、起きないと食べちゃうよー」
棒読みでテオの名を呼ぶが、テオの身体は僅かに反応しただけで、意識は戻らなかった。余りにも速すぎる墜落にタマキは溜息を吐くが、これで終わるタマキでは無かった。
ケルベロスが鼻息を荒くさせながら気を失ったテオの頬をベロリ、と舐める。まるで味見をするかのように。
生ぬるい舌と、血と腐敗が混じった匂いにテオは再び目を醒まし、今置かれている現状に気付き、喉をひくつかせた。
「怖い?でもゆずはもっと怖かった筈だよ」
「ゆ、ゆず?」
「汚い口でゆずの名前を呼ぶな」
タマキが不快を露わにすると同時にケルベロスの鋭い歯がテオの喉元に突き刺さる。
「ぎゃああぁああ!!」
吹き出す鮮血。おぞましい程の叫声。今まで自分勝手に生きてきた男。責任は全て部下に被せてきた下劣。その肌は痛みというものを知らぬだろう。
「中身が汚いと血まで汚いんだねぇ」
「ひ、ひ、」
テオの中でぐじゅり、という音が響き渡る。肉を殺がれる音、だった。
痛い。
痛い。
痛い!
恐怖で、痛みで、穴という穴から吹き出してくる汚物。長男である自分が何故、とどこか遠い自分が絶叫している。自分が全て正しいのに、と。
だが、内なる自分さえも支配されていた。何度も漆黒に貫かれる。それは刃でもあり、誰かの手でもあった。
沢山の手がテオの身体を這う。ぬちゃり、と音をたてながら何本も、何十本も、何百本も。
「…本当にどうしようもない人だね。お前が視ているソレは、今までお前によって殺された人達の手、だ」
「おっおれはぁ!!ころしてなんかいない!!!」
「何度見殺しにした?何度盾にした?何度冤罪を着せて死罪にした?」
この男を野放しにしてきた国王、タマキも同罪なのかもしれない。この国から放したのが間違いだったのかもしれない。
「おっおれのくにをどうしようがおまえにはかんけいないだろあああああぁ!!」
「お前の国じゃない、民の国だ」
更生するように、と国王はテオに荒れた領地をやった。
そこで領地を立ち直す事が出来たのなら自国に戻ってもいい、と。だが、国王は見誤ったのだ。
この男に良心など一欠片も無かった事に。
グラジュスリヒト家から出した家臣は金を握らされた。従わない者は冤罪を着せられ、殺された。時には事故に見せかけて。
逆らえば殺される、と民や家臣に思わせ、思うがままに支配していった。
――その事に気が付いたのはタマキのみだった。国王は嘘の報告を信じ、息子の更生を尚も信じている。何だかんだ言いながら甘いのだ。
だからタマキは知らぬ振りをした。現に、都合が良かったからだ。
「折角見逃してあげていたのにね、お前がゆずに手なんか出すから」
「おっおまえはっ…!ほんとうに、タマキなのか!?」
テオの言葉にタマキの表情が愉悦に染まる。そんなタマキがここにいる誰よりも恐ろしかった。
「はは、何を言っているのかな、オニイサマは。けど、最期に特別に教えてあげようかなぁ。
俺は――」
「兄上は知っていますか、魔力の存在を」
「ひ、ひぃ…!」
淡々とテオに質問に投げかけながら、テオを誰も使っていない部屋へと導く。自身の意思とは関係無く動いている身体に恐怖を覚えているようで、テオの表情は今までになく醜く歪んでいた。
ドアの鍵を閉め、一応誰も知られぬよう魔力を使い結界を張っておく。こうする事によって、今から起きるであろう事は誰にも知られない。勿論、テオにすら。
「貴方は無能だとは思っていましたが、ここまで無能だとは」
「な、なんだと!!」
「五月蠅い」
灰色に濁った瞳でテオを見やれば、喉を鳴らし、言葉を噤んだ。
「誰が口を開いて良いと言った?」
魔力を使わずとも口を閉ざしたテオに失笑する。
誰よりも臆病な癖して誰よりもプライドが高い。
自身が正しいと信じ切っていて、周りの事など考えていない。
本当なら消えてもらうのが一番なのだ。誰にとっても。
「魔力の存在を、知っていますか」
先程尋ねた事を、繰り返せば何度も頭を縦に振る。分かっていた反応だが、現実だという事を理解させる為に言葉にした。
タマキは小さく指を鳴らせば、何処からか獣のような声が聞こえてくる。穏やかではないその鳴き声にテオの目は大きく見開かれ、身体がガタガタと震えだす。
何も無い空間が捻れ、一体の大きな獣が血を浴びた姿で現れた。
「ああ、ケルベロス。食事中だったか。悪かったね」
黒色の巨体はタマキに擦り寄り、喉を鳴らす。犬のようで犬では無い何かだった。
「あの男はどう?まだ元気にしているかな」
タマキは愛犬を可愛がるようにケルベロスの頭を撫で、口元の血を拭う。この現状を受け止めきれないテオの表情は白目を剥いていた。
「ん、元気に再生を繰り返しているみたいだね」
タマキが指を鳴らすと同時に、ケルベロスがテオの傍に向かう。白目を剥いているテオは状況に気付いていない。
「オニイサマー、起きないと食べちゃうよー」
棒読みでテオの名を呼ぶが、テオの身体は僅かに反応しただけで、意識は戻らなかった。余りにも速すぎる墜落にタマキは溜息を吐くが、これで終わるタマキでは無かった。
ケルベロスが鼻息を荒くさせながら気を失ったテオの頬をベロリ、と舐める。まるで味見をするかのように。
生ぬるい舌と、血と腐敗が混じった匂いにテオは再び目を醒まし、今置かれている現状に気付き、喉をひくつかせた。
「怖い?でもゆずはもっと怖かった筈だよ」
「ゆ、ゆず?」
「汚い口でゆずの名前を呼ぶな」
タマキが不快を露わにすると同時にケルベロスの鋭い歯がテオの喉元に突き刺さる。
「ぎゃああぁああ!!」
吹き出す鮮血。おぞましい程の叫声。今まで自分勝手に生きてきた男。責任は全て部下に被せてきた下劣。その肌は痛みというものを知らぬだろう。
「中身が汚いと血まで汚いんだねぇ」
「ひ、ひ、」
テオの中でぐじゅり、という音が響き渡る。肉を殺がれる音、だった。
痛い。
痛い。
痛い!
恐怖で、痛みで、穴という穴から吹き出してくる汚物。長男である自分が何故、とどこか遠い自分が絶叫している。自分が全て正しいのに、と。
だが、内なる自分さえも支配されていた。何度も漆黒に貫かれる。それは刃でもあり、誰かの手でもあった。
沢山の手がテオの身体を這う。ぬちゃり、と音をたてながら何本も、何十本も、何百本も。
「…本当にどうしようもない人だね。お前が視ているソレは、今までお前によって殺された人達の手、だ」
「おっおれはぁ!!ころしてなんかいない!!!」
「何度見殺しにした?何度盾にした?何度冤罪を着せて死罪にした?」
この男を野放しにしてきた国王、タマキも同罪なのかもしれない。この国から放したのが間違いだったのかもしれない。
「おっおれのくにをどうしようがおまえにはかんけいないだろあああああぁ!!」
「お前の国じゃない、民の国だ」
更生するように、と国王はテオに荒れた領地をやった。
そこで領地を立ち直す事が出来たのなら自国に戻ってもいい、と。だが、国王は見誤ったのだ。
この男に良心など一欠片も無かった事に。
グラジュスリヒト家から出した家臣は金を握らされた。従わない者は冤罪を着せられ、殺された。時には事故に見せかけて。
逆らえば殺される、と民や家臣に思わせ、思うがままに支配していった。
――その事に気が付いたのはタマキのみだった。国王は嘘の報告を信じ、息子の更生を尚も信じている。何だかんだ言いながら甘いのだ。
だからタマキは知らぬ振りをした。現に、都合が良かったからだ。
「折角見逃してあげていたのにね、お前がゆずに手なんか出すから」
「おっおまえはっ…!ほんとうに、タマキなのか!?」
テオの言葉にタマキの表情が愉悦に染まる。そんなタマキがここにいる誰よりも恐ろしかった。
「はは、何を言っているのかな、オニイサマは。けど、最期に特別に教えてあげようかなぁ。
俺は――」
0
お気に入りに追加
34
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

4人の王子に囲まれて
*YUA*
恋愛
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生の結衣は、母の再婚がきっかけとなり4人の義兄ができる。
4人の兄たちは結衣が気に食わず意地悪ばかりし、追い出そうとするが、段々と結衣の魅力に惹かれていって……
4人のイケメン義兄と1人の妹の共同生活を描いたストーリー!
鈴木結衣(Yui Suzuki)
高1 156cm 39kg
シングルマザーで育った貧乏で平凡な女子高生。
母の再婚によって4人の義兄ができる。
矢神 琉生(Ryusei yagami)
26歳 178cm
結衣の義兄の長男。
面倒見がよく優しい。
近くのクリニックの先生をしている。
矢神 秀(Shu yagami)
24歳 172cm
結衣の義兄の次男。
優しくて結衣の1番の頼れるお義兄さん。
結衣と大雅が通うS高の数学教師。
矢神 瑛斗(Eito yagami)
22歳 177cm
結衣の義兄の三男。
優しいけどちょっぴりSな一面も!?
今大人気若手俳優のエイトの顔を持つ。
矢神 大雅(Taiga yagami)
高3 182cm
結衣の義兄の四男。
学校からも目をつけられているヤンキー。
結衣と同じ高校に通うモテモテの先輩でもある。
*注 医療の知識等はございません。
ご了承くださいませ。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる