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2章『転生黎明』
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「国王、イミゴを連れて来て参りました」
豪勢な扉の前で、備え付けの鈴を鳴らしながらタマキが声をあげる。暫くして扉がゴゴゴ、と音を上げながら開いた。てっきり自動なのかと思い驚いたが、扉の傍で鎧を纏った人が開いた扉を閉めていた。
「ご苦労」
低く、重厚な声が室内に響き渡る。高尚な声色だった。声を聞いただけで一般人だと思わせない程の。
「ゆず、おいで」
気後れする柚にタマキは優しい笑みを浮かべたまま国王の前へとエスコートする。
タマキの歩みが止まり、それに倣って柚も足を止めれば、視線が柚の旋毛に突き刺さる。己を奮わせ、前を見やれば、数段の階段を上がった先にある豪華な装飾が施された椅子に鎮座している。言わなくても分かる。この男性こそ国王だろう。
見た目の装飾は勿論の事、人としての威厳が他の者と断然に違う。
「ほぅ…美しい色だ」
国王が椅子から立ち上がり、柚の前まで歩み寄る。柚の視線に合わせるように、身を屈めじっと柚の瞳を見やる。
国王の瞳はタマキと同じ美しい空の色だった。
「間違い無く神……イミゴだ」
国王の掌が柚の存在を確かめるかのように、頬に触れる。後ろから咳払いが聞こえたが、国王は構わず柚の頬に触れる。
ふ、と昔父親に愛されていた時の事を思いだした。
「…不安に揺れているな。心配は無用だ」
国王の手が頬から離れたと同時に、床に片膝をつき、頭を深々と下げる。いきなりの国王の行動に柚の瞳が大きく見張る。
「国王様っ…!」
「我がグラジュスリヒト国に生まれてきてくださり感謝致します。イミゴ様は安心してこの城で寛いでください。何か御座いましたら我が息子タマキが対応致します」
国のトップであろう者に頭を下げられ、柚は混乱してしまう。今まで会ってきた者とは酷く態度が違う。タマキとアリーからイミゴについて話は聞いていたが、ここまでの態度を取られるとは思ってもみなかった。
「――父上、ゆずが困っています。顔を上げてください。それとゆずはイミゴと呼ばれる事を嫌うので是非とも名を呼んで頂けると」
一歩下がって二人の様子を見ていたタマキが助け船を出す。
国王はタマキの言葉に従い、立ち上がる。
「ユズ様、と呼んでも宜しいですか?」
「は、はい…是非。出来れば敬語も止めて頂けると…」
困った表情を浮かべながら柚はオドオドと言葉にする。国王は暫く思惟した後、言葉を改めた。
「ユズ様がそう言うならそうしよう」
「父上、ゆずの体調があまり優れていないようなのでそろそろ…」
「ああ、あまり顔色が良くないな、ユズ様。体調が優れない時に呼び出して申し訳無かった。ゆっくりと休養してくれ」
「はい、ありがとうございます」
特に体調が悪い訳では無かったが、国王の言葉に安堵する。
国王が悪い人では無い事と直感的に感じた。だからといって緊張が解ける訳ではない。
「ゆず、戻ろうか」
「――タマキ」
タマキが柚の背中に触れた時、国王が鋭い声でタマキを呼び止める。
「話がある」
「後ではいけませんか?」
「この場で言っても良いんだが?」
険しい表情を浮かべた二人が睨み合う。肌が焼け付くような空気に柚の喉が鳴る。
暫く睨み合った後、タマキはため息を吐き、肩を竦めた。
「わかりましたよ。…アリー。ゆずを頼む」
「畏まりました。ユズ様戻りましょう」
「ゆず、後でね」
「う、うん…」
タマキの言葉を背にアリーに促されるまま退室する。
「…大丈夫、かな」
「大丈夫ですよ。あの二人は親子ですから」
にこり、と笑いながら歩みを進める柚とアリー。分かってはいるが、二人が睨み合った時の雰囲気は尋常では無かった。
国王と皇子。いくら親子の関係とは言えど、柚には知らない親子関係というものが存在するのかもしれない。だとしたら柚が心配する事は甚だしいだろう。
「さぁ、部屋に戻りましょう。甘いミルクティーを用意致しますわ」
「ありがとうございます!」
今、柚が出来る事は部屋でタマキの帰りを待つ事だけだ。思考が吹っ切れた柚はアリーが煎れてくれたミルクティーに思いを馳せながら、向かう時よりも遙かに軽い足取りで部屋へと向かった。
――その時だった。
「…君、イミゴだよね?」
「国王、イミゴを連れて来て参りました」
豪勢な扉の前で、備え付けの鈴を鳴らしながらタマキが声をあげる。暫くして扉がゴゴゴ、と音を上げながら開いた。てっきり自動なのかと思い驚いたが、扉の傍で鎧を纏った人が開いた扉を閉めていた。
「ご苦労」
低く、重厚な声が室内に響き渡る。高尚な声色だった。声を聞いただけで一般人だと思わせない程の。
「ゆず、おいで」
気後れする柚にタマキは優しい笑みを浮かべたまま国王の前へとエスコートする。
タマキの歩みが止まり、それに倣って柚も足を止めれば、視線が柚の旋毛に突き刺さる。己を奮わせ、前を見やれば、数段の階段を上がった先にある豪華な装飾が施された椅子に鎮座している。言わなくても分かる。この男性こそ国王だろう。
見た目の装飾は勿論の事、人としての威厳が他の者と断然に違う。
「ほぅ…美しい色だ」
国王が椅子から立ち上がり、柚の前まで歩み寄る。柚の視線に合わせるように、身を屈めじっと柚の瞳を見やる。
国王の瞳はタマキと同じ美しい空の色だった。
「間違い無く神……イミゴだ」
国王の掌が柚の存在を確かめるかのように、頬に触れる。後ろから咳払いが聞こえたが、国王は構わず柚の頬に触れる。
ふ、と昔父親に愛されていた時の事を思いだした。
「…不安に揺れているな。心配は無用だ」
国王の手が頬から離れたと同時に、床に片膝をつき、頭を深々と下げる。いきなりの国王の行動に柚の瞳が大きく見張る。
「国王様っ…!」
「我がグラジュスリヒト国に生まれてきてくださり感謝致します。イミゴ様は安心してこの城で寛いでください。何か御座いましたら我が息子タマキが対応致します」
国のトップであろう者に頭を下げられ、柚は混乱してしまう。今まで会ってきた者とは酷く態度が違う。タマキとアリーからイミゴについて話は聞いていたが、ここまでの態度を取られるとは思ってもみなかった。
「――父上、ゆずが困っています。顔を上げてください。それとゆずはイミゴと呼ばれる事を嫌うので是非とも名を呼んで頂けると」
一歩下がって二人の様子を見ていたタマキが助け船を出す。
国王はタマキの言葉に従い、立ち上がる。
「ユズ様、と呼んでも宜しいですか?」
「は、はい…是非。出来れば敬語も止めて頂けると…」
困った表情を浮かべながら柚はオドオドと言葉にする。国王は暫く思惟した後、言葉を改めた。
「ユズ様がそう言うならそうしよう」
「父上、ゆずの体調があまり優れていないようなのでそろそろ…」
「ああ、あまり顔色が良くないな、ユズ様。体調が優れない時に呼び出して申し訳無かった。ゆっくりと休養してくれ」
「はい、ありがとうございます」
特に体調が悪い訳では無かったが、国王の言葉に安堵する。
国王が悪い人では無い事と直感的に感じた。だからといって緊張が解ける訳ではない。
「ゆず、戻ろうか」
「――タマキ」
タマキが柚の背中に触れた時、国王が鋭い声でタマキを呼び止める。
「話がある」
「後ではいけませんか?」
「この場で言っても良いんだが?」
険しい表情を浮かべた二人が睨み合う。肌が焼け付くような空気に柚の喉が鳴る。
暫く睨み合った後、タマキはため息を吐き、肩を竦めた。
「わかりましたよ。…アリー。ゆずを頼む」
「畏まりました。ユズ様戻りましょう」
「ゆず、後でね」
「う、うん…」
タマキの言葉を背にアリーに促されるまま退室する。
「…大丈夫、かな」
「大丈夫ですよ。あの二人は親子ですから」
にこり、と笑いながら歩みを進める柚とアリー。分かってはいるが、二人が睨み合った時の雰囲気は尋常では無かった。
国王と皇子。いくら親子の関係とは言えど、柚には知らない親子関係というものが存在するのかもしれない。だとしたら柚が心配する事は甚だしいだろう。
「さぁ、部屋に戻りましょう。甘いミルクティーを用意致しますわ」
「ありがとうございます!」
今、柚が出来る事は部屋でタマキの帰りを待つ事だけだ。思考が吹っ切れた柚はアリーが煎れてくれたミルクティーに思いを馳せながら、向かう時よりも遙かに軽い足取りで部屋へと向かった。
――その時だった。
「…君、イミゴだよね?」
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