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2章『転生黎明』
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08
タマキは国王に報告を終えた足で、訓練場へ向かっていた。本当は直ぐにでも柚の元へ向かいたかったのだが、感情が安定していない事を自覚していた為、精神統一兼ねて剣を振りに来た。
「……」
腰にぶら下げていた剣を両手に取り、スッと構え何度も剣を振れば、空を斬る音が静まりかえった稽古場に響き渡る。
素振りをしていると、心が無心になれる。昔から――転生前からそうだった。昔握っていたものは竹刀だったけれど、深く思考に沈みたい時や邪心を払いたい時に今と同じく一心不乱に剣を振るった。
「…ふぅ。この世界の服は重たくて嫌だね」
着替えれば良かったものを、余裕が無かった為、煌びやかで重たい上着を羽織ったまま着てしまった。
タマキは棚から綺麗に畳まれたタオルを一枚出し、汗を拭いながら上着を脱ぐ。どっしりとした重さが身体かを楽にする。
「……」
目を瞑り、先程国王へ報告した時の事を思い出す。
『――ほう、神に愛されし存在に真実を告げぬ、と』
『はい、彼女は優しすぎる余り、自己犠牲が過ぎる時があります。故に告げない方が得策かと』
『…お前の言いたい事は理解した。お前の言う事に従おう』
『は』
『定期報告は必ずする事。後――』
タマキは国王の言葉を思い出し、思い切り壁を殴る。
『お前に妻を娶ってもらう相手は隣国の―……』
じん、とした痛みが掌に広がる。
無我夢中で剣を振るえば怒りは収まると思っていたが、寧ろ頭が冴えてしまい逆効果だった。
何故、国王はこのタイミングでそんな話をしたのか。原因が柚の存在だとしたら問題は無い筈だ。神に愛されし存在なのだから寵愛して何か不都合な事でもあるというのか。
理解出来ない国王の考えに苛立ちを隠せない。
殺してしまう事は簡単だ。だが、今の状況でそれを選ぶのは愚策だ。
「……っ」
皇子、という立場を選んだ事は失敗だっただろうか。柚を幸せにする為にはある程度の権力を持った者では無いと、昔の二の舞になってしまう――…
タマキは考えを巡らせる。殺す事も出来ない。今の立場で婚姻から逃れる事も出来ない。
「これもお前の仕掛けた罰だと言うのか?」
雲一つ無い夜空に向かってタマキは呟く。
「誓ったんだよ、俺は。次こそはゆずを幸せにしてみせるって。だから、絶対に邪魔させないよ。例え誰が相手だろうが、ね――…」
*****
鳥の囀りに目が覚めた柚は何度か瞬きを繰り返した。起床しようも、何かによってホールドされている為、動くことは叶わなかった。
「……」
匂いでわかる、タマキの匂い。暖かな胸板が柚の目の前にある。熱いのか、寝間着の前は開けていて、少しエロティックさを感じてしまった。
モゾモゾと動いてしまったせいか、タマキの眉が顰められ再度腰に回った腕の力が増して。まるで拘束されているようだった。
柚は幸せだった。大切な人に包まれている事に。
「…お兄ちゃん……大好きだよ」
思いの丈を言葉に込め、タマキの胸に縋る。安心する柚の居場所。
もっと密着したい。このまま溶けてしまいたい。柚は無意識に願う。そうすればずっと二人で居られるのに、と。
「ん…ひゃ!」
すり、と何度もタマキの胸に甘えていたら、突如タマキの大きな掌が柚の小ぶりな臀部に、まるで形を確かめるかのように沿った。
最初は触れるだけだった。だが、柚が抵抗しない事を良い事に、その手は激しさを増していく。
弧を描くように揉みしだく。まるで性行為のように。
「ゃ、おにいちゃ…」
誰にも触れられた事の無い箇所を愛撫され、柚は戸惑う。けれど、身体が僅かに悦びを得ていたのは紛れもない事実で。
変な声が柚の唇から漏れる。はしたない声だった。まるで媚びているかのような声に感じた。
「ン…ぅ…」
「ん…あ、れ…ゆず…?」
柚の嬌声によって目が覚めてしまったのか、少し呆けた声が柚の頭上から聞こえる。それと同時に臀部への愛撫も止まった。
「…どうしたの、おめめ潤んでるよ…怖い夢でも見たの…?」
「ち、違うの…」
否定したが、何て言ったら良いのかわからない柚は、タマキの胸にぐりぐり、と頭を押しつける。そんな柚を見たタマキは喉を小さく鳴らす。
「甘えたさんだね。ほんと、かぁわいいの」
柚のつむじに口付けを落としながら、名残惜しさを残しつつ、臀部から背中へと手をやり、優しく撫でてやる。
――タマキは寝ていなかった。狸寝入りをしていたのだ。本当は直ぐに声を掛けるつもりだったのだが、如何せん柚の言葉が、態度が可愛すぎてタマキの中の雄が出てしまった。
もしも、理性が働かなければ最後まで犯してしまっていた。何度も自身を小さな柚に穿ち、何度も何度も孕むまで放っていただろう。
「…お兄ちゃん?」
何も発さないタマキに何かを感じたのか、心配そうにタマキを見上げる柚。タマキは笑みを浮かべながら何でも無いよ、と告げながら赤く染まった目尻に唇を落とした。
タマキは国王に報告を終えた足で、訓練場へ向かっていた。本当は直ぐにでも柚の元へ向かいたかったのだが、感情が安定していない事を自覚していた為、精神統一兼ねて剣を振りに来た。
「……」
腰にぶら下げていた剣を両手に取り、スッと構え何度も剣を振れば、空を斬る音が静まりかえった稽古場に響き渡る。
素振りをしていると、心が無心になれる。昔から――転生前からそうだった。昔握っていたものは竹刀だったけれど、深く思考に沈みたい時や邪心を払いたい時に今と同じく一心不乱に剣を振るった。
「…ふぅ。この世界の服は重たくて嫌だね」
着替えれば良かったものを、余裕が無かった為、煌びやかで重たい上着を羽織ったまま着てしまった。
タマキは棚から綺麗に畳まれたタオルを一枚出し、汗を拭いながら上着を脱ぐ。どっしりとした重さが身体かを楽にする。
「……」
目を瞑り、先程国王へ報告した時の事を思い出す。
『――ほう、神に愛されし存在に真実を告げぬ、と』
『はい、彼女は優しすぎる余り、自己犠牲が過ぎる時があります。故に告げない方が得策かと』
『…お前の言いたい事は理解した。お前の言う事に従おう』
『は』
『定期報告は必ずする事。後――』
タマキは国王の言葉を思い出し、思い切り壁を殴る。
『お前に妻を娶ってもらう相手は隣国の―……』
じん、とした痛みが掌に広がる。
無我夢中で剣を振るえば怒りは収まると思っていたが、寧ろ頭が冴えてしまい逆効果だった。
何故、国王はこのタイミングでそんな話をしたのか。原因が柚の存在だとしたら問題は無い筈だ。神に愛されし存在なのだから寵愛して何か不都合な事でもあるというのか。
理解出来ない国王の考えに苛立ちを隠せない。
殺してしまう事は簡単だ。だが、今の状況でそれを選ぶのは愚策だ。
「……っ」
皇子、という立場を選んだ事は失敗だっただろうか。柚を幸せにする為にはある程度の権力を持った者では無いと、昔の二の舞になってしまう――…
タマキは考えを巡らせる。殺す事も出来ない。今の立場で婚姻から逃れる事も出来ない。
「これもお前の仕掛けた罰だと言うのか?」
雲一つ無い夜空に向かってタマキは呟く。
「誓ったんだよ、俺は。次こそはゆずを幸せにしてみせるって。だから、絶対に邪魔させないよ。例え誰が相手だろうが、ね――…」
*****
鳥の囀りに目が覚めた柚は何度か瞬きを繰り返した。起床しようも、何かによってホールドされている為、動くことは叶わなかった。
「……」
匂いでわかる、タマキの匂い。暖かな胸板が柚の目の前にある。熱いのか、寝間着の前は開けていて、少しエロティックさを感じてしまった。
モゾモゾと動いてしまったせいか、タマキの眉が顰められ再度腰に回った腕の力が増して。まるで拘束されているようだった。
柚は幸せだった。大切な人に包まれている事に。
「…お兄ちゃん……大好きだよ」
思いの丈を言葉に込め、タマキの胸に縋る。安心する柚の居場所。
もっと密着したい。このまま溶けてしまいたい。柚は無意識に願う。そうすればずっと二人で居られるのに、と。
「ん…ひゃ!」
すり、と何度もタマキの胸に甘えていたら、突如タマキの大きな掌が柚の小ぶりな臀部に、まるで形を確かめるかのように沿った。
最初は触れるだけだった。だが、柚が抵抗しない事を良い事に、その手は激しさを増していく。
弧を描くように揉みしだく。まるで性行為のように。
「ゃ、おにいちゃ…」
誰にも触れられた事の無い箇所を愛撫され、柚は戸惑う。けれど、身体が僅かに悦びを得ていたのは紛れもない事実で。
変な声が柚の唇から漏れる。はしたない声だった。まるで媚びているかのような声に感じた。
「ン…ぅ…」
「ん…あ、れ…ゆず…?」
柚の嬌声によって目が覚めてしまったのか、少し呆けた声が柚の頭上から聞こえる。それと同時に臀部への愛撫も止まった。
「…どうしたの、おめめ潤んでるよ…怖い夢でも見たの…?」
「ち、違うの…」
否定したが、何て言ったら良いのかわからない柚は、タマキの胸にぐりぐり、と頭を押しつける。そんな柚を見たタマキは喉を小さく鳴らす。
「甘えたさんだね。ほんと、かぁわいいの」
柚のつむじに口付けを落としながら、名残惜しさを残しつつ、臀部から背中へと手をやり、優しく撫でてやる。
――タマキは寝ていなかった。狸寝入りをしていたのだ。本当は直ぐに声を掛けるつもりだったのだが、如何せん柚の言葉が、態度が可愛すぎてタマキの中の雄が出てしまった。
もしも、理性が働かなければ最後まで犯してしまっていた。何度も自身を小さな柚に穿ち、何度も何度も孕むまで放っていただろう。
「…お兄ちゃん?」
何も発さないタマキに何かを感じたのか、心配そうにタマキを見上げる柚。タマキは笑みを浮かべながら何でも無いよ、と告げながら赤く染まった目尻に唇を落とした。
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