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2章『転生黎明』
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「それに…君、人を殺したくないのでしょう?」
何を言っているのか全く以て理解出来なかった。
タマキは何故アリーの境遇を知っているのか。何故、心の底に秘めていた感情をタマキが知っているのか。
「…私は特別だから。大丈夫。俺の目を見て」
身体を回され、面と向かって初めてタマキと対峙するアリー。
美しい人だな、と思った。汚れ一つ無い、自分とは全く違う存在。それに比べて自分は何て罪に濡れた汚い存在だろうか。
「汚いと思うなら償えば良いんだよ。……人は誰しも過ちを犯す。過ちに気付いたなら生きて償え。死ぬ事で楽になろうだなんて浅はかだよ」
タマキの言葉が胸を抉る。だけれど、不思議と心が軽くなった。勿論犯した罪を忘れた訳ではない。言葉には出来ない、当事者だけがわかるこの感覚。
「不思議な人、ですね」
「うん?良く言われる。」
初めて、笑った気がした。その笑みは歪だったかも知れない。けれど、心から浮かべた本当の笑みだった。
こうしてアリーはグラジュスリヒト家――というよりもタマキに拾われ、今に至るのであった。
「タマキ様は不思議ですね。まるで心を読まれているようです」
「はは、アリーは顔に出やすいから」
昔から思っていた事を言葉にすれば、タマキは昔と変わらない笑顔でアリーに笑いかける。
その笑顔に救われた。タマキはアリーにとって兄のような存在だった。人目がある時は互いに仕事の顔で接するが、二人きりになれば堅さがやや崩れる。
「私は何でも知っているよ。君がディオンの事が好きな事もね」
「!!!!!」
タマキの言葉に真っ赤に頬を染めるアリー。図星のようだった。
「な、な、なんで…」
「言っただろう?アリーは顔に出やすいと」
アリーの様子にタマキは内心安堵を浮かべる。実のところ、アリーとの最初のやりとりは魔力を使いアリーの記憶を読んだのだ。勿論それ以来は使っていない。アリーが顔に出やすいというのは本当の事だった。
――あの時。アリーが来る前日。兄の言葉を聞かなければ、タマキの命は消えていたかも知れない。いくらタマキは魔力を使えたとしても不意打ちには対応しきれない。それ程までにアリーの能力は皮肉にも優れていたのだ。
『これで邪魔者であるタマキは居なくなる。ああ、決行は明日だ。この時間は自室に籠もっている筈だから…ああ。頼むぞ』
何とも馬鹿な男だろうか。いくら自室とは言え暗殺計画を大声で話すだなんて。
前々からテオの様子がおかしかった事は認識していた。だが、まさか暗殺計画を企てていたとは――
だが、この馬鹿のお陰でアリーの存在に気付けた。
「本当、困ったお兄様だこと」
「…そうですね」
二人、同じ人物を思い描きながら苦笑を浮かべ、互いに自室に戻った。
「ゆず…」
安らかに眠ったままの柚のおでこに唇を落とし、タマキも睡眠を取るために浴室へと向かう。
タマキの自室には浴室が備えられており、いつでも入浴をする事が出来る。元々は付いていなかったのだが、柚の為に用意をした。流石にこの部屋から離れた浴場を使わす訳にもいかないし、出来るだけ柚を誰の目にも触れさせたくなかった。
重たい衣類を脱ぎ去り、鏡に映った自身を見やる。
「……」
前の世界と全く同じ容姿。違うのは髪の色だけ。柚が混乱してしまうのもしょうがない話だ。
毎日剣を振るっているお陰か、男性らしい体つきになっている。前は最低限の筋肉しかついていなかった。
柚を護る為。ただそれだけだった。それだけの為に剣を振る。民を護るのは柚の呼吸がしやすい世界にする為。民の為を想っての行動では無い。
邪魔な兄も、これから障壁になる可能性がある国王も、殺してしまうのは簡単だ。アリーの主人のように。
だが、それでは均衡が崩れてしまうだろう。それは愚策だ。故に地道にやっていくしかない。
「…後、少しかな」
柚がいつも笑顔で居られるように。
柚がいつも傍に居てくれるように。
誰にも邪魔されないように。
昔のように、何も知らないままの二人で。
「それに…君、人を殺したくないのでしょう?」
何を言っているのか全く以て理解出来なかった。
タマキは何故アリーの境遇を知っているのか。何故、心の底に秘めていた感情をタマキが知っているのか。
「…私は特別だから。大丈夫。俺の目を見て」
身体を回され、面と向かって初めてタマキと対峙するアリー。
美しい人だな、と思った。汚れ一つ無い、自分とは全く違う存在。それに比べて自分は何て罪に濡れた汚い存在だろうか。
「汚いと思うなら償えば良いんだよ。……人は誰しも過ちを犯す。過ちに気付いたなら生きて償え。死ぬ事で楽になろうだなんて浅はかだよ」
タマキの言葉が胸を抉る。だけれど、不思議と心が軽くなった。勿論犯した罪を忘れた訳ではない。言葉には出来ない、当事者だけがわかるこの感覚。
「不思議な人、ですね」
「うん?良く言われる。」
初めて、笑った気がした。その笑みは歪だったかも知れない。けれど、心から浮かべた本当の笑みだった。
こうしてアリーはグラジュスリヒト家――というよりもタマキに拾われ、今に至るのであった。
「タマキ様は不思議ですね。まるで心を読まれているようです」
「はは、アリーは顔に出やすいから」
昔から思っていた事を言葉にすれば、タマキは昔と変わらない笑顔でアリーに笑いかける。
その笑顔に救われた。タマキはアリーにとって兄のような存在だった。人目がある時は互いに仕事の顔で接するが、二人きりになれば堅さがやや崩れる。
「私は何でも知っているよ。君がディオンの事が好きな事もね」
「!!!!!」
タマキの言葉に真っ赤に頬を染めるアリー。図星のようだった。
「な、な、なんで…」
「言っただろう?アリーは顔に出やすいと」
アリーの様子にタマキは内心安堵を浮かべる。実のところ、アリーとの最初のやりとりは魔力を使いアリーの記憶を読んだのだ。勿論それ以来は使っていない。アリーが顔に出やすいというのは本当の事だった。
――あの時。アリーが来る前日。兄の言葉を聞かなければ、タマキの命は消えていたかも知れない。いくらタマキは魔力を使えたとしても不意打ちには対応しきれない。それ程までにアリーの能力は皮肉にも優れていたのだ。
『これで邪魔者であるタマキは居なくなる。ああ、決行は明日だ。この時間は自室に籠もっている筈だから…ああ。頼むぞ』
何とも馬鹿な男だろうか。いくら自室とは言え暗殺計画を大声で話すだなんて。
前々からテオの様子がおかしかった事は認識していた。だが、まさか暗殺計画を企てていたとは――
だが、この馬鹿のお陰でアリーの存在に気付けた。
「本当、困ったお兄様だこと」
「…そうですね」
二人、同じ人物を思い描きながら苦笑を浮かべ、互いに自室に戻った。
「ゆず…」
安らかに眠ったままの柚のおでこに唇を落とし、タマキも睡眠を取るために浴室へと向かう。
タマキの自室には浴室が備えられており、いつでも入浴をする事が出来る。元々は付いていなかったのだが、柚の為に用意をした。流石にこの部屋から離れた浴場を使わす訳にもいかないし、出来るだけ柚を誰の目にも触れさせたくなかった。
重たい衣類を脱ぎ去り、鏡に映った自身を見やる。
「……」
前の世界と全く同じ容姿。違うのは髪の色だけ。柚が混乱してしまうのもしょうがない話だ。
毎日剣を振るっているお陰か、男性らしい体つきになっている。前は最低限の筋肉しかついていなかった。
柚を護る為。ただそれだけだった。それだけの為に剣を振る。民を護るのは柚の呼吸がしやすい世界にする為。民の為を想っての行動では無い。
邪魔な兄も、これから障壁になる可能性がある国王も、殺してしまうのは簡単だ。アリーの主人のように。
だが、それでは均衡が崩れてしまうだろう。それは愚策だ。故に地道にやっていくしかない。
「…後、少しかな」
柚がいつも笑顔で居られるように。
柚がいつも傍に居てくれるように。
誰にも邪魔されないように。
昔のように、何も知らないままの二人で。
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