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一章【転生乙女(30)、保健室の先生になる】
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しおりを挟む寂しいお一人様である私はたっぷり時間を使い、今後の作戦について考えた。
正直、仕事中に件の作戦――打ち切りをぶっ壊す作戦を行うのは難しい。体育教師だけでなく、1年の担任を受け持っている夏目先生は多忙だ。私は私で意味も無く保健室から出る訳にはいかない。
なので、先日誘って貰った飲み会を利用する事にしたのだ。お酒の場だったらアルコールが回った頭に洗脳もしやすい気がする。
どうにかしていずれやって来るであろう田中太郎君フラグをへし折り、本来のルートであろう花ちゃんとのエンディングを迎えて貰うのだ…!
「よし、出来た」
校内の掲示板や教室に貼るための保健室便りを書き終え、何度か間違えが無いかチェックする。本当はパソコンで仕上げた方が早いのだろうけど、手書きが好評なのでこうやって毎度手書きにしている。
右端にオリジナルのキャラクターを書き込んで完了だ。
プリントを持って保健室の出入り口の札を外出中の札を刺し、必要分コピーする為に職員室へと向かう。授業中の為、シンと静まりかえっている。
直ぐ側にある職員室に入れば、チラホラと机に向かって仕事をしている先生がいる。その中には夏目先生もいて、何故か耳朶が熱くなった。
「あ、七瀬先生!」
私に気付いた夏目先生が立ち上がり側にやって来、プリントを覗き込みほすにゃんだ…と呟く。
ほすにゃんとは保健室便りに毎回書くオリジナルキャラクターの事だ。絵心の無い私が描いた猫は、猫と言って良いものか分からないのだが、生徒達曰く、ブサ可愛いらしい。
「僕も好きなんですよ、ほすにゃん。今日は威嚇している姿ですか?」
そう言って間近で微笑む夏目先生に私の心臓が暴れまくる。
ドアップゥ!私毛穴開いてないかな…大丈夫かな…鼻毛出てないよね?嗚呼、前までこんな事思いもしなかったのにどうしてしまったのだろうか。土曜日のあの件――耳朶を触れられた時から私はおかしい。壊れてしまったようだ。
こんな状況で打ち切りをぶっ壊す作戦を決行する事は可能なのだろうか。
「そ、そうです。良く分かりましたね」
ハハハと笑いながら夏目先生から視線を逸らせば、此方を睨み付けている一人の女性と目が合った。
その女性は私に睨みをきかせながら高いヒールを鳴らしながら此方へやって来る。
「夏目せんせぇ」
「加藤先生」
女性――加藤まり子先生。音楽教師であり、何故か目の敵にされている。理由は恐らくだが、私と夏目先生が仲良くしているように見えるからだと思う。彼女は夏目先生に好意を寄せている。それもあからさまにだ。
現に、夏目先生の腕に絡まり身体をくねくねさせている。声も何時もの五億倍甘ったるい。因みに生徒からはブリ子と呼ばれている。生徒から見てもあからさまなのだ。
「ちょっと分からない事があってぇー、夏目せんせぇにぃー、教えて欲しくてぇー」
何故か勝ち誇った表情で私を見つめるブリ子じゃなくて、加藤先生。夏目先生が迷惑している事に気付かないのだろうか。
ラブ・サッカーでも結構強烈なキャラだった。この漫画では夏目先生にでは無く、田中太郎君に矢印が向いていた。
「いや…僕は音楽の事分からないので…長谷川先生に聞いたらどうでしょう?」
「えぇー、まりは夏目先生に聞きたいのぉ!」
長谷川先生とはもう一人の音楽の先生だ。彼の言う通りなのだが、どうしても彼女は夏目先生に教えて貰いたいらしい。いやいや、夏目先生の表情見よう?ね?
「夏目先生、サッカー部のサポーターが届いてますよ。お急ぎでしたよね?」
見ていて可哀想になった私は助け船を出した。ほっとした表情を浮かべた夏目先生が蛇のように絡みつく腕を外して、逃げ出すようにこの場を去った。
私も自身の目的を思い出し、睨みをきかせる加藤先生の横を通り過ぎ、コピー機へ向かった。
「胸しか価値のねぇクソババァがいい気になってんじゃねーよ」
…気のせいかと思ったが、振り返って見た彼女の表情で今の悪態が彼女から吐き出されたものだと直ぐに理解した。まぁ、こんな事を言う教師なんて彼女しかいないのだけれど。
前世の記憶を取り戻す前からこうだ。
養護教師である私はどうしても運動部の顧問の先生と関わりが多い。部活で怪我した時に呼ばれたり、サポーターなどの備品の発注の為に会話したり。
それが彼女には不快らしい。
そんなに羨ましいのなら加藤先生も養護教諭になれば良いのにと思うが勿論口には出さない。今までもこれからもスルーだ。
ハァ…と溜息を吐く私に近くで見ていた先生がドンマイと声を掛けてくれた。彼女は生徒だけで無く、教師の間でもある意味問題児なのだ。
*****
「先程はありがとうございました」
「いえいえ、夏目先生も大変ですね」
無事コピーを終え、保健室に戻れば先に向かっていた夏目先生が早速私にお礼を告げてくれた。その表情は心底嫌そうで、余程迷惑なのだと窺える。
ハハ、と乾いた笑みを漏らしながら夏目先生にサポーターを渡す。先程の言葉は嘘では無いのだ。
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